Vol.67 『組織』

 今回ご紹介するのは、ジョン・フリン監督の『組織』です。主役のロバート・デュパルは、若くも無く所謂二枚目の俳優ではありません。しかし、この映画を観ると分かりますが、組織に立ち向かう姿はカッコいいです。この映画も『突破口!』と同様に、マフィアの裏金とは知らずに強奪した男の話です。1973年の作品で、ジョー・ドン・ベーカーは相棒として出演しています。

【スタッフとキャストの紹介】

監督:ジョン・フリン(1932年3月14日~2007年4月4日)は、イリノイ州シカゴ生まれの映画監督です。彼はカリフォルニア州マンハッタンビーチで育ち、カリフォルニア大学ロサンゼルス校でジャーナリズムを学んで学位を取得しました。卒業後、1959年の『拳銃の報酬』で、ロバート・ワイズ監督の手伝いとして映画界入りしました。その後、セカンド・ユニットの監督を務め、1968年『軍曹』で監督デビューしました。この映画は戦争映画ではなく、ホモセクシャルを扱った映画です。この時代ではタブー視されていた題材に緒戦する凄い監督です。1971年『愛と死のエルサレム』、1973年『組織』、1977年『ローリング・サンダー』、1979年『摩天楼ブルース』、1987年『殺しのベストセラー』、1989年『ロックアップ』、1991年『アウト・フォー・ジャスティス』、1994『ブレインスキャン』、 2001年『密告の代償』等の監督をしています。フリン監督の作品は、主人公が相棒と組んで復讐する映画が良いですね。こじんまりと纏まってタイトに物語が進行し、リアルな緊張感があります。その他、1980年のTVドラマ『伝説のマリリン・モンロー』、1992年のケーブルTVドラマ「ネイルズ」、1992年「カリブ/愛欲の罠」を監督しています。フリン監督は、2007年4月4日に 自宅で就寝中に75歳で亡くなりました。

アール・マックリン役
ロバート・デュパル

 アール・マックリン役:ロバート・デュパル(1931年1月5日~)は、カリフォルニア州生まれの俳優・映画プロデューサーです。彼はメリーランド州アナポリスで育ち、メリーランド州セバーンスクールとミズーリ州セントルイスのピリンキビアに通いました。その後、イリノイ州エルザのピリンキビア大学で演劇の博士号を取得して1953年に卒業しました。1953年から1954年までアメリカ陸軍に入隊し、ジョージア州のキャンプ・ゴードンに勤務して上等兵で除隊しました。1955年にニューヨーク市のネイバーフッド・プレイハウスに2年間通い、サンフォード・マイナーズに師事しました。その頃のクラスメートは、ダスティ・ホフマン、ジーン・ハックマン、ジェームズ・カーンでした。デュバルはメ演技を学びながら、イシーズの事務員やマンハッタンの郵便局で郵便物の仕分けやトラックの運転手等をしていました。

 デュバルは、1952年にニューヨークのゲートウェイ・シアターで舞台デビューしました。戦後、1955年にゲートウェイ・シアターの舞台で復帰し、オーガスタ・シビック激情、バージニア州のマクリーン劇場、ワシントンDCのアリーナ・ステージに出演しましていました。1959年からテレビに出演するようになり、1961年から「裸の町」、「ルート66」、「弁護士プレストン」、「逃亡者」、「アウター・リミッツ」、「コンバット」、「F・B・I」に3話から5話に違う役でゲスト出演しました。テレビ映画の「ゴッド・ファーザー・テレビ完全版」でトム・ヘイゲン役や「将軍アイク」でドワイト・D・アイゲンハワー役を演じました。

 1962年に『アラバマ物語』で映画デビューし、1966年『逃亡地帯』、1968年『ブリット』、1969年『勇気ある追跡』、1970年『M★A★S★H マッシュ』、1971年『THX1138』、1972年『ゴッド・ファーザー』、1973年『組織』、1974年『ゴッド・ファーザーPARTⅡ』、1974年『鷲は舞いおりた』『ネットワーク』、1975年『キラー・エリート』等に出演しました。1979年『地獄の黙示録』でキルゴア中佐を演じて、ゴールデングローブ賞助演男優賞と英国アカデミー賞助演男優賞を受賞しました。1983年『テンダー・マーシー』ではアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。1991年『ランブリング・ローズ』、1993年『ジェロニモ』、1998年『シビル・アクション』等に出演しています。

ジャック・コディ役
ジョー・ドン・ベーカー

 ジャック・コディ役はジョー・ドン・ベーカーです。彼の略歴は『突破口!』をご覧ください。

ベット・ハーロウ役:カレン・ブラック

 ベット・ハーロウ役のカレン・ブラック(1939年7月1日~2013年8月8日)は、イリノイ州パークリッジ生まれの俳優・脚本家・歌手・ソングライターです。ブラックは10代の頃から舞台俳優を目指し、メインイースト高校に通いながら夏のストックシアターで仕事を探していました。トイレ掃除から始めて16歳頃には小道具係になり、コーラスラインで歌うようになって17歳で本格的に俳優としてデビューしました。その後、インディアナ州ラファイエットのジェファーソン高校に転校し、バヂュー大学に1年間通って、ノースウエスタン大学に編入して演劇芸術を専攻しました。1960年に大学を中退してニューヨークに移転し、秘書、ホテルのフロントデスク、保険事務所等の雑用をこなして生活費を得ていました。1961年ブロードウェイの舞台で代役として出演するようになり、1965年の「プレイルーム」で正式にブロードウェイ・デビューします。1966年の「After the Fall」に出演し、エンジェル賞の最優秀助演女優賞を受賞しました。

 1960年にインディペンデント映画の『プライムタイム』に脇役でスクリーン・デビューし、1966年にフランシス・フォード・コッポラ監督の『お兄ちゃんになるまえに』に出演しました。ブラックはロスアンゼルスに移転し、1967年から「F・B・I」、「ポール・ブライアン」、「バークレー牧場」、「マニックス」、「特捜隊アダム22」等のテレビ・シリーズにゲスト出演しました。1969年『イージーライダー』、1970年『ファイブ・イージー・ピース』でゴールデングローブ賞助演女優賞とニューヨーク映画批評家協会の助演女優賞を受賞しました。1971年『生き残るやつ』、1973年『組織』、1974年『華麗なるギャツビー』で二度目のゴールデングローブ賞助演女優を受賞しました。1975年『イナゴの日』『ナッシュビル』、1975年『ファミリー・プロット』・『家』、1977年『カプリコン・1』、1978年『キラー・フィッシュ』、1981年『ココ・シャネル』、1986年『スペースインベーダー』等に出演しました。

 その後、インディペンデント映画にも出演するようになり、1998年『クレイジー・ナッツ 早く起きてよ』、2001年『ファング・オブ・モンスター』、2003年『死霊危険地帯 ゾンビハザード』『マーダー・ライド・ショー』等のホラー映画に出演しています。ブラックは2013年8月8日にロザンゼルスのウエストヒルズ病院で、膨大部癌の為74歳で亡くなりました。

アーサー・メイラー役
ロバート・ライアン

 アーサー・メイラー役のロバート・ライアン(1909年11月11日~1973年7月11日)は、シカゴ生まれの俳優・活動家です。カトリック教徒のライアンは、イエズス会の大学進学高校のロヨラ・アカデミーで学び、ダートマス大学に入学しました。大学でフットボールと陸上競技のレターマンとして活躍し、ボクシングではヘビー級のタイトルを保持しました。1932年に大学を卒業後、アフリカに行く船で働いたり、ワークス・プログレス・アドミニストレーション(WPA)の労働者やモンタナ州で牧場労働者として働いていました。1936年に父親がなくなり帰国して、デパートで服のモデルした後、俳優になる為に1937年シカゴの小さな劇団に参加しました。その後、ハリウッドのマックス・ラインハルト・ワークショップで演技を学びました。1939年の戯曲「Too Many Husbands」に出演し、パラマウント社からオファーを受けて1939年11月パラマウント社と6か月の契約をしました。1940年『ゴールデングローブ』で当初主役の予定でしたが、重要な脇役で出演して初めてクレジットされました。この映画で知り合ったエドワード・ドミトリ監督の映画にその後出演するようになります。1940年『ゴースト・ブレーカーズ』・『地獄の女』・『北西騎馬警官隊』・『続・テキサス決死隊』等に端役で出演し、パラマウント社を去りました。その後、ライアンはブロードウェイで、クリフォード・オデッツの戯曲「クラッシュ・バイ・ナイト」に1941年から1942年までの49回公演に出演しました。ライアンはRKO社と契約し、1943年『ボンバー・ライダー/世紀のトップ・ガン)』『青空に踊る)』『夫は還らず』等に出演しました。
 ライアンはアメリカ海兵隊に入隊し、1944年1月から1945年11月まで南カリフォルニアのキャンプ・ベンドルトンで訓練教官をしました。海兵隊を除隊後、ライアンはRKOに戻って1947年の『拳銃街道』に出演しました。同年の『浜辺の女』は興行的に失敗しましたが、人種差別を扱ったドミトリク監督の『十字砲火』は大成功を収めてライアンの演技も認められます。1948年『ベルリン特急』、1949年『暴力行為』と出演し、『罠』ではボクシングの八百長試合に逆らうボクサーを演じました。1950年『生まれながらの悪女』、1951年『荒野の三悪人』『太平洋航空作戦 』『危険な場所で』等に出演しました。1952年に戯曲「クラッシュ・バイ・ナイト」を映画化した『熱い夜の疼き』、1953年『海底の大金塊』に出演し、『裸の拍車』では悪役を演じました。1955年『東京暗黒街・竹の家』、1956年『誇り高き男』の保安官役では見事なファスト・ドローを披露し、アンソニー・マン監督の傑作戦争映画1957年の『最前線』では主役の疲弊した中尉を好演しています。1959年にロバート・ワイズ監督の『拳銃の報酬』で、人種差別をする男を演じています。1961年『キング・オブ・キングス』、1962年『史上最大の作戦』、1965年『バジル大作戦』と大作に出演し、1966年『プロフェッショナル』、1967年『特攻大作戦』『墓石と決闘』、1968年『アンツィオ大作戦』等に出演しました、1963年『ワイルドバンチ』・『ネモ船長と海底都市』、1972年『狼は天使の匂い』、1972年『ダラスの熱い日』『組織』等に出演しました。ヘビースモーカーのライアンは、1970年リンパ腺の手術不能な癌に罹っていました。1973年7月11日にニューヨーク市で肺癌の為63歳で亡くなりました。

バックの妻役:シェリー・ノース

 バックの妻役はシェリー・ノースです。彼女の略歴は『突破口!』をご覧ください。

次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.66 『突破口!』の最終章

『突破口!』のトップはこちら

エベレットを殴るモリー

 モリ―は偽造屋のエベレットの所に行き、チャーリーがパスポートを受け取りに来るのを待ちます。(ここでモリ―がエベレットに裏手でビンタをしてお楽しみに入りますが、女性を殴るシーンは1940年代・1950年代の映画でよく見られました。恐らく当時の映画に対する、シーゲル監督のオマージュかと思います。)

チャーリーに警告する保安官(左)
チャーリーは留守だと保安官に言いに来たターフ夫人(右)

 画面が変わって翌日の朝、お馴染みのターフ夫人が玄関前の牛乳を取に出てハウスの方を見ます。多くの警官が銃を持って、チャ-リーのトレーラーハウスを囲んでいます。保安官が、拡声器でチャーリーに出てくるように警告しています。ターフ夫人はロッキングチェアーに座って眺めています。保安官がドアに体当たりをして中に入ると、室内は無人でした。そこにターフ夫人が現れて、呆れ顔で“誰もいないよ”と言います。

ダイナマイトを購入するチャーリー(左)
銀行の本店に電話をするチャーリー(右)

 チャーリーがダイナマイトや時限装置を購入しています。支払いが終わってから店主は何に使うのかと聞くと、チャーリーは“さあね”と言います。(このシーンの店主の表情が絶妙で、良い演技ですね。)チャ-リーは自社の飛行場からウエスタン信託祇行本店に電話をして、頭取のボイルと話したいと言います。秘書のフォートが、ボイルが不在だと伝えて用件を伺いますと言います。チャーリーは直接話すと言ってから、秘書の名前を聞いて電話を切ります。チャーリーはスーツの上からオーバーオールを着て、外に待機させていた複葉機に乗ってリノへ飛び立ちます。

少年から薔薇を買うチャーリー(左)   ボイルに電話をするフォート(右)

 リノのウエスタン信託銀行の本店があるビルの近くでチャーリーは車の中からビルを見上げ、路上で花を売っている少年から手持ちの薔薇を全て買います。夜になってチャーリーはそのビルの近くで、秘書のフォートが出て来るのを車の中で待ちます。やがてフォートがビルの玄関に着いた時、ドアマンが頼まれ物のバラを渡します。誰から贈られたか分からないバラを受け取った彼女は車で帰宅します。チャーリーはその後を尾行します。フォートが帰宅して間もなく来客があり、誰か尋ねるとお届け物と言われて不審に思いながらドアを開けます。ドアを開けるとチャーリーが部屋の中に入り込んで、ボイルに会いたいと言って彼女に電話をさせます。

