時は大きく流れ、チッピング先生は40歳代になり最古参の教師になっています。(中年になったチッピングは、表情も所作も話し方も変わっていて時間の経過が分かります。)終業式が終わり、生徒も教師も待望の夏休みに入ります。生徒たちは実家に帰省し、教師たちは旅行に出掛ける準備を始めます。チッピングは自分の部屋に向かう途中の道で、ハーグリーブスに会います。彼はチッピングが列車の中で声を掛けたら、突然泣き出した少年で20年振りの再会です。今年は寄宿生を監督する舎監になれるかも知れないと、チッピングは彼に話します。
教員室でもチッピングの舎監就任の話題で持ちきりです。教師たちが生徒から貰ったケーキを食べている時に、チッピングが入って来て一緒にケーキを食べ始めます。そこに校長先生の呼び出しがあり、皆は舎監就任の話だと励まします。しかし、校長からの話は優秀なギリシャ語教師のチッピングには煩雑な舎監ではなく、教師の仕事に専念して欲しいと言われ落胆して部屋に戻ります。
暗い部屋に呆然としていると、友人のシテュフェルが入って来て一緒に旅行に行こうと誘います。チッピングは毎年訪れるハロゲットの宿で一人過ごすと言いますが、シテュフェルトはチロルからウィーンに一緒に徒歩旅行する事に決めてしまいます。
その日の夜から二人は汽車でチロルに向かい、翌日チッピングは一人で山に登ります。登山途中で霧が出て来て待機していると、上の方から女性の声が聞こえたので無謀にも山を登り始めます。危険な岩場を登る途中で危うく落ちそうになり、杖を落としてしまいます。
やっと登ってみると、若い女性が岩に腰かけて平然とサンドイッチを食べています。助けを呼んでいると思って登って来たとチッピングが言うと、その女性はなんと無謀な人だと言います。命を落とすかも知れないのに心配して登って来てくれた事に彼女は感謝します。
そして二人で岩に腰かけてサンドイッチを食べ、その女性キャサリン・エルスはチッピングに教師の素晴らしさを語り出します。女性と付き合う事の無かったチッピングは、自分の心の高揚に驚きながらキャサリンの話を聞きます。(このシーンのドーナットとガーソンの演技は自然で、恋した事の無い中年男と行動的で聡明な女性との素晴らしいやり取りが続きます。)
やがて霧が晴れて下山すると、チッピングの勇敢な行動を称えてホテルでパーティーを用意しますが、主賓のチッピングは怖気づいたかのように部屋に戻ってしまいます。キャサリンたちは翌朝出発してしまい落胆しつつ旅を続け、船のデッキでドナウ川を眺めているチッピングとシテュフェル。シテュフェルがドナウ川は茶色で青く無いが、チッピングには青く見えないかと尋ねます。丁度その頃、船の2階のデッキではキャサリンとフローラが同様の会話をしていて、キャサリンにはドナウ川が青く見えています。(このシーンの監督の演出は素敵です。)
先に船から降りたチッピングは、キャサリンを見付けて駆け寄ります。その日の夜、舞踏会に出席した二人は取り留めのない会話をしていますが、キャサリンが旅の一番の思い出は舞踏会で踊った事だと言います。チッピングはその言葉に狼狽しますが、勇気を振り絞って彼女と踊ります。(このシーンも二人の表情の変化が素敵で、このダンス・シーンは観ていて幸せな気持ちになります。)
汽車で発つキャサリンを見送るチッピングは、言いたい事が言い出せないまま汽車が発車し始めた時、キャサリンが軽くキスをして乗車します。発車した汽車を追いかけながら、チッピングはキャサリンにプロポーズします。しかし、汽車はキャサリンと共に行ってしまい、もう会えないと絶望しているチッピングに親友のステュフェルが声を掛けます。“心配するな、教会の手配はしたから明日は結婚式だ”と言って二人で祝杯を挙げに行きます。
画面が変わって学校の教員室、新聞でチッピングの結婚を知った同僚はステュフェルに、奥さんは器量が悪いんだろうとか最悪なんだろうとか言っています。そこにチッピングが奥さんを連れて現れます。奥さんを見た途端に全員の顔が笑顔になり、女性入室禁止の教員室なのに大歓迎で受け入れます。(このシーンは観ていて一緒に笑顔になります。それにしてもグリア・ガーソンの笑顔は素敵です。)
この時キャサリンが、チッピングを“チップス”と呼びます。それを聞いた同僚は、チッピングを“チップス”と呼ぶようになります。教員室を二人で出ると、キャサリンを一目見ようと教え子たちが集まっていました。キャサリンは教え子たちに、“先生は日曜にお茶会を開くから、皆来てね”と言い、戸惑うチップスに“4時だったわね”と言います。彼女の突然の提案に“ああ、そうだった”と言い、それから毎週お茶会は開催されます。
お茶会の後、キャサリンはチップスに授業中に冗談も言って生徒たちと友達になるようアドアイスします。この先キャサリンは事ある毎にアドアイスし、チップスはドンドン変わっていきます。(なんと素敵な奥さんでしょう。グリア・ガーソンが登場するシーンを観ていると、幸福感に浸れます。)
時は流れてクリスマス、生徒たちは帰省し始めチップスは今では生徒たちの人気者になっています。キャサリンがクリスマス・ツリーを飾り付けていると、チップスが慌てふためいて帰宅して舎監になったと言います。喜びあっている二人の許にステュフェルがシャンペンを持って現れます。そして3人で祝杯を挙げます。二人が山で出会った日の夜の様に“セルブス”と言って乾杯します。
画面が変わって翌年の4月1日、エイプリルフールの日にキャサリンは出産をします。しかし、出産は難産で母子共に亡くなってしまいます。(1890年頃の医学では細菌の存在は広く認識されていない為、出産は不衛生な状態で行われていたので母子共に死亡する事はよくあったようです。)その日生徒たちは、チップス先生にエイプリルフールの悪戯を皆で用意していました。腑抜け状態になったチップスは、そんな状態でも授業を行います。生徒たちの悪戯をチップス先生が喜んでくれると思っていましたが、期待は裏切られます。
そこに遅れて一人の生徒が教室に入って来て、チップス夫人と子供が亡くなった事を皆に伝えます。チップスは授業を始め、コリーに教科書を読むように言います。(キャサリンが亡くなってから授業までのロバート・ドーナットの表情は、正に魂が抜けたように感じるものです。名優です。)
この映画でデビューして素晴らしい演技をしたグリア・ガーソンは、後に自分のキャリアに大きな影響を与える映画だとは思っていなかったと語っています。それが逆に気負いもなく自然な演技に繋がったのではないかと、思っております。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。
『チップス先生さようなら 』 作品データ
原題:GOODBYE, MR. CHIPS
アメリカ・イギリス 1939年 モノクロ 114分
監督:サム・ウッド
製作:ヴィクター・サヴァル
原作:ジェームズ・ヒルトン
脚本:R・C・シェリフ、クローディン・ウェスト
エリック・マスクウィッツ
撮影:フレディ・ヤング
編集:チャールズ・フレンド
音楽:リチャード・アディンセル
出演:ロバート・ドーナット、グリア・ガーソン
テリー・キルバーン、ポール・ヘンドリード
ジョン・ミルズ、ジュディス・ファース