Vol.57 『暗い鏡』の続き

電気スタンドが倒れた室内(左)   ナイフで殺されたペラルタ医師(右)

 タイトル画面の背景はインクブロット検査(インクを落とした紙を半分に折って出来た模様を使って精神分析をする検査です。)の模様が表示されていて、その上にクレジットが流れます。窓から見える夜景の画面から、カメラは横に移動して22時50分を指す時計が映されます。カメラは再び横に移動して、隣の部屋の中で倒れた電気スタンドがあり、部屋の中に入ると割れた鏡が映されて、背中にナイフが刺さった男が床に倒れています。殺人現場からの導入で、非常に簡潔にその部屋で起こった事が分かる手際の良い演出です。

テリーに犯行時刻のアリバイを聞く警部補(左)
テリーを抱き上げるエリオット医師(右)

 画面が変わってスティーブンソン警部補が、犯行があったアパートの住人や関係者からの証言を聴取します。被害者フランク・ラベルタ医師の秘書の証言から、医療ビルの売店の売り子テリー・コリンズを容疑者と断定します。医療ビルの売店にアパートの住人二人を連れて行き、容疑者の確認をします。二人の証人から犯行時間頃に見かけたのは、テリー・コリンズだと確証を得て警部補は彼女に会いに行きます。しかし、彼女は20時から公園に散歩に出ていて、その時数人の人と会い23時30分頃帰宅したと証言します。そこで警部補は、ラベルタ医師が殺された事を彼女に伝えます。それを聞いた彼女は歩き出しますが気を失い、スコット・エリオット医師に抱きかかえられて彼の診療室に運び込まれます。

テリーに昨夜のアリバイを聞くスティーブンソン警部補(左)
【テリーとルースに昨夜のアリバイを聞く警部補(右)

 警部補はテリーのアリバイを確認する為に、散歩中に会った二人と公園で話した三人の証言から、彼女のアリバイが完璧であると知ります。署に戻った警部補は、スコットの診療所にいる刑事に電話をして、彼女の拘束を解くと伝えます。警部は殺人事件が起きた時刻に、殺人現場から7㎞離れた公園に同一人物が存在する事に困惑します。そこで警部補は、テリーからもう一度話を聞く為に彼女の家を訪問します。警部補は貴方のアリバイは完璧ですと言い、彼女は事実だから当然ですと答えます。警部補は彼女に煙草を勧め、被害者のペラルタ医師との関係を聞きますが、必要な情報は得られません。テリーは警部補にもう遅いから帰るように言っている時、隣の部屋から“テリー”と呼びかける声がします。その声を聞いて警部補がその部屋のドアを開けると、そこにはもう一人のテリーがいます。彼女は姉のルースで、警部補は同一時刻に別の場所に同じ人間がいた訳が分かります。コリンズ姉妹は医療ビルではテリー・コリンズと名乗り、二人は時々入れ替っていました。そこで警部補は公園にいたのはどっちかと尋ねます。テリーの答えは、一人は公園で一人は家で寝ていたと答えます。警部補はテリーと言い合いになり、ルースに家にいたのはどっちか尋ねますが、ルースの答えは一人は公園で一人はと言った処で、警部補はどっちなんだと言います。それでは二人とも逮捕するか言うとテリーが反論し、話は収拾がつかなくなりテリーは警部補を帰します。

面通しを受けるコリンズ姉妹(左)
双子の姉妹を見て唖然とする証人たち(右)

 画面が変わって警察署では凶器のナイフから指紋が出ないので、ヒル判事にコリンズ姉妹への殺人容疑の令状を請求します。翌日警察署に証人を集めて、容疑者の所謂面通しを行います。最初にルースが出てきて、それを見た証人の一人は彼女に名違いない、一万人出てきても分かると豪語します。次にテリーが登場すると、全員唖然とします。

テリーに双子の姉がいたのを見て驚くスコットとラスティ(左)
双子のルースとテリー(右)

 画面が変わって別室でスコットとラスティが待機していて、呼ばれて二人は部屋に入り、テリーには双子の姉がいる事を知り二人は驚きます。判事はラスティに、事件当日売店の売り子とペラルタ医師が口論していたのを目撃したか聞き、ラスティはそうですと答えます。次に判事はスコットに、あなたは双子の研究をされていますねと言い、双子は精神や肉体に欠陥があるかと尋ねます。スコットは、それは迷信ですと否定します。続けて判事は、事件当日ペラルタ医師に会った時に話をしたか聞きます。スコットは、二重人格について聞かれたと答えます。判事が二重人格は危険かと聞くので、危険ですと答えます。

判事の質問に答えるスコット(左)   コリンズ姉妹を解放する検事(右)

 判事はペラルタ医師が朝テリーと喧嘩をしたが、今夜大事な話があると言っていたと伝えます。判事は事件当日会ったのは二人のどっちか聞きますが、スコットは分からないとと答えます。結論が出ないままスコットとラスティは帰され、コリンズ姉妹は隣の部屋に移されます。警部補は判事に見逃すのか聞きますが、判事は犯人を特定出来ないので逮捕する事は出来ないと言います。コリンズ姉妹を再び部屋に入れ君達のどちらかは冷酷非情な殺人者だが、遺憾ながら逮捕する事は出来ないと言って二人を帰します。(このシーンでのテリーとルースの表情を見て頂きたい、勝気なテリーと内気なルースを見事に演じ分けています。)

スコットにコリンズ姉妹の調査依頼をする警部補(左)
【コリンズ姉妹に双子の研究協力を依頼するスコット(右)

 画面が変わって、スコットの家を警部補が尋ねて来ます。警部補は双子事件の話を始めると、スコットが捜査は終了したのでは無いかと言います、警部補は個人的に動いていると言い、完全犯罪が成立するのが不愉快だと言い、二人を調べて欲しいと言います。スコットは断りますが、殺人者と無実の人間が一緒では口封じに殺されるかも知れないと言います。スコットは、警部補の説得に応じコリンズ姉妹の人格と個性を調べる事にします。(このシーンでの警部補の表情の変化は、流石といった演技です。)スコットはコリンズ姉妹の家に行き、自分の研究の為に謝礼を出すので協力して貰えないかと頼みます。二人は殺人事件の容疑者として新聞に載り、仕事に就けない状態になっていました。最初ルースは拒否しますが、テリーがルースを説得して彼の依頼を受けます。

インクブロット検査を受けるテリー(左)
インクブロット検査を受けるルース(右)

 画面が変わって夜間のスコットの診療所、テリーが検査の為に訪れます。先ずは性格を分析する為に、インクブロット検査から始まります。紙にインクを落として半分に折って広げた模様を見て、何に見えるか答えて行きます。別の日の昼間に今度はルースが診療所を訪れ、過去の養子縁組の話をします。養子は一人でテリーが選ばれなかったので、ルースはその家から出て行ったと言います。スコットは話を聞きながら、インクブロット検査をします。同じ模様を見ても、当然二人の答えは全然違います。夜ルースが帰宅すると、テリーが夕食の準備をしていて遅い帰宅の事を尋ねます。ルースはスコットと話をしていたと楽しそうに言います。テリーはスコットを未だ信じていないので、気を付けるようにとルースに言います。その頃、スコットは二人の精神分析を行い、重大な事を発見します。直ちにスコットは警部補に会い、精神分析結果で一つ分かった事がある。一人は異常者で、非常に頭は良いが正気じゃないと伝えます。

自由連想法の検査を受けるルース(左)
ルースに私を疑っていると言うテリー(右)

 画面が変わって、診療所でルースが自由連想法の検査をします。質問された言葉に素早く思い付いた言葉を言う検査で、人格を調べる為に行うものです。検査が始まって、「鏡」と云う問いにルースは「死」と言い、彼女は一瞬驚きます。その後、検査は最後まで続きます。帰宅後、ルースがその話をするとテリーは私を疑っていると言って、怒って隣の部屋に行きます。ルースは疑っていないと言いながら、テリーを追いかけて隣の部屋に行きます。テリーはルースに睡眠薬を飲んでいるか尋ねます。あの事件以来眠れないから飲んでいると言い、あなたも飲んでいるでしょうと言います。その時テリーは警察に言っていない事が一つあると言い、ルースに警察に電話したいならするように言います。そして、私を疑ったらどうなるか分からないと言います。(このシーンではテリーとルースが同一画面に登場します。窓際に立つテリーは後ろ姿か、正面を向いた時の顔は影になって見えません。)

次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『暗い鏡』作品データ

1946年製作 アメリカ 85分
原題:The Dark Mirror

監督:ロバート シオドマク

脚本:ナナリー・ジョンソン

原作:ウラジミ・ポズナー

製作:ナナリー・ジョンソン

撮影:ミルトン・クラスナー

音楽:ディミトリ・ティオムキン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:テリー・コリンズ

   オリヴィア・デ・ハヴィランド:ルース・コリンズ

   リュー・エアーズ:スコット・エリオット医師

   トーマス・ミッチェル:スティーブンソン警部補

   リチャード・ロング:ラスティ

   ゲイリー・オーウェン:フランクリン

Vol.56 『暗い鏡』

発売元:ブロードウェイ

 今回ご紹介するのはミステリー映画ですが、オリヴィア・デ・ハヴィランドの一人二役の素晴らしい演技を見て頂きたい作品です。一人二役の俳優が同一画面に登場する映画は沢山あります。本作では、ソファーに座る一人二役のオリヴィア・デ・ハヴィランドが、もう一人のオリヴィア・デ・ハヴィランドの頭を抱きかかえるシーンがあります。フィルム撮影では不可能で、どうやって撮影されたのか一瞬驚く場面です。一人二役の映画を撮る時は、必ず代役を演じる俳優さんが必要です。二人が対話するシーンでは、カメラは一人を背中越しに撮りもう一人は対面状態で撮ります。このシーンで背中を向けているのが代役の俳優さんです。この頭を抱えているシーンでは、代役の横顔だけが見えています。眉毛や目の輪郭はメイキャップでカバー出来ますが、耳の形や耳穴の形が違いますし、唇の形状も違うように思います。以前日本映画で、一人二役の俳優が握手をするシーンを観た事がありました。大曾根辰夫監督の1952年の『魔像』で、主役の坂東妻三郎が一人二役を演じた映画です。ラスト・シーンで二人が握手をしますが、耳の形状と口回りが違うように感じました。CGを使える現在と違い、実写で同時に同じ人間を撮影する方法は無いと思っております。これは私の憶測ですが、如何でしょうか。ご興味が湧いた方は是非DVDでご確認下さい。

テリーは正面から写しますが、ルースを写す時は左側の横顔だけです

【スタッフとキャストの紹介】

ロバート・シオドマク監督

 監督はフィルム・ノアールの巨匠と言われているロバート シオドマク(1900年8月8日~1973年3月10日)です。彼はドイツのドリスデン生まれの映画監督です。マールブルク大学卒業後、ドイツ国営映画会社のウーファー社に入社して助監督・脚本家として活動を始めます。1930年にはビリー・ワイルダーと組んでコメディを監督し、その後スリラー映画を監督します。ナチス政権が樹立した頃の1933年にパリに移り、コメディ・ミュージカル・ドラマと様々なジャンルの映画を監督します。仕事は順調でしたが、ナチスのパリ侵攻前の1938年にカリフォルニアに渡ります。1941年にパラマウント映画で2年間、1943年にはユニバーサル・スタジオで7年間映画監督として活躍し、1940年代にはアルフレッド・ヒッチコックやフィリッツ・ラングと並ぶスリラー映画の代表的な監督となります。主な作品は、1936年『フロウ氏の犯罪』、1944年『幻の女』・『コブラ・ウーマン』、1945年『容疑者』『らせん階段』、1946年『暗い鏡』『殺人者』・1948年『都会の叫び』、1949年『裏切りの街角』、1952年『真紅の盗賊』・1967年『カスター将軍』等です。ロバート・シオドマクは、1973年3月10日にスイスのロカルノで心臓発作の為、72歳で亡くなりました。。

