Vol.60『蛇の穴』の続き

 今回ご紹介する『蛇の穴』の主人公ヴァージニアは、カタトニア(緊張病)で精神を病んでいる患者です。過去の記憶が欠落して思い出せず、突然思い付いた事を言い出したりします。物語はヴァージニアの視点で語られ、それにキック医師の原因究明の話が導入されて進行します。劇中ヴァージニアの心の声と誰かの声が聞こえて、精神を患った人の心理状態が表現されています。

クラレンスとヴァージニア(左) ヴァージニアに話しかけるキック医師(右

 精神病院の中庭にあるベンチに座るヴァージニア。彼女の頭の中に誰かの声が聞こえて来て、それに頭の中で答えています。横を見ると同じベンチに座っている女性に気が付き、その女性に近づいて話し掛けます。そのベンチに座っているのはクレランスで、ヴァージニアの事が心配でいつも傍にいますが、ヴァージニアは知らない人だと思って話掛けます。(冒頭からヴァージニアの頭の中の混乱振りが、よく分かる演出です。)病棟に戻る指示を聞きクラレスは、ヴァージニアの手を取って病院の入り口に向かいます。ヴァージニアは自分が入院患者だと自覚していないので、意味不明の事を言いながら病棟に入っていきます。病院内に入って行きながら、ヴァージニアは頭の中に思い浮かぶ事を口走ります。病院内を見回して刑務所にいると思い逃げ出そうとしますが、それをクレランスが止めます。そこに担当のキック医師が現れてヴァージニアに声を掛けます。彼女は見知らぬ人に話しかけられたと思い警戒し、キック医師の質問には支離滅裂な答えを返します。結婚しているかと聞かれて最初は未婚だと答えますが、直ぐに結婚していると答えます。それを聞いた夫のロバートは、彼女に自分が夫のロバートだと言いますが彼女には分かりません。それを見ていたキック医師は、ロバートを彼女から引き離してその場を去ります。

食堂で食事をするヴァ-ジニアとロバート(左)
映画館でプレゼントするライターで煙草に火を点けるヴァ-ジニア(右)
(映画館は禁煙でしたが、1950年代までは日本も喫煙する人が結構いました。)

 画面が変わってキック医師の執務室。キック医師は、ヴァージニアが発病した原因を究明する為にロバートを病院に呼び出していました。ロバートはヴァージニアの過去の出来事をキック医師に語り始めます。ロバートがシカゴの出版社で編集の仕事をしている時に、彼女が持ち込んだ小説は採用されなかったと伝えたのが最初の出会いでした。(この時、彼は彼女にマッチを貰います。)彼はいつも下の階の食堂で昼食を食べていましたが、ある日彼女を食堂で見かけ同席して一緒に食事するようになります。何度か食堂で会って、二人が好きなクラッシックのコンサートに行ったりデートするようになります。ある日、コンサートに行く前に時間潰しをしていた時、16時40分を指す時計を見た途端に彼女はコンサートに行けないと言ってその場から去ります。その後、彼はニューヨークのオデオン・ホテルで働き始め、クラッシック・コンサートに行っては彼女を捜します。半年後のボストン交響楽団のコンサートで、彼女と再会します。(この時、彼女は彼の煙草にマッチで火を点けます。)又、以前の様にデートを重ねる日々が続き、二人で映画を観に行ったときに彼女は彼にライターをプレゼントします。二人でニュース映画(1960年代前半までだったと思いますが、映画の本編が始まる前にニュース映画が上映されていました。ニュース映画や短編のサイレント映画だけを上映する映画館もありました。昔の映画館は現在のような入れ替え制では無かったので、同じ映画を何度でも観る事が出来ました。)を見ている時に、彼女は画面上の5月12日の文字を観て表情が変わります。映画館から出たヴァージニアの具合が悪そうなのでロバートが声をかけると、彼女は私と結婚したいかと聞きます。何度も求婚しているロバートは結婚しようと答え、彼女の望むように翌朝結婚します。結婚から数日後、ロバートが帰宅するとヴァージニアの様子がおかしくなっていて、日付も分からず夫のロバートの事も分からなくなりました。それでロバートは彼女を病院に入院させましたと、キック医師に話します。話を聞いたキック医師は、5月12日が病気の原因究明の鍵になると判断し、ショック療法をするとロバートに伝えます。

電気ショック治療機(左)     頭に電極を付けられたヴァ-ジニア(右

 画面が変わって、ヴァージニアのショック療法が始まる場面になります。(1933年にカタトニアの治療法としてインシュリンによる低血糖昏睡による治療が行われ、1939年に頭部に通電するショック療法も行われるようになりました。1950年代に精神病治療薬が開発されてからは、ショック療法は減少しています。)グレイスに付き添われてベンチに座るヴァージニアは、非常に怯えています。治療室に入ると真ん中に丸いメーターが付いた黒い箱状の電気装置が目に入ります。怯える彼女をキック医師は、ベッドに寝かせます。3人の看護師が彼女の足を押さえ付け、頭の両側に電極を付けられます。彼女は処刑されるのかと思っている時に、電気ショック治療が始まります。10月4日から10月16日までの間に4回の電気ショック治療が行われました。大きな変化が無かった4回目の治療の次の日の夜、キック医師は彼女と話して変化の兆しを感じます。翌日ショック療法を中止し、執務室でヴァージニアと面談します。

ヴァ-ジニアから過去の出来事を聞き出すキック医師(左)
中庭でランチを取るロバートとヴァージニア(右)

 画面が変わって執務室、ヴァージニアはキック医師と昨晩会った事を記憶していて症状に変化が現れています。キック医師が“5月12日”の日付を出した途端に彼女は取り乱し、机の上のナイフに眼が行きます。忘れたい過去の事に触れられた時、凶暴性が一瞬頭に思い浮かぶ事があります。キック医師は確信に近づいたと確信し、彼女を落ち着かせて面談を続けます。彼女は断片的に記憶を取り戻し、キック医師に夫ロバートの事も聞き始めます。キック医師は、ロバートが面会日には必ず会いに来ている事を彼女に伝えます。面会日にロバートが会いに来ますが、彼女は偽物じゃないかと疑りながら話します。二人は病院から出て庭でランチをしますが、ドアに鍵が掛かっていない事に驚きながら外に出ます。彼女は鶏肉をかぶりつき、その後喫煙する時にロバートが彼女からプレゼントされたライターを渡します。“RC”のイニシャルが書いてあるライターを見て、彼女は本当の夫だと安心します。

シカゴでの出来事を聞き出すキック医師(左)
ヴァージニアに求婚するゴードン(右

 キック医師は病院側からヴァージニアを退院させるように指示を受け、手っ取り早い方法(恐らくインシュリンによる低血糖昏睡)で原因追及をします。この治療によって彼女が、シカゴで突然コンサート行きを止めて帰宅した理由が判明します。彼女がその頃付き合っていたゴードンと6時30分に会う為でした。その日ゴードンと車で出掛けますが、車中でゴードンに求婚されて彼女は取り乱します。ゴードンに気分が悪くなったから引き返すように頼み、ゴードンは引き返します。その時トレーラーと衝突してゴードンは死亡した事が分かります。(この場面でのオリヴィアの演技は迫力満点です。)この話を聞いたキック医師は、ヴァージニアの退院を中止するように進言しますが、病院側は彼女を退院させようとします。

