Vol.20 『フロンテア・マーシャル』おまけ

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 西部劇の定番として、悪人との対決や復讐劇の中にヒロインとのロマンスを絡める話が多いです。しかし、『フロンテア・マーシャル』では、アラン・ドワン監督はワイアット・アープを沈着冷静で凄腕のガン・マンとして描き、彼のロマンスを排除しています。その代わり架空の女性二人を登場させて、ドク・ホリディとサラとジェニーの三角関係を導入しています。この映画はワイアット・アープの実名を使用した最初の映画で、アープの妻のジョセフィーン・アープに版権料を払って製作された為、ワイアット・アープのロマンスに触れていないようにしています。ジョセフィーン・アープは、作家のスチュアート・N・レイクにワイアットが口述したトゥームストーンでの話から、大部分を削除したり言い換えをしています。彼女が話す経歴は虚偽が多く実像を把握するのは難しいですが、現在分かっている情報で確実な事は、元舞台俳優で娼婦だった事です。

コルト・バントライン・スペシャル 1956年(上)
コルト・シングル・アクション・アーミー1874年(下)

 ドク・ホリディことジョン・ヘンリー・ホリデイは、歯科医師の免許を持っていた為“ドク”とか“ドク・ホリディ”と呼ばれていました。歯科医師ながら劇中では難しい外科手術をしていて素晴らしいシーンになっていますが、勿論映画の創作です。ワイアットとドクの出会い後、酒場のカウンターで拳銃談義の時に“コルト・バントライン・スペシャル”の話が出て、ドクの愛用銃となっていましたが、ワイアットの銃が定説になっています。作家のネッド・バントライン(本名:エドワード・ゼイン・キャロル・ジャドソン・シニア)が、コルト社に銃身12インチの“コルト・バントライン・スペシャル”を発注した事になっています。しかし、調査の結果ではコルト社へ発注した記録はありませんでした。これは実在した証拠が無い為、「ワイアット・アープ:フロンティア・マーシャル」を書いた作家のスチュアート・N・レイクの創作だと云われています。

バント・ライン・スペシャルとストック

 コルト社の銃は全てシリアル・ナンバーが打たれていますので、調べた処“コルト・バントライン・スペシャル”は1956年から製作していました。この映画の時代設定の1881年には存在していません。劇中ドクは手術後カーリーに射殺され、彼の墓に1880年没した事になっていましたが、実際には1887年11月8日にコロラド州グレンウッド・スプリングスで、肺結核の為35歳で亡くなっています。

 本作の最後にジェニーに射殺されたカーリイ・ビルは、“ザ・カウボーイズ”のメンバーで彼らの邪魔をするワイアットと対立する悪党です。“ザ・カウボーイズ”は牛泥棒もする悪党集団で、アイク・クラントン一家もメンバーですが本作には登場しません。カーリイ・ビルは、OKコラールの銃撃戦の後に郊外の材木作業所に隠れていた時にワイアットに射殺されています。

 本作では物語を簡潔にしてすっきり纏める為か、アープ兄弟は登場していません。実際は兄のヴァージル・アープが警察署長代理で、ワイアットは兄の任命で保安官代理となり、弟のモーガンとウォーレンも同様に保安官代理になっています。銃撃戦があったコラール(CORRAL)は、一時的に牛や馬等の家畜を置く場所で街のすぐ近くにあります。このコラールは日本には無いものなので、『OK牧場の決斗』の公開時に日本のユナイト社はコラールを牧場にしました。映画が大ヒットした為、日本ではコラールが牧場になってしまいました。映画ではこの銃撃戦を決闘として作り上げていますが、実際は“ザ・カウボーイズ”のメンバーが銃器を所持してOKコラールに集合していた為、武装解除を伝えに行ったヴァージルを銃で撃って来たので始まったものです。偶発的に起こった銃撃戦で、決闘ではありません。その時ヴァージルは肩を撃たれて負傷しています。アイク・クラントン一家のその場にいましたが、アイク・クラントンは逃げ出し息子のビリー・クラントンは射殺されています。実際の処、どの映画にも出てこない群保安官のジョニイ・ビーハンの事は、今回は書きませんが機会があれば書きたいと思っています。

『荒野の決闘』、『OK牧場の決斗』、『トゥームストーン』

 映画は史実通りに作る必要も無く、監督の思うテーマに沿うように脚色されて面白くなれば良いと思っています。ジョン・フォード監督の『荒野の決闘』(1946年)は、『フロンテア・マーシャル』の基本的なプロットを引き継でいます。ワイアットとクレメンタインのロマンスを中心に、クラントン一家との対立によるアープ兄弟との決闘にしています。一方、ジョン・スタージェス監督は『OK牧場の決斗』(1957年)では史実と別にワイアットとドクの男の友情を軸に、クラントン一家との決闘での銃撃戦をメインに活劇映画として仕上げています。史実に近い映画としては、ジョージ・P・コスマスト監督の『トゥームストーン』(1993年)です。この映画のドク・ホリディは、ほぼ史実に沿った状態で描かれています。ドク・ホリディ役のバル・キルマーが良いですね。最後までお付き合い頂きまして、有難うございました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。