ナナリー・ハンター・ジョンソン

 製作と脚本を担当したのは、ナナリー・ハンター・ジョンソン(1897年12月5日~1977年3月25日)です。彼はジョージア州コロンバス生まれのアメリカの脚本家・映画製作者・映画監督・劇作家と多才な方です。1927年から1967年の間に50本位以上の脚本を書き、その半分以上を製作してその内の8本を監督しています。彼はジャーナリストとして数社の新聞に寄稿していましたが、1927年に『ラフ・ハウス・ロージー』の脚本を書き脚本家としてスタートしました。1935年に20世紀フォックスに脚本家として雇われ、映画の製作もするようになります。1943年にはウィリアム・ゲッツと共同でインターナショナル・ピクチャーズを設立しています。彼が手掛けた映画で有名な作品は、1940年『怒りの葡萄』の脚本、1956年『灰色の服を着た男』の脚本と監督です。その他に1936年『虎鮫島脱獄』、1939年『地獄への道』等の脚本を書きました。1941年『タバコ・ロード』では脚本と製作、1944年『飾窓の女』、1945年『無宿者』、1946年『暗い鏡』、1950年『拳銃王』、1951年『砂漠の鬼将軍』と1952年『謎の佳人レイチェル』と1953年『百万長者と結婚する方法』では脚本と製作をしました。1954年の『夜の人々』では監督・脚本・製作をしました。1960年『燃える平原児』、1967年『特攻大作戦』等の脚本です。ジョンソンは、1977年3月25日にハリウッドで肺炎の為、79歳で亡くなりました。

ディミトリ・ティオムキン

 ディミトリ・ティオムキン(1895年5月10日~1979年11月11日)は映画音楽の作曲家・指揮者で、本作の音楽を担当しています。彼はウクライナのクレメンチューク生まれです。サンクトペテルブルク音楽院を卒業後は、ロシアのサイレント映画でピアノ伴奏して生計を立て、ピアニストになる為にピアノを学びます。ロシア革命後、父親と共にベルリンに移住し、ピアノを学びながらクラシック音楽やポピュラー音楽を作曲もしました。その後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でピアニストとして演奏デビューします。1925年にアメリカに移住し、ニューヨークで演奏活動を続けます。1929年10月の株式市場の暴落によりニューヨークでの仕事が激変し、ハリウッドに移ってMGMのミュージカル映画の音楽を担当するようになります。ノン・クレジットの場合もありましたが、1933年『不思議の国のアリス』で本格的に映画音楽を担当しました。1937年に腕を骨折し、ピアニストに復帰出来ない怪我の為、映画音楽の作曲に専念する事になります。ティオムキンは、1937年にアメリカの市民権を得ます。

 フランク・キャプラ監督との仕事が多く、1937年『失われた地平線』、1938年『我が家の楽園』、1939年『スミス都へ行く』、1941年『群衆』、1946年『素晴らしき哉、人生』の音楽を担当しています。彼が担当した映画は主な作品だけでも80作はあります。1956年『ジャイアンツ』『友情ある説得』、1957年『OK牧場の決斗』、1959年『リオ・ブラボー』、1960年『アラモ』、1961年『非情の町』、1963年『北京の55日』、1964年『ローマ帝国の滅亡』等です。1953年『真昼の決闘』、1955年『紅の翼』、1960年『老人と海』でアカデミー賞を受賞しています。『真昼の決闘』の公開時は、興行成績が悪かったので早々に公開は終わりました。ティオムキンはテーマ曲の版権を買い取り、フランキー・レーンに歌わせてシンブル・レコードを発売しました。曲は大ヒットしたので、ユナイテッド・アーチスト社はテックス・リッターに主題歌を歌わせて、4か月後に映画の上映を再開しました。TV映画の「ローハイド」や「ガン・スリンガー」のテーマ曲も担当しています。ディミトリ・ティオムキンは、1979年に転倒して骨盤を骨折した2週間後に、イギリスのロンドンで亡くなりました。84歳でした。

テリー-コリンズとルース-コリンズ役
オリヴィア-デ-ハヴィランド(30歳)

 テリー・コリンズとルース・コリンズの二役を演じるのは、オリヴィア・デ・ハヴィランド(1916年7月1日~2020年7月26日)です。彼女は勝気なテリーと控えめなルーズを、話し方や表情の変化によって見事に演じ分けています。本作で彼女は豊かな才能に裏打ちされた演技で評価を受け、その後の作品ではアカデミー賞を受賞します。オリヴィア・デ・ハヴィランドと妹のジョーン・フォンティンは東京で生まれましたが、病弱だった二人の為に母親は夫を東京に残して、1912年にロンドンに戻る事にします。旅の途中でオリヴィアが高熱で倒れた為カリフォルニアに滞在しますが、ジョーンも肺炎に罹り母親はサラトガに移住する事にします。元舞台俳優だった母親のリリアンは、二人にシェークスピアを読み聞かせをしたり音楽や弁論術を学ばせました。オリヴィアは高校時代に演劇部に所属していて、1933年に素人劇団の公演でルイス・キャロル原作の「不思議のアリス」のアリスを演じて初舞台を踏みます。1934年に高校卒業し、サラトガ・コミュニティ劇場で上演される戯曲「真夏の夜の夢」で妖精パック役を演じます。その後、ハリウッド・ボウルで上演されるマックス・ラインハルトが監督する『真夏の夜の夢』で、主役のハーミア役の俳優が降りた為に急遽代役で出演して好評を得ます。ラインハルトが「真夏の夜の夢」の映画化で監督する事になり、ハヴィランドに出演依頼をします。彼女は奨学金でミルズ大学に入学する事になっていましたが、監督の説得に従いワーナー・ブラザースと8年間の出演契約をします。1935年の『真夏の夜の夢』で映画デビューし、当時大人気の喜劇役者ジョー・E・ブラウンの1935年の『ブラウンの怪投手』を始め、3本のコメディ映画に出演します。コメディ路線の評判が芳しくなかったので、当時無名のエロール・フリンの相手役として彼女を起用し、1935年の『海賊ブラッド』に出演させます。この映画は大ヒットして、その後二人が共演する映画は8本製作されます。その間、コメディも含め色々な作品に出演しますが、彼女が望んでいたシリアスで重厚な役を演じる事がありませんだした。

 1939年の『風と共に去りぬ』のメラニー・ハミルトン役は、彼女が望んでいた役でしたが、監督のジョージ・キューカーは妹のジョーン・フォンティンにその役出演依頼をします。ジョーンはスカーレット役を望んでいたので出演を断り、姉のハヴィランドを推薦したと言われています。最終的には社長のジャック・ワーナーの妻のアンが後押ししたと言われています。メラニー役で絶賛を浴びシリアスな役を演じたいと願っていましたが、会社は相変わらず純情可憐な娘や乙女役しか演じさせない事に不満を募らせ、以前と同様な役の脚本を突き返すようになり、エロール・フリンとの共演映画も終わらせます。その後1941年『いちごブロンド』や1943年『カナリア姫』等に出演しますが、ワーナー・ブラザースはオリヴィアに6か月の契約延長を告げますが、彼女はこの申し入れを断ります。その当時の法律では、契約中の俳優が製作会社からの配役を拒否した場合は、その作品の撮影期間を契約期間に加算延長を認めていました。ベティ・ディヴィスが1930年代に訴訟を起こしましたが敗訴しています。殆どの俳優はこの契約を受け入れていましたが、1943年8月にオリヴィアは会社を相手に出演拒否に対する契約期間延長処置への訴訟を起こし、彼女は勝訴します。製作会社の絶大な権限を弱め、俳優たちに自由な創作活動を与えたこの判決は、ハリウッド映画界に大きな影響を与えました。今でもこの判例は、「デ・ハヴィランド法」と言われています。しかし、敗訴したワーナー・ブラザースは彼女に関する書簡を他の縁が製作会社に送り付け、その後彼女は「ブラック・リスト女優」として2年間映画出演する事が出来ませんでした。そしてお蔵入りになっていた『まごころ』が公開されてから、彼女はパラマウント映画と3本の出演契約をし、1946年の『暗い鏡』に出演します。この映画での演技から彼女は大きく飛躍し、シリアスで重厚な役を演じる俳優となって行きます。彼女はベティ・ディヴィスと親交が深く終生親友でした。彼女の主な出演作品は、1935年『真夏の夜の夢』『海賊ブラッド』、1936年『進め龍騎兵』、1938年『ロビンフッドの冒険』、1939年『風と共に去りぬ』、1941年『壮烈第七騎兵隊』、1943年『カナリア姫』、1946年『暗い鏡』『遥かなる我が子』、1948年『蛇の穴』、1949年『女相続人』、1952年『謎の佳人レイチェル』、1958年『誇り高き叛逆者』、1964年『不意打ち』『ふるえて眠れ』等です。

精神分析医スコット・エリオット
リュー・エアーズ(37歳)

 精神分析医スコット・エリオットを演じるのは、リュー・エアーズ(1908年12月28日~1996年12月30日)です。アメリカ合州国のミネアポリスで、バンジョー、ギター、ピアノ等が弾けるのでアリゾナ大学(薬学)卒業後、楽団に入団して演奏活動をしていました。テス社と6か月の契約をして1929年に映画デビューし、1930年の『西部戦線異状なし』で主役のポール・バウマーを演じました。衝撃的なラスト・シーンで映画は大ヒットし、演じたエアーズの名は世界中に知れ渡ります。映画俳優なり立てで有名になりましたが、経験不足もありスターにはなりませんでした。1935年からフォックス社のB級映画に出演するようになります。1938年MGMで「ドクター・キルデア(ジェームズ・キルダーレ博士)」シリーズの9本に出演しました。1942年3月に徴兵され、彼は良心的兵役拒否者を宣言します。彼の行動は、アメリカ国民にも映画会社にも受け入れられませんでした。(看護兵デスモンド・T・ドスを主人公にした2016年の映画『ハグソーリッジ』で、良心的兵役拒否者の事はお分かり頂けると思います。)エアーズは1942年5月18日アメリカ陸軍に入隊し、太平洋方面に医者と牧師の城主として任務に就きます。レイテ島やフィリピンやニューギニア等で、3年半医療軍団に活動して従軍星章を3度授与されます。この従軍星章で得た報酬は、全てアメリカ赤十字に寄付しています。1946年に映画に復帰しますが、戦争映画への出演は拒否してワーナー・ブラザースとの長期契約中も2本の映画出演だけでした。その後は時々映画に出演し、宗教活動に専念します。1960年からは、テレビ映画に出演するようになり俳優活動を再開しています。主な出演映画は、1930年『西部戦線異状なし』、1933年『あめりか祭』、1938年『素晴らしき休日』、1946年『暗い鏡』、1948年『ジョニー・ベリンダ』、1953年『ドノヴァンの脳髄』、1964年『大いなる野望』、1973年『最後の猿の惑星』等です。