ボイルに取引の話をするチャーリー(左)
金の受け渡し条件を聞くボイル(右)

 モリ―とビリヤードをやっていたボイルが電話に出て、チャーリーが金を返すと告げます。ボイルはなぜ金を返すのか聞くと、チャーリーはゴリラ男に命を狙われているからと言います。ボイルはニヤッと笑って受け渡しの場所と時間を聞きます。チャーリーは一人で来るように言い、落ち合う場所と時間をボイルに伝えます。半径500ヤード以内に人がいたら取引は中止だと言って電話を切ります。(電話を切った後のボイル役のジョン・ヴァーノンの表情が素晴らしいですね。)

モリ―が受け渡し場所に行くと言うと拒否するボイル(左)
お楽しみ後のチャーリーとフォート(右)

 電話は終わったボイルにモリ―が“バリックか?”と聞くと、ボイルは“お前は来るんじゃない”と言います。モリ―が“何故?”と聞くと、ボイルは“500ヤード以内に誰かいると取引は終わりになる”と言います。モリ―は“501ヤードの所に”と言いかけると、ボイルは“駄目だ”と言います。(このシーンのモリ―は、ボイルへの疑惑を深めた表情をしています。)電話を終えたチャーリーにフォートは、止めた方が良いと言って、“彼は信用出来ない”と言います。チャーリーはそんな事を気にしないで、目の前の円形ベッドを指差してこんなベッドは初めてだと言います。お楽しみが終わって、ベッドに並んで横になっています。フォートが死なないでと言うと、チャーリーは死なないように努力すると言います。彼女は“あなたが南南西を向いて寝れば寝る”と言うと、チャーリーは“南南西か”と言いながら彼女の上に乗っかります。(最近の映画のようなお楽しみのシーンは御座いません。)

上空から地上を確認をするチャーリー(左)
ボイルと仲間の様な芝居をするチャーリー(右)

 翌朝、チャーリーは複葉機で指定した場所に向かいます。ボイルが車で現れ、広い敷地の廃車置き場から離れた場所に車を止めます。車から降りた彼は、上空を見回します。モリ―は廃車に紛れて車を停めて、車内に潜んでいます。やがて遠くから飛行音が聞こえ、チャーリーは上空を旋回しながらボイルに連れがいないか確認します。やがてボイルの車が停めてある方に飛行機を着陸させてボイルの方に駆け寄り、“上手くいったな”と言いながらボイルに抱き付きます。ボイルは“何の真似だ“と言いますが。チャーリーはお互いが仲間のように振舞います。

二人の様子を見て激怒するモリ―(左)
飛行機の離陸を車で阻止するモリ―(右)

 遠くからそれを見ていたモリ―は、車を急発進して二人の元に飛び出します。モリ―の車が向かってくるのを見て、チャーリーは”騙したな“と言ってボイルを突き放し、飛行機に向かって走ります。モリ―は笑顔でボイルを跳ね飛ばし、チャ-リーが乗る飛行を追いかけます。ここでチャーリーは離陸出来ないかのような振りをして、地上を走り回ってモリ―の車との追っ掛けっこを行います。

ひっくり返った飛行機の操縦席で逆さまになったチャーリー(左)
ポケットから車のキーを取るモリー(右)

 チャーリーの操縦する飛行機が止まった時にひっくり返り、チャーリーは操縦席で逆さまになってぶら下がっています。それを見たモリ―は笑いながらチャーリーに近づいて”しぶとい男だ“と言います、チャーリーはモリ―に金を渡すから助けてくれと言うと、モリ―は金が先だと言います。チャーリーはポケットの車のキーを取るように言い、金は青いシボレーのトランクにあると言います。

ダイナマイトの爆発で爆死するモリ―(左)
紙幣をトランクに投げ込むチャーリー(右)

 早速モリ―が車のトランクを開けると、中には奇妙な部品とサリバンの死体が入っていました。途端に爆発が起こり、モリ―は吹き飛ばされて爆死します。チャーリーは操縦席から這い出し、黒いごみ袋を取り出して用意していたツートーン・カラーのセダンのトランクを開けます。一つのゴミ袋を開けて紙幣を取り出し、燃えているシボレーのトランクに紙幣を投げ込みます。周辺にも紙幣は散らばり、オーバーオールを脱いでトランクに投げ入れます。セダンに乗ってエンジンを掛けますが直ぐにはエンジンが掛からず、やっとエンジンが掛かってその場から去ります。

廃車置き場から走り去るチャーリーが運転する車(左)
燃えるオーバーオール(右)

 カメラはやや俯瞰で廃車置き場から去るチャーリーの車を映し、視点を変えて燃えている車のトランクの方に向かいます。燃えるオーバーオールが映し出され、オープニング・タイトルと同じ映像になり映画は終わります。(全てチャーリーが予想した通りに事が運びました。歯医者でサリバンのカルテは抜き取り、彼の歯のレントゲン写真はチャーリーのカルテに入っています。これでサリバンの死体はチャーリーとなり、これから彼は別人となって悠々自適の生活ですね。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『突破口!』 作品データ

1973年製作 111分 アメリカ
原題:CHARLEY VARRICK

監督:ドン・シーゲル

製作:ドン・シーゲル

製作総指揮:ジェニングス・ラング

原作:ジョン・リーズ

脚本:ハワード・ロッドマン、ディーン・リーズナー

編集:フランク・モリス

音楽:ラロ・シフリン

ウォルター・マッソー:チャーリー・ヴァリック

ジョー・ドン・ベイカー:モリ―(殺し屋)

アンドリュー・ロビンソン:ハーマン・サリバン(相棒)

ジャクリーン・スコット:ネイディーン・ヴァリック(妻)

フェリシア・ファー:シビル・フォート(秘書)

シェリー・ノース:ジュエル・エベレット(偽造屋)

ジョン・ヴァーノン:メイナード・ボイル(マフィアのボス)

マージョ・ベネット:(隣人のターフ夫人)

Vol.65 『突破口!』の続きの続き

宿泊先に着いたモリ―を出迎えるビキニ姿の若い子(左)
モリ―に挨拶をするビバリー(右)

 モリ―は昼夜を掛けて車を走らせ、宿泊先の24時間営業の放牧場に着きます。そこは周囲が金網で囲われていて、その中に建物があります。モリ―が金網の扉の横のボタンを押すと、建物の中からビキニ姿の若い子が出て来て扉の開錠をして中に案内します。部屋に入るとビキニ姿の若い子達が待機していて、モリ―を出迎えます。ここの本業は売春宿で女の子がいつもの客のように話すと、モリ―はバカと話に来たんじゃないと言います。ここを仕切っているビバリーが現れ、モリ―に挨拶をしてなんでも云いつけるように言います。モリ―が“ベッド”と言うと、ビバリーは特別室に案内します。モリ―は翌朝の朝食を注文すると、ビバリーが“お楽しみの方は?”と聞きますが、モリ―は“金で寝る女は好きじゃない”と断ります。

ターフ夫人から渡された新聞を見るサリバン(左)
サリバンに外には出ないように指示するチャーリー(右)

 画面が変わってトレーラーハウス、ターフ夫人が登場して石を拾ってドラム缶に投げ入れます。トレーラーハウスの中では、サリバンが奪った金が無くなっている事に気が付き、チャーリーと叫びながら外に飛び出します。外ではターフ夫人が、銀行強盗の記事が書かれた朝刊を郵便受けから勝手に取り出して読んでいます。サリバンは走りながらターフ夫人に、チャーリーを見なかったか聞きます。ターフ夫人は銀行強盗の記事が出ていると言いながらサリバンに新聞を渡し、チャーリーは奥さんを探しに行くと言って早朝出て行ったと言います。サリバンがハウスに戻ると電話機が鳴っていました。チャーリーからの電話で部品の買い出しで町に来ていると言うと、サリバンは金の隠し場所を聞きます。チャーリーは安全な場所に隠したと言い、やる事が沢山あるから外に出ないように伝えて、夜には帰ると言って電話を切ります。

トムにパスポートの偽造屋を紹介して貰うチャーリー(左)
ジョンからの情報を聞くモリ―(右)

 チャーリーは銃砲店に入り、車椅子の店主のトムにアルの紹介で来たことを告げます。トムはアルの風貌を訪ね、アルの友人か確かめます。チャーリーは偽造パスポート屋の紹介を依頼すると、500ドルと言うので高いと言ったら600ドルに値上げされます。(1973年の1ドルは、250円くらいです。)600ドル払って偽造パスポート屋の名刺を貰い、トムに大金を隠す場所を聞きますが、連絡先を聞かれたので又来ると言って店を出ます。モリ―が寝ている部屋にビバリーが電話機を持って入ってきます。ジョンからの電話で、トム銃砲店に行くように指示があります。

支店長のヤングと話をしたいと言うボイル(左)
ボイルに支店長には今会えないと伝える州検事(右)

 画面が変わって、ウエスタン信託銀行のニューメキシコ支店に頭取のメイナード・ボイルが現れます。中に入ろうとすると止められたので、支店長のハロルド・ヤングに会いたいと言います。会うには検事の許可が必要だと言って、男は中に入ります。その時ブランコに乗っている女の子がボイルに声を掛け、押してくれるように頼みます。ボイルが女の子の背中を押していると検事が出て来て、何の用か尋ねるので支店長に会いたいと言います。ボイルが話しながら女の子の背中を押しているので、検事が寄って来て今は会えないと言います。ボイルが支店長逮捕したのかと聞くと、検事は逮捕していないが全員が容疑者だと言い、ボイルの滞在先を訪ねて連絡するように伝えると言って銀行に戻ります。(この何気ないブランコのシーンは、シ-ゲル監督らしい演出ですね。)

偽装屋のエベレットにパスポートの偽造を依頼するチャーリー(左)
追加料金を払うチャーリー(右)

 チャーリーは偽造屋のジュエル・エベレットのスタジオに行きます。車いすのトムの紹介だと言って、トムの名刺を渡します。彼女に偽造パスポートを2通造るように依頼すると、2通で500ドルと言われます。彼女はチャーリーの写真を撮り、お金を受け取ります。サリバンの顔写真は彼の免許証からコピーするように言うと、彼女が完成は2日後と言うので明日の6時までにチャーリーは言います。特急料金で更に500ドルを請求するので、お金を渡して夜中の12時に受け取ると言います。帰りがけにプラスチック容器に入ったキャンディを1本取って“貰うよ”と言ったら、彼女は“500ドルよ”と言うのでチャーリーはキャンディを諦めて帰ります。

トムの店に現れたモリー(左)    チャーリーに突き飛ばされたトム(右)

 画面がかわって、モリ―がトムの銃砲店に表れます。トムにモリ―だと名乗ると、とっておきの情報があるが金を出せと言います。モリ―は心がけ次第で金は稼げると言うと、トムが安売りはしないと言ってウィスキーを飲みます。モリ―はニッコリ笑って、車椅子のトムをカウンター越しに強く押します。トムは後ろにあった棚にぶつかり、車椅子ごとひっくり返ります。モリ―は話を聞かせて貰おうかと言います。(その後の無用な暴力シーンは省略されていますが、相手が身体障者でもモリ―は容赦ない暴行を加える事は充分に想像できます。)

ヤングにマフィアの金を渡した訳を聞くボイル(左)
ボイルの話に怯えるヤング(右)

 ボイルと支店長のヤングが、郊外の牧場で話をします。ボイルは組織から疑われていると言い、何故ヤングの支店を選んだのか聞かれると答えようがなかったと言います。マフィアの隠し金の事は、俺とお前しか知らない。その金が金庫に入った直後に奪われたのは、内部の犯行だと思われているとボイルが言います。ヤングはボイルに偶然だと言いますが、マフィアは偶然を信じないとボイルが言い、どうしてマフィアの金を渡したんだと問い詰めます。ボイルはヤングに身を隠すように言い、見つかったら拷問されて殺されると言います。ボイルは、すっかりおびえ切ったヤングを連れ帰ります。

パイプでノックするモリ―(左)
痛めつけたサリバンに金とチャーリーの居場所を執拗に聞くモリ―(右)