ヴァージニアに退院審査の事を話すロバート(左)
台詞無しで一瞬登場するメエ・マーシュ(右

 画面が変わって患者用の食堂。ロバートはアイスクリームとコーヒーを買っている間、ヴァージニアは席に座って周りにいる人達を観察して色々思いを巡らしています。(この場面でメエ・マ-ーシュがワン・シーン登場します。)ロバートが退院審査の話をし、退院してロバートの母親の農場に行って暮らそうと言います。ギフォード院長が退院審査の許可を出したし、キック先生も同意しているとロバートが彼女に伝えます。

ヴァージニアに質問をするカーティス医長(左)
ヴァージニを落ち着かせるキック医師(右

 退院審査の日、最初キック医師がヴァージニアに質問に答えるように依頼しますが、話がかみ合わずカーティス医長と変わり質問が始まります。住所を聞かれますが、思い出せません。夫ロバートの職業も以前の仕事の事しか分かりません。動揺しているヴァージニアにカーティス医長は、働いた事はあるかと聞きます。彼女は働いた事はあると言い、自分の社会保険番号を言い出します。カーティス医長は社会保険番号を覚えているのに、住所も言えないのかと彼女の鼻先に葉巻を持った指先を向けて言います。キック医師は審査を中止するように言います。彼女はその指先を自分に向けてくる動作に恐怖を感じ、頭の中に嵐の海が現れ溺れそうな自分が映し出されます。彼女は崖の上に上がる為に両手を掛けていますが、看護師がその手を外したので海に落ちます。すると彼女は一人用の風呂に入っている画面に変わります。看護師と言い合いしている時にキック医師が来て話しかけても彼女は話をしなくなります。

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『蛇の穴』 作品データ

アメリカ モノクロ 108分

原題:The Snake Pit

監督:アナトール・リトヴァク

脚本:フランク・パルトス、ミレン・ブランド

原作:メアリー・ジェーン・ウォード

製作:アナトール・リトヴァク、 ロバート・バスラー

撮影:レオ・トーバー

音楽:アルフレッド・ニューマン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:ヴァージニア・カニンガム

   マーク・スティーブンス:ロバート・カニンガム

   レオ・ゲン:マーク・キック医師

   セレステ・ホルム:グレイス

   グレン・ランガン:テリー医師

   ヘレン・グレイグ:看護師ベティ

   リーフ・エリクソン:ゴードン

   ビューラ・ボンダイ:ミセス・グリア

Vol.59『蛇の穴』

 今回ご紹介するのは1948年の『蛇の穴』で、主演は前回の『暗い鏡』に続いてオリヴィア・デ・ハヴィランドです。原作者のメアリー・ジェーン・ウォードの自伝的小説「蛇の穴」を映画化したものです。小説はウォードの実体験を基に、主要な登場人物は実際の人物をモデルにして書かれています。題名の「蛇の穴」とは、凶暴で危険な精神病患者を収容する病棟の事です。アナトール・リトヴァク監督は精神病院で入念な取材を行い、医師の助言を得ながら映画を製作しています。主役のハヴィランドは3か月ほど精神病院に通い、患者と共に過ごして交流をして多くを学んでいます。この映画に出演しているのは全員プロの俳優で、実際の州立精神病院で撮影されています。精神病院の実態を描いたこの映画は、公開後様々な反響があり精神病院の改善にも繋がっています。

発売元:株式会社ジュネス企画

【スタッフとキャストの紹介】

アナトール・リトヴァク

 監督のアナトール・リトヴァク(1902年5月10日~1974年12月15日)は、ロシア(現ウクライナ)出身で、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカで活躍しました。本作では監督と製作もしています。1916年にサンクト・ベテルブルグの前衛劇場で舞台俳優としてデビューし、大学で哲学と共に演技も学んで劇団の俳優兼助手となりました。1923年からノルドキノ・スタジオに入り、数本の舞台劇で脚本や美術を担当しました。同年ドイツに渡って映画の編集や助監督をした後、1930年からは監督としてデビューし、1931年『女人禁制』、1932年『今宵こそは』等を発表します。ナチス政権が成立した1933年にフランスに移住し、1935『最期の戦闘機』や1936年『うたかたの戀』等を発表しました。1937年に渡米してハリウッドで1937年『トヴァリッチ』、1938年『犯罪博士』・『黄昏』、1939年『戦慄のスパイ網』、1940年『凡てこの世も天国も』・『栄光の都』、1942年『純愛の誓い』等を監督しました。1942年から1945年までは、プロパガンダ映画『我々はなぜ戦うか』シリーズをフランク・キャプラ監督と共同でプロパガンダ映画を共同で監督しました。このシリーズを監督した功績により、戦後フランス政府からレジオン・ドゴール勲章を授与されました。その後もハリウッドで1948年『私は殺される』『蛇の穴』、1951年『暁前の決断』、1956年『追想』、1957年『マイヤーリング』(『うたかたの戀』をセルフ・リメイクしたTV映画で、当時夫婦だったオードリー・ヘップバーンとメル・ファーラーが出演。)等を発表しました。1960年からはヨーロッパに渡り、1961年『さようならをもう一度』、1967年『将軍たちの夜』、1970年『殺意の週末』等を発表しました。1974年12月15日、フランスのヌイイ=シュル=セーヌで亡くなりました。72歳でした。

 原作者のメアリー・ジェーン・ウォード(1905年8月7日~1981年2月27日)はアメリカの小説家で、カタトニックに罹った時の体験を小説にしたのが「蛇の穴」です。(以前はカタトニック総合失調症とされていましたが、現在ではカタトニックは総合失調症とは別の病気とされています。)幼い頃から高校生の頃までは、音楽活動をしていて作曲もしていました。その後、ノースウェスタン大学に入学し、同時にシカゴのライセウム・オブ・アーツ・コンサバトリーでも学んでいます。1928年に統計学者でアマチュア劇作家のエドワード・クエールを結婚し、彼の進言により短編小説を出版して1937年に書評家となります。1938年には2冊の小説を出版しましたが、芳しい結果は得られませんでした。1939年にグリニッチ・ビレッジに移住して出版の仕事を続けますが、経済的に苦しい状態が続きストレスにより心理的苦痛を抱えます。その上、戦争への参戦や作家としての自分の能力に対する不安、そして予定されていた平和主義的反対を主張する政治演説する事が直接の原因で、カタトニックに罹ったと言われています。彼女はロックランド州立病院に入院し、数年間の精神病棟での体験を基に小説「蛇の穴」を書き、1946年に出版されて批評家や精神医学分野の専門家から高い評価を受けます。主要な登場人物は実在の人物を基に書かれていますが、看護師は権威主義者の象徴として書かれていて、反人種差別主義と反制度的分離を現しています。「蛇の穴」を発表後は5冊の小説を発表し、最後の編集では友人になったミレン・ブランドが協力しています。その間も彼女は病気の再発で3回入院し、最後の2冊の小説は精神疾患をテーマにしています。

 脚本はフランク・パルトス(1901年7月2日~1956年12月23日)で、ハンガリー系アメリカ人の脚本家です。ブタペストで生まれた彼は事務員をしていましたが、1921年に渡米してニュージャージー州に住む継父の許に行きます。1920年代後半にMGMに入社し、1932年の『グランド・ホテル』の脚本を書きますが、スクリーン・クレジットに載らなかったのでMGMを退社します。1930年代はパラマウント映画で脚本家として活動し、1939年にPKOラジオ・ピクチャーズに移って脚本家のチャールズ・ブラケットと共同で脚本を書きました。本作ではミレン・ブラントと共同で脚本を書いて、アカデミー賞にノミネートされています。彼が手掛けた主な作品は、1937年『謎の夜』、1939年『踊るホノルル』、1940年『3階の見知らぬ男』、1944年『呪いの家』、1948年『蛇の穴』、1951年『テレブラフヒルの家』等です。