スティーブンソン警部補役
トーマス・ミッチェル(54歳)

 スティーブンソン警部補を演じるのは、アメリカの映画俳優で劇作家の名優トーマス・ミッチェル(1892年7月11日~1962年12月17日)です。1939年の『駅馬車』で飲んだくれのブーン医師を演じているので、ご存じの方が多いと思います。彼はニュージャージー州エリザベス生まれで、高校卒業後に地元の新聞社に入社して新聞記者になります。1913年に新聞社を退社して、チャールズ・コバーンのシェークスピア劇団に入団して舞台俳優になります。1916年にブロードウェイ・デビューし、その後フロイド・ディールと共同で脚本を書くようになり舞台劇の演出もするようになります。1928年の舞台劇「Little Accident」が、1930年に『貰い児紛失事件』と1944年に『クーパーの花婿物語』として2度映画化されました。彼は1934年の『わたしのすべてを』で脚本家として映画界にデビューします。その後コロンビア映画と契約し、1936年の『クレイグの妻』で映画俳優として本格的にデビューします。と云うのは、彼は1度だけ1923年にサイレント映画『文明病』に映画出演していました。その後は数々の大作で存在感のある脇役として活躍しました。1939年の『駅馬車』でアカデミー助演男優賞を受賞し、テレビでは1952年にエミー賞の主演男優賞を受賞し、1953年には舞台劇「Hazel Flagg」でトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞し、アカデミー賞とエミー賞と三つの賞を受賞した最初の俳優となります。とにかく才能に溢れた方です。主な出演映画は、1937年『失はれた地平線』『ハリケーン』、1939年『駅馬車』『コンドル』『スミス都へ行く』『風と共に去りぬ』『ノートルダムの傴僂男』、1942年『運命の饗宴』、1943年『ならず者』『肉体と幻想』、1944年『西部の王者』『黒い河』、1946年『暗い鏡』『素晴らしき哉、人生!』、1952年『真昼の決闘』、1961年『ポケット一杯の幸福』等です。トーマス・ミッチェルは、11962年2月17日にフィラデルフィアの公演先で倒れ、癌の為ビバリーヒルズの自宅で亡くなりました70歳でした。

ラスティ役
リチャード・ロング(19歳)

 ラスティを演じているリチャード・ロング(1927年12月17日~1974年12月21日)は、アメリカ合州国の俳優です。1946年にアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズの『離愁』で映画デビューし、同年オーソン・ウェルズがロングの演技に感銘を受けて『オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー』に出演させ、続けて『暗い鏡』に出演しました。アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズが、ユニバーサル・ピクチャーズと合併後も1947年『卵と私』に出演しました。ロングはユニバーサル社と契約し、1948年『愛土地の大地』、1949年『裏切りの街角』で聴覚障碍者の役で素晴らしい援護をし、ラスト・シーンが印象的です1949年『ダイナマイト夫婦』、1950年『命知らずの男』に出演しました。

 1950年12月、朝鮮戦争中に徴兵されてカリフォルニア州フォート・オードで、マーティン・ミルナー、デビッデ・ジャンセン、クリント・イーストウッドらと2年間勤務しました。1953年『わたしの願い』、1954年『カスカチワの狼火』、1959年『地獄へつづく部屋』、1963年『渚のデイト』等に出演しました。その後テレビに出演するようになり、「幌馬車隊」、「西部のパラディン」、「百万弗貰ったら」、「トワイライト・ゾーン」等にゲスト出演しました。ロングはワーナー・ブラザースと契約して「連邦保安官」、「ハワイアン・アイ」等に出演し、1958年「マーベリック」でレギュラー出演しました。1959年から1960年まで「バーボン・ストリート」の主役を演じ、1960年から1962年まで「サンセット77」にレギュラー出演しました。1965年から1969年まで1「バークレイ牧場」ではビクトリア・バークレーの長男役で112話に出演しています。1970年から1971年まで「ぼくらのナニー」の主役を演じました。 ロングは若い頃に肺炎を患い、心臓が弱っていました。成人後心臓のトラブルを経験し、1961年最初の心臓発作を起こした。再度の心臓発作治療の為に、ロサンゼルスのターザナ医療センターに1か月入院した後に、1974年12月21日に47歳で亡くなりました。次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.55 『フランケンシュタインの花嫁』の最終章

女性の怪物を創れとヘンリーに命令する怪物(左)
エリザベスを拉致する怪物(右)

 ブレトリア博士が、ヘンリー・フランケンシュタインの邸に現れます。エリザベスはヘンリーに近付かないようにブレトリア博士に言って、街を出る為の荷造りをしに部屋を出ます。ブレトリア博士はヘンリーに全て準備は整ったから後は君の仕事だと言い寄ります。ヘンリーは頑なに断りますが、ブレトリ博士は怪物を部屋に入れます。怪物はヘンリーに創るように命令しますが、ヘンリーは断り続けます。ブレトリア博士は怪物に部屋から出るように言い、怪物はエリザベスの部屋に行ってエリザベスをさらって行きます。エリベスが人質になったので、ヘンリーはブレトリア博士に協力します。

心臓の状態を監視するヘンリー(左)
心臓移植の準備を指示するヘンリー(右)

 画面が変わって高い塔の最上階の実験室。(ホエール監督は、前作のヒットにより十分な予算を得て、豪華なセットを作っています。)ヘンリーは怪物に使う心臓の観察をしていましたが、この心臓が使えないので別の心臓を調達するように博士に言います。博士はカール(彼は前作の『フランケンシュタイン』ではヘンリーの助手を演じていました。)に突然死した新しい心臓を手に入れるように言います。カールは街に出て、通り掛かった女性を殺して心臓を持ち帰ります。ヘンリーは心臓の出所を尋ねますが、博士が有耶無耶にして心臓の監視を続けさせます。ヘンリーが眠りかけた頃、怪物が現れてヘンリーに仕事を続行させようとします。ブレトリア博士は怪物に酒を飲ませると言って隣の部屋に連れ出し、睡眠薬入りの酒を飲ませて怪物を眠らせます。エリザベスの無事を知りたがるヘンリーにブレトリア博士はこの電気機器(電話ですね)で話せると言い、彼女と話しをさせます。そして、いよいよ心臓を怪物に移植し、電流を与える最終段階に入ります。(このシーンでは傾いて撮られた画面が多用され、緊張感を高めています。)

女性の怪物が横たわる蘇生装置(左)  タワーの上に上がった創生装置(右)

 怪物蘇生に必要な高電圧の電気を得る為、雷が轟く夜空に2機のカイトが上げられます。カイトに雷が落ち、女性の怪物を蘇生させる事に成功します。(前作で使われたセットを基にバージョン・アップさせて、かなり大掛かりな装置になっています。)

蘇生された女性の怪物(左)      素晴らしい髪形の女性の怪物(右)

 全身包帯で巻かれた女性の怪物の包帯が解かれ、女性の怪物が姿を現します。古代エジプトの王妃ネフェルティティを参考にして造形された髪型、顔には継接ぎをした傷跡、そして奇妙な顔の動きをさせて辺りを見回しヘンリーを見つめます。(髪型はメイキャップのジャック・P・ピアースがエルザ・ランチェスターの頭に針金で土台を作りその針金に髪を巻き付けて製作されました。顔の動きはエルザ・ランチェスターが鳩の動作を参考にした演技です。)

ヘンリーを見つめる女性の怪物(左)   喜ぶ怪物と恐れる女性の怪物(右)

 そこに怪物が現れて女性の怪物の誕生を喜び傍に行きますが、女性の怪物は彼の顔を見て驚きます。怪物は喜びながら彼女の手に触れると、彼女は悲鳴を上げます。(発情期の白鳥に敵が近づくと発する声を参考にして、エルザ・ランチェスターが奇声を上げています。)

涙を流しながら爆破装置のスイッチを入れる怪物(左)
研究所内に起る爆発(右)

 怪物は「僕を嫌い 皆と同じだ」と言い、爆破装置のレバーに手を掛けます。そこにエリザベスがドアの外からヘンリーを呼び、出てくるように言います。ヘンリーはドアを開け、出て行けないと言います。怪物は爆破装置のレバーに手を掛けてヘンリーに生きるように言い、プレトリア博士にお前は残って死ねと言って涙を流しながらレバーを下げて塔を爆破します。(この塔が爆破されて崩れていくシーンは、見事な崩れ方です。)逃げ延びたヘンリーとエリザベスが抱き合ってエンド・マークとなります。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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発売元:ユニバーサルスタジオ・ジャパン株式会社
映像特典:メイキング、音声解説、フォト-ギャラリー

『フランケンシュタインの花嫁』 作品データ

1935年製作 アメリカ 75分 モノクロ

原題:The Bride of Frankenstein

製作:カール・レムリ・Jr

監督:ジェームズ・ホエール

脚本:ウィリアム・ハールバット、ジョン・L・ボルダーストン

特殊効果:ジョン・P・フルトン

撮影:ジョン・J・メスコール

美術:チャールズ・ホール

音楽::フランツ・ワックスマン

出演:ボリス・カーロフ:怪物

   コリン・クライブ:ヘンリー・フランケンシュタイン

   ヴァレリー・ホブソン:エリザベス

   エルザ・ランチェスター:メアリー・シェリー、怪物の花嫁

   アーネスト・セジガー:ブレトリア博士

   オリバー・ピーターズ・ヘギー:盲目の隠者

   ウナ・オコナー:従者のミニー

   ドワイト・フライ:カール

   E・E・クライブ:市長

   ギャビン・ゴードン:バイロン卿

Vol.54 『フランケンシュタインの花嫁』の続き

メアリー・シェリーとバイロン卿とペーシー・ビッシュ・シェリー(左)
二人に物語を語り始めたメアリー・シェリー(右)

 嵐の夜、レマン湖畔にあるディオダティ荘と思われる建物が映し出されます。大きな居間にバイロン卿とパーシー・ビッシュ・シェリーと妻のメアリー・シェリーの3人がいます。刺繍をしているメアリーにバイロン卿が小説「フランケンシュタイン」は素晴らしい作品だと言いますが、夫のパーシーは結果が呆気なかったと言います。そこでシェリーは、あの話には続きがあると言って語り始めます。

焼け落ちる風車小屋(左)        市長に文句を言うミニー(右)

 画面が変わって前作の『フランケンシュタイン』のラスト・シーン、風車小屋が燃え落ちて行く処から物語が始まります。高台にある風車小屋が崩れ落ち、怪物も落ちていきます。それを見て喜ぶ市民に市長は私が皆を守ったと演説し、安心して帰って寝るように言います。偉そうに振舞う市長に文句を言うミニー、今回も大騒ぎするキャラクターをウナ・オコナーは好演しています。

怪物の死体を見に行こうとするハンスを止める妻(左)  怪物登場(右)

 市民が去った後、娘のマリアを怪物に殺されたハンスは、怪物の死を見届けようと下に降りようとした時、足を踏み外して川に落ちてしまいます。そこに怪物が現れてハンスは殺されてしまいます。ハンスの妻が焼け残った風車小屋からハンスに声を掛け、手が見えたので引き上げますが怪物でハンスの妻も川に突き落とされます。一人残っていたミニーの後ろに誰かが来たので振り返ると怪物だったので、悲鳴を上げながら一目散に逃げ去ります。