 モリ―が偽造屋エベレットのスタジオに現れ、チャーリーの名刺を手に入れてトレーラーハウスに向かいます。モリ―は郵便受けのハウスの番号を見て、車で近付き“チャーリー・ヴァリック”と二度大声で叫ぶと、隣人のターフ夫人が戸を少し開けて留守だと言います。モリ―が仕事の話で来たと言うと、ターフ夫人は隣のサリバンに話すように言います。モリ―は車から降りて、サリバンのハウスのドアをパイプでノックした序に吸殻を出しています。サリバンが留守だと言うと、モリ―は空中散布を頼みたいと言い、明日は来られないから名刺を渡すと言います。サリバンはドアを少し開けますが、モリ―は暗くて名刺を探せないと言ってドアを開けさせます。部屋の中に入ったモリ―は、名前を確認すると、いきなり顔を殴って膝蹴りをし、強烈な一撃を腹に加えて投げ飛ばします。床に倒れたサリバンを起こして椅子に座らせて、もう一度腹を殴ってから“金は何処だ”と聞きます。肋骨が折れたサリバンが白状しないので、モリ―は質問を変えてチャーリーの居場所を聞きます。サリバンは知らないと言うと、モリ―が置いてきぼりにされたのかと聞きます。事情を知らないサリバンは置いてきぼりにされたと言うと、モリ―はどうして免許証を渡してパスポートを造ったか聞きます。サリバンは免許証を持っていると言ってモリ―に見せようとしますが、免許証はありません。モリ―はサリバンを投げ倒して“金はどこだ”と聞きますが、本当に知らないサリバンは知らないと答えてチャーリーが金を返すと言っていた事を伝えます。モリ―が何故金を返すのかと聞くと、サリバンがマフィアの鐘だからと答えます。モリ―は裏で糸を引いているのは誰だ、ヤングかボイルかと聞きますは、サリバンは知らないと答えると、モリ―はため息をついて、あんたじゃ話にならないと言ってこのシーンは終わります。(このシーンでのモリ―の堂々としたプロの仕事ぶりと、痛めつけられていくサリバンとの対比で、モリ―の恐ろしさがよくわかります。)

元気が無いヤングに声を掛ける保安官(左)  ピストル自殺したヤング(右)

 画面が変わって銀行で、保安官が支店長に元気がないなと声を掛けます。支店長が大丈夫だろ言って、部屋から出て行く保安官にドアを閉めるように言います。検事と保安官が銀行に待機していた二人の強盗の事を話している時に、支店長室から銃声がして支店長が自殺をしていました。警官たちは放置されていた車両を調べ、発見されたマッチを手掛かりに捜査を開始します。

モリ―に殴り殺されたサリバン(左)
”用心しないからだ”と言うチャーリー(右)

 トレーラーハウスから出てきたモリ―は、車でその場を去ります。近くの茂みに隠れていたチャーリーが現れ、ハウスの中に入ります。そこには惨殺されたサリバンの遺体がありました。チャーリーは死んだサリバンに”用心しないからだ“と言います。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『突破口!』 作品データ

1973年製作 111分 アメリカ
原題:CHARLEY VARRICK

監督:ドン・シーゲル

製作:ドン・シーゲル

製作総指揮:ジェニングス・ラング

原作:ジョン・リーズ

脚本:ハワード・ロッドマン、ディーン・リーズナー

編集:フランク・モリス

音楽:ラロ・シフリン

ウォルター・マッソー:チャーリー・ヴァリック

ジョー・ドン・ベイカー:モリ―(殺し屋)

アンドリュー・ロビンソン:ハーマン・サリバン(相棒)

ジャクリーン・スコット:ネイディーン・ヴァリック(妻)

フェリシア・ファー:シビル・フォート(秘書)

シェリー・ノース:ジュエル・エベレット(偽造屋)

ジョン・ヴァーノン:メイナード・ボイル(マフィアのボス)

マージョ・ベネット:(隣人のターフ夫人)

Vol.64 『突破口!』の続き

オープニングの夜の山並み(左)   “CHARLEY VARRICK”のタイトル(右)

 オープニングで月が映し出され、カメラが引いて遠くに山並みが見える夜のシーンに主演のウォルター・マッソーの名前が出ます。次に“CHARLEY VARRICK”と書かれた衣服のようなものが燃えているシーンが映画のタイトルとなります。画面は遠くに山並みが見える田園風景の朝です。牧場が映し出され、のんびりとした日常生活を描いています。そして、そこの町の人々の暮らしぶりが分かるような何気ないシーンに続きます。(この間クレジットが画面の片隅に表示されますが、出演者の最後に“ドナルド・シーゲル”と書かれています。)

ウエスタン信託銀行の看板(左)     銀行前に停まったリンカーン(右)

 画面が変わってニューメキシコ州のウエスタン信託銀行の看板が映し出されます。カメラは壁伝いに上に上がり、旗の間から遠くに車が見えた処からカメラが下がります。銀行の前に黄色のリンカーンが停車します。(1970年代のアメ車は大きいです)

変装したチャーリーと妻のネイディーン(左)  二人に声を掛ける警官(右)

 助手席には老人に変装したチャーリー、運転席には妻のネイディーンがいます。銀行前に停車している車を見て、パトカーカーが来ます。警官が銀行前に停車しないように注意しますが、チャーリーが包帯を巻いた左足を見せて、小切手の換金だけだから直ぐ終わると言います。ネイディーンが、夫は私を信用していないので換金させてくれないと言い、二人が言い争います。それを見ていた警官は、早く車を出すよう言って去ります。

本部に車のナンバーを照会する警官(左)
支店長に小切手を見せるチャーリー(右)

 チャーリーが銀行に入って行った後に、画面はパトカーの車内に変わります。警官はナンバープレートから盗難車ではないかと思い、本部に連絡をしてナンバーの照会を依頼します。銀行ではチャーリーが出した小切手が他行のものなので、支店長が出てきます。

マスクを付けたアルとサリバンが登場(左)
支店長に銃を突き付けるh-万(右)

 ここからのんびりムードは終わり、緊迫して画面になります。マスクを付けた二人の男が銃を持って現れ、チャーリーも銃を構えて銀行強盗に早変わりします。相棒のサリバンがカウンターの中に入って現金を漁ります。(サリバンは白い布で自分が触った所の指紋を拭き取ります。この描写で彼等はプロである事が分かります・)チャーリーは支店長に金庫を開けるように言いますが、困惑して直ぐに金庫を開けませんでした。チャーリーが支店長の足を蹴り、サリバンが後ろから拳銃を頭に押し付けると金庫を開けます。その頃、パトカーに本部から連絡があり、照会した車が盗難車だと分かります。(このシーンで二人の警官のホルスターを映し、ホルスター内に銃を固定するストラップを外す処はリアリティがあり緊張感が出ています。)

支店長に銃を突き付けて別の金庫を開けるように言うチャーリー(左)
別の金庫から出された革のバッグ(右)

 銀行では奪った金が少ないとサリバンが言うと、チャーリーは支店長にもっと金を出すように言います。支店長は冷や汗を流しながらもう無いと言いますが、チャーリーに銃を突き付けられて渋々別の金庫を開けます。支店長が中から革のカバンを出したので、中身を問いただすと譲渡不能の証券だと言います。

バッグの中の免許証を探すふりをするネイディーン(左)
バッグの中から銃を撃つネイディーン(右)

 その頃、パトカーが銀行に戻ってきて、一人の警官がネイディーンに免許証を見せるように言います。ネイディーンはバックの中を探すようにしながら、バックの底を警官の方に向けてバックの中から銃を発砲して警官を射殺します。続けて車の後ろ側にいた警官も撃ちますが、その警官は倒れながら銃を発砲します。その弾はドアに当たります。

パトカーに衝突後ボンネットが開いたリンカーン(左)
建物に衝突して停まった保安官のパトカー(右)

 銀行では警備員の傍で銃を向けていた仲間のアルが、外の銃声を聞いて横を向いた隙に警備員がアルのもう一丁の銃を奪ってアルを射殺します。チャーリーとサリバンは、警備員を射殺して逃げ出します。ネイディーンは二人が乗ったと同時に車を発進しますが、前に止まっているパトカーを引掛けてしまい、ボンネットが開いた状態で走ります。駆け付けたもう一台のパトカーとは、側面を接触しながら走り去ります。パトカーは建物の一部を壊して、駐車していた車にぶつかって止まります。パトカーに乗っていた保安官は、本部に銀行強盗があった事を伝え、非常線を張るように指示します。

警官の生存を確認した保安官(左)
保安官にリンカーンのナンバーを知らせる少年(右)

 保安官は銃撃現場で一人の警官の生存を確認し、銀行に入ろうとした時に少年がリンカーンのナンバーを知らせに来ます。(この少年役を演じたのは、チャールズ・マッソーでウォルター・マッソーの息子さんです。)逃走中のリンカーンは多少の蛇行をしながら走りますが、スピードを落として道路脇に止まります。そこでチャーリーはネイディーンが銃で撃たれた事を知ります。銀行では保安官と支店長が事件の報告先の話をしていて、支店長は銀行員のベスタに地方検事に連絡するように言い、小声でリノのメイナード・ボイルにも連絡するように言います。

奪った金を容器に入れる二人(左)   点火装置を設置するチャーリー(右)

 妻のネウディーンを助手席に座らせ、チャーリーは変装を取りながら運転して山中に向かいます。山中の車を乗り換える場所に車を止め、仕事用のバンに用意してある2本の円柱形の容器に奪った金を入れ、その上からカモフラージュする詰め物をして蓋をします。サリバンはリンカーンの周りに火薬を撒き、チャーリーは妻の介抱をしますがネイディーンは亡くなります。妻の指から指輪を外し、リンカーンの周りに火薬を撒いて、妻の身体にも火薬を掛けます。ガソリンキャップを開けて布を垂らし、その布に点火装置を仕掛けてその場を去ります。

積み荷を確認する警官(左)     山で突然爆発が起こります(右)

 山を下りて幹線道路を走りながら、サリバンがチャーリーの以前の仕事の事を尋ねます。チャーリーは曲芸飛行をやっていたが、死にそうになって飛行機での農薬散布の仕事していた。しかし、コンバインが出回って仕事が減ったので、銀行強盗を始めたと話します。その時、対向車線をパトカーが走って来ます。すれ違ったパトカーはUターンして、チャーリーに停車するように指示します。サリバンは拳銃を出して警官を撃とうとしますが、チャーリーは拳銃をしまうように言います。警官は営業許可証を見てから荷物の確認をします。サリバンは銃を取り出して、助手席で銃を構えます。チャーリーが容器の中身の説明をしている時に、遠くの山の方で爆発があり、警官は爆発現場に向かってパトカーを走らせます。(劇中マッソーが何度もガムを書くシーンが出てきますが、ヘビースモーカーだった彼が禁煙したアピールなのかと思ったりしました。)警官が去った後、チャーリーは橋の上から犯行に使った銃を川に捨てます。サリバンにも銃を捨てるように言い、サリバンは渋々銃を捨てます。仲間のアルの銃も捨てて、自宅に向かいます。

モリ―夫人と話すチャーリー(左)     奪った金の多さに驚く二人(右)

 トレーラーハウスの自宅に着き、トレーラーハウスを叩きながらネイディーンに声を掛け、隣人のタフ・モリ―夫人の所に行って妻を見なかったか尋ねます。モリ―夫人は見なかったけど、逃げられたのかと良います。この辺は女たらしがいるから、気を付けないと言い、私も言い寄られていると言い出します。チャーリーは適当に返事をして、トレーラーハウスに向かいます。(モリ―夫人が登場するシーンでは平凡な日常に戻るので、それが映画にリアリティを与えているように思います。)サリバンがトレーラーハウスに運び込んだ容器を開けて、予想以上の大金が入っていました。サリバンは大喜びですが、チャーリーは額が多すぎるので疑惑を抱きます。あの地方銀行なら3万ドル位だが、ざっと見積もっても50万ドル以上あります。その時ラジオの速報があり、被害額は2000ドル弱だと時放送されます。これを聞いてチャーリーはマフィアの隠し金だと確信し、身を隠して3~4年金に手を付けないようにすると、サリバンに説明しますが彼は事の重大さを理解しません。

モリ―に無線で仕事を依頼するボイル(左)
ジョンに賭けの負け金を払うラフティ役のシーゲル監督(右)

 画面が変わってボイルのオフィス、ボイルは秘書のフォートに配達人を手配するように指示します。ボイルは無人の会議室に入り鍵をかけ、無線機を撮り出して殺し屋のモリ―に仕事の依頼をします。ウエスタン信託銀行トレス・クルーセス支店で75万ドル盗まれたので、金の回収と後始末をするように指示します。モリ―は配達人のジョンのオフィスに向かいます。ジョンのオフィスは中華店料理のレストランの地下にあり、遊戯室になっていてジョンと卓球をやっているマーフィ役がシーゲル監督です。賭けに負けてお金を払って出て行きます。

モリ―を説得していごとを依頼するジョン(左)
男を殴り倒して車を回収するモリ―(右)

 ジョンはモリ―と奥のオフィスに入り、前払い金を渡し現在情報が無いと言うと、ジョンは仕事を断ります。ジョンは組織の内部情報を手に入れると言って、モリ―を説得します。ジョンはニューメキシコのホテルを手配し、車は訳有りの男から回収して使うように依頼します。モリ―は勝手に車を奪った男を殴り倒し、車を回収してニューメキシコに向かいます。(カメラが横にパンして、窓から父親が殴り倒されたのを見ていた不安げな子供が映されます。何気ないこんなシーンが挿入されるが、シーゲル監督の魅力ですね。)