アルフレッド・ニューマン

 音楽は巨匠のアルフレッド・ニューマン(1901年3月17日~1970年2月17日)で、アメリカの映画音楽の作曲家です。母親の勧めで6歳からピアノを習い始め、単身ニューヨークに行ってピアノを習いながら作曲法等を学びます。1914年には家族もニューヨークに移って来たので、13歳で家計を助ける為にヴォードビル・ツアーに参加したり、ブロードウェイの映画館でピアニストをして働きました。この頃既に指揮者や音楽監督として高い評価を受けていました。20歳の時にブロードウェイで音楽監督となり、29歳の時にハリウッドに移って映画音楽の作曲をするようになります。1931年の『街の灯り』を始め、20世フォックス社のロゴ・マーク表示で使われるファンファーレを作曲しました。20世フォックス社の音楽部長として活躍し、1970年の『大空港』まで作曲を続けました。第二次世界大戦時のニュース映画を含め、200本以上の作品の音楽を担当してアカデミー音楽賞を9回受賞しています。作曲数が多過ぎるので、担当した映画の列記は割愛致します。

ヴァ-ジニア・カニンガム役
オリヴィア・デ・ハヴィランド(32歳)

 主役のヴァ-ジニア・スチュアート・カニンガム役は、オリヴィア・デ・ハヴィランドです。1946年『暗い鏡』に出演した同年の『遥かなる我が子』で、アカデミー主演女優賞を受賞し、1949年の『女相続人』で2度目のアカデミー主演女優賞を受賞しています。本作でも彼女は、『私は殺される』のバーバラ・スタンウィックと『ジョニー・ベリンダ』のジェーン・ワイマンと並んでアカデミー主演女優賞にノミネートされました。最終選考で『ジョニー・ベリンダ』のジェーン・ワイマンが、アカデミー主演女優賞を受賞しました。しかし彼女の演技は高く評価され、1948年のナショナル・ボード・レビュー主演女優賞。ニューヨーク映画評論家協会主演女優賞、1949年のヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞しています。(詳細はVol.56『暗い鏡』をご参照下さい。)

ロバート・カニンガム役
マーク・スティーブンス(32歳)

 ヴァ-ジニアの夫のロバート・カニンガム役は、マーク・スティーブンス(1916年12月13日~1994年9月15日)です。オハイオ州クリーブランド生まれのスティーブンスは画家を目指していましたが、オハイオ州のアクロンでラジオのアナウンサーとなり活動します。1943年にハリウッドに移り、スティーブン・リチャーズの名でワーナーブラザーズから映画デビューします。1944年『ハリウッド玉手箱』、1945年『決死のビルマ戦線』の他に10本程の映画に出演しましたが、ノン・クレジットの小さな役しか与えられませんでした。1945年に20世紀フォックスと契約し、マーク・スティーブンスと改名します。1946年の『小さな愛の日』でジョーン・フォンテンと共演し、『闇の曲り角』ではルシル・ボールと共演しました。リチャード・ウィドマークが映画デビューした1948年の『情無用の街』ではジョン・マッキンタイアと共演し、FBIの潜入捜査官を演じました。本作に続き、1950年『拳銃無情』、1952年『カリブの反乱』、1953年『コロラドの決闘』等に出演しました。スティーブンスは俳優だけでは無く監督もし、1957年からTV映画にも出演していました。1994年9月15日、スティーブンスはスペインのマジョレスで癌の為77歳で亡くなりました。

マーク・キック医師役
レオ・ゲン(43歳)

 マーク・キック医師役は、イギリスの俳優で法廷弁護士のレオ・ゲン(1905年8月9日~1978年1月26日)です。彼はケンブリッジ大学の法科で学び、劇団の法律顧問をしているうちに演劇の道に進み、1930年にロンドンで舞台デビューしました。その後、1938年のブロードウェイの舞台出演まで、数多くの舞台劇に出演しました。1935年に『不滅の紳士』で映画デビューし、1938年『太鼓』・『ピグマリオン』(ノン・クレジット)に出演しました。戦争が近づくと、ゲンは1938年に将校緊急予備役に加わり、1940年7月6日に大率砲兵隊に入隊しました。1943年に中佐に昇進し、1945年にクロワ・ド・ゲール勲章を授与されました。ゲンはベルゼン強制収容所での戦争犯罪を調査する英国部隊の一員で、ドイツのリューネブルクで開催されたベルゼン戦争犯罪裁判の検事補を務めました。

 1944年にローレンス・オリビエが監督・主演した『ヘンリー5世』、1945年の『シーザーとクレオパトラ』、1946年『青の恐怖』等のイギリス映画に出演しました。1948年『蛇の穴』・『ビロードの手袋』、1950年『木馬』、1951年『クォ・ヴァディス』、1953年『赤いベレー』、1955年『恐喝』・『チャタレー夫人の恋人』ではクリフォード・チャタレー卿を演じています、1956年『白鯨』、1960年『ローマは夜だった』、1962年『史上最大の作戦』、1963年『北京の55日』、1962年『姿なき殺人者』、1971年『幻想殺人』等に出演しています。レオ・ゲンは1976年1月26日、肺炎の合併症により心臓発作の為ロンドンで亡くなりました。74歳でした。

グレイス役
セレステ・ホルム(31歳)

 グレイスを演じたセレステ・ホルム(1917年4月29日~2012年7月15日)は、ニューヨーク出身の舞台、映画、テレビの女優です。彼女は、シカゴのユニバーシティ・スクール・フォー・ガールズ(私立高校)に入学し、その後フランシス・W・.パーカー・スクールに転校して多くの学校の舞台作品に出演しました。高校卒業後にシカゴ大学で演劇を学び、1938年からブロードウェイの舞台に立ち1994年まで舞台への出演を続けました。1946年には20世紀フォックスから映画にも出演するようになり、1947年の『紳士協定』でアカデミー助演女優賞とゴールデングローブ賞の助演女優賞を受賞しました。その後、1948年『蛇の穴』、1949年『日曜日は鶏料理』、1950年『イヴの総て』、1956年『上流社会』等に出演しました。1950年代後半からはテレビ出演が多くなり、1970年代から1980年代には多くのテレビ映画にゲスト出演しています。アクターズ・スタジオの終身会員だったホルムは、1968年のサラ・シドンズ賞を始め多くの栄誉を受けています。彼女は2002年から記憶喪失の治療を受けていて、皮膚がん、出血性潰瘍、肺虚脱を患い、人工股関節置換術とペースメーカーを装着していました。2012年6月、脱水症状でニューヨークのルーズベルト病院に入院し、7月13日に心臓発作を起こしました。7月15日にセントラルパーク・ウエストのアパートで亡くなりました。95歳でした。

看護師ベティ役
ヘレン・グレイグ(36歳)

 看護師ベティ役のヘレン・グレイグ(1912年5月13日~1986年7月20日)は、テキサス州サンアントニオ生まれのアメリカの俳優です。彼女はオーソン・ウェルズとジョン・ハウスマンが設立したマーキュリー・シアターで演劇を学び、ブロードウェイで数多くの舞台劇に出演しています。特に1940年の舞台劇「ジョニー・ベリンダ」で主役のベリンダを演じたのが有名です。聴覚障害者のベリンダを演じる為、劇中台詞は全て手話で行い、他の俳優の台詞には絶対反応しない難しい役をこなしました。彼女は舞台劇の他に映画やTVにも出演していました。主な出演映画は、1948年『蛇の穴』『夜の人々』、1977年『幸福の旅路』等です。