ヘンリーを看病するエリザベス(左)
ヘンリーを説得するブレトリア博士(右)

 ヘンリー・フランケンシュタインの死体が邸に運ばれて来て、婚約者のエリザベスに彼が死亡した事が伝えられます。死体は居間に運ばれて、エリザベスは泣き崩れます。そこにミニーが帰って来て、怪物が生きている事を執事に伝えますが信じません。死体の傍に来て独り言を言っていると、死体の手が動いてミニーが“生きている”と喚き出します。(前作でフランケンシュタイン博士は死ぬ予定でしたが、ホエール監督が生き残ったように編集し直して公開されました。)ヘンリーの体力も回復し、もう二度と怪物は作らないとエリザベスに話している時に恩師のプレトリア博士が現れます。彼は研究の手伝いをして欲しいと申し出ますが、ヘンリーもエリザベスも断ります。エリザベスがその場を離れた時に、博士は二人で手を組めば生と死の解明が出来ると言い、新しい生命体を作り出したと言います。自分の研究成果を見て欲しいと言ってヘンリーを自宅の研究所に誘います。科学者としての興味から、ヘンリーは博士の研究所に向かいます。

小さな生命体が入った瓶(左)  背景が映る瓶の中で踊る小さな生命体(右)

 研究所に入ると博士は大きな箱を持って来て、中から瓶を取り出します。その瓶の中には小さな人間が入っています。これは私が作った生命体だが、大きな生命体を作る為に君に手伝って欲しいと言います。(このシーンのでは瓶の中の生命体の動きよりも、瓶の上部や側面のガラスを通して見える背景が見事に撮影されています。もの凄い職人芸です。)もう実験をしたくないと言うヘンリーに博士は、怪物の友人を創ろうと言います。今度は女性の怪物を創ろうと持ち掛け、ヘンリーは協力することにします。

市民たちに捕えられる怪物(左)    地下牢に閉じ込められた怪物(右)

 画面が変わって、怪物は森の中を彷徨い、川を見つけて腹ばいになって水を飲みます。そして水面に映った自分の顔を似て、己の醜さを知ります。その時、崖の上に羊飼いの少女を見つけ唸り声で声を掛けます。少女は怪物を見て悲鳴を上げ、バランスを崩して川に落ちます。怪物は少女を助けに行きますが、少女が悲鳴を上げるので口を手で覆います。通り掛かった二人連れがそれを見て怪物に向かって銃を撃ちます。弾は怪物の腕に当たり、怪物は逃げ去ります。(この森のシーンのセットは、ホエール監督のイメージ通りに作られました。)市長は市民に怪物を捕まえに行くように言い、犬を連れて市民は手に長い棒を持って怪物を捕まえに行きます。犠牲者は出ましたが、怪物は捕らえられ大木に巣張りつけられて、馬車で運ばれて地下牢に入れられます。地下牢の椅子に鎖で固定されますが、怪物は簡単に床に固定したリングを抜き脱獄します。怪物は街中で市民を殺しながら逃亡します。

怪物を迎い入れる盲目の老人(左)      神に感謝する盲目の老人(右)

 画面が変わって、夜の森でキャンプしているジプシーの所に怪物が現れ食料を貰おうとしますが、ジプシーは逃げて行き食料は焚火の中に落ちて食べられません。食料を求めて歩いていくと小屋が見えて、中から心地良い音が聞こえてきます。窓から覗くと老人がいて、肩に乗せた何かから心地良い音が聞こえます。老人は外に人の気配を感じてドアを開けて声を掛けますが、返事が無いので家の中に戻ります。怪物はドアを開けて言葉にならない声を掛けます。この老人は目が見えないので、相手が怪物だとは知らず家に迎い入れます。盲目の老人は誰からも相手にされず孤独だったので、友人が出来た事を喜び怪物に食事を与えます。孤独だった老人は友人が出来た事を神に感謝します。その姿を見ていた怪物は、孤独だった自分自身と重ね合わせて涙します。(疎外された者同士に真の友人が出来た瞬間です。)

食事をさせながら言葉を教える盲目の老人(左)
盲目の老人が弾くヴァイオリンを聞く怪物(右)

 一夜明けて、老人は怪物に言葉を教えます。大火傷を負って火を怖がる怪物に正しく使えば良いものだと教え、葉巻を勧め怪物は葉巻を吸って喜びます。老人は良い事と悪い事があると言った時、怪物は“良い事”と言って老人にヴァイオリンを渡して弾くように頼みます。(社会から疎外された者同士が、友人が出来た喜びを感じて束の間の至福の時間を過ごすシーンです。このシーンがある事によって、この映画が単なるホラー映画ではなくヒューマン・ドラマという事が分かると思います。)老人が弾くヴァイオリンを喜んで聞いている時に、銃を持った二人連れが道を尋ねる為に家に入って来ます。部屋の中を見て、そいつは怪物だと言います。(ここでジョン・キャラダインが端役で登場です。)銃を怪物に向けて撃とうとする男を突き飛ばし、部屋の中を逃げ回る男を追い回す時に薪が暖炉に倒れて小屋は火事になります。二人の男たちは盲目の老人を連れて逃げ出します。

死体を盗ませるブレトリア博士(左)
怪物に食料とワインを与えるブレトリア博士(右)

 火の手が強くなり怪物も森に逃げ、像を倒して地下の遺体安置室に入り込みます。そこにはプレトリア博士と二人の男がいて、若い女性の死体を盗んでいる最中でした。二人の男たちが死体を運び出した後、博士はワインを飲んでいる処に怪物が現れます。博士は怪物を歓迎し、食料やワインを怪物に与えます。怪物は博士に自分のような男を創るのかと聞くと博士は女性の友達を創ると言います。博士は怪物にヘンリー・フランケンシュタインを知っているかと聞くと、僕を死体から創ったと言い、「死ぬのは好き」・「生きるのは嫌い」と言います。

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『フランケンシュタインの花嫁』 作品データ

1935年製作 アメリカ 75分 モノクロ

原題:The Bride of Frankenstein

製作:カール・レムリ・Jr

監督:ジェームズ・ホエール

脚本:ウィリアム・ハールバット、ジョン・L・ボルダーストン

特殊効果:ジョン・P・フルトン

撮影:ジョン・J・メスコール

美術:チャールズ・ホール

音楽::フランツ・ワックスマン

出演:ボリス・カーロフ:怪物

   コリン・クライブ:ヘンリー・フランケンシュタイン

   ヴァレリー・ホブソン:エリザベス

   エルザ・ランチェスター:メアリー・シェリー、怪物の花嫁

   アーネスト・セジガー:ブレトリア博士

   オリバー・ピーターズ・ヘギー:盲目の隠者

   ウナ・オコナー:従者のミニー

   ドワイト・フライ:カール

   E・E・クライブ:市長

   ギャビン・ゴードン:バイロン卿

Vol.53 『フランケンシュタインの花嫁』

発売元:ユニバーサルスタジオ・ジャパン株式会社
映像特典:メイキング、音声解説、フォト-ギャラリー

 今回ご紹介するのは、先回に続いて特殊効果のジョン・P・フルトンとジェームズ・ホエール監督が組んだ作品です。『透明人間』が完成後に会社から『フランケンシュタイン』の続編制作の依頼がありましたが、監督は一度断り1本撮り終えてから本作に取り掛かります。ジョン・P・フルトンは、本作でも新しい特殊効果を考え出して観客を驚かせています。本作では瓶の中に入った小さな人間を登場させます。人間に合わせた大きな瓶の中で演技をさせて、通常の画面と合成させています。この画面で瓶の透けて見える部分の処理が見事です。1931年の『フランケンシュタイン』の続編ですが、前作を超える素晴らしい作品になっています。見た目の醜さ不気味さにより、社会から疎外された者の物語です。ホエール監督は映画公開直前まで撮り直しと編集を繰り返し、上映時間を95分から75分に短縮して無駄の無いテンポの良い作品に仕上げています。ジェームズ・ホエール監督と特殊効果のジョン・P・フルトンの履歴は、Vol.50『透明人間』をご覧ください。

【スタッフとキャストの紹介】

 最終的な脚本が決まる迄は紆余曲折があり、ロバート・フローリーに始まり、トニー・リード、ローレンス・G・ブロックマン、フィリップ・マクドナルドと続きます。監督はジョン・L・ボルダーストンに依頼しエピローグは採用しましたが、最終的には監督と協力してウィリアム・ハールバットが脚本を書き上げました。

フランツ・ワックスマン

 音楽を担当したのが、フランツ・ワックスマン(1906年12月24日~1967年2月24日)です。現在のポーランド出身のアメリカの作曲家で、数々の名作の音楽を担当しています。彼は銀行で働きながら数年間ピアノや作曲の勉強し、その後ベルリンに移住してジャズ・バンドで演奏と編曲をします。映画音楽の最初の仕事は1930年の『嘆きの天使』の編曲でしたが、1932年にナチスの台頭によりユダヤ人の彼は活動拠点をフランスに移し、フランスで製作されるドイツ映画の音楽を担当します。そこでフリッツ・ラングの1934年の『リリオム』の音楽を担当し、ジェローム・カーンのミュージカルをアメリカで上演する為にアメリカに渡ります。その後、彼はホエール監督の依頼を受け、本作の音楽を担当します。この映画では主要キャラクターそれぞれにテーマ曲を作り、映像の邪魔をせず映像に合わせて音楽を入れて映画を盛り上げます。これはハリウッド映画の音楽に新しい風を吹き入れ、その後の映画に大きな影響を与えたと思います。1930年代から1940年にかけてユニバーサル映画で仕事をしていましたが、アルフレッド・ヒッチコックの1940年『レベッカ』、1941年『断崖』、MGMの『フェラデルフィア物語』等を手掛けています。1943年からはワーナー・ブラザース、1950年代はパラマウント映画に移っています。彼が担当した映画のジャンルは多岐に渡り、どの映画も映像と音楽が融合していると思います。『フランケンシュタインの花嫁』を始め、1938年の『クリスマス・キャロル』、1941年の『ジキル博士とハイド氏』、1950年の『サンセット大通り』、1951年の『陽のあたる場所』、1954年の『裏窓』、1957年の『翼よ!あれが巴里の灯だ』、1957年の『昼下がりの情事』等です。本作では登場人物ごとに作曲し、シーンに合わせて見事に曲を駆使して画面を盛り上げています。彼が音楽を担当した映画をご覧になる機会がありましたら、是非音楽にも注目して頂ければと思います。

フランケンシュタインの怪物役
ボリス・カーロフ(48歳)