飛行機で逃走す事を提案するサリバンと一応承諾するチャーリー

 画面が変わって月が映し出され、サリバンが酒を飲んでいます。チャーリーに呼ばれてトレーラーハウスに入ります。サリバンは奪った金の置き場所を聞き、金額を聞きます。チャーリーは76万5180ドルだと答えて、サリバンは3分の1で自分は3分の2を貰うと言います。サリバンは納得し、二人でテレビ・ニュースを観ます。妻を乗せた車を燃やした事で山火事になった報道があり、発見された車は銀行強盗の逃走車と認定し、手掛かりは遺体の歯形だけなので州内の歯医者を調べていると保安官が言います。サリバンは道路封鎖されても飛行機で逃げればいいとチャーリーに言います。飛行場も見張られているから無理だとチャーリーが言うと、サリバンは着陸出来る所なら何処でも良いだろうと言います。(このシーンのアンディ・ロビンソンの表情は、金に目が眩んだ若者の演技で本領発揮です。)

妻のカルテを抜き取るチャーリー

 チャーリーは一応承諾したような返答をし、ネイディーンのカルテを処分する為に歯医者に行きます。歯医者に侵入したチャーリーはネイディーンのカルテを抜き取り、サリバンのレントゲン写真を抜き取って自分のレントゲン写真と入れ替えて、自分のレントゲン写真を持ち帰ります。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『突破口!』 作品データ

1973年製作 111分 アメリカ
原題:CHARLEY VARRICK

監督:ドン・シーゲル

製作:ドン・シーゲル

製作総指揮:ジェニングス・ラング

原作:ジョン・リーズ

脚本:ハワード・ロッドマン、ディーン・リーズナー

編集:フランク・モリス

音楽:ラロ・シフリン

ウォルター・マッソー:チャーリー・ヴァリック

ジョー・ドン・ベイカー:モリ―(殺し屋)

アンディ・ロビンソン:ハーマン・サリバン(相棒)

ジャクリーン・スコット:ネイディーン・ヴァリック(妻)

フェリシア・ファー:シビル・フォート(秘書)

シェリー・ノース:ジュエル・エベレット(偽造屋)

ジョン・ヴァーノン:メイナード・ボイル(マフィアのボス)

マージョ・ベネット:(隣人のお婆さんのターフ夫人)

ドナルド・シーゲル:マーフィ

Vol.63 『突破口!』

 今回ご紹介するのは、ドン・シーゲル監督が設立したプロダクションの第1作『突破口!』です。長年B級映画を撮り続けてきた監督が、自分が撮りたかった念願の映画です。短期間に低予算で映画を撮ってきた監督の演出は、無駄が無くテンポが良くて好きな監督さんです。出演する役者さんも厳選されていますし、スタッフもお馴染みのシーゲル組の面々です。

発売元:キングレコード株式会社

【スタッフとキャストの紹介】

ドン・シーゲル監督

監督:ドン・シーゲル(1912年10月26日~1991年4が20日)は、アメリカのシカゴ出身の映画監督です。父親がマンドリン奏者で、巡業のため一家はアメリカ各地を転々とします。彼が高校卒業後に一家はイギリスに渡り、ケンブリッジ大学や英国王立演劇アカデミーで学びます。その後一家はフランスに渡りますが、1931年に帰国します。1934年に叔父さんが働いていたワーナー・ブラザーズに入社し、編集助手や助監督をしてキャリアを積んで行きます。しかし、1944年に会社と契約で意見衝突し、数か月間失職状態になります。ハワード・ホークス監督の助監督を務め、1945年に短編映画『Star In The  night』で監督デビューします。その後に撮ったドキュメンタリー映画『Hitler Lives?』の2本はアカデミー賞を受賞します。1946年に『ビッグ・ボウの殺人』で長編映画デビューし、1949年に『暗闇の秘密』の監督をします。しかし、映画業界がTVの進出により斜陽化が始まり、ワーナー・ブラザーズは多くのスタッフを解雇しました。シーゲル監督は9ヶ月の失業生活を送りますが、ロバート・ロッセン監督の『オール・ザ・キングスマン』で第2班監督として仕事をします。(この仕事は、ノン・クレジットです。)その後、ハワード・ヒューズがRKOに招き入れます。(それにしてもハワード・ヒューズは、多くの人達の手助けをしていますね。苦境にあったタッカーにも素晴らしい情報を提供しています。)それからのシーゲル監督は様々な映画会社の仕事をこなし、低予算早撮りで製作するB級映画を数多く監督しました。1964年の『第十一号監房の暴動』を撮った時に、サム・ペキンパーが助監督として付きます。その後も『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』や『暴力の季節』で、サム・ペキンパーは助監督を務めます。シーゲル監督は生活費を稼ぐ為に、1950年代から1960年代までテレビ映画も数多く演出しています。その中で1964年の『殺人者たち』は、内容が暴力的と云う事で劇場公開されました。1968年の『マンハッタン無宿』の監督決定が難航した時、クリント・イーストウッドがドン・シーゲルを指名しました。監督候補だったマーク・ライデルもシーゲルを絶賛した事もあり、ドン・シーゲルが監督になります。この映画の撮影を通じて二人は親交を深め、イ-ストウッドはシーゲル監督から本格的に監督業を学び始めます。二人は1970年『真昼の死闘』、続けて1971年にサスペンス映画『白い肌の異常な恐怖』を撮ります。残念ながらこの映画は興行的に失敗しますが、監督は自分の最高傑作と当時仰っていました。そして1971年に『ダーティハリー』を発表し、世界的な大ヒットとなります。その後自身のプロダクションを設立して1973年に『突破口!』を発表し、1974年『ドラブル』、1976年『ラスト・シューティスト』、1977年『テレフォン』、1979年『アルカドラスからの脱出』と続きます。主な作品は、1952年『抜き打ち二挺拳銃』、1956年『ボディ・スナッチャ-/恐怖の街』、1960年『燃える平原児』、1961年『突撃隊』、1967年『太陽の流れ者』、1968年『刑事マディガン』等です。1982年の『ジンクス!あいつのツキをぶっとばせ!』が遺作になりました。

ハワード・ロッドマン

脚本:ハワード・ロッドマン(1920年2月18日~1985年12月5日)はブルックリン出身の脚本家・作家で、息子のハワード・A・ロッドマンも脚本家・作家です。ロッドマンは1950年代から数多くのTV映画シリーズの脚本を書き、特に有名なのは「600万ドルの男(The Six Million Dollar Man)」です。ロッドマンはパイロット版の「サイボーグ大作戦(邦題)」脚本を書き、主人公のスティーブ・オースティンのキャラクターを創造しました。しかし、最終的に出来上がった作品に不満があり、クレジットは別名のアンリ・シモンとなっています。その他のTV映画の1958年「プレイハウス」・「裸の町」、1960年「ルート66」等の脚本を書き、1964年「ペイトンプレイス物語」ではアソシエイト・プロデューサーを務めています。1960年代からは1966年『0011ナポレオン・ソロ 消えた相棒』、1967年『刑事マディガン』、1968年『マンハッタン無宿』、1969年『レーサー』等の映画の脚本も執筆しています。1973年の『突破口!』では脚本の第1稿を執筆しますが、会社が採用せずディーン・リーズナーの第2項で撮影されました。

ディーン・リーズナー

脚本:ディーン・リーズナー(1918年11月3 日~2002年08月18日)は、ニューヨーク市生まれのアメリカ合州国の映画・TV映画の脚本家です。父親のチャールズ・ライナーが映画監督だったので、ディーン・リーズナーはディンキー・ディーンの芸名で、1923年にチャールズ・チャップリンの『偽牧師』にも出演しています。しかし、母親が映画出演に反対した為、子役は長く続きませんでした。リスナーは1947年に『ビルの冒険物語(BILL AND COO)』の脚本と監督を担当しました。この短編映画は、鳥と小動物が人間のように洋服を着て物語を展開する実写映画です。彼はこの作品でアカデミー特別賞を受賞しています。(是非観てみたい作品ですが、残念ながら現在は観ることが出来ません。)1950年代から1960年代にかけてTV映画シリーズの脚本を担当し、1955年の「シャイアン」を始め、「ローハイド」、「ドビーの青春」、「ベンケー・シー」等の脚本を執筆しています。1957年の『烙印の裁き』(「シャイアン」の劇場版)、1958年の『パリの休日』等の映画の脚本を執筆します。1968年の『マンハッタン無宿』からドン・シーゲル監督の作品の脚本を担当し、1971年『ダーティハリー』『恐怖のメロディ』、1973年『突破口!』『ダーティハリー3』と執筆しました。その他、1983年『ブルーサンダー』、1987年『危険な天使』の脚本を執筆しています。

ラロ・シフリン

音楽:ラロ・シフリン(1932年6月21日生まれ)は、アルゼンチン出身の作曲家、編曲家、ジャズ・ピアニスト、指揮者です。父親がヴァイオリン奏者だった事から、6歳からピアノを習い始め二人の師から個人レッスンを受けます。その後、アルゼンチンの大学でクラシックを学びながらジャズも演奏するようになります。1950年代初めにパリに留学し、パリ国立音楽学校や舞踊学校で学びます。そして、フランスでジャズ・ピアニストやアレンジャーとしてスタートし、ヴォーグ等からラテン音楽のレコードを出します。1950年代終わりにアルゼンチンに帰国して、ジャズ・ミュージッシャンとして活躍します。1958年にディジー・ガレスビーに出会い、彼の為に曲を提供しました。1960年にニューヨークでガレスビーと再会し、彼の楽団でピアニスト兼アレンジャーとして参加します。その後アメリカに移住し、サビア・クガートやクインシー・ジョーンズ等の楽団に参加します。自身の楽団でも活躍し、ジャズやラテン音楽やボサノバ等も演奏していました。シフリンはMGMの子会社のヴォーグに所属していたので、スタン・ゲッツ、ジミー・スミス、カウント・ベーシー、ルイス・ボンファ、サラ・ボーン等の作品に参加していました。やがてMGMの映画音楽の作曲をするようになり、ハリウッドに移住して映画やTV映画の作曲をするようになります。TV映画では1964年の「ナオレオン・ソロ」に続いて、1965年の「スパイ大作戦」のテーマ曲を作曲します。この曲は4分の5拍子で作曲され、非常にインパクトがあり大ヒットしました。(時代を超えて今でも使われています。)その他に1967年「マニックス」、1974年「猿の惑星」、1975年「刑事スタスキー&ハッチ」等があります。映画音楽は多過ぎるので、全てはご紹介出来ませんが列記致します。やはり最初は、1973年『燃えよドラゴン』ですね。オリエンタル・ムードのメロディをシンセサイザーを使って強烈な印象を与えています。1964年『危険がいっぱい』、1965年『シンシナティ・キッド』、1968年『ブリット』『暴力脱獄』『マンハッタン無宿』『女狐』、1970年『戦略大作戦』。1973年『ダーティハリー』から始まって『ダーティハリー3』を除いて、『ダーティハリー5』まで担当しています。クリント・イーストウッドやドン・シーゲルの作品が多いです。そして1973年『突破口!』です。

チャーリー・ヴァリック役
ウォルター・マッソー(53歳)

 ウォルター・マッソー(1920年10月1日~2,000年7月1日)は、アメリカの俳優・コメディアン・映画監督です。ニューヨーク州ニューヨーク市生まれのマンハッタン育ちです。父親が家族を捨てた為、ロウアー・イースト・サイドのアパートに移りました。母親は衣料品のスウェットショップで働き、彼も新聞配達等をして家計を助けましたマッソーはユダヤ人の非営利のトランキリティ・キャンプに参加し、キャンプが土曜日の夜に上演するショーに出演し始め、サプライズレイク・キャンプにも参加しました。マッソーは、スワードパーク高校卒業後にコロンビア大学でジャーナリズムを学んでいます。第二次世界大戦中、マッソーはイギリスの第24空軍のアメリカ陸軍航空軍で、ラジオ・ガンナー(無線機の砲手)として爆撃機に搭乗しました。彼はジェームズ・スチュアートと同じ第9砲撃隊に所属し、ヨーロッパ大陸で任務を遂行しました。終戦時、軍曹でした。

 アメリカに帰国後、ニュー・スクールのドラマティック・ワークショップで、ドイツの監督のエルヴィン・ピスカトールから演技を学びました。1961年のブロードウェイ舞台劇「A Shot in the Dark」に出演し、トニー賞の最優秀主演男優賞を受賞しました。(この舞台劇は脚本を大幅に書き直して、1964年『暗闇でドッキリ』として映画化されました。)1955年にバート・ランカスターが監督・主演した『ケンタッキー人』で映画デビューし、『赤い砦』、1956年『黒の報酬』、1957年『群衆の中の一つの星』、1958年『闇に響く声』、1960年『逢う時はいつも他人』、1962年『脱獄』、1963年『シャレード』、1964年『未知への飛行』等に出演しました。この頃、テレビ・ドラマの「裸の町」・「ヒチコック劇場」・「ドクター・キルデア」等にゲスト出演していました。1965年にニール・サイモンのブロードウェイの舞台劇「おかしな二人」にアート・カーニーと共演しました。

