Vol.9 『空中レビュー』

 RKOの初日は、各部門の責任者との顔合わせと作業工程の説明を受けました。この時点では『空中レビュー』でのフレッド・アステアの相手役はまだ決まっていませんでした。三日目にジンジャー・ロジャースが出演するかもしれないと聞かされ、彼女がストレート・プレイの映画ではなくミュージカル映画に出演するか心配だったようです。ジンジャー・ロジャースとは、1930年に彼女が出演する舞台劇の「ガール・クレイジー」の稽古中に会っていました。劇中でのダンスが上手くいってないので手伝って欲しいと、ガーシュウィンを紹介してくれたアレックス・アローンから連絡があり、次の日劇場に出向きます。そこで彼女に初めて会い、問題のナンバーに取り組みました。「ガール・クレイジー」は好評で、彼女は話題の人となります。その後、彼女とは時々一緒に出掛けて映画を観たりナイト・クラブで踊ったりしていました。

 主役のベリーニヤ・デ・レゼンデをドロレス・デル・リオ(メキシコ出身の美人で、サイレント映画時代から活躍している大女優です。)が演じています。相手役のロジャー・ボンドをジーン・レイモンドが演じ、親友のフリオ・ルベイオをラウル・ロウリン(南米の歌手)が演じています。

左からドロレス・デル・リオ 、 ジーン・レイモンド 、 ラウル・ロウリン

 歌手のハニー・ホールをジンジャー・ロジャースが演じ、アコーデオン奏者のフレッド・アイレスをフレッド・アステアが演じています。

ジンジャー・ロジャーとフレッド・アステア

 マイアミのホテル・ハイビスカスの最初の演奏で、ロジャーとヤンキー・クリッパー楽団の専属歌手のハニー・ホールが、セクシーなドレスを着て歌います。

ミュージック・メイクス・ミー」を歌うジンジャー・ロジャース(22歳)

 ロジャーとベリーニヤの二人は恋に落ちますが、ベリーニヤはロジャーの親友のフリオと婚約していて二人は結婚する事になっています。この三角関係のラブ・ストーリーがメインで展開され、それにベリーニヤの父親が経営する、ホテル・アトランティコの開業を邪魔する3人のマフィアが登場して物語は進行します。色々見せ場があって面白いですが、この映画は音楽とダンスと空中レビューの映画です。主役のドロレス・デル・リオさんには申し訳ないですが、「カリオカ」を踊るフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの為の映画になってしまっています。

 この映画のクライマックスは、飛行機の翼の上にダンサーの身体を固定して、飛んでいる飛行機の上で踊るシーンです。正に邦題通りの空中レビューです。飛行機が出始めた頃、アメリカでは翼の上で人が乗って曲乗りをするのが流行っていました。それを複数の飛行機で行うものです。

 リハーサル初日にフレッドは久し振りにジンジャー・ロジャースと会い、昔の思い出話で盛り上がり楽しい気分でいくつかのスッテプを試し、二人で踊ってその日のリハーサルは無事終ります。準主役のフレッドとジンジャーのダンス・シーンは、「カリオカ」の曲の一部だけで長い時間ではありません。7台のピアノが円形に並べて作られた円形ステージの上で、二人が踊ります。(映画の48分頃と53分頃に登場します。)二人のダンス・シーンは非常にインパクトがあって大好評なので、RKOはこの二人の為に主演映画の準備をします。フレッドはこの映画の撮影が終わると最後の舞台劇「陽気な離婚」に出るためにロンドンに向かいます。

カリオカ」を踊るフレッドとジンジャー

 『空中レビュー』の監督のソーントン・フリーランドと云う方は、私はこの1作しか観たことがありませんが、音楽の使い方やダンス・シーン等素晴らしい演出をされる方です。音楽担当のヴィンセントユーマンスが、この映画の為に「オーキッズ・イン・ザ・ムーンライト」、「カリオカ」、「フライング・ダウン・トゥ・リオ」の3曲を作曲しました。この中の「カリオカ」が演奏されるシーンは12分間あり、ダンサーが大勢登場して踊りまくり圧巻です。パートナーが、額と額を付けながら踊るのは面白いです。

圧巻のダンス・シーン(左)コミカルな男性ダンサーとの踊り(右)

 演奏と共に3人の歌手が入れ替わり歌います。最初に歌うのはアリス・ジェントル、二番目がモヴィータです。そして三番目に登場するのがエッタ・テモンです。笠置シズ子似の方で、素晴らしい「カリオカ」を聞かせてくれます。エッタ・テモンは、アフリカ系アメリカ人の女性として初めて、1934年にホワイト・ハウスで歌った方です。

カリオカ」 を歌うエッタ・テモン

 劇中「月下の蘭」も上手く使われていて、ドロレス・デル・リオとフレッド・アステアのダンス・シーンもあります。ソーントン・フリーランド 監督の本領発揮でしょうか、飛行機の翼の上でのレビュー・シーンは凄い発想です。この奇想天外の空中シーンは3分程続きます。地上にいる人たちには、翼の上のダンスは見えないなんて言ってはいけません。映画を観る観客の為のシーンですから、余計な事は考えずに楽しみましょう。嘘を本当のように見せるのが映画です。ジンジャーは翼の上で指示を出すリーダーをやり、地上ではフレッドが「フライング・ダウン・トゥ・リオ」を歌って踊ってフィナーレとなります。三角関係のラブ・ストーリーは、粋なラストで映画は終わります。

リーダーのジンジャー(左)と翼の上でのダンスサーたち

 この映画はお勧めですがレンタルには無いと思いますので、観るためには購入するしかないかも知れません。でも今は古い映画も配信されているのかな。私はフレッド・アステア出演のDVDは単品で購入していましたが、この映画は9枚セット2000円チョットで入手しました。1枚当たり220円程度なので、とても有難いセットでした、パブリック・ドメインの商品なので、映画会社のトレード・マークは表示されません。画質は作品によってばらつきがありますが、本編を観る事が出来れば良いと思う方にはお勧めします。最後までお付き合い頂きまして有難う御座います。

「ミュージカル・パーフェクト・コレクション ファーストステージ
発行:株式会社コスミック出版

『空中レビュー時代』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 89分

原題:Flying Down to Rio

監督:ソートン・フリーランド

脚色:シリル・ヒューム、H・W・ヘーンマン、アーウィン・ゲルシー

原作:ルウ・ブロック

撮影:J・ロイ・ハント

音楽:ヴィンセントユーマンス

作詞:エドワード・エルスキュ、ガス・カーン

振付:ディブ・ゴールド

出演:ドロレス・デル・リオ、ラウル・ロウリン

   フレッド・アステア、ジンジャー・ロジャース

   ジーン・レイモンド、ブランシュ・フレデリシ

   ウォルター・ウォーカー、エッタ・テモン

   フランクリン・パングボーン、ポール・ポルカシ

   レジナルド・バーロウ