 主役のフランケンシュタインの怪物は、前作ではノン・クレジットだったボリス・カーロフです。但し、映画のタイトル・ロールで“カーロフ”なっていますが、これは慣例によるものと言われています。ボリス・カーロフ(1887年11月23日~1969年2月2日)は、イギリスのロンドン出身で1909年にカナダに移住してカナダとアメリカで演劇活動をし、1919年に映画界入りしてサイレント映画時代の脇役として多くの映画に出演しています。彼の演技力が認められて、1930年には個性派俳優をして評価を得ます。そして1931年『フランケンシュタイン』で、フランケンシュタインの怪物に抜擢されます。ユニバーサルはベラ・ルゴシに怪物役を依頼しましたが、ルゴシは台詞が無い怪物役を断った為ボリス・カーロフが演じる事になりました。『フランケンシュタイン』は世界中で大ヒットし、フランケンシュタインと言ったら特殊メイクをした怪物の顔が浮かぶようになり、博士の名前が怪物の名前の様になっています。その後は特殊メイクをした役では無く、異常な人間や悪役を演じるようになります。そして、本作で再び怪物役を演じますが、怪物が言葉を喋る事に反対します。映画を撮り終えてから、怪物が喋る事でとても良い映画になったと語っています。その後、『フランケンシュタインの復活』で怪物役を演じますが、最初は前2作でやり尽くしたからと断りますが、ユニバーサルの強い要請で引き受けます。ユニバーサルはシリーズ化して継続して出演を依頼しますが、カーロフに断られて怪物役はロン・チャイニー・Jrが演じました。1950年以降も怪奇映画に出続けますが、存在感のある脇役を演じるようになります。出演作品が多いので、フランケンシュタイン・シリーズを覗いて主な作品を列記します。1932年の『暗黒街の顔役』、『魔の家』、『ミイラ再生』、1934年『黒猫』、1935年の『大鴉』『古城の扉』、1945年『死体を売る男』、1947年『征服されざる人々』、そして1968年の『殺人者はライフルを持っている』では本人役で出演しています。1969年2月2日にイギリスのサセックス州ミッドハーストの病院で亡くなりました。81歳でした。

ヘンリー・フランケンシュタイン役
コリン・クライブ(35歳)

 ヘンリー・フランケンシュタイン役は、前作に引き続きでコリン・クライブ(1900年1月20日~1937年6月25日)が演じました。クライブは、フランスのサン・マロ生まれのイギリスの舞台俳優・映画俳優です。彼はストーニーハースト・カレッジに通い、ロイヤル・ミリタリー・アカデミー・サンドハーストに入学しますが、膝を負傷して兵役免除になります。その後舞台俳優を目指し、ハル・レパートリー・シアター・カンパニーで3年間演劇を学びます。ロンドンで最初の作品「ショーボート」の舞台でスティーブ・ベイカー役を演じ、サヴォイ・シアターの「ジャーニーズ・エンド」でジェームズ・ホエールと共演します。彼は1925年から1932年まではロンドンの舞台を中心に出演し、時折ニューヨークの舞台にも出ていましたが、1933年からはニューヨークの舞台に出演していました。彼の映画デビューは1930年のジェームズ・ホエール監督の『暁の総攻撃』で、アルコール依存症のスタンホープ大尉を演じました。実生活でも彼はアルコール依存症で、本作の撮影時にはかなり悪化していましたが、ホエール監督は彼の神経質な表情が必要なので出演させました。「ショーボート」・「ハムレット」・「白鳥」等19本の舞台出演があり、1931年『フランケンシュタイン』、1933年『人生の高度計』、1934年『ジェーン・エア』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』『狂恋』、1937年『歴史は夜作られる』等の18本の映画に出演しています。クライブは、重度の慢性アルコール依存症に苦しみ、1937年6月27日に結核の合併症の為37歳で亡くなりました。

エリザベス役
ヴァレリー・ホブソン(17歳)

 フランケンシュタインの恋人エリザベス役は、ヴァレリー・ホブソンが演じました。前作でエリザベスを演じたメイ・クラークが、健康が優れない為に役を降りたと言われています。ヴァレリー・ホブソン(1917年4月14日~1998年11月13日)は、1930年代から1950年代に活躍したイギリスの女優です。彼女は10歳頃からロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマティック・アークで、演技とダンスを学び始めます。1932年から映画に出演するようになり、17歳で1935年『フランケンシュタインの花嫁』『倫敦の人狼』、1935年『幻しの合唱』、1939年『スパイは暗躍する』、1949年『カインド・ハート』に出演し、1946年にはデビット・リーン監督の『大いなる遺産』にも出演しています。1953年3月8日に、ドルリー・レーンのシアター・ロイヤルで開演したミュージカル劇「王様と私」が最後の舞台でした。余談ですが、彼女は1954年に国会議員のジョン・プロフーモ准将と2度目の結婚をしますが、1963年に夫のプロフーモがスキャンダルを起こし政治生命を絶たれます。この事件は1989年の『スキャンダル』で映画されています。

セブティマス・ブレトリア博士役
アーネスト・セジガー(38歳)

 ヘンリー・フランケンシュタインの恩師セブティマス・ブレトリア博士を演じたのは、イギリスの舞台俳優・映画俳優のアーネスト・セジガー(1897年1月15日~1961年1月14日)です。彼はイギリスの名門出身で最初は画家を目指していましたが、演劇に転向して1909年にプロ・デビューします。第一次世界大戦中は1914年イギリス陸軍の準州軍に志願し、射撃手として3か月の訓練を受け西部戦線に送られます。彼はフランス滞在中に歴史的な刺繡を購入し、趣味としてその刺繍の修復をしていました。1915年に塹壕で負傷してイギリスに帰国します。帰国後、彼は兵士の為に小さな縫製キットを開発し、後にクロス・スティッチ名誉長官になり、バッキンガム宮殿でも仕事をするようになります。同時に1915年から舞台俳優と活躍します。1916年には映画デビューし、脇役ながら多くの作品に出演します。舞台俳優としての出演が主で、時折映画にも出演しています。1929年『高速度珍婚双紙』、1932年『魔の家』、1933年『月光石』等に出演し、1935年『フランケンシュタインの花嫁」で、ブレトリア博士役は正にはまり役で鬼気迫る演技です。その後、1936年『奇跡人間』、1945年『ヘンリィ五世』『シーザーとクレオパトラ』、1947年『赤い百合』、1951年『素晴らしき遺産~オードリー・ヘップバーン』、1953年『聖衣』、1948年『四重奏』、1951年『白衣の男』、1954年『卑怯者』、1960年『息子と恋人』等に出演しました。

メアリー・シェリーと怪物の花嫁役
エルザ・ランチェスター(33歳)

 「フランケンシュタイン」の原作者メアリー・シェリーと怪物の花嫁の二役を演じたのが、エルザ・ランチェスター(1902年10月28日~1986年12月26日)でイギリスの映画俳優です。余談ですが、夫のチャールズ・ロートンは1939年の『ノートルダムのせむし男』でカジモドを演じていますね。彼女は演劇の私塾で学び、17歳で自分の劇団と劇場を持ち1922年にロンドンの舞台にデビューして活躍します。1925年『緋色の女』で映画デビューし、1929年チャールズ・ロートンと結婚して時折共演しています。

 1933年『ヘンリー八世の私生活』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』『孤児ダビド物語』、1936年『レンブラント/描かれた人生』、1941年『生きてる屍』、1942年『運命の饗宴』、1943年『名犬ラッシー~家路~』、1946年『剃刀の刃』『らせん階段』、1947年『気まぐれ天使』、1948年『大時計』、1950年『ミステリー・ストリート』等に出演しています。1957年『情婦』では看護婦役でチャールズ・ロートンと共演し、面白い掛け合いをしています。1958年『媚薬』、1964年『メリー・ポピンズ』、1967年『ゴー!ゴー!ゴー!』、1969年『ナタリーの朝』、1971年『ウイラード』、1976年『名探偵登場』等に出演しています。1986年12月26日、カリフォルニア州のウッドランドヒルズで、気管支炎の為84歳で亡くなりました。

盲目の隠者役
オリバー・ピーターズ・ヘギー(58歳)

 盲目の隠者を演じたのはオリバー・ピーターズ・ヘギー(1877年9月17日~1936年2月7日)で、オーストラリアの舞台俳優・映画俳優です。彼はアデレート音楽院で学んでアマチュア劇団に出演後、1900年にシドニー宮殿で舞台劇「火星からのメッセージ」でプロとしてデビューしました。その後、1906年にイギリスに渡り数々の舞台劇に出演し、「スペックルド・バンド」で演じたシャーロック・ホームズはコナン・ドイルに称賛されました。1914年にはニューヨークに渡り、自作の舞台劇を始め精力的に舞台俳優として活躍しました。その後、ハリウッドに移り1928年のサイレント映画『女優』で映画デビューします。主な出演作品は、1929年『フーマンチュウ博士の秘密』、1930年『ヴァガボンド王』・『続フーマンチュー博士』、1931年『女性に捧ぐ』、1934年『モンテ・クリスト伯爵』・『紅雀(赤毛のアン)』、1935年『フランダースの犬』・『フランケンシュタインの花嫁』等です。

侍従ミニー役
ウナ・オコナー(55歳)

 フランケンシュタイン家の侍従ミニー役をウナ・オコナーが演じています。本作でも出番は多く、コミカルに騒ぎまくります。ウナ・オコナーの履歴は、Vol.50『透明人間』をご覧ください。次回に続きます。 最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

 Vol.52 『透明人間』の最終章

鏡に向かって包帯を解くジャック

 ケンプの家に戻ったジャックは、パジャマを着て鏡に向かって顔の包帯を外していきます。(このシーンの特撮は、4回の重ね撮りをした非常に高度な技術で撮影されています。)

クランリー博士に電話をするケンプ(左)
ジャックに会いに行くと訴えるフローラ(右)

 宿屋の酒場では警察署長が陣頭指揮を執って、透明人間捕獲作戦を開始します。警官は32㎞の範囲の捜索を行い、ラジオでは科学者が透明人間になって警官を殺した事を放送しています。住民には注意を促し捜査の協力を求め、情報提供者には1,000ポンドの賞金が出る事も発表されます。ジャックが眠っている隙に、ケンプは1階に降りてクランリー博士に電話します。ジャックが自分の家にいて、彼が透明人間だと伝えて直ぐ来るように頼みます。博士はケンプに、ジャックはそんな人間じゃないと言って電話を切ります。ケンプは警察に電話して、透明人間が自分の家にいる事を通報します。電話を受けていたクランリー博士に、フローラは誰からの電話か尋ねます。博士はケンプからの電話で、ジャックが透明人間でケンプの家にいると言います。フローラはジャックに会いに行くと言い出しますが、彼は正常じゃないから行かないように言います。しかし、彼女は一人でも会いに行くというので博士も一緒にケンプの家に向かいます。

ジャックに博士とフローラを呼んだと言うケンプ(左)
フローラに自分の野望を語るジャック(右)

 2階で寝ていたジャックが降りてきて、ケンプがいる部屋の前で鍵を開けろと言います。ケンプは怖いから鍵をかけたと言うので、ジャックは相棒だから怖がる事は無い早く寝ろと言います。二人で2階に上がると窓から車が到着するのが見え、ジャックは警察に通報したのかと言います。ケンプはフローラと博士が来たと言い、彼女が心配していたので連絡したとジャックに言います。ジャックはフローラと二人で話がしたいと言い、フローラはジャックのいる部屋に行きます。二人は再会を喜び、ジャックはフローラの為に研究を完成させて富と名声を得たかったと言います。フローラは、博士と協力して復元薬を作るように言います。天才の博士と一緒に研究すれば完成すると言うと、ジャックは自分には凄いパワーがあるから、博士の協力は要らないと言い返します。自分は何でも出来る人間だから富も名声も得られると言っている時に、家の周りには警官が集まって来ているのが見えます。ジャックはケンプが警察に通報したことを知り、フローラに帰るように言い透明人間に戻ります。

ズボンだけで逃げるジャック

 家を包囲した警官隊は手を繋いで家に向かって前進します。ケンプが部屋の窓を開けた時、ジャックがケンプを明日の10時にお前を殺すと言って出て行きます。ジャックは警官に悪戯をしながら、一人の警官の足を掴んで引きずり出し、振り回して投げ飛ばします。その時警官のズボンを取り、それを穿いて歌い踊りながら逃げて行きます。