 その後、1966年『恋人よ帰れ!わが胸に』、1968年『おかしな二人』、1969年『ハロー・ドーリー!』、1969年にジャック・レモン初監督の『コッチおじさん』、1973年『突破口!』『マシンガン・パニック/笑う警官』、1974年『フロント・ページ』、1976年『がんばれ!ベアーズ』、1978年『カリフォルニア・スイート』、1982年『わたし女優志願』、1991年『JFK』、1993年『ラブリー・オールドマン』、1997年『カリブは最高』等に出演しています。2000年『電話を抱きしめて』が遺作となりました。マッソーは1980年代から1990年代にかけて、国立学生映画研究所の諮問委員会の委員を務めていました。ヘビー・スモーカーのマッソーは1966年に心臓発作を起こし、1993年に心臓バイパス手術を受けていました。1999年に結腸腫瘍を切除しましたが、晩年の数年間はアテローム性動脈硬化性心臓病を患っていました。2000年7月1日の深夜に自宅で心臓発作を起こし、救急車でサンタモニカのセントジョンズヘルスセンターに運ばれましたが、数時間後に79歳で亡くなりました。

モリ―役
ジョー・ドン・ベイカー(37歳)

 ジョー・ドン・ベイカー(1936年2月12日生まれ)はテキサス州クロースベック生まれの性格俳優であり、アクターズ・スタジオの終身会員です。彼はノーステキサス大学に通い、在学中から演技を始めました。卒業後に軍隊に入隊し、軍の演劇学校で2年間演技を学びました。除隊後、様々な仕事をしながらアクター・スタジオで本格的に演技を学びました。1964年にニューヨークで初舞台を踏み、テレビでは「バークレイ牧場」、「モッズ特捜隊」、「ボナンザ」、「ガンスモーク」等に出演していました。1967年『暴力脱獄』で映画デビューして、1969年『新・荒野の七人/馬上の決闘』に出演し、1969年にはブロードウィイデビューしました。

 ベトナム帰還兵に対するアメリカ国民の反応と帰還兵の苦悩を描いた、1972年の『ソルジャー・ボーイ』に出演しました。ベトナム戦争中に問題提起した作品で、その後のベトナム帰還兵を扱った作品に大きな影響を与えた映画です。1972年『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』、1972年『組織』、1973年『ウォーキング・トール』『突破口!』、1974年『黄金の針』、1985年『フレッチ/殺人方程式』、1987年『007/リビング・デイライツ』、1995『007/ゴールデンアイ』、1996年『マーズ・アタック』、1997年『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』、2012年『MUD マッド』等に出演しました。007シリーズでは悪役と007の味方の両方を演じています。『007/リビング・デイライツ』では悪役の武器商人ブラッド・ウィテカーを演じ、『007/ゴールデンアイ』と『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』ではCIAエージェントのジャック・ウェイドを演じています。

シビル・フォート役
フェリシア・ファー(41歳)

 フェリシア・ファー(1932年10月4日生まれ)は、ニューヨーク州ウエストチェスター郡生まれのアメリカ合州国の元女優でモデルです。彼女はエラスムスホール高校に通い、ペンシルベニア州立大学で社会学を学びました。19歳と年齢を偽って15歳でランジェリーのモデルをし、1950年代から1960年代には写真のモデルや広告に出演しました。ファーは1955年にコロンビア・ピクチャ-ズと7年間の契約し、1955年『去り行く男』・『真昼の脱獄』、1956年『襲われた幌馬車』、1957年『決断の3時10分』、1964年『ねぇ!キスしてよ』、1971年『コッチおじさん』、1973年『突破口!』、1992年『ザ・プレイヤー』等に出演しました。ファーは1960年代のテレビ映画の「裸の街」、「幌馬車隊」、「ベン・ケーシー」、「ボナンザ」、「ヒチコック劇場」、「バークにまかせろ」等にゲスト出演していました。

ハーマン・サリバン役
アンドリュー・ロビンソン(31歳

 アンドリュー・ロビンソン(1942年2月14日生まれ)は、アメリカ合州国・ニューヨーク出身の俳優で南カリフォルニア大学の美術修士プログラムの元ディレクターです。父親は彼が2歳の時に第二次世界大戦で戦死し、母親と共にコネチカット州ハートフォードに移り住みます。少年時代は非行に走りますが、更生してロードアイランド州のセントアンドリュースクール(寄宿学校)に入学しました。高校卒業後、ニューハンプシャー大学に入学しますが、予備役将校訓練課程に反対して放校処分になります。ニューヨークのニュー・スクール大学に編入して英語の学士号を取得し、フルブライト奨学金を得てロンドンに留学しました。彼はロンドン音楽演劇芸術アカデミーに通いながら、シェイクスピアとボイストレーニングを学びました。帰国後、ニューヨークの舞台で活動し始めました。

 1971年『ダーティハリー』で“さそり”役に抜擢され、鬼気迫る演技で強烈な印象を残しました。1973年『突破口!』、1975年『新・動く標的』に出演し、テレビ映画にも出演しています。1978年ら5年程が俳優を休業し、カリフォルニア州アイデルワイドの小さなコミュニティに家族と共に移住しました。大工として働きながら、地元の中高生の為にコミュニティ・シアターで演技指導を行っていました。その後映画界に復帰して、1985年『マスク』、1986年『コブラ』、1987年『ヘル・レイザー』、1988年『影なき男』、1991年『チャイルド・プレイ3』等に出演しました。テレビ・シリーズでは1976年から1978年の「ライアンの希望(Ryan’s Hope)」や1993年から1999年の「スタートレック/ディープ・スぺス・ナイン」にレギュラー出演しました。その他、「ベガス」、「特攻野郎Aチーム」、「新・トワイライトゾーン」、「ジェシカおばさんの事件後」等にゲスト出演しました。

ジュエル・エベレット役
シェリー・ノース(41歳)

 シェリー・ノース(1932年1月17日~2005年11月4日)は、アメリカ合州国カリフォルニア州ロサンゼルス生まれの映画・テレビの女優、ダンサー、歌手です。彼女は第二次世界大戦中に“USOショー”で踊り始めました。その後、シャーリー・メイベッシレという芸名で、クラブのダンサーとして踊り続けました。1951年『Excuse My Dust』にノン・クレジットで映画デビューし、この頃から芸名をシェリー・ノースと改名します。ノースはミュージカル「ヘーゼルフラッグ」でブロードウェイ・デビューし、シアターワールド賞を受賞しました。1954年にパラマウント社の『底抜けニューヨークの休日』に出演後、ノースは20世紀フォックスと契約しました。20世紀フォックスは、ノースをマリリン・モンローの後継者にしようとライフ誌の表紙に登場させました。1950年『スカートをはいた中尉さん』やミュージカル映画に出演しましたが、20世紀フォックスはノースの代わりにジェーン・マンスフィールドを売り込むようになります。1957年『頭金なし』、1958年『恋愛候補生』・『大戦争』と出演し、20世紀フォックスを去ります。

 その後、テレビ映画の「アンタッチャブル」、「ガンスモーク」、「ベン・ケーシー」、「バークにまかせろ」、「バージニアン」、「逃亡者」等に出演しました。1966年から映画に復帰し、1967年『刑事マディガン』、1969年『トラブル・ウィズ・ガールズ』・『さすらいの大空』、1970年『追跡者』、1972年『夜の大捜査線 霧のストレンジャー』、1973年『突破口!』『組織』、1975年『ブレイクアウト』、1976年『ラスト・シューティスト』『テレフォン』、1988年『マニアックコップ』、1991年『ディフェンスレス/密会』等に出演しました。1998年『スーザンズ・プラン 殺せないダーリン』が遺作となりました。2005年11月4日に、カリフォルニア州ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ・医療センターでの癌手術中に亡くなりました。73歳でした。

メイナード・ボイル役ジョン・ヴァーノン(41歳)

 ジョン・ヴァーノン(1932年2月24日~2005年2月1日)は、カナダのモントリオール生まれの俳優です。俳優になる為に、カナダのアルバータ州バンプの大学とロンドンの王立演劇学校で学びました。数多くの劇団に加わって舞台経験を積んだ後、カナダに戻って舞台やテレビに出演しました。その後、ブロードウェイに進出して1964年の「Nobody Waved Good bye」で本格的にデビューしました。

 1967年の『殺しの分け前/ポイント・ブランク』で映画デビューし、1969年『夕陽に向かって走れ』『トパーズ』に出演しました。1971年の『ダーティハリー』から1973年『突破口!』、1974年『ドラブル』とドン・シーゲル監督の作品に出演しています。1975年『ブラニガン』、1976年にはクリント・イーストウッド監督の『アウトロー』に出演しています。1978年『アニマル・ハウス』、1982年『フライング・ハイ2・危険がいっぱい月への旅』、1983年『チェーンヒート』等に出演しました。ヴァーノはテレビ映画の「スパイ大作戦」、「F・B・I」、「ナイトライダー」等にゲスト出演し、テレビ・アニメの「アイアンマン」、「キャプテン・アメリカ」、「バットマン」、「スパイダーマン」、「超人ハルク」等では声の出演をしています。2005年2月1日に心臓手術後の合併症の為、カリフォルニア州ウェストウッドで亡くなりました。72歳でした。

隣人のターフ夫人役
マージョリー・ベネット(77歳)

 マージョリー・ベネット(1896年1月15日~1982年6月14日)は、西オーストラリア州のヨークで生まれた、主にイギリスとアメリカで活躍したオーストラリアの女優です。その後渡米し、1917年に『The Girl, Glory』で映画デビューして数本のサイレント映画に出演しました。1940年代から本格的に映画に出演し、1947年『殺人時代』、1949年にアボットとコステロの『凸凹殺人ホテル』、1950年『西部の二国旗』、1952年『ライムライト』、1954年『麗しのサブリナ』、1956年『枯葉』、1957年『千の顔を持つ男』、1960年『オーシャンと十一人の仲間』、1962年『何がジェーンに起こったか?』『ガール!ガール!ガール!』、1964年『マイ・フェア・レディ』、1968年『マンハッタン無宿』、1973年『突破口!』、1974年『エアポート‘75』等に出演しています。1961年ディズニー・アニメの『101匹わんちゃん』で声の出演をしていました。ベネットは、1982年6月14日、カリフォルニア州ハリウッドで亡くなっています。86歳でした。次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.62 『蛇の穴』の最終章

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検温をしているつもりの元看護師長だったサマビル(左)
ヘスターに話しかけるヴァージニア(右)

 そこは大きな部屋で、大勢の患者がひしめき合っている。一人で喋りまくっている患者、踊りながら歩き回っている患者、床に蹲っている患者、ヴァージニアに話しかけてくる患者。何も手に持っていないのに、ヴァージニアの名前を聞き検温をすると言う患者が現れた。その患者は1棟の看護師長だったサマビルで、彼女自身が患者になっていた。離れた所で一人の患者の首を絞めている患者が、ヴァージニアの目に入って来た。その患者の名前はヘスターと云い、誰とも口を利かず暴力的だと教えられるが、ヴァ-ジニアはその彼女に近づいて行きます。そしてヘスターに貴方は私と同じだから友達になろうと言いますが、へスターは無反応でその場を去ります。

ヴァージニアが見た幻想(左)
キック医師の説明に納得するヴァージニア(右

 やがてヴァージニアは変な感覚に襲われ、自分も含めてひしめき合う全員が深く大きな穴の中にいて、自分が上から見下ろしてように感じます。それは以前読んだ本に書かれていた“蛇の穴”だと思い出します。(昔、精神病患者を蛇だらけの穴に入れて、異常な経験をさせると正常に戻ると考えられた治療法。)ヴァージニアは、その時周りの人たちが異常で自分は正常だと気が付き、治るかも知れないと思うようになったとキック医師に話します。キック医師は彼女の病気の原因を解明し、君は良くなっていると言います。乳児の時から母親の愛情を受ける事なく育てられ、大好きな父親も母親の味方をするようになり、いなくなればいいと思った時に父親が死に罪悪感を感じて過去を封印した。父親の代わりになる男性と付き合い、結婚しても違和感があり耐えられなくなって発病してしまった。キック医師は夫と父親は別物だと言うと、ヴァージニアの表情が明るくなり納得します。

男女が左右に分かれて座っているダンス大会の会場(左
強引に誘われて踊っているヴァージニア(右)

 画面が変わってダンス大会が開催される病棟の大講堂、真ん中を大きく開けて左右に椅子が並んでいます。女性患者が左側の座り、別棟から来た男性患者は右側に座りダンスが始まります。(当時実際に病院内でダンス大会が開催されていました。)ヴァージニアは相変わらず無口のヘスターの隣の席に座り、彼女に話しかけています。ダンスが始まり一踊りした時にキック医師が現れ、退院審査をすると話します。

 その時ステージで一人の患者が「家路」を歌い出します。そこにいた全員がステージに注目し、そして全員が歌い始めます。中には眼に涙を浮かべながら歌い、無口なヘスターの表情も変わってきます。

患者たちに囲まれるヴァ-ジニア(左
ヴァージニアにさよならを言うヘスター(右

 画面が変わってヴァージニアの退院審査の日、全員一致で退院となったが最後にカーティス区長から質問があった。キック医師の心理療法だけで治ったが、自分の病気の原因を自覚したのか質問した。彼女は小さい頃からの多くの経験が影響していたが、これから自分に向き合って生きて行けると答えます。ヴァージニアが退院するのでトランクを持って帰ろうとすると、患者たちが集まってきます。サマビル元看護師長はヴァージニアの熱を測ろうとしますが、看護師に検温ごっこを止められます。ヴァージニアはヘスターの所に行き、又会いに来ると言います。そして、先生と話せばきっと良くなると言って帰ろうとします。その時ヘスターがヴァージニアの後ろから手を掴み、“さよなら、ヴァージニア”とたどたどしく言います。ヴァージニアは絶対治るわと言って、ヘスターにハグします。(このシーンのヘスター役のベッツィ・ブレアの演技は、素晴らしいです。)