ミセス・グリア役
ビューラ・ボンディ(59歳)

 ワン・シーンだけ登場するミセス・グリア役は、ビューラ・ボンディです。舞台俳優としてのキャリアが長く、映画デビューは43歳だったのでお母さん役やお婆さん役が多いアメリカの女優です。シリアスな役からコミカルな役まで見事に演じる名脇役です。(詳細はVol.33『モーガン先生のロマンス』をご参照下さい。)

トミーの母親役
メエ・マーシュ(54歳)

 トミーの母親役で、メエ・マーシュ(1894年11月9日~1968年2月13日)がノン・クレジットでワン・シーンだけ登場します。彼女は1915年の『國民の創生』と1916年の『イントレランス』に出演し、ジョン・フォードの作品に多数出演しています。その後は散発的に小さい役やノン・クレジットでも映画に出演しています。

 次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています

Vol.58 『暗い鏡』の最終章

『暗い鏡』のトップはこちら

ルースをデートに誘うスコット(左)   ルースを動揺させるテリー(右)

 診療所でテリーが自由連想法の検査を受けています。スコットの質問の中で「死」と云う問いにテリーは「鏡」と答え、それからは自分のミスを隠すように答えます。その日の検査が終わってから、テリーはスコットをデートに誘い、全ての検査が終わってからデートする約束をします。別の日、ルースの検査が終わって家の前まで送って来たスコットは、ルースに検査が終了したらデートして欲しいと言います。ルースは快諾し二人はキスをしますが、二階の窓からテリーが見ていました。帰宅したルースが明かりの消えた寝室に入ると、テリーはベッドで横になっていました。ルースが洗面所で着替えている時に、テリーは睡眠薬を2錠飲むように言います。ルースは飲まないと言うと、寝ている時に話したり泣いたりするとテリーが言い、昨日は泣いていたから起こしたと言います。ルースは知らないし覚えていないと言いますが、テリーは何か恐れているみたいだったと言います。テリーはさり気なくスコットとの事も聞き、それからルースに何を恐れているのかと聞きます。ルースが見当もつかないと言いますが、私はどうしようと言っていたと言い、テリーは双子の一人は異常者だと言います。ルースは否定しますが、動揺を抑える為に睡眠薬を飲む事にします。(このシーンは特撮で、鏡台の前に座っているルースと鏡に映ったテリーが会話します。)

うそ発見器の検査を受けるテリー(左)
部屋の中が光ったと言って飛び起きたルース(右)

 検査も終わりに近づき、テリーはうそ発見器を使った検査を受けます。ここでスコットは、以前ルースとボーイフレンドを別れさせた時の話を質問します。スコットの質問にテリーは嘘の作り話をしますが、針の動きで嘘が明確に分かります。画面が変わってコリンズ姉妹の寝室、テリーは寝ているルースの様子を伺い、ベットの横の電気スタンドを一瞬点けます。ルースは驚いてテリーの名を呼んで起き上がり、部屋がピカッと光ったと言います。テリーは夢を見ただけだと言いますが、ルースは気が変になりそうと言って怯えます。テリーはルースを宥めて眠るように言います。

テリーの検査結果を警部補に伝えるスコット(左)
ルースを食事に誘うスコット(右)

 画面が変わって、診療所でスコットは警部補にテリーが犯人だろうと言います。テリーは病んでいて精神レベルは2歳程度で、善悪の判断がつかないと言います。警部補は逮捕には決定的な証拠が必要だと言い帰宅します。帰り際に警部補は、テリーの事をルースに伝えるようにスコットに言い、貴方も気を付けるよう言います。スコットは早速ルースに電話をし、テリーに内緒で会おうと言い、11時に会う約束をします。処が電話を切った直後にルースが訪問して来て、電話に出たのはテリーだと気が付きます。スコットはルースを食事に誘い出掛けます。食事が終わり帰る時に、スコットは警部補に電話をして自分が囮になると言い、10時半ごろ電話をすると言って電話を切ります。

 ルースが帰宅するとテリーは何処に行っていたのかと聞き、スコットと一緒だったかと聞きます。ルースは、一人で散歩していたと嘘を言います。テリーは踊りに行くと言って出掛けますが、その時チェストからルースのハンドバッグをこっそり持って行きます。スコットの家を訪れたテリーは、ルースを演じる手始めにソファーの上にルースのハンドバッグを落としたりします。スコットは重要な話があって君を呼んだ、実はテリーは精神の病に侵されている。危険な状態になっているから、早く治療する必要がある。テリーを説得して欲しいと言います。(この場面のスコットとテリーの演技は素晴らしいです。淡々と話すスコットと、話が進むに従って表情が変わって行くテリーとの、緊張感に溢れる演技のぶつかり合いです。)スコットはテリーの人格が歪んでしまった理由を説明し、危険な状態だから説得するように言います。ルースを演じているテリーは、治療をテリーが拒んだらとスコットに言います。そこでスコットは、”テリー”君が拒んだら殺人犯とその動機を警察に伝えると言います。スコットは事件当日の出来事をテリーに話して、治療するように説得しますが、テリーは断ります。その時電話が鳴り、スコットが電話に出ると警部補から大変な連絡を受けます。スコットが背を向けている時にテリーは机の上のハサミを見付け、手袋を着用し始めます。(殺意を感じる緊張したシーンです。)電話を切ったスコットが振り返り、ルースが死んだとテリーに言います。

自分はルースだと言ってテリーがペラルタ医師を殺害したと言います(左)
鏡に映ったルースを睨みつけるテリー(右)

 画面が変わって、テリーの家には警部補と刑事と検視官がいて、警部補はテリーを慰めます。テリーは泣き崩れ、泣きながらルースの自殺の原因を話し始めます。罪悪感に悩んでいて、彼女は解放されたんだと言います。テリーの表情が徐々に変って自分はルースだと言い出し、テリーは異常者でペラルタ医師を殺したと言って犯行の動機を話します。警部補が貴女はテリーでしょうと言いますが、テリーは私がルースと言います。そこに隣室にいたスコットが現れ、警部補に彼女はテリーだと言います。警部補はスコットに証明できるか尋ねると、スコットが出来ると言っている時に、隣室にいたルースが現れます。鏡に映るルースを見たテリーは、灰皿を掴み鏡に向かって投げつけます。(この時のテリーの表情は、鬼気迫るもの凄い表情で別人かと思うくらいです。)

警部補はテリーに自白させる為に策を練った事をスコットに謝罪します(左)
スコットはテリーに煙草入れをプレゼントします(右)

 画面が変わってスコットの家、警部補がルースと一芝居うった事を謝罪します。警部補 はルースがテリーに殺されると思い、ルースの家に行った時に思い付いたと話します。スコットは隣室にいるルースに食事を運びます。そのトレーには食事と一緒にオルゴール付き煙草入れがあり、ルースにプレゼントします。(今と違って昔の映画では、男女共に喫煙するシーンが多いです。余談ですが、日本では煙草のニコチンが悪者になっていますが、認知症の治療にニコチンが使われています。身体に悪いと言われているは過酸化水素ですが、免疫機能が正常であれば体内で分解されます。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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『暗い鏡』作品データ

1946年製作 アメリカ 85分
原題:The Dark Mirror

監督:ロバート シオドマク

脚本:ナナリー・ジョンソン

原作:ウラジミ・ポズナー

製作:ナナリー・ジョンソン

撮影:ミルトン・クラスナー

音楽:ディミトリ・ティオムキン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:テリー・コリンズ

   オリヴィア・デ・ハヴィランド:ルース・コリンズ

   リュー・エアーズ:スコット・エリオット医師

   トーマス・ミッチェル:スティーブンソン警部補

   リチャード・ロング:ラスティ

   ゲイリー・オーウェン:フランクリン

Vol.57 『暗い鏡』の続き

電気スタンドが倒れた室内(左)   ナイフで殺されたペラルタ医師(右)