ジャックの行方を博士に聞く警察署長(左)
ジャックが透明人間だと訴えるケンプ(右)

 警察署でケンプは明日の10時に殺されるから拘置所に入れて欲しいと警察に頼みます。署長は警察に博士とフローラも呼んで、博士の行動に疑問を持ち質問します。博士に助手のグリフォンはどうしたと尋ねると、彼は出て行ったとだけ答えます。ケンプはグリフォンが透明人間だと言い、彼は私を殺しに来ると喚きます。大勢の町民が透明人間探しをしている時に、透明人間が現れて崖から町民を突き落とします。信号所にも現れて勝手にレールを切り替えて、予定通り列車事故を起こします。銀行では現金が入った引き出しを盗み、道路に出て歌いながら現金をばら撒きます。

捕獲作戦の説明をする警察署長(左)  崖から落ちるケンプが乗った車(右)

 ケンプの家では警察署長が署員に捕獲作戦の指示を出します。ケンプを署員が囲み、外側に網を巡らせて警察署に向かいます。警察署でケンプは警官の制服を着て、裏口から逃げ出し車でその場から立ち去ります。逃げ切ったと思ったのも束の間、車にはジャックが乗っていてケンプは手足をロープで縛られます。そして、車ごと崖から落とされ車は炎上します。

藁の中の透明人間が寝ている事に気付いた農夫(左) 火に包まれる納屋(右)

 ジャックは農家の納屋に忍び込み、藁の中に潜り込んで眠ります。処が、そこの住民が農機具を納屋に置きに行った時に、藁の中から寝息が聞こえるのに気が付き警察に知らせます。警察は全署員を出動させて、透明人間捕獲作戦を開始します。納屋を全署員で囲み、納屋に火をつけて透明人間をおびき出します。火事に気が付いたジャックは慌てて藁から飛び出し外に出ますが、地面には雪が積もっていてジャックの足跡が見えてしまいます。

銃弾に倒れたジャック

 銃を構えていた署長は、足跡が向かう方向に銃を撃ちます。雪の上の足跡が止まり、雪の上に人が倒れたような形に表れます。署長は倒れた場所に行き、透明人間が倒れた事を確認します。

フローラに最後の言葉を告げるジャック(左)
死んで姿を現したジャック・グリフォン(右)

 瀕死の状態で病院に運ばれたジャックは。フローラに自分は元に戻りたかったが失敗した。触れてはならない領域に手を出してしまったと言って息を引き取ります。(徐々に顔が現れ、ジャック・グリフォンの死に顔が映し出されます。ラストを見事な特殊撮影で物語は終わります。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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1933年『透明人間』
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社
《特典映像は特殊撮影に興味がある方には必見です》

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン。ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー

 Vol.51 『透明人間』の続き

顔中包帯の謎のサングラス男(左)      女将のジェニーと謎の男(右)

 雪が降る夜、コートに身を包みトランクを持った男が、酒場兼下宿屋に歩いて行きます。1階の酒場では酒を飲みながら語り合う人、ピアノを弾く真似をする人、ダーツをする人と多くの人たちが寛いでいます。突然ドアが開き、深々と帽子を被り顔中包帯を巻いたサングラスの男が現れます。そこにいた人たちは、一斉にその男を見て沈黙します。その男は部屋を借り、女将のジェニーに案内されて2階の部屋へと向かいます。部屋に入るとジェニーは終始話しながら暖炉に火を入れて客を受け入れる準備をします。男はジェニーに背を向けて立ったまま、窓から外を眺めながら食事を注文します。ジェニーは1階に降りてトレイに食事を用意して再び2階に上がります。男は窓の方を向いたまま立っていて、自分の邪魔をしないように言います。酒場では客たちが、謎の男の話題で盛り上がっています。ジェニーが食事を置いて1階に戻ったら、厨房の女性従業員がマスターを忘れたと言ったので再び2階に上がります。部屋のドアを開けると、食事中の男はナプキンで口を隠して怒ります。慌てて1階に降りたジェニーは、男は顔中包帯で巻いているから事故にあったと皆に言います。

クランリー博士と娘のフローラ(左) フローラに言い寄る助手のケンプ(右)

 クランリー博士の実験室に娘のフローラが悲痛な表情で現れます。父親のクランリー博士にジャックの行方を聞きますが、博士は研究に没頭していたのだろうと相手にしません。そこに助手のアーサー・ケンプが現れ、彼もジャックがひと月も連絡が無いのはおかしい何処に行ったのか博士に尋ねます。クランリー博士は、私の許可を得て研究を続けているから問題無いと言います。フローラはジャックに何か悪い事が起こったと言って、泣きながら隣の部屋に行きます。ケンプは彼女の後を追い、気晴らしにドライブでも行こうと誘いますが、彼女は泣き崩れるだけです

亭主に男を追い出すように言うジェニー(左)
階段を転がり落ちて床に倒れた亭主に声を掛けるジェニー(右)

 実験器具の前に立つジャックは元に戻る方法を思案している処に、ジェニーが文句を言いながら昼食を持って来ます。入室を断るジャックを無視して部屋に入ろうとするジェニーをドアを閉めて追い出します。ジェニーは昼食を床に落とし、奇声を上げながら1階に戻り亭主に男を追い出すように言います。亭主は渋々2階に上がり、未払いの1週間分の宿賃請求と出て行くように告げます。ジャックは実験の邪魔をするジェニーに腹を立てている処に亭主が現れます。宿代を請求する亭主と口論となり、逆上したジャックは亭主に襲い掛かりドアから突き飛ばして階段を転がり落としてしまいます。床に倒れている亭主を見たジェニーが大騒ぎをするので、客が集まりジェニーを慰めます。(これら一連のシーンの大袈裟なウナ・オコナーの演技は、シリアスな映画でもコミカルなシーンを入れるホエール監督の演出です。)

透明人間を見て驚く警官と客たち(左)   顔の包帯を取った謎の男(右)

 客たちは外に出て警官を連れだって男の部屋に乗り込みます。そこで男は自分が透明人間だと明かし、付け鼻を取り顔の包帯を取って服だけの姿になります。(ジョン・F・フルトンの特殊撮影が後の映画に多大な影響を与えたシーンです。)その場にいた人たちは驚き、唖然とします。男はさらに上着もズボンも脱いでワイシャツだけの姿になって、皆を追い掛け回して警官の首を絞めます。皆は外に飛び出て逃げ回り、町中がパニック状態にあります。透明人間のジャックは、薬品の副作用で異常をきたし凶暴になって来ます。町中で悪戯しながら動き回ります。(このシーンでは、以前から使っていた手法のワイヤーを使って透明人間の存在を表現しています。ウォルター・ブレナンが、自転車を盗まれる男役で出演しています。)首を絞められた警官が、警察署のレーン警部補に報告しますが信じてもらえません。

手掛かりを探すケンプとクランリー博士(左)
モノカインの説明する博士(右)

 クランリー博士の研究室では、博士とケンプがジャックの研究の手掛かりを探しています。ジャックが使っていた薬品は持ち出されていましたが、博士は薬品のリストを見つけ出しモノカインを持ち出した事が分かります。モノカインはインドで発見された薬品で、色素を抜く作用があり漂白剤の研究に使われました。しかし、効果が強力過ぎるのと劇薬だと分かり研究は中止されまた。モノカインを犬に注射したら凶暴になり、その後白くなって死んでしまう劇薬です。博士はこの事を口外しないようにケンプに口止めし、ジャック・グリフォンが失踪したと警察に届ける事にします。

煙草にマッチで火をつけるジャック(左)
相棒になれと命令するジャック(右)

 帰宅して自宅で寛いでいるケンプの部屋にジャックが現れます。(透明人間なので声だけの登場ですが、クロード・レインズの声が良いですね。ケンプ役のウィリアム・ハリガンの一人芝居も素晴らしいです。)以前のジャックとは違って話し方は全て命令調になり、椅子に座って煙草を吸いながら怯えるケンプを脅し始めます。パジャマにガウンを着て手には手袋、顔には包帯を巻いてサングラスをしたジャックはケンプに相棒になれと言い出します。ジャックは5年間の研究で透明人間になったが、邪魔されて復元薬を作れなかった。しかし、自分は強力なパワーを手に入れたので世界を征服出来る。その為には真面な姿の人間が必要だから、お前は相棒だと言います。研究資料が宿屋にあるので、ケンプに車を出すように命令して2人で宿屋に向かいます。

2階の窓から研究資料が落とされてます(左)
ジャックに首を絞められているレーン警部補(右)

 透明人間のジャックは宿屋の部屋に入り、窓から研究資料を2階の窓から落として下にいるケンプに受け取らせます。宿屋の1階で町民が集まっている酒場に、レーン警部補が登場して町民の証言を信じず透明人間の存在を全面否定しています。全ての案件を却下して共同謀議で起訴すると言い、書類を書こうとペンをインク壷に向かわせると、突然インク壷が横に移動します。再びペンを近づけるとインク壷は横に移動し、今度は宙に浮いて顔にインクを掛けます。透明人間がいると女将のジェニーが騒ぎ出し、そこにいた人達はその場から逃げ出します。薬の副作用で凶暴化したジャックは警部補に襲い掛かり、首を絞めて殺してしまいます。クランリー博士は警察署のレーン警部補を訪れますが、その時発行された号外を見て透明人間が殺人を犯した事を知ります。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン、ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー

Vol.50 『透明人間』

 今回ご紹介するのは、H・G・ウェルズ(ハーバード・ジョージ・ウェルズ)原作の「透明人間」です。1933年に初映画化された作品で、後に多くの映画に多大な影響を与えた作品です。

1933年『透明人間』
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社
《特典映像は特殊撮影に興味がある方には必見です》

【スタッフとキャストの紹介】

ジェームズ・ホエール監督(44歳)

 ジェームズ・ホエール(1889年7月22日~1957年5月29日)は、イングランドのダドリー出身の映画監督です。ホエールは7人兄弟の6番目で、兄弟が父親と同様に製鉄業に就きましたが、彼は靴直しの仕事に就きます。彼は自分に絵を描く才能があると知り、ダドリー美術工芸学校の夜間クラスに通います。第一次世界大戦中の1915年8月に軍隊に入隊し、1916年7月にウスターシャー連隊に参加します。1917年8月に捕虜になりますが、その間に絵を描いたりスケッチをしたり、収容所で行われたアマチュア演劇作品では俳優、作家、プロデューサー、セットデザイナーをしていました。停戦後、バーミンガムに戻って舞台俳優になり、舞台演出の仕事も始めて経験を積み上げていきます。1928年にR・C・シェリフの戯曲「旅路の果て」の演出をします。主役は当時まだ無名に近いローレンス・オリビエを起用して大成功を収め、アンリカに移住して1928年「旅路の果て」をブロードウェイの舞台で演出しました。