キック医師に別れを告げるヴァージニア(左)
ロバートと外に出たヴァージニア(右)

 ヴァージニアは病棟から出る前にキック医師に会い別れを言いますが、治ったと自覚したもう一つの理由を話します。キック医師への愛が冷めたからと彼女が言うと、キック医師がそれは錯覚だったのさ、と言います。外に出てロバートと会い、再び結婚指輪を嵌めて貰いバスに乗り込みバスが発車して映画は終わります。

 この映画の出演者数は非常に多いですが、全員プロの俳優です。日本と違って出演者全員がオーディションを受けて役を貰います。以前岡本喜八監督が『イースト・ミーツ・ウエスト』をアメリカで撮影した時に、エキストラを募集したら50人の応募があり全員と1日掛けて面接したと対談で語っていました。応募者全員が芸歴も書かれた履歴書を持ってきたのには驚いたと語っていました。その話を思い出し、この映画の出演者を決めるのに何日掛かったのかと考えてしまいました。出演者全員の素晴らしい演技で出来上がった作品です。是非、観て頂ければと思います、最後までお付き合い頂き有難う御座いました。

ホラー・ミステリー文学映画のコレクション「狂気と幻影の世界」
『悪魔の人形』・『風車の秘密』・『謎の下宿人』がお勧めです。
発行:コスミック出版 本体価格1800円+税

『蛇の穴』 作品データ

アメリカ モノクロ 108分

原題:The Snake Pit

監督:アナトール・リトヴァク

脚本:フランク・パルトス、ミレン・ブランド

原作:メアリー・ジェーン・ウォード

製作:アナトール・リトヴァク、 ロバート・バスラー

撮影:レオ・トーバー

音楽:アルフレッド・ニューマン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:ヴァージニア・スチュアート・カニンガム

   マーク・スティーブンス:ロバート・カニンガム

   レオ・ゲン:マーク・キック医師

   セレステ・ホルム:グレイス

   グレン・ランガン:テリー医師

   ヘレン・グレイグ:看護師ベティ

   リーフ・エリクソン:ゴードン

   ビューラ・ボンダイ:ミセス・グリア

Vol.61 『蛇の穴』の続きの続き

絨毯に座るヴァージニアを注意する看護師(左)
踊る患者の手を引く看護師(右

 12棟の入院患者が集う広い部屋。中央に大きな絨毯が敷かれていて、患者たちはその周りにいる。ヴァ-ジニアはその絨毯の上を歩き中央に座り込んだ。すると看護師が絨毯の中に入るのは規則で禁止されていると言って、彼女に出るように注意します。彼女が絨毯の外側に出て看護師に抗議していると、一人の患者が歌って踊り出します。その看護師は慌てて靴を脱いで、その患者を捕まえて絨毯の上から連れ出します。

自分が退院審査を受けさせたと
話すロバート

 画面が変わって談話室。夫のロバートが面会に来ていて、二人でチョコレートを食べながら話している時にカーティス区長が二人の傍を歩いてきます。ヴァ-ジニアはあの人は悪い人で、私が彼の指を噛んだと言っているとロバートに言います。ロバートは指を噛んだのは本当の事だと言い、カーティス区長は女性病棟の責任者でキック医師の上司だと言います。ヴァ-ジニアはキック医師が自分をこの病院から追い出そうとしていると思っているので、彼の名前を聞いて嫌悪感を表します。ロバートは退院審査を受けさせたのは自分で、キック医師だけ反対していたと言うとヴァージニアの表情が晴れやかになります。その夜、ヴァージニアは仮病を使ってキック医師に会い、自分を追い出そうとしていない事が分かったと話します。そして自分は未だ退院するのは早いから治療を続けると言います。キック医師は彼女の病棟を1棟に変えて、ゆっくり治療をする事にします。

規則の説明をするデイビス看護師長(左)
人形と煙草を交換するヴァージニア(右

 1棟では自分の部屋を与えられますが、看護師のベティが規則に厳しい新任の看護師長になっていてミス・デイビスと呼ばれていました。挨拶に来た看護師長のデイビスに会った時、ヴァージニアは初対面だと思って接します。デイビス師長に娯楽室に行くように言われて部屋を出る時に、ヴァージニアは以前の事を思い出し捨て台詞を言いながら退室します。娯楽室で手作りの人形を持っている患者と会い、煙草5本と人形を交換してその人形を手に入れます。人形を抱いて遊んでいると、先程の患者が来て煙草を10本追加するように言うのでヴァージニアは箱ごと渡します。

再びグリア夫人登場(左)
盗んだ人形を返すように言うデイビス看護師長(右

 ヴァージニアが人形で遊んでいるとビューラ・ボンディ演じるグリア夫人が登場して、私は金持ちだと言って持っている宝石自慢を始めます。ヴァージニアも負けずに適当な事を言って応戦します。そこにデイビス師長が表れて盗んだ人形を返すように命令します。ヴァ-ジニアは煙草と交換したから盗んではいないと言い、絶対に渡さないと言って逃げ回ります。デイビス師長は看護師にヴァージニアをデイビス師長室に連れて行くように言います。ヴァージニアがデイビス師長室で人形と遊んでいるとキック医師が表れたので、彼女は人形を盗んでいないと弁明します。キック医師がどうして人形を返却しないのかと問い質すと、ヴァージニアの態度が豹変して父のように叱ればいいと言い出します。キック医師は人形と父親の事が彼女の病気に関係していると思い、人形は返さなくていいと言って彼女に明日の朝会う事を伝えて退室します。

子供の頃の話をするヴァージニア(左)
話し終えて号泣するヴァージニア(右

 翌日、キック医師の執務室でキック医師はヴァージニアに”子供の頃、お父さんに叱られた“と言っていたねと聞きます。ヴァージニアは”小さな人形の事よ“と言って、幼かった頃の出来事を話し始めます。母親から貰った人形を友達と交換したら、返すように云われて反抗した事。優しい父親と遊園地に行き、射的ゲームで父親が景品の兵隊さんの人形を取ってくれた事。嫌いだった母親に父親が味方するようになって、父親の事も嫌いになった事。そして父親が尿毒症で死んでしまった事。父親の死を語る時には、彼女は泣き崩れて号泣します。泣き止んで退室する時、煙草と交換した人形が解けて、只の布切れを丸めて作ったものだった事が分かります。

小説を書くように言うデイビス看護師長(左)
拘束衣を着せられるヴァージニア(右

 画面が変わってヴァージニアの部屋。デイビス師長がタイプライターを持って来て、彼女に作家だから小説を書くように言います。毎日休憩時間の1時間、タイプライターを貸し出すと言い、彼女が書くのを立って眺めています。彼女はデイビス師長にキック医師の事を好きだから、嫌がらせをすると言って言い合いになります。しかし、彼女は失言したと思いデイビス師長に謝罪しますが、受け入れられずデイビス師長は棟から出ていきます。そこにグリア夫人が現れて、あなたはもう直ぐここから追い出されると言います。それを聞いた彼女は、洗面所に入り錠を掛けて立て籠もります。(外でヴァージニアを探している看護師たちの声を聞き、洗面所にいる彼女は無言で様々な反応をします。このシーンはハヴィランドの一人芝居です。)看護師たちは彼女が洗面所にいる事が分かり、夫のロバートが来ていると嘘を言って、彼女を洗面所から出させて全員で彼女を取り押えて無理やり拘束衣を着せます。

ヴァージニアと面会するキック医師

 画面が変わって、雪が降る中キック医師は重症患者が入院している病棟を訪れます。その病棟の責任者で友人のテリー医師に会い、ヴァージニアの部屋に向かいます。そこに入院している患者は、全員が明らかに異常な行動をしています。ヴァージニアの部屋に入ると彼女は拘束衣を着せられていて、窓の前に佇んでいました。キック医師はテリー医師の許可を得て、彼女の拘束衣を脱がせて貰います。彼女がキック医師に今でも自分の担当かと聞くので、棟が違うので君の担当は私の友人のテリー医師だと伝え、いつでも会いに来ると言います。彼女はキック医師にこの病棟での出来事を話し始めます。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『蛇の穴』 作品データ

アメリカ モノクロ 108分

原題:The Snake Pit

監督:アナトール・リトヴァク

脚本:フランク・パルトス、ミレン・ブランド

原作:メアリー・ジェーン・ウォード

製作:アナトール・リトヴァク、 ロバート・バスラー

撮影:レオ・トーバー

音楽:アルフレッド・ニューマン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:ヴァージニア・スチュアート・カニンガム

   マーク・スティーブンス:ロバート・カニンガム

   レオ・ゲン:マーク・キック医師

   セレステ・ホルム:グレイス

   グレン・ランガン:テリー医師

   ヘレン・グレイグ:看護師ベティ

   リーフ・エリクソン:ゴードン

   ビューラ・ボンダイ:ミセス・グリア

Vol.60『蛇の穴』の続き

 今回ご紹介する『蛇の穴』の主人公ヴァージニアは、カタトニア(緊張病)で精神を病んでいる患者です。過去の記憶が欠落して思い出せず、突然思い付いた事を言い出したりします。物語はヴァージニアの視点で語られ、それにキック医師の原因究明の話が導入されて進行します。劇中ヴァージニアの心の声と誰かの声が聞こえて、精神を患った人の心理状態が表現されています。

クラレンスとヴァージニア(左) ヴァージニアに話しかけるキック医師(右

 精神病院の中庭にあるベンチに座るヴァージニア。彼女の頭の中に誰かの声が聞こえて来て、それに頭の中で答えています。横を見ると同じベンチに座っている女性に気が付き、その女性に近づいて話し掛けます。そのベンチに座っているのはクレランスで、ヴァージニアの事が心配でいつも傍にいますが、ヴァージニアは知らない人だと思って話掛けます。(冒頭からヴァージニアの頭の中の混乱振りが、よく分かる演出です。)病棟に戻る指示を聞きクラレスは、ヴァージニアの手を取って病院の入り口に向かいます。ヴァージニアは自分が入院患者だと自覚していないので、意味不明の事を言いながら病棟に入っていきます。病院内に入って行きながら、ヴァージニアは頭の中に思い浮かぶ事を口走ります。病院内を見回して刑務所にいると思い逃げ出そうとしますが、それをクレランスが止めます。そこに担当のキック医師が現れてヴァージニアに声を掛けます。彼女は見知らぬ人に話しかけられたと思い警戒し、キック医師の質問には支離滅裂な答えを返します。結婚しているかと聞かれて最初は未婚だと答えますが、直ぐに結婚していると答えます。それを聞いた夫のロバートは、彼女に自分が夫のロバートだと言いますが彼女には分かりません。それを見ていたキック医師は、ロバートを彼女から引き離してその場を去ります。

食堂で食事をするヴァ-ジニアとロバート(左)
映画館でプレゼントするライターで煙草に火を点けるヴァ-ジニア(右)
(映画館は禁煙でしたが、1950年代までは日本も喫煙する人が結構いました。)

 画面が変わってキック医師の執務室。キック医師は、ヴァージニアが発病した原因を究明する為にロバートを病院に呼び出していました。ロバートはヴァージニアの過去の出来事をキック医師に語り始めます。ロバートがシカゴの出版社で編集の仕事をしている時に、彼女が持ち込んだ小説は採用されなかったと伝えたのが最初の出会いでした。(この時、彼は彼女にマッチを貰います。)彼はいつも下の階の食堂で昼食を食べていましたが、ある日彼女を食堂で見かけ同席して一緒に食事するようになります。何度か食堂で会って、二人が好きなクラッシックのコンサートに行ったりデートするようになります。ある日、コンサートに行く前に時間潰しをしていた時、16時40分を指す時計を見た途端に彼女はコンサートに行けないと言ってその場から去ります。その後、彼はニューヨークのオデオン・ホテルで働き始め、クラッシック・コンサートに行っては彼女を捜します。半年後のボストン交響楽団のコンサートで、彼女と再会します。(この時、彼女は彼の煙草にマッチで火を点けます。)又、以前の様にデートを重ねる日々が続き、二人で映画を観に行ったときに彼女は彼にライターをプレゼントします。二人でニュース映画(1960年代前半までだったと思いますが、映画の本編が始まる前にニュース映画が上映されていました。ニュース映画や短編のサイレント映画だけを上映する映画館もありました。昔の映画館は現在のような入れ替え制では無かったので、同じ映画を何度でも観る事が出来ました。)を見ている時に、彼女は画面上の5月12日の文字を観て表情が変わります。映画館から出たヴァージニアの具合が悪そうなのでロバートが声をかけると、彼女は私と結婚したいかと聞きます。何度も求婚しているロバートは結婚しようと答え、彼女の望むように翌朝結婚します。結婚から数日後、ロバートが帰宅するとヴァージニアの様子がおかしくなっていて、日付も分からず夫のロバートの事も分からなくなりました。それでロバートは彼女を病院に入院させましたと、キック医師に話します。話を聞いたキック医師は、5月12日が病気の原因究明の鍵になると判断し、ショック療法をするとロバートに伝えます。