 タイトル画面の背景はインクブロット検査(インクを落とした紙を半分に折って出来た模様を使って精神分析をする検査です。)の模様が表示されていて、その上にクレジットが流れます。窓から見える夜景の画面から、カメラは横に移動して22時50分を指す時計が映されます。カメラは再び横に移動して、隣の部屋の中で倒れた電気スタンドがあり、部屋の中に入ると割れた鏡が映されて、背中にナイフが刺さった男が床に倒れています。殺人現場からの導入で、非常に簡潔にその部屋で起こった事が分かる手際の良い演出です。

テリーに犯行時刻のアリバイを聞く警部補(左)
テリーを抱き上げるエリオット医師(右)

 画面が変わってスティーブンソン警部補が、犯行があったアパートの住人や関係者からの証言を聴取します。被害者フランク・ラベルタ医師の秘書の証言から、医療ビルの売店の売り子テリー・コリンズを容疑者と断定します。医療ビルの売店にアパートの住人二人を連れて行き、容疑者の確認をします。二人の証人から犯行時間頃に見かけたのは、テリー・コリンズだと確証を得て警部補は彼女に会いに行きます。しかし、彼女は20時から公園に散歩に出ていて、その時数人の人と会い23時30分頃帰宅したと証言します。そこで警部補は、ラベルタ医師が殺された事を彼女に伝えます。それを聞いた彼女は歩き出しますが気を失い、スコット・エリオット医師に抱きかかえられて彼の診療室に運び込まれます。

テリーに昨夜のアリバイを聞くスティーブンソン警部補(左)
【テリーとルースに昨夜のアリバイを聞く警部補(右)

 警部補はテリーのアリバイを確認する為に、散歩中に会った二人と公園で話した三人の証言から、彼女のアリバイが完璧であると知ります。署に戻った警部補は、スコットの診療所にいる刑事に電話をして、彼女の拘束を解くと伝えます。警部は殺人事件が起きた時刻に、殺人現場から7㎞離れた公園に同一人物が存在する事に困惑します。そこで警部補は、テリーからもう一度話を聞く為に彼女の家を訪問します。警部補は貴方のアリバイは完璧ですと言い、彼女は事実だから当然ですと答えます。警部補は彼女に煙草を勧め、被害者のペラルタ医師との関係を聞きますが、必要な情報は得られません。テリーは警部補にもう遅いから帰るように言っている時、隣の部屋から“テリー”と呼びかける声がします。その声を聞いて警部補がその部屋のドアを開けると、そこにはもう一人のテリーがいます。彼女は姉のルースで、警部補は同一時刻に別の場所に同じ人間がいた訳が分かります。コリンズ姉妹は医療ビルではテリー・コリンズと名乗り、二人は時々入れ替っていました。そこで警部補は公園にいたのはどっちかと尋ねます。テリーの答えは、一人は公園で一人は家で寝ていたと答えます。警部補はテリーと言い合いになり、ルースに家にいたのはどっちか尋ねますが、ルースの答えは一人は公園で一人はと言った処で、警部補はどっちなんだと言います。それでは二人とも逮捕するか言うとテリーが反論し、話は収拾がつかなくなりテリーは警部補を帰します。

面通しを受けるコリンズ姉妹(左)
双子の姉妹を見て唖然とする証人たち(右)

 画面が変わって警察署では凶器のナイフから指紋が出ないので、ヒル判事にコリンズ姉妹への殺人容疑の令状を請求します。翌日警察署に証人を集めて、容疑者の所謂面通しを行います。最初にルースが出てきて、それを見た証人の一人は彼女に名違いない、一万人出てきても分かると豪語します。次にテリーが登場すると、全員唖然とします。

テリーに双子の姉がいたのを見て驚くスコットとラスティ(左)
双子のルースとテリー(右)

 画面が変わって別室でスコットとラスティが待機していて、呼ばれて二人は部屋に入り、テリーには双子の姉がいる事を知り二人は驚きます。判事はラスティに、事件当日売店の売り子とペラルタ医師が口論していたのを目撃したか聞き、ラスティはそうですと答えます。次に判事はスコットに、あなたは双子の研究をされていますねと言い、双子は精神や肉体に欠陥があるかと尋ねます。スコットは、それは迷信ですと否定します。続けて判事は、事件当日ペラルタ医師に会った時に話をしたか聞きます。スコットは、二重人格について聞かれたと答えます。判事が二重人格は危険かと聞くので、危険ですと答えます。

判事の質問に答えるスコット(左)   コリンズ姉妹を解放する検事(右)

 判事はペラルタ医師が朝テリーと喧嘩をしたが、今夜大事な話があると言っていたと伝えます。判事は事件当日会ったのは二人のどっちか聞きますが、スコットは分からないとと答えます。結論が出ないままスコットとラスティは帰され、コリンズ姉妹は隣の部屋に移されます。警部補は判事に見逃すのか聞きますが、判事は犯人を特定出来ないので逮捕する事は出来ないと言います。コリンズ姉妹を再び部屋に入れ君達のどちらかは冷酷非情な殺人者だが、遺憾ながら逮捕する事は出来ないと言って二人を帰します。(このシーンでのテリーとルースの表情を見て頂きたい、勝気なテリーと内気なルースを見事に演じ分けています。)

スコットにコリンズ姉妹の調査依頼をする警部補(左)
【コリンズ姉妹に双子の研究協力を依頼するスコット(右)

 画面が変わって、スコットの家を警部補が尋ねて来ます。警部補は双子事件の話を始めると、スコットが捜査は終了したのでは無いかと言います、警部補は個人的に動いていると言い、完全犯罪が成立するのが不愉快だと言い、二人を調べて欲しいと言います。スコットは断りますが、殺人者と無実の人間が一緒では口封じに殺されるかも知れないと言います。スコットは、警部補の説得に応じコリンズ姉妹の人格と個性を調べる事にします。(このシーンでの警部補の表情の変化は、流石といった演技です。)スコットはコリンズ姉妹の家に行き、自分の研究の為に謝礼を出すので協力して貰えないかと頼みます。二人は殺人事件の容疑者として新聞に載り、仕事に就けない状態になっていました。最初ルースは拒否しますが、テリーがルースを説得して彼の依頼を受けます。

インクブロット検査を受けるテリー(左)
インクブロット検査を受けるルース(右)

 画面が変わって夜間のスコットの診療所、テリーが検査の為に訪れます。先ずは性格を分析する為に、インクブロット検査から始まります。紙にインクを落として半分に折って広げた模様を見て、何に見えるか答えて行きます。別の日の昼間に今度はルースが診療所を訪れ、過去の養子縁組の話をします。養子は一人でテリーが選ばれなかったので、ルースはその家から出て行ったと言います。スコットは話を聞きながら、インクブロット検査をします。同じ模様を見ても、当然二人の答えは全然違います。夜ルースが帰宅すると、テリーが夕食の準備をしていて遅い帰宅の事を尋ねます。ルースはスコットと話をしていたと楽しそうに言います。テリーはスコットを未だ信じていないので、気を付けるようにとルースに言います。その頃、スコットは二人の精神分析を行い、重大な事を発見します。直ちにスコットは警部補に会い、精神分析結果で一つ分かった事がある。一人は異常者で、非常に頭は良いが正気じゃないと伝えます。