 1930年にカリフォルニア州ハリウッドで、ハワード・ヒューズ監督の『地獄の天使』で俳優として出演し、ノンクレジットで共同監督をしています。同年、「旅路の果て」の映画版『暁の総攻撃』を監督しました。1931年『ウォタルウ橋』と『フランケンシュタイン』を監督し、『フランケンシュタイン』では360度のパン・ショットを映画で初めて使いました。1932年『魔の家』、1933年『透明人間』、1934年『女を求む』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』・『不在証明なき犯罪』、1936年『ショーボート』等を監督しましたが、映画会社の折り合いが悪く1941年に引退します。1957年5月29日未明に、ハリウッドの自宅のプールで溺死体となって発見されます。警察の捜査で入水自殺と断定されました。彼はハリウッドで活躍して時に自分が同性愛者だと宣言していました。彼が死に至るまでの半生は、1998年の『ゴッドandモンスター』で描かれています。この映画の監督のビル・コンドンも主役のイアン・マッケランもゲイです。

 この映画が後世に多大な影響を与えたのは、透明人間が存在しているように映像に表す手法です。その特殊効果を考え出したのが、特殊効果撮影監督のジョン・P・フルトン(1902年11月4日~1966年7月5日 米ネブラスカ州生)です。彼は測量士をしていましたが、D・W・グリフィス・カンパニーで撮影助手として映画界入りします。彼はそれから光学合成と旅行マット写真の基礎を学び、1929年の『彼女は戦ひに行く』で撮影監督としてデビューします。1931年の『フランケンシュタイン』で特殊効果を担当し、その後ユニバーサルの特殊効果部門の責任者になります。そして本作で画期的な手法で透明人間を映像化します。その撮影方法は、フィルムによる撮影で可能になる方法です。現在ではビデオ・カメラを使ってグリーン・バックで俳優の演技を撮影し、その画像にコンピューターを使ってCGで簡単に合成出来ます。それ以前の長い間はブルー・バックで俳優の演技をフィルムで撮影して、背景と合成して作っていました。どちらも使う機材は違いますが、基本的やっている事は同じです。これらのやり方の基本的なテクニックを考え出したのが、フルトンです。本作で彼が考え出した方法は、透明人間の役者に全身を覆う黒いスーツを着せます。(光を反射しない起毛の布地のフェルトを使って全身スーツを作った)その上から洋服を着てカツラを付け、顔には包帯を巻き帽子を被ります。それから光を反射しない黒い背景で、役者の演技をフィルムで撮影します。この時役者がワイシャツだけを着た状態なら、ワイシャツだけが動いているようにフィルムに撮影されます。フィルムは光が当って感光されて映像となります。バックが黒の場合はフィルムに感光されていませんので、役者を撮影したフィルムを巻き戻して今度は背景を撮影します。このフィルムを現像するとワイシャツだけが動き回る映像が出来上がります。このやり方で顔に巻かれた包帯をほどいていくと、透明人間が現れます。(表現が変ですね。)但し、本作では46,000コマを手で修正して完成させています。誰も思い付かなかったこの撮影方法は、今も受け継がれて多くの映画が作り出されました。ホエール監督からワイシャツだけが動き回るような映像を撮れないかと相談され、可能だと答えたので監督は本作の製作を開始しました。

 フルトンはパラマウント社の特集効果を担当し、1935年の『フランケンシュタインの花嫁』の小人のシーンを撮影し、1945年『ダニー・ケイの天国と地獄』ではアカデミー特殊効果賞を受賞しています。1954年『黒い絨毯』、・『巨像の道』『裏窓』『麗しのサブリナ』の特殊効果を担当し、同年の『トコリの橋』では2度目のアカデミー賞を受賞しています。その後、MGMへ移籍して1956年の『十戒』で紅海が二つに割れるシーンの画期的な特殊撮影を手掛け、アカデミー賞の最終特別効果賞を受賞しました。アルフレッド・ヒチコック監督の映画は殆ど担当し、1955年『泥棒成金』、1956年『知りすぎた男』、1958年『めまい』等です。1960年代初頭にパラマウント社を去った後、特殊効果の仕事を続けていましたが、1969年の『空軍大戦略』の撮影中にスペインで感染症に罹り、1966年7月5日にロンドンの病院で亡くなりました。63歳でした。

脚本家
ロバート・C・シュリフ(37歳)

 脚本を担当したのは、イギリスの劇作家・脚本家・小説家のロバート・セドリック・シュリフ(1896年6が6日~1975年11月13日)です。キングストン・グラマー・スクールを卒業後、父親が保険会社に勤めていた影響か、彼は1914年にロンドンの保険会社に就職します。第一次世界大戦中は陸軍大尉としてフランスで参戦し、1917年にハッシェンデールの戦いで重傷を負い戦功十字賞を受けます。戦後、1918年から1928年まで保険調査員として働き。1928年に自身の戦争中の体験に基づいた戯曲「旅路の果てに」を発表します。この戯曲をジェームズ・ホエールが演出して、大ヒットします。1931年から1934年にオックスフォード大学ニュー・カレッジに通いながら映画の脚本も書くようになります。H・G・ウェルズが透明人間を社会から孤立した人間の象徴として生み出したキャラクーだったので、その意向を描いたR・C・シュリフの脚本が選ばれました。1933: 年『透明人間』『チップス先生さようなら』、1935:年 『四枚の羽根』、1941年『美女ありき』、1942:年『純愛の誓い』、1945: 年『邪魔者は殺せ』、1948:年 『四重奏』、1955年『暁の出撃』等の脚本を担当しました。

ジャック・グリフォン博士役
クロード・レインズ(37歳)

 透明人間になったジャック・グリフォン博士役は、映画界では殆ど無名のクロード・レインズが主役を演じました。(ホエール監督が彼の声が気に入っての大抜擢でした。)

クロード・レインズ(1896年11月10日~1967年5月30日)は、ロンドンのスラム街だったクラパム生まれで、近隣のキャンパーウェル界隈で育ちました。レインズは父親が俳優だった事もあり、10歳で舞台にエキストラとして出演し俳優を目指します。俳優の呼び出し係となって学校を辞め、新聞配達や路上教会聖歌隊に加わり家計を助けながら1911年に端役で初舞台を踏みます。その後、舞台監督として「青い鳥」のオーストラリア巡業に参加し、1914年から1年間、メルボルン、シドニーを回りレインズ自身も時折俳優として出演しました。帰国後、第一次世界大戦の為イギリス陸軍に従軍しますが、戦闘中に敵の毒ガスの攻撃で片目を失明します。1919年除隊後に、シェフィールドの劇団を経てロンドンの舞台に立つようになり、働きながら王立演劇学校で学びます。1920年にはサイレント映画にも出演し、1926年に妻と共にニューヨークに渡り夫婦で舞台出演します。このアメリカ巡業で実力が認められ、1928年にブロードウェイの舞台で主役を務めます。1,933年にボリス・カーロフの代役として、『透明人間』の主役を演じ、顔はラスト・シーンで1度しか出ませんでしたが、彼の名前は一躍有名になります。そして、1934年の『情熱なき犯罪』で本格的に映画俳優のキャリアをスタートさせます。1938年『ロビンフットの冒険』、1939ン年『スミス都へ行く』、1940年『シーホーク』、1942年『カサブランカ』、1943年『オペラの怪人』、1946年『汚名』『シーザーとクレオパトラ』等に出演しました。1947年にフリーとなり、映画出演のかたわらニューヨークの舞台に立っています。1950年『白銀の峰』、1960年『失われた世界』、1962年『アラビアのロレンス』、1964年『偉大な生涯の物語』等多くの映画に出演しました。1967年5月30日に内臓疾患の為に70歳で亡くなりました。

フローラ・クランリー役
グロリア・スチュアート(23歳)

 原作に登場しないジャックの恋人フローラ・クランリー役をグロリア・スチュアート(1910年7月4日~2010年9月26日)が演じました。彼女はカルフォルニア州サンタモニカ出身のアメリカの女優です。1932年『魔の家』、1933年『透明人間』、1935年『ゴールド・ディガース36年』、1936年テムプルの福の神虎鮫島脱獄、1938年『農園の寵児』等に出演しましたが、1940年代からはデコバージュの製作や画家として活躍するようになり各地で展覧会も開催しています。又、映画俳優組合の設立にも尽力しています。1975年からはテレビに出演するようになり俳優業を続け、87歳の1997年に『タイタニック』で101歳になった主人公のローズを演じました。2004年の『ランド・オブ・ブレンティ』が最後の映画出演になりました。晩年は肺癌と乳癌で苦しみ、2010年9月26日に肺癌の為に100歳で亡くなりました。

アーサー・ケンプ博士役
ウィリアム・ハリガン(39歳)

 ジャックの同僚アーサー・ケンプ博士役を、ウィリアム・ハリガン(1894年3月27日~1966年2月1日)が演じました。彼はニューヨーク市生まれの俳優で、5歳の時に舞台デビューして父親のエドワード・ハリガンと共演しました。1906年にはブロードウェイ・デビューして、父親と共演しました。彼はニューヨーク陸軍士官学校に通い、第一次世界大戦中は第77師団の第307歩兵連隊の大尉でした。1930年代から1940年代はブロードウェイの舞台に出演し、ブロードウェイの舞台劇「ミスター・ロバーツ」でキャプテン役を演じています。彼の映画デビューは1915年の『三国の事件』で、1957年の『罪人の街』まで多くに作品に出演していました。

クランリー博士役
ヘンリー・トラバース(59歳)

 クランリー博士を演じたのがヘンリー・トラバース(1874年3月5日~1965年10月18日)で、ノーサンバーランド州ブルドー生まれのイギリスの映画・舞台俳優です。彼は1894年にイギリスで舞台俳優としてデビューし、自分より年上の老け役を演じていました。1091年「平和の代償」でブロードウェイ・デビューしますが、1度イギリスに戻ります。その後アメリカに定住し、1917年11月から1938年12月までブロードウェイの舞台で活躍します。彼がブロードウェイで最後に出演したのが、舞台戯曲「我が家の楽園」で祖父のヴァンダーホーフ役でした。

 1933年の『ウィーンでの再会』で映画デビューし、同年『透明人間』、1934年『濁流』、1938年『黄昏』、1939年『スタンレー探検記』、1940年『人間エヂソン』、1941年『ハイ・シエラ』『教授と美女』、1942年『心の旅路』『ミニヴァー夫人』、1943年『疑惑の影』『キューリー夫人』、1945年『聖メリーの鐘』、1946年『小鹿物語』等に52本の映画に出演しました。特に1946年の『素晴らしき哉、人生!』では、守護天使クレランス・オドボディ役を好演しています。1949年に引退し、1965年動脈硬化の為に91歳で亡くなりました。

ジェニー・ホール役
ウナ・オコナー(53歳)

 下宿屋の女将ジェニー・ホール役はウナ・オコナー(1880年10月23日~1959年2月4日)で、彼女はアイルランド生まれのアメリカの女優です。大げさに騒ぎまくるコミカルな役が多く、ジェームズ・ホエール監督がお気に入りの女優です。彼女はアイルランドのダブリンにあるアビー劇場で俳優としてデビューしました。ある舞台劇がダブリンとニューヨークで上演されたので、1911年11月20日にマキシン・エリオット劇場でアメリカ・デビューします。1913年までロンドンに拠点を置き、時折アメリカの舞台にも出ていました。1929年『ダークレッドローズ』で映画デビューし、1933年『カヴァルケード』で舞台でも演じた役で映画に出演しました。この映画出演の成功により、彼女はアメリカに定住します。その後、1933年『透明人間』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』、1936年『鍬と星』、1938年『ロビンフットの冒険』、1940年『シーホーク』、1942年『心の旅路』、1945年『聖メリーの鐘』等の映画に出演しながら、ブロードウェイの舞台にも出演しています。1957年『情婦』が最後の映画出演作品でした。ウナ・オコナーは1959年2月4日、ニューヨーク市のメアリー・マニング・ウォルッシュ・ホームで、心臓病の為に78歳で亡くなりました。生涯独身を通し、舞台と映画に人生を捧げた人生でした。一度見たら忘れられない、愛すべきキャラクーの持ち主でした。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.49 『英雄を支えた女』の最終章