電気ショック治療機(左)     頭に電極を付けられたヴァ-ジニア(右

 画面が変わって、ヴァージニアのショック療法が始まる場面になります。(1933年にカタトニアの治療法としてインシュリンによる低血糖昏睡による治療が行われ、1939年に頭部に通電するショック療法も行われるようになりました。1950年代に精神病治療薬が開発されてからは、ショック療法は減少しています。)グレイスに付き添われてベンチに座るヴァージニアは、非常に怯えています。治療室に入ると真ん中に丸いメーターが付いた黒い箱状の電気装置が目に入ります。怯える彼女をキック医師は、ベッドに寝かせます。3人の看護師が彼女の足を押さえ付け、頭の両側に電極を付けられます。彼女は処刑されるのかと思っている時に、電気ショック治療が始まります。10月4日から10月16日までの間に4回の電気ショック治療が行われました。大きな変化が無かった4回目の治療の次の日の夜、キック医師は彼女と話して変化の兆しを感じます。翌日ショック療法を中止し、執務室でヴァージニアと面談します。

ヴァ-ジニアから過去の出来事を聞き出すキック医師(左)
中庭でランチを取るロバートとヴァージニア(右)

 画面が変わって執務室、ヴァージニアはキック医師と昨晩会った事を記憶していて症状に変化が現れています。キック医師が“5月12日”の日付を出した途端に彼女は取り乱し、机の上のナイフに眼が行きます。忘れたい過去の事に触れられた時、凶暴性が一瞬頭に思い浮かぶ事があります。キック医師は確信に近づいたと確信し、彼女を落ち着かせて面談を続けます。彼女は断片的に記憶を取り戻し、キック医師に夫ロバートの事も聞き始めます。キック医師は、ロバートが面会日には必ず会いに来ている事を彼女に伝えます。面会日にロバートが会いに来ますが、彼女は偽物じゃないかと疑りながら話します。二人は病院から出て庭でランチをしますが、ドアに鍵が掛かっていない事に驚きながら外に出ます。彼女は鶏肉をかぶりつき、その後喫煙する時にロバートが彼女からプレゼントされたライターを渡します。“RC”のイニシャルが書いてあるライターを見て、彼女は本当の夫だと安心します。

シカゴでの出来事を聞き出すキック医師(左)
ヴァージニアに求婚するゴードン(右

 キック医師は病院側からヴァージニアを退院させるように指示を受け、手っ取り早い方法(恐らくインシュリンによる低血糖昏睡)で原因追及をします。この治療によって彼女が、シカゴで突然コンサート行きを止めて帰宅した理由が判明します。彼女がその頃付き合っていたゴードンと6時30分に会う為でした。その日ゴードンと車で出掛けますが、車中でゴードンに求婚されて彼女は取り乱します。ゴードンに気分が悪くなったから引き返すように頼み、ゴードンは引き返します。その時トレーラーと衝突してゴードンは死亡した事が分かります。(この場面でのオリヴィアの演技は迫力満点です。)この話を聞いたキック医師は、ヴァージニアの退院を中止するように進言しますが、病院側は彼女を退院させようとします。

ヴァージニアに退院審査の事を話すロバート(左)
台詞無しで一瞬登場するメエ・マーシュ(右

 画面が変わって患者用の食堂。ロバートはアイスクリームとコーヒーを買っている間、ヴァージニアは席に座って周りにいる人達を観察して色々思いを巡らしています。(この場面でメエ・マ-ーシュがワン・シーン登場します。)ロバートが退院審査の話をし、退院してロバートの母親の農場に行って暮らそうと言います。ギフォード院長が退院審査の許可を出したし、キック先生も同意しているとロバートが彼女に伝えます。

ヴァージニアに質問をするカーティス医長(左)
ヴァージニを落ち着かせるキック医師(右

 退院審査の日、最初キック医師がヴァージニアに質問に答えるように依頼しますが、話がかみ合わずカーティス医長と変わり質問が始まります。住所を聞かれますが、思い出せません。夫ロバートの職業も以前の仕事の事しか分かりません。動揺しているヴァージニアにカーティス医長は、働いた事はあるかと聞きます。彼女は働いた事はあると言い、自分の社会保険番号を言い出します。カーティス医長は社会保険番号を覚えているのに、住所も言えないのかと彼女の鼻先に葉巻を持った指先を向けて言います。キック医師は審査を中止するように言います。彼女はその指先を自分に向けてくる動作に恐怖を感じ、頭の中に嵐の海が現れ溺れそうな自分が映し出されます。彼女は崖の上に上がる為に両手を掛けていますが、看護師がその手を外したので海に落ちます。すると彼女は一人用の風呂に入っている画面に変わります。看護師と言い合いしている時にキック医師が来て話しかけても彼女は話をしなくなります。

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『蛇の穴』 作品データ

アメリカ モノクロ 108分

原題:The Snake Pit

監督:アナトール・リトヴァク

脚本:フランク・パルトス、ミレン・ブランド

原作:メアリー・ジェーン・ウォード

製作:アナトール・リトヴァク、 ロバート・バスラー

撮影:レオ・トーバー

音楽:アルフレッド・ニューマン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:ヴァージニア・カニンガム

   マーク・スティーブンス:ロバート・カニンガム

   レオ・ゲン:マーク・キック医師

   セレステ・ホルム:グレイス

   グレン・ランガン:テリー医師

   ヘレン・グレイグ:看護師ベティ

   リーフ・エリクソン:ゴードン

   ビューラ・ボンダイ:ミセス・グリア

Vol.59『蛇の穴』

 今回ご紹介するのは1948年の『蛇の穴』で、主演は前回の『暗い鏡』に続いてオリヴィア・デ・ハヴィランドです。原作者のメアリー・ジェーン・ウォードの自伝的小説「蛇の穴」を映画化したものです。小説はウォードの実体験を基に、主要な登場人物は実際の人物をモデルにして書かれています。題名の「蛇の穴」とは、凶暴で危険な精神病患者を収容する病棟の事です。アナトール・リトヴァク監督は精神病院で入念な取材を行い、医師の助言を得ながら映画を製作しています。主役のハヴィランドは3か月ほど精神病院に通い、患者と共に過ごして交流をして多くを学んでいます。この映画に出演しているのは全員プロの俳優で、実際の州立精神病院で撮影されています。精神病院の実態を描いたこの映画は、公開後様々な反響があり精神病院の改善にも繋がっています。

発売元:株式会社ジュネス企画

【スタッフとキャストの紹介】

アナトール・リトヴァク

 監督のアナトール・リトヴァク(1902年5月10日~1974年12月15日)は、ロシア(現ウクライナ)出身で、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカで活躍しました。本作では監督と製作もしています。1916年にサンクト・ベテルブルグの前衛劇場で舞台俳優としてデビューし、大学で哲学と共に演技も学んで劇団の俳優兼助手となりました。1923年からノルドキノ・スタジオに入り、数本の舞台劇で脚本や美術を担当しました。同年ドイツに渡って映画の編集や助監督をした後、1930年からは監督としてデビューし、1931年『女人禁制』、1932年『今宵こそは』等を発表します。ナチス政権が成立した1933年にフランスに移住し、1935『最期の戦闘機』や1936年『うたかたの戀』等を発表しました。1937年に渡米してハリウッドで1937年『トヴァリッチ』、1938年『犯罪博士』・『黄昏』、1939年『戦慄のスパイ網』、1940年『凡てこの世も天国も』・『栄光の都』、1942年『純愛の誓い』等を監督しました。1942年から1945年までは、プロパガンダ映画『我々はなぜ戦うか』シリーズをフランク・キャプラ監督と共同でプロパガンダ映画を共同で監督しました。このシリーズを監督した功績により、戦後フランス政府からレジオン・ドゴール勲章を授与されました。その後もハリウッドで1948年『私は殺される』『蛇の穴』、1951年『暁前の決断』、1956年『追想』、1957年『マイヤーリング』(『うたかたの戀』をセルフ・リメイクしたTV映画で、当時夫婦だったオードリー・ヘップバーンとメル・ファーラーが出演。)等を発表しました。1960年からはヨーロッパに渡り、1961年『さようならをもう一度』、1967年『将軍たちの夜』、1970年『殺意の週末』等を発表しました。1974年12月15日、フランスのヌイイ=シュル=セーヌで亡くなりました。72歳でした。

 原作者のメアリー・ジェーン・ウォード(1905年8月7日~1981年2月27日)はアメリカの小説家で、カタトニックに罹った時の体験を小説にしたのが「蛇の穴」です。(以前はカタトニック総合失調症とされていましたが、現在ではカタトニックは総合失調症とは別の病気とされています。)幼い頃から高校生の頃までは、音楽活動をしていて作曲もしていました。その後、ノースウェスタン大学に入学し、同時にシカゴのライセウム・オブ・アーツ・コンサバトリーでも学んでいます。1928年に統計学者でアマチュア劇作家のエドワード・クエールを結婚し、彼の進言により短編小説を出版して1937年に書評家となります。1938年には2冊の小説を出版しましたが、芳しい結果は得られませんでした。1939年にグリニッチ・ビレッジに移住して出版の仕事を続けますが、経済的に苦しい状態が続きストレスにより心理的苦痛を抱えます。その上、戦争への参戦や作家としての自分の能力に対する不安、そして予定されていた平和主義的反対を主張する政治演説する事が直接の原因で、カタトニックに罹ったと言われています。彼女はロックランド州立病院に入院し、数年間の精神病棟での体験を基に小説「蛇の穴」を書き、1946年に出版されて批評家や精神医学分野の専門家から高い評価を受けます。主要な登場人物は実在の人物を基に書かれていますが、看護師は権威主義者の象徴として書かれていて、反人種差別主義と反制度的分離を現しています。「蛇の穴」を発表後は5冊の小説を発表し、最後の編集では友人になったミレン・ブランドが協力しています。その間も彼女は病気の再発で3回入院し、最後の2冊の小説は精神疾患をテーマにしています。

 脚本はフランク・パルトス(1901年7月2日~1956年12月23日)で、ハンガリー系アメリカ人の脚本家です。ブタペストで生まれた彼は事務員をしていましたが、1921年に渡米してニュージャージー州に住む継父の許に行きます。1920年代後半にMGMに入社し、1932年の『グランド・ホテル』の脚本を書きますが、スクリーン・クレジットに載らなかったのでMGMを退社します。1930年代はパラマウント映画で脚本家として活動し、1939年にPKOラジオ・ピクチャーズに移って脚本家のチャールズ・ブラケットと共同で脚本を書きました。本作ではミレン・ブラントと共同で脚本を書いて、アカデミー賞にノミネートされています。彼が手掛けた主な作品は、1937年『謎の夜』、1939年『踊るホノルル』、1940年『3階の見知らぬ男』、1944年『呪いの家』、1948年『蛇の穴』、1951年『テレブラフヒルの家』等です。

アルフレッド・ニューマン

 音楽は巨匠のアルフレッド・ニューマン(1901年3月17日~1970年2月17日)で、アメリカの映画音楽の作曲家です。母親の勧めで6歳からピアノを習い始め、単身ニューヨークに行ってピアノを習いながら作曲法等を学びます。1914年には家族もニューヨークに移って来たので、13歳で家計を助ける為にヴォードビル・ツアーに参加したり、ブロードウェイの映画館でピアニストをして働きました。この頃既に指揮者や音楽監督として高い評価を受けていました。20歳の時にブロードウェイで音楽監督となり、29歳の時にハリウッドに移って映画音楽の作曲をするようになります。1931年の『街の灯り』を始め、20世フォックス社のロゴ・マーク表示で使われるファンファーレを作曲しました。20世フォックス社の音楽部長として活躍し、1970年の『大空港』まで作曲を続けました。第二次世界大戦時のニュース映画を含め、200本以上の作品の音楽を担当してアカデミー音楽賞を9回受賞しています。作曲数が多過ぎるので、担当した映画の列記は割愛致します。

ヴァ-ジニア・カニンガム役
オリヴィア・デ・ハヴィランド(32歳)

 主役のヴァ-ジニア・スチュアート・カニンガム役は、オリヴィア・デ・ハヴィランドです。1946年『暗い鏡』に出演した同年の『遥かなる我が子』で、アカデミー主演女優賞を受賞し、1949年の『女相続人』で2度目のアカデミー主演女優賞を受賞しています。本作でも彼女は、『私は殺される』のバーバラ・スタンウィックと『ジョニー・ベリンダ』のジェーン・ワイマンと並んでアカデミー主演女優賞にノミネートされました。最終選考で『ジョニー・ベリンダ』のジェーン・ワイマンが、アカデミー主演女優賞を受賞しました。しかし彼女の演技は高く評価され、1948年のナショナル・ボード・レビュー主演女優賞。ニューヨーク映画評論家協会主演女優賞、1949年のヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞しています。(詳細はVol.56『暗い鏡』をご参照下さい。)