自由連想法の検査を受けるルース(左)
ルースに私を疑っていると言うテリー(右)

 画面が変わって、診療所でルースが自由連想法の検査をします。質問された言葉に素早く思い付いた言葉を言う検査で、人格を調べる為に行うものです。検査が始まって、「鏡」と云う問いにルースは「死」と言い、彼女は一瞬驚きます。その後、検査は最後まで続きます。帰宅後、ルースがその話をするとテリーは私を疑っていると言って、怒って隣の部屋に行きます。ルースは疑っていないと言いながら、テリーを追いかけて隣の部屋に行きます。テリーはルースに睡眠薬を飲んでいるか尋ねます。あの事件以来眠れないから飲んでいると言い、あなたも飲んでいるでしょうと言います。その時テリーは警察に言っていない事が一つあると言い、ルースに警察に電話したいならするように言います。そして、私を疑ったらどうなるか分からないと言います。(このシーンではテリーとルースが同一画面に登場します。窓際に立つテリーは後ろ姿か、正面を向いた時の顔は影になって見えません。)

次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『暗い鏡』作品データ

1946年製作 アメリカ 85分
原題:The Dark Mirror

監督:ロバート シオドマク

脚本:ナナリー・ジョンソン

原作:ウラジミ・ポズナー

製作:ナナリー・ジョンソン

撮影:ミルトン・クラスナー

音楽:ディミトリ・ティオムキン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:テリー・コリンズ

   オリヴィア・デ・ハヴィランド:ルース・コリンズ

   リュー・エアーズ:スコット・エリオット医師

   トーマス・ミッチェル:スティーブンソン警部補

   リチャード・ロング:ラスティ

   ゲイリー・オーウェン:フランクリン

Vol.56 『暗い鏡』

発売元:ブロードウェイ

 今回ご紹介するのはミステリー映画ですが、オリヴィア・デ・ハヴィランドの一人二役の素晴らしい演技を見て頂きたい作品です。一人二役の俳優が同一画面に登場する映画は沢山あります。本作では、ソファーに座る一人二役のオリヴィア・デ・ハヴィランドが、もう一人のオリヴィア・デ・ハヴィランドの頭を抱きかかえるシーンがあります。フィルム撮影では不可能で、どうやって撮影されたのか一瞬驚く場面です。一人二役の映画を撮る時は、必ず代役を演じる俳優さんが必要です。二人が対話するシーンでは、カメラは一人を背中越しに撮りもう一人は対面状態で撮ります。このシーンで背中を向けているのが代役の俳優さんです。この頭を抱えているシーンでは、代役の横顔だけが見えています。眉毛や目の輪郭はメイキャップでカバー出来ますが、耳の形や耳穴の形が違いますし、唇の形状も違うように思います。以前日本映画で、一人二役の俳優が握手をするシーンを観た事がありました。大曾根辰夫監督の1952年の『魔像』で、主役の坂東妻三郎が一人二役を演じた映画です。ラスト・シーンで二人が握手をしますが、耳の形状と口回りが違うように感じました。CGを使える現在と違い、実写で同時に同じ人間を撮影する方法は無いと思っております。これは私の憶測ですが、如何でしょうか。ご興味が湧いた方は是非DVDでご確認下さい。

テリーは正面から写しますが、ルースを写す時は左側の横顔だけです

【スタッフとキャストの紹介】

ロバート・シオドマク監督

 監督はフィルム・ノアールの巨匠と言われているロバート シオドマク(1900年8月8日~1973年3月10日)です。彼はドイツのドリスデン生まれの映画監督です。マールブルク大学卒業後、ドイツ国営映画会社のウーファー社に入社して助監督・脚本家として活動を始めます。1930年にはビリー・ワイルダーと組んでコメディを監督し、その後スリラー映画を監督します。ナチス政権が樹立した頃の1933年にパリに移り、コメディ・ミュージカル・ドラマと様々なジャンルの映画を監督します。仕事は順調でしたが、ナチスのパリ侵攻前の1938年にカリフォルニアに渡ります。1941年にパラマウント映画で2年間、1943年にはユニバーサル・スタジオで7年間映画監督として活躍し、1940年代にはアルフレッド・ヒッチコックやフィリッツ・ラングと並ぶスリラー映画の代表的な監督となります。主な作品は、1936年『フロウ氏の犯罪』、1944年『幻の女』・『コブラ・ウーマン』、1945年『容疑者』『らせん階段』、1946年『暗い鏡』『殺人者』・1948年『都会の叫び』、1949年『裏切りの街角』、1952年『真紅の盗賊』・1967年『カスター将軍』等です。ロバート・シオドマクは、1973年3月10日にスイスのロカルノで心臓発作の為、72歳で亡くなりました。。

ナナリー・ハンター・ジョンソン

 製作と脚本を担当したのは、ナナリー・ハンター・ジョンソン(1897年12月5日~1977年3月25日)です。彼はジョージア州コロンバス生まれのアメリカの脚本家・映画製作者・映画監督・劇作家と多才な方です。1927年から1967年の間に50本位以上の脚本を書き、その半分以上を製作してその内の8本を監督しています。彼はジャーナリストとして数社の新聞に寄稿していましたが、1927年に『ラフ・ハウス・ロージー』の脚本を書き脚本家としてスタートしました。1935年に20世紀フォックスに脚本家として雇われ、映画の製作もするようになります。1943年にはウィリアム・ゲッツと共同でインターナショナル・ピクチャーズを設立しています。彼が手掛けた映画で有名な作品は、1940年『怒りの葡萄』の脚本、1956年『灰色の服を着た男』の脚本と監督です。その他に1936年『虎鮫島脱獄』、1939年『地獄への道』等の脚本を書きました。1941年『タバコ・ロード』では脚本と製作、1944年『飾窓の女』、1945年『無宿者』、1946年『暗い鏡』、1950年『拳銃王』、1951年『砂漠の鬼将軍』と1952年『謎の佳人レイチェル』と1953年『百万長者と結婚する方法』では脚本と製作をしました。1954年の『夜の人々』では監督・脚本・製作をしました。1960年『燃える平原児』、1967年『特攻大作戦』等の脚本です。ジョンソンは、1977年3月25日にハリウッドで肺炎の為、79歳で亡くなりました。

ディミトリ・ティオムキン

 ディミトリ・ティオムキン(1895年5月10日~1979年11月11日)は映画音楽の作曲家・指揮者で、本作の音楽を担当しています。彼はウクライナのクレメンチューク生まれです。サンクトペテルブルク音楽院を卒業後は、ロシアのサイレント映画でピアノ伴奏して生計を立て、ピアニストになる為にピアノを学びます。ロシア革命後、父親と共にベルリンに移住し、ピアノを学びながらクラシック音楽やポピュラー音楽を作曲もしました。その後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でピアニストとして演奏デビューします。1925年にアメリカに移住し、ニューヨークで演奏活動を続けます。1929年10月の株式市場の暴落によりニューヨークでの仕事が激変し、ハリウッドに移ってMGMのミュージカル映画の音楽を担当するようになります。ノン・クレジットの場合もありましたが、1933年『不思議の国のアリス』で本格的に映画音楽を担当しました。1937年に腕を骨折し、ピアニストに復帰出来ない怪我の為、映画音楽の作曲に専念する事になります。ティオムキンは、1937年にアメリカの市民権を得ます。