グラスにウィスキーを注ぐスティーリー(左)
スティーリーを銃で撃とうとするイーサン(右)

 ハンナが死んだと思ったスティーリーはバージニア・シティに行き、酒場でウィスキーをグラスに注ごうとした時、銃声がしたと同時に手に持ったウィスキー便が砕け散ります。銃を撃った男は、俺が酒を飲みに来た時は俺の奢りだと。そして銀山の王イーサン・ホイトだと名乗りますが、ウィスキーの瓶を持っていた男を見て、スティーリーだと気が付きます。イーサンは銃を向けたままスティーリーに近づき、何の用だと言います。スティーリーがハンナは死んだと言った途端にイーサンは銃でスティーリーを撃ち酒場を出て行きます。

イーサンの近況を話すスティーリー(左)
微動だにせず話を聞くハンナ(右)

 撃たれたスティーリーは命を取止め、嘗てハンナが経営していたサクラメントの宿屋に行きます、スティーリーが宿屋の中を覗くと奥の部屋から明かりが見えたので中に入るとハンナがゆり椅子に座っていました。ハンナに我々は死んだとイーサンは思っていて彼が再婚した事を伝えます。(この場面のハンナは瞬き一つせずにスティーリーの話を聞き、その表情はやがて悲しみを堪えているのが伝わって来ます。)ハンナは子供たちの埋葬地に行き、そこでサンフランシスコ行きを決めます。

ハンナにイーサンが再婚した事を告げる父親(左)
父親を追い返すハンナ(右)

 ハンナはスティーリーがサンフランシスコで経営する賭博場でディーラーとして働いています。そこに父親が突然ハンナに会いに来ます。ハンナは家族の事を聞こうとしますが、父親は話を遮ってお前は死んだと思われているから死んだままでいてくれ。名前を変えて何処か遠くに行ってくれと言います。イーサン・ホイトは再婚して子供もいるので、お前の存在がスキャンダルになる。イーサン・ホイトの夢は破れて鉄道を引こうとしている。その為に出馬して議会に出ようとしていると言います。。ハンナはイーサンがホイト・シティを創るのを諦めて反対勢力と結託しようとしている事を知り、父親を追い返します。ハンナはスティーリーに別れを告げ、ホイト・シティに向かいます。

再会したハンナとイーサン(左)
ホイト・シティを創るように説得するハンナ(右)

 ハンナは選挙演説を聞き、かつてのイーサンが言っていた事を対抗するハンクが言い、イーサンが反対していた事をイーサン自身が言っているのを聞きます。演説が終わってイーサンは一人、嘗てハンナと暮らした家で自分の信条に背ている自分を責めます。その時、外で物音がしたので窓から外を見るとハンナが立っていました。イーサンは外に出て再会を喜び近況を話し、ハンナは二人が出会った頃の話をします。二人は家に入り、イーサンは自分一人では夢を実現出来ないと言いますが、ハンナは二人で夢見たホイト・シティを創るように言います。力を貸して欲しいと言うイーサンに、ハンナはもう離婚したからと嘘を言って自力で実現するように諭します。イーサンは馬上の人となり帰って行きます。(とても良いシーンです。)

銅像を見上げる二人(左)        結婚証明書を破るハンナ(右)

 画面が変わって、ハンナが伝記作家に話しているシーンになります。1906年にスティーリーはサンフランシスコの大火事で人助けをして死んだ事、その年イーサンが死ぬ為にハンナの家を訪れた事を話します。二人はイーサン・ホイトが馬に乗っている銅像の前に立ち、ハンナは伝記作家にイーサンの偉業を語ります。伝記作家は話を聞き終えると、ハンナにキスをして伝記を書くのを止めますと言います。ハンナは彼女を帰してから、ボロボロになった結婚証明書を出して細かく破いて捨てて帰宅します。こうして奇妙な三角関係のラブ・ストーリーは終わります。

帰宅するハンナ

 最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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『英雄を支えた女』 作品データ

アメリカ 1942年 モノクロ 90分

原題:The Great Man’s Lady

監督:ウィリアム・A・ウェルマン

製作:ウィリアム・A・ウェルマン

脚本:W・L・リヴァー

原作:ビーニャ・デルマー(コスモポリタンの短編小説「人間の側面」)

アデラ・ロジャース・セント・ジョンズ

ソーナ・オーウェン

撮影:ウィリアム・メロ

美術:ハンス・ドレイアー、アール・ヘドリック

編集:トーマス・スコット

音楽:ビクター・ヤング

出演者:バーバラ・スタンウィック、ジョエル・マクリー

    ブライアン・ドンレヴィ、K・T・スティーブンス

    サーストン・ホール

Vol.47 『英雄を支えた女』の続きの続き

土地を購入しようとする男を追い返すハンナ左)
金を掘りにカリフォルニアに行こうと言うハンナ(右)

 偉大な夢を抱いてスタートした二人だが、思うように計画は進まずイーサンは諦めかけていた。ホイト・シティを創る為に購入した広大な土地の4分の3を売る契約をしようとしていた。そこに外で今晩の食料になるウサギを銃で仕留めたハンナが入って来て、土地を購入しようとする男を追い出してしまいます。ハンナは、イーサンに金山の夢を見た話をします。太陽を背にした黒い山が、空から手招きするような夢だったと。二人は一時この土地を離れ、カリフォルニアで金山を探しに行く事にします。

ギャンブラーのスティーリー登場(左)
ギャンブルに100ドルを賭けるイーサン・ホイト(右)

 イーサンは早速仲間を誘いに町に出掛け、話が纏まり仲間と酒を飲んで盛り上がります。しかし、手元の資金は100ドル。酒場から出ると、外にいたギャンブラーのスティーリーに声を掛けられます。私と勝負して勝ったら1ドルが100ドルになります。3枚のカードの中からエースを見付けるだけですが、イカサマです。イーサンは最初断りますが、仲間に言われるままに勝負して負けてしまいます。元手の100ドルを取り戻す為に勝負をして、結局馬や牛や鶏等の全てを失います。

スティーリーを銃で脅すハンナ(左)
ハンナはスティーリーにカードで勝負に挑む(右)

 家でイーサンの帰りを待っていたハンナは、家の家畜や荷馬車を運び出すのを窓越しに見て、銃を片手にギャンブラーの許へ行きます。そしてハンナはギャンブラーに銃を向けて、酔っ払い相手に公平じゃないから全部返すように言います。(スティーリーとの初顔合わせのシーンは、ハンナの顔の左半分だけしか写していません。ここから奇妙な三角関係が始まります。)ギャンブラーは私も少し酔っていたし、銃を向けて返せと云うのは不公平だからカードで決着を付けよう言います。勝負の結果、ハンナはお金も家畜も全て取り戻して帰宅します。情けない表情のイーサンに全て取り戻したと言い、テーブルにお金を出して何事も無かったように夕食の支度を始めます。何か言おうとするイーサンに食事をしながら明日出発だから準備してと言います。

銀鉱を見付けるまでの話を伝記作家にするハンナ

 画面が変わって、ハンナが伝記作家に話しているシーンに戻ります。カルフォルニアに行ったら直ぐに金が見つかると思ったが、見つからず8年掛かって銀を見付けた。金鉱探しからイーサンが帰った時は幸せだったが、いない時は苦しかった。その8年間スティーリーは傍にいたが、彼には恋愛感情は無かったと語り、サクラメントで宿を営んでいた頃の話が始まります。

スティーリーに平手打ちをしたハンナ(左)
スティーリーに銃を向けるイーサン(右)

 ハンナは宿のラウンジのランプを消していて、スティーリーが椅子に座って彼女の店じまいを待っている。全てのランプが消えた時、スティーリーはハンナをコンサートに誘うが断られる。(ここから画面は暗転し、シルエットだけになります。登場人物の感情が断絶している時、表情が見えない画面が映し出されます。)スティーリーはハンナを思うあまりイーサンを非難するとハンナは平手打ちをします。直ぐにハンナは謝罪し、イーサンの子供を身籠っている事を伝えます。その時イーサンが帰って来て、銃を手にして女房から離れろと言います。銃を突き付けているイーサンに、銃を所持しないスティーリーは丸腰だと言って上着を広げて見せます。イーサンに出て行けと言われて、スティーリーは店から出て行きます。

青いベトベトした物を手に取るハンナ(左)
以前、夢で見た事を思い出すハンナ(右)

 イーサンは疲れているから眠りたいと言って、二人で二階の寝室に行きイーサンはベッドに横たわります。いくら掘っても金は出てこないし、青いベトベトした物が邪魔をすると言います。そして掘っている丘の光景を話し出します。その丘は太陽の丘と呼ばれ、空から手招きしているように見えると言います。イーサンのブーツを脱がしているハンナは青いベトベトした物を手に取り、イーサンの話が以前自分が見た夢と同じだと思います。ハンナはブーツに付いた青いベトベトした物を搔き集めて手に取り鉱物分析所に向かいます。

分析所で純度の高い銀だと言われる(左)
スティーリーに借金を申しむハンナ(右)

 分析の結果、その青いベトベトした物は純度の高い銀で、8年間の苦労が実り大金持ちになって夢を実現する事が可能になります。ハンナは急いでイーサンに知らせに走りますが、途中でスティーリーに出会い山を買う為の資金を借金します。(スティーリーのハンナへの片思いが切ない。)

ハンナに資金の出所を問い詰めるイーサン(左)
ハンナと共にサクラメントに残るスティーリー(右)

 ハンナはイーサンに銀山を掘り当てた事を伝え、直ぐその山を購入するように言ってお金を渡します。イーサンは荷物を持って階段を降りた処で、ハンナにお金の出所を問い質します。(この場面も二人のシルエットになります)ハンナはそれに答えずイーサンに抱きつきます。イーサンはお金の出所はスティーリーだと確信し、二度とここには戻って来ないと言って出て行きます。

双子の子供達と馬車日に乗ったハンナ(左)
生き残ったハンナ(右)

 画面が変わって双子の親となったハンナは、スティーリーが手配した馬車に乗りバージニア・シティに向かいます。激しい嵐の中、橋を渡る時に鉄砲水で橋もろとも馬車は川に流され、子供たちは死にハンナだけが生き延びます。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『英雄を支えた女』 作品データ

アメリカ 1942年 モノクロ 90分

原題:The Great Man’s Lady

監督:ウィリアム・A・ウェルマン

製作:ウィリアム・A・ウェルマン

脚本:W・L・リヴァー

原作:ビーニャ・デルマー(コスモポリタンの短編小説「人間の側面」)

   アデラ・ロジャース・セント・ジョンズ

   ソーナ・オーウェン

撮影:ウィリアム・メロ

美術:ハンス・ドレイアー、アール・ヘドリック

編集:トーマス・スコット

音楽:ビクター・ヤング

出演者:バーバラ・スタンウィック、ジョエル・マクリー

    ブライアン・ドンレヴィ、K・T・スティーブンス

    サーストン・ホール