ロバート・カニンガム役
マーク・スティーブンス(32歳)

 ヴァ-ジニアの夫のロバート・カニンガム役は、マーク・スティーブンス(1916年12月13日~1994年9月15日)です。オハイオ州クリーブランド生まれのスティーブンスは画家を目指していましたが、オハイオ州のアクロンでラジオのアナウンサーとなり活動します。1943年にハリウッドに移り、スティーブン・リチャーズの名でワーナーブラザーズから映画デビューします。1944年『ハリウッド玉手箱』、1945年『決死のビルマ戦線』の他に10本程の映画に出演しましたが、ノン・クレジットの小さな役しか与えられませんでした。1945年に20世紀フォックスと契約し、マーク・スティーブンスと改名します。1946年の『小さな愛の日』でジョーン・フォンテンと共演し、『闇の曲り角』ではルシル・ボールと共演しました。リチャード・ウィドマークが映画デビューした1948年の『情無用の街』ではジョン・マッキンタイアと共演し、FBIの潜入捜査官を演じました。本作に続き、1950年『拳銃無情』、1952年『カリブの反乱』、1953年『コロラドの決闘』等に出演しました。スティーブンスは俳優だけでは無く監督もし、1957年からTV映画にも出演していました。1994年9月15日、スティーブンスはスペインのマジョレスで癌の為77歳で亡くなりました。

マーク・キック医師役
レオ・ゲン(43歳)

 マーク・キック医師役は、イギリスの俳優で法廷弁護士のレオ・ゲン(1905年8月9日~1978年1月26日)です。彼はケンブリッジ大学の法科で学び、劇団の法律顧問をしているうちに演劇の道に進み、1930年にロンドンで舞台デビューしました。その後、1938年のブロードウェイの舞台出演まで、数多くの舞台劇に出演しました。1935年に『不滅の紳士』で映画デビューし、1938年『太鼓』・『ピグマリオン』(ノン・クレジット)に出演しました。戦争が近づくと、ゲンは1938年に将校緊急予備役に加わり、1940年7月6日に大率砲兵隊に入隊しました。1943年に中佐に昇進し、1945年にクロワ・ド・ゲール勲章を授与されました。ゲンはベルゼン強制収容所での戦争犯罪を調査する英国部隊の一員で、ドイツのリューネブルクで開催されたベルゼン戦争犯罪裁判の検事補を務めました。

 1944年にローレンス・オリビエが監督・主演した『ヘンリー5世』、1945年の『シーザーとクレオパトラ』、1946年『青の恐怖』等のイギリス映画に出演しました。1948年『蛇の穴』・『ビロードの手袋』、1950年『木馬』、1951年『クォ・ヴァディス』、1953年『赤いベレー』、1955年『恐喝』・『チャタレー夫人の恋人』ではクリフォード・チャタレー卿を演じています、1956年『白鯨』、1960年『ローマは夜だった』、1962年『史上最大の作戦』、1963年『北京の55日』、1962年『姿なき殺人者』、1971年『幻想殺人』等に出演しています。レオ・ゲンは1976年1月26日、肺炎の合併症により心臓発作の為ロンドンで亡くなりました。74歳でした。

グレイス役
セレステ・ホルム(31歳)

 グレイスを演じたセレステ・ホルム(1917年4月29日~2012年7月15日)は、ニューヨーク出身の舞台、映画、テレビの女優です。彼女は、シカゴのユニバーシティ・スクール・フォー・ガールズ(私立高校)に入学し、その後フランシス・W・.パーカー・スクールに転校して多くの学校の舞台作品に出演しました。高校卒業後にシカゴ大学で演劇を学び、1938年からブロードウェイの舞台に立ち1994年まで舞台への出演を続けました。1946年には20世紀フォックスから映画にも出演するようになり、1947年の『紳士協定』でアカデミー助演女優賞とゴールデングローブ賞の助演女優賞を受賞しました。その後、1948年『蛇の穴』、1949年『日曜日は鶏料理』、1950年『イヴの総て』、1956年『上流社会』等に出演しました。1950年代後半からはテレビ出演が多くなり、1970年代から1980年代には多くのテレビ映画にゲスト出演しています。アクターズ・スタジオの終身会員だったホルムは、1968年のサラ・シドンズ賞を始め多くの栄誉を受けています。彼女は2002年から記憶喪失の治療を受けていて、皮膚がん、出血性潰瘍、肺虚脱を患い、人工股関節置換術とペースメーカーを装着していました。2012年6月、脱水症状でニューヨークのルーズベルト病院に入院し、7月13日に心臓発作を起こしました。7月15日にセントラルパーク・ウエストのアパートで亡くなりました。95歳でした。

看護師ベティ役
ヘレン・グレイグ(36歳)

 看護師ベティ役のヘレン・グレイグ(1912年5月13日~1986年7月20日)は、テキサス州サンアントニオ生まれのアメリカの俳優です。彼女はオーソン・ウェルズとジョン・ハウスマンが設立したマーキュリー・シアターで演劇を学び、ブロードウェイで数多くの舞台劇に出演しています。特に1940年の舞台劇「ジョニー・ベリンダ」で主役のベリンダを演じたのが有名です。聴覚障害者のベリンダを演じる為、劇中台詞は全て手話で行い、他の俳優の台詞には絶対反応しない難しい役をこなしました。彼女は舞台劇の他に映画やTVにも出演していました。主な出演映画は、1948年『蛇の穴』『夜の人々』、1977年『幸福の旅路』等です。

ミセス・グリア役
ビューラ・ボンディ(59歳)

 ワン・シーンだけ登場するミセス・グリア役は、ビューラ・ボンディです。舞台俳優としてのキャリアが長く、映画デビューは43歳だったのでお母さん役やお婆さん役が多いアメリカの女優です。シリアスな役からコミカルな役まで見事に演じる名脇役です。(詳細はVol.33『モーガン先生のロマンス』をご参照下さい。)

トミーの母親役
メエ・マーシュ(54歳)

 トミーの母親役で、メエ・マーシュ(1894年11月9日~1968年2月13日)がノン・クレジットでワン・シーンだけ登場します。彼女は1915年の『國民の創生』と1916年の『イントレランス』に出演し、ジョン・フォードの作品に多数出演しています。その後は散発的に小さい役やノン・クレジットでも映画に出演しています。

 次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています

Vol.58 『暗い鏡』の最終章

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ルースをデートに誘うスコット(左)   ルースを動揺させるテリー(右)

 診療所でテリーが自由連想法の検査を受けています。スコットの質問の中で「死」と云う問いにテリーは「鏡」と答え、それからは自分のミスを隠すように答えます。その日の検査が終わってから、テリーはスコットをデートに誘い、全ての検査が終わってからデートする約束をします。別の日、ルースの検査が終わって家の前まで送って来たスコットは、ルースに検査が終了したらデートして欲しいと言います。ルースは快諾し二人はキスをしますが、二階の窓からテリーが見ていました。帰宅したルースが明かりの消えた寝室に入ると、テリーはベッドで横になっていました。ルースが洗面所で着替えている時に、テリーは睡眠薬を2錠飲むように言います。ルースは飲まないと言うと、寝ている時に話したり泣いたりするとテリーが言い、昨日は泣いていたから起こしたと言います。ルースは知らないし覚えていないと言いますが、テリーは何か恐れているみたいだったと言います。テリーはさり気なくスコットとの事も聞き、それからルースに何を恐れているのかと聞きます。ルースが見当もつかないと言いますが、私はどうしようと言っていたと言い、テリーは双子の一人は異常者だと言います。ルースは否定しますが、動揺を抑える為に睡眠薬を飲む事にします。(このシーンは特撮で、鏡台の前に座っているルースと鏡に映ったテリーが会話します。)

うそ発見器の検査を受けるテリー(左)
部屋の中が光ったと言って飛び起きたルース(右)

 検査も終わりに近づき、テリーはうそ発見器を使った検査を受けます。ここでスコットは、以前ルースとボーイフレンドを別れさせた時の話を質問します。スコットの質問にテリーは嘘の作り話をしますが、針の動きで嘘が明確に分かります。画面が変わってコリンズ姉妹の寝室、テリーは寝ているルースの様子を伺い、ベットの横の電気スタンドを一瞬点けます。ルースは驚いてテリーの名を呼んで起き上がり、部屋がピカッと光ったと言います。テリーは夢を見ただけだと言いますが、ルースは気が変になりそうと言って怯えます。テリーはルースを宥めて眠るように言います。

テリーの検査結果を警部補に伝えるスコット(左)
ルースを食事に誘うスコット(右)

 画面が変わって、診療所でスコットは警部補にテリーが犯人だろうと言います。テリーは病んでいて精神レベルは2歳程度で、善悪の判断がつかないと言います。警部補は逮捕には決定的な証拠が必要だと言い帰宅します。帰り際に警部補は、テリーの事をルースに伝えるようにスコットに言い、貴方も気を付けるよう言います。スコットは早速ルースに電話をし、テリーに内緒で会おうと言い、11時に会う約束をします。処が電話を切った直後にルースが訪問して来て、電話に出たのはテリーだと気が付きます。スコットはルースを食事に誘い出掛けます。食事が終わり帰る時に、スコットは警部補に電話をして自分が囮になると言い、10時半ごろ電話をすると言って電話を切ります。

 ルースが帰宅するとテリーは何処に行っていたのかと聞き、スコットと一緒だったかと聞きます。ルースは、一人で散歩していたと嘘を言います。テリーは踊りに行くと言って出掛けますが、その時チェストからルースのハンドバッグをこっそり持って行きます。スコットの家を訪れたテリーは、ルースを演じる手始めにソファーの上にルースのハンドバッグを落としたりします。スコットは重要な話があって君を呼んだ、実はテリーは精神の病に侵されている。危険な状態になっているから、早く治療する必要がある。テリーを説得して欲しいと言います。(この場面のスコットとテリーの演技は素晴らしいです。淡々と話すスコットと、話が進むに従って表情が変わって行くテリーとの、緊張感に溢れる演技のぶつかり合いです。)スコットはテリーの人格が歪んでしまった理由を説明し、危険な状態だから説得するように言います。ルースを演じているテリーは、治療をテリーが拒んだらとスコットに言います。そこでスコットは、”テリー”君が拒んだら殺人犯とその動機を警察に伝えると言います。スコットは事件当日の出来事をテリーに話して、治療するように説得しますが、テリーは断ります。その時電話が鳴り、スコットが電話に出ると警部補から大変な連絡を受けます。スコットが背を向けている時にテリーは机の上のハサミを見付け、手袋を着用し始めます。(殺意を感じる緊張したシーンです。)電話を切ったスコットが振り返り、ルースが死んだとテリーに言います。

自分はルースだと言ってテリーがペラルタ医師を殺害したと言います(左)
鏡に映ったルースを睨みつけるテリー(右)

 画面が変わって、テリーの家には警部補と刑事と検視官がいて、警部補はテリーを慰めます。テリーは泣き崩れ、泣きながらルースの自殺の原因を話し始めます。罪悪感に悩んでいて、彼女は解放されたんだと言います。テリーの表情が徐々に変って自分はルースだと言い出し、テリーは異常者でペラルタ医師を殺したと言って犯行の動機を話します。警部補が貴女はテリーでしょうと言いますが、テリーは私がルースと言います。そこに隣室にいたスコットが現れ、警部補に彼女はテリーだと言います。警部補はスコットに証明できるか尋ねると、スコットが出来ると言っている時に、隣室にいたルースが現れます。鏡に映るルースを見たテリーは、灰皿を掴み鏡に向かって投げつけます。(この時のテリーの表情は、鬼気迫るもの凄い表情で別人かと思うくらいです。)

警部補はテリーに自白させる為に策を練った事をスコットに謝罪します(左)
スコットはテリーに煙草入れをプレゼントします(右)

 画面が変わってスコットの家、警部補がルースと一芝居うった事を謝罪します。警部補 はルースがテリーに殺されると思い、ルースの家に行った時に思い付いたと話します。スコットは隣室にいるルースに食事を運びます。そのトレーには食事と一緒にオルゴール付き煙草入れがあり、ルースにプレゼントします。(今と違って昔の映画では、男女共に喫煙するシーンが多いです。余談ですが、日本では煙草のニコチンが悪者になっていますが、認知症の治療にニコチンが使われています。身体に悪いと言われているは過酸化水素ですが、免疫機能が正常であれば体内で分解されます。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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『暗い鏡』作品データ

1946年製作 アメリカ 85分
原題:The Dark Mirror

監督:ロバート シオドマク

脚本:ナナリー・ジョンソン

原作:ウラジミ・ポズナー

製作:ナナリー・ジョンソン

撮影:ミルトン・クラスナー

音楽:ディミトリ・ティオムキン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:テリー・コリンズ

   オリヴィア・デ・ハヴィランド:ルース・コリンズ

   リュー・エアーズ:スコット・エリオット医師

   トーマス・ミッチェル:スティーブンソン警部補

   リチャード・ロング:ラスティ

   ゲイリー・オーウェン:フランクリン