 フランク・キャプラ監督との仕事が多く、1937年『失われた地平線』、1938年『我が家の楽園』、1939年『スミス都へ行く』、1941年『群衆』、1946年『素晴らしき哉、人生』の音楽を担当しています。彼が担当した映画は主な作品だけでも80作はあります。1956年『ジャイアンツ』『友情ある説得』、1957年『OK牧場の決斗』、1959年『リオ・ブラボー』、1960年『アラモ』、1961年『非情の町』、1963年『北京の55日』、1964年『ローマ帝国の滅亡』等です。1953年『真昼の決闘』、1955年『紅の翼』、1960年『老人と海』でアカデミー賞を受賞しています。『真昼の決闘』の公開時は、興行成績が悪かったので早々に公開は終わりました。ティオムキンはテーマ曲の版権を買い取り、フランキー・レーンに歌わせてシンブル・レコードを発売しました。曲は大ヒットしたので、ユナイテッド・アーチスト社はテックス・リッターに主題歌を歌わせて、4か月後に映画の上映を再開しました。TV映画の「ローハイド」や「ガン・スリンガー」のテーマ曲も担当しています。ディミトリ・ティオムキンは、1979年に転倒して骨盤を骨折した2週間後に、イギリスのロンドンで亡くなりました。84歳でした。

テリー-コリンズとルース-コリンズ役
オリヴィア-デ-ハヴィランド(30歳)

 テリー・コリンズとルース・コリンズの二役を演じるのは、オリヴィア・デ・ハヴィランド(1916年7月1日~2020年7月26日)です。彼女は勝気なテリーと控えめなルーズを、話し方や表情の変化によって見事に演じ分けています。本作で彼女は豊かな才能に裏打ちされた演技で評価を受け、その後の作品ではアカデミー賞を受賞します。オリヴィア・デ・ハヴィランドと妹のジョーン・フォンティンは東京で生まれましたが、病弱だった二人の為に母親は夫を東京に残して、1912年にロンドンに戻る事にします。旅の途中でオリヴィアが高熱で倒れた為カリフォルニアに滞在しますが、ジョーンも肺炎に罹り母親はサラトガに移住する事にします。元舞台俳優だった母親のリリアンは、二人にシェークスピアを読み聞かせをしたり音楽や弁論術を学ばせました。オリヴィアは高校時代に演劇部に所属していて、1933年に素人劇団の公演でルイス・キャロル原作の「不思議のアリス」のアリスを演じて初舞台を踏みます。1934年に高校卒業し、サラトガ・コミュニティ劇場で上演される戯曲「真夏の夜の夢」で妖精パック役を演じます。その後、ハリウッド・ボウルで上演されるマックス・ラインハルトが監督する『真夏の夜の夢』で、主役のハーミア役の俳優が降りた為に急遽代役で出演して好評を得ます。ラインハルトが「真夏の夜の夢」の映画化で監督する事になり、ハヴィランドに出演依頼をします。彼女は奨学金でミルズ大学に入学する事になっていましたが、監督の説得に従いワーナー・ブラザースと8年間の出演契約をします。1935年の『真夏の夜の夢』で映画デビューし、当時大人気の喜劇役者ジョー・E・ブラウンの1935年の『ブラウンの怪投手』を始め、3本のコメディ映画に出演します。コメディ路線の評判が芳しくなかったので、当時無名のエロール・フリンの相手役として彼女を起用し、1935年の『海賊ブラッド』に出演させます。この映画は大ヒットして、その後二人が共演する映画は8本製作されます。その間、コメディも含め色々な作品に出演しますが、彼女が望んでいたシリアスで重厚な役を演じる事がありませんだした。

 1939年の『風と共に去りぬ』のメラニー・ハミルトン役は、彼女が望んでいた役でしたが、監督のジョージ・キューカーは妹のジョーン・フォンティンにその役出演依頼をします。ジョーンはスカーレット役を望んでいたので出演を断り、姉のハヴィランドを推薦したと言われています。最終的には社長のジャック・ワーナーの妻のアンが後押ししたと言われています。メラニー役で絶賛を浴びシリアスな役を演じたいと願っていましたが、会社は相変わらず純情可憐な娘や乙女役しか演じさせない事に不満を募らせ、以前と同様な役の脚本を突き返すようになり、エロール・フリンとの共演映画も終わらせます。その後1941年『いちごブロンド』や1943年『カナリア姫』等に出演しますが、ワーナー・ブラザースはオリヴィアに6か月の契約延長を告げますが、彼女はこの申し入れを断ります。その当時の法律では、契約中の俳優が製作会社からの配役を拒否した場合は、その作品の撮影期間を契約期間に加算延長を認めていました。ベティ・ディヴィスが1930年代に訴訟を起こしましたが敗訴しています。殆どの俳優はこの契約を受け入れていましたが、1943年8月にオリヴィアは会社を相手に出演拒否に対する契約期間延長処置への訴訟を起こし、彼女は勝訴します。製作会社の絶大な権限を弱め、俳優たちに自由な創作活動を与えたこの判決は、ハリウッド映画界に大きな影響を与えました。今でもこの判例は、「デ・ハヴィランド法」と言われています。しかし、敗訴したワーナー・ブラザースは彼女に関する書簡を他の縁が製作会社に送り付け、その後彼女は「ブラック・リスト女優」として2年間映画出演する事が出来ませんでした。そしてお蔵入りになっていた『まごころ』が公開されてから、彼女はパラマウント映画と3本の出演契約をし、1946年の『暗い鏡』に出演します。この映画での演技から彼女は大きく飛躍し、シリアスで重厚な役を演じる俳優となって行きます。彼女はベティ・ディヴィスと親交が深く終生親友でした。彼女の主な出演作品は、1935年『真夏の夜の夢』『海賊ブラッド』、1936年『進め龍騎兵』、1938年『ロビンフッドの冒険』、1939年『風と共に去りぬ』、1941年『壮烈第七騎兵隊』、1943年『カナリア姫』、1946年『暗い鏡』『遥かなる我が子』、1948年『蛇の穴』、1949年『女相続人』、1952年『謎の佳人レイチェル』、1958年『誇り高き叛逆者』、1964年『不意打ち』『ふるえて眠れ』等です。

精神分析医スコット・エリオット
リュー・エアーズ(37歳)

 精神分析医スコット・エリオットを演じるのは、リュー・エアーズ(1908年12月28日~1996年12月30日)です。アメリカ合州国のミネアポリスで、バンジョー、ギター、ピアノ等が弾けるのでアリゾナ大学(薬学)卒業後、楽団に入団して演奏活動をしていました。テス社と6か月の契約をして1929年に映画デビューし、1930年の『西部戦線異状なし』で主役のポール・バウマーを演じました。衝撃的なラスト・シーンで映画は大ヒットし、演じたエアーズの名は世界中に知れ渡ります。映画俳優なり立てで有名になりましたが、経験不足もありスターにはなりませんでした。1935年からフォックス社のB級映画に出演するようになります。1938年MGMで「ドクター・キルデア(ジェームズ・キルダーレ博士)」シリーズの9本に出演しました。1942年3月に徴兵され、彼は良心的兵役拒否者を宣言します。彼の行動は、アメリカ国民にも映画会社にも受け入れられませんでした。(看護兵デスモンド・T・ドスを主人公にした2016年の映画『ハグソーリッジ』で、良心的兵役拒否者の事はお分かり頂けると思います。)エアーズは1942年5月18日アメリカ陸軍に入隊し、太平洋方面に医者と牧師の城主として任務に就きます。レイテ島やフィリピンやニューギニア等で、3年半医療軍団に活動して従軍星章を3度授与されます。この従軍星章で得た報酬は、全てアメリカ赤十字に寄付しています。1946年に映画に復帰しますが、戦争映画への出演は拒否してワーナー・ブラザースとの長期契約中も2本の映画出演だけでした。その後は時々映画に出演し、宗教活動に専念します。1960年からは、テレビ映画に出演するようになり俳優活動を再開しています。主な出演映画は、1930年『西部戦線異状なし』、1933年『あめりか祭』、1938年『素晴らしき休日』、1946年『暗い鏡』、1948年『ジョニー・ベリンダ』、1953年『ドノヴァンの脳髄』、1964年『大いなる野望』、1973年『最後の猿の惑星』等です。

