椅子が映し出されカメラは引いて俯瞰画面になり、大都会の一角に不釣り合いな邸宅が見えます。画面が変わって、その邸宅を見下ろすホイト・シティ新聞社の編集長が双眼鏡で空席の椅子を見てから語り始めます。35年間毎日ポーチにある椅子に座り続けた謎の老婦人、ハンナ・セプラーが今日は現れない。今日は“イーサン・ホイトの日”で、彼の銅像の除幕式があるのに無視して姿を見せない。彼女を見張っていた記者たちに除幕式に行くように指示を出します。
除幕式には全米各地から有力紙の記者たちがあつまっていて、その中に若い伝記作家の女性もいます。
市長の演説の後、除幕式が終わると有力紙の記者たちはセンプラー邸に向かいます。そして強引に邸内に押し入ってセプラー夫人に面会を求めます。
やがて100歳のハンナ・セプラーが現れます。(この場面の表情も動きも語り口も、正に100歳の老婦人で見事です。上唇の使い方、手の動き、弱弱しい話し方、素晴らしいです。)世間が真相を知る為だと言い、記者たちはハンナに一斉に質問を浴びせかけ、イーサン・ホイトのスキャンダラスを聞き出そうとします。
ハンナは記者たちに“貴方たちは世間では無い”と言い、“あなた達は世間と無縁の人たちです”と言います。若い伝記作家は、記者たちの非礼を詫びてハンナを擁護します。ハンナは、“ホイト・シティを創った偉人にスキャンダルは無い”と言い、記者たちを帰します。若い伝記作家は残ってハンナに、イーサン・ホイトの伝記を3年間書いているので話を聞かせて欲しいと頼ますが、ハンナは相手にせず彼女に帰るように言います。泣き出した若い伝記作家を見て気が変わったハンナは、彼女と共に2階の部屋に行きます。(この場面のバーバラ・スタンウィックの演技は、前半の見せ場と言っても良い位に見事です。)
2階の部屋に入ってハンナが“あれは、1848年の事よ”と語った瞬間に娘時代の話が始まります。窓に駆け寄るハンナと二人の姉妹、通りを馬に乗るイーサン・ホイトが家に向かってきます。窓から顔を出したハンナは、可愛らしく溌溂とて10代の乙女のように見えます。馬から降りたイーサンは笑顔で上を見上げると、二人の姉妹は窓から離れます。残ったハンナは、ハンカチを落としてイーサンに渡します。(ハンナの一途な恋心をウェルマン監督は、こんな乙女チックな演出で表現したんでしょうね。)
ハンナは父親が勝手に決めた自分の婚約者を茶化し、部屋を出て1階の書斎に向かいます。階段を降りようとすると、メイドのデリラに書斎に行かないように注意されます。ハンナは階段の手すりを跨ぎ腹ばいになりながら、本を取りに行くと言って手すりを滑って1階に降ります。(この時のハンナの表情はお転婆で無邪気な娘で、デリラとの会話は仲の良い親子の様です。)書斎ではイーサンが資金援助を得る為に、センプラーとキャドワラーに熱く自分の夢を語っています。廊下でそれを聞いたハンナは益々イーサンを好きになり、思わず拍手をして父親に叱られます。援助を断られたイーサンは、帰ります。
ベッドで眠りについたハンナは、物音で眼を覚まし窓から外をみます。真夜中の12時にイーサンが家の前にいて、降りてくるように言います。無理とか言いながら結局降りて行って、二人で馬に乗り郊外に出掛けます。森の中での奇妙なやり取りの後、イーサンのプロポーズをハンナは受けて駆け落ちします。
画面は変わって嵐の中、雨に打たれ乍ら簡単な結婚式を行い神父から結婚証明書をハンナは受け取ります。
そして二人はホイト・シティへと向かいます。着いたホイト・シティは、未だ何もなく広大な土地に小さな家があるだけです。しかし、二人の眼には未来のホイト・シティが見えていて、二人で偉大な都市を作る事を誓います。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。
『英雄を支えた女』 作品データ
アメリカ 1942年 モノクロ 90分
原題:The Great Man’s Lady
監督:ウィリアム・A・ウェルマン
製作:ウィリアム・A・ウェルマン
脚本:W・L・リヴァー
原作:ビーニャ‣デルマー(コスモポリタンの短編小説「人間の側面」)
アデラ・ロジャース・セント・ジョンズ
ソーナ・オーウェン
撮影:ウィリアム・メロ
美術:ハンス・ドレイアー、アール・ヘドリック
編集:トーマス・スコット
音楽:ビクター・ヤング
出演者:バーバラ・スタンウィック、ジョエル・マクリー
ブライアン・ドンレヴィ、K・T・スティーブンス
サーストン・ホール