スティーブンソン警部補役
トーマス・ミッチェル(54歳)

 スティーブンソン警部補を演じるのは、アメリカの映画俳優で劇作家の名優トーマス・ミッチェル(1892年7月11日~1962年12月17日)です。1939年の『駅馬車』で飲んだくれのブーン医師を演じているので、ご存じの方が多いと思います。彼はニュージャージー州エリザベス生まれで、高校卒業後に地元の新聞社に入社して新聞記者になります。1913年に新聞社を退社して、チャールズ・コバーンのシェークスピア劇団に入団して舞台俳優になります。1916年にブロードウェイ・デビューし、その後フロイド・ディールと共同で脚本を書くようになり舞台劇の演出もするようになります。1928年の舞台劇「Little Accident」が、1930年に『貰い児紛失事件』と1944年に『クーパーの花婿物語』として2度映画化されました。彼は1934年の『わたしのすべてを』で脚本家として映画界にデビューします。その後コロンビア映画と契約し、1936年の『クレイグの妻』で映画俳優として本格的にデビューします。と云うのは、彼は1度だけ1923年にサイレント映画『文明病』に映画出演していました。その後は数々の大作で存在感のある脇役として活躍しました。1939年の『駅馬車』でアカデミー助演男優賞を受賞し、テレビでは1952年にエミー賞の主演男優賞を受賞し、1953年には舞台劇「Hazel Flagg」でトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞し、アカデミー賞とエミー賞と三つの賞を受賞した最初の俳優となります。とにかく才能に溢れた方です。主な出演映画は、1937年『失はれた地平線』『ハリケーン』、1939年『駅馬車』『コンドル』『スミス都へ行く』『風と共に去りぬ』『ノートルダムの傴僂男』、1942年『運命の饗宴』、1943年『ならず者』『肉体と幻想』、1944年『西部の王者』『黒い河』、1946年『暗い鏡』『素晴らしき哉、人生!』、1952年『真昼の決闘』、1961年『ポケット一杯の幸福』等です。トーマス・ミッチェルは、11962年2月17日にフィラデルフィアの公演先で倒れ、癌の為ビバリーヒルズの自宅で亡くなりました70歳でした。

ラスティ役
リチャード・ロング(19歳)

 ラスティを演じているリチャード・ロング(1927年12月17日~1974年12月21日)は、アメリカ合州国の俳優です。1946年にアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズの『離愁』で映画デビューし、同年オーソン・ウェルズがロングの演技に感銘を受けて『オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー』に出演させ、続けて『暗い鏡』に出演しました。アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズが、ユニバーサル・ピクチャーズと合併後も1947年『卵と私』に出演しました。ロングはユニバーサル社と契約し、1948年『愛土地の大地』、1949年『裏切りの街角』で聴覚障碍者の役で素晴らしい援護をし、ラスト・シーンが印象的です1949年『ダイナマイト夫婦』、1950年『命知らずの男』に出演しました。

 1950年12月、朝鮮戦争中に徴兵されてカリフォルニア州フォート・オードで、マーティン・ミルナー、デビッデ・ジャンセン、クリント・イーストウッドらと2年間勤務しました。1953年『わたしの願い』、1954年『カスカチワの狼火』、1959年『地獄へつづく部屋』、1963年『渚のデイト』等に出演しました。その後テレビに出演するようになり、「幌馬車隊」、「西部のパラディン」、「百万弗貰ったら」、「トワイライト・ゾーン」等にゲスト出演しました。ロングはワーナー・ブラザースと契約して「連邦保安官」、「ハワイアン・アイ」等に出演し、1958年「マーベリック」でレギュラー出演しました。1959年から1960年まで「バーボン・ストリート」の主役を演じ、1960年から1962年まで「サンセット77」にレギュラー出演しました。1965年から1969年まで1「バークレイ牧場」ではビクトリア・バークレーの長男役で112話に出演しています。1970年から1971年まで「ぼくらのナニー」の主役を演じました。 ロングは若い頃に肺炎を患い、心臓が弱っていました。成人後心臓のトラブルを経験し、1961年最初の心臓発作を起こした。再度の心臓発作治療の為に、ロサンゼルスのターザナ医療センターに1か月入院した後に、1974年12月21日に47歳で亡くなりました。次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.55 『フランケンシュタインの花嫁』の最終章

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女性の怪物を創れとヘンリーに命令する怪物(左)
エリザベスを拉致する怪物(右)

 ブレトリア博士が、ヘンリー・フランケンシュタインの邸に現れます。エリザベスはヘンリーに近付かないようにブレトリア博士に言って、街を出る為の荷造りをしに部屋を出ます。ブレトリア博士はヘンリーに全て準備は整ったから後は君の仕事だと言い寄ります。ヘンリーは頑なに断りますが、ブレトリ博士は怪物を部屋に入れます。怪物はヘンリーに創るように命令しますが、ヘンリーは断り続けます。ブレトリア博士は怪物に部屋から出るように言い、怪物はエリザベスの部屋に行ってエリザベスをさらって行きます。エリベスが人質になったので、ヘンリーはブレトリア博士に協力します。

心臓の状態を監視するヘンリー(左)
心臓移植の準備を指示するヘンリー(右)

 画面が変わって高い塔の最上階の実験室。(ホエール監督は、前作のヒットにより十分な予算を得て、豪華なセットを作っています。)ヘンリーは怪物に使う心臓の観察をしていましたが、この心臓が使えないので別の心臓を調達するように博士に言います。博士はカール(彼は前作の『フランケンシュタイン』ではヘンリーの助手を演じていました。)に突然死した新しい心臓を手に入れるように言います。カールは街に出て、通り掛かった女性を殺して心臓を持ち帰ります。ヘンリーは心臓の出所を尋ねますが、博士が有耶無耶にして心臓の監視を続けさせます。ヘンリーが眠りかけた頃、怪物が現れてヘンリーに仕事を続行させようとします。ブレトリア博士は怪物に酒を飲ませると言って隣の部屋に連れ出し、睡眠薬入りの酒を飲ませて怪物を眠らせます。エリザベスの無事を知りたがるヘンリーにブレトリア博士はこの電気機器(電話ですね)で話せると言い、彼女と話しをさせます。そして、いよいよ心臓を怪物に移植し、電流を与える最終段階に入ります。(このシーンでは傾いて撮られた画面が多用され、緊張感を高めています。)

女性の怪物が横たわる蘇生装置(左)  タワーの上に上がった創生装置(右)

 怪物蘇生に必要な高電圧の電気を得る為、雷が轟く夜空に2機のカイトが上げられます。カイトに雷が落ち、女性の怪物を蘇生させる事に成功します。(前作で使われたセットを基にバージョン・アップさせて、かなり大掛かりな装置になっています。)

蘇生された女性の怪物(左)      素晴らしい髪形の女性の怪物(右)

 全身包帯で巻かれた女性の怪物の包帯が解かれ、女性の怪物が姿を現します。古代エジプトの王妃ネフェルティティを参考にして造形された髪型、顔には継接ぎをした傷跡、そして奇妙な顔の動きをさせて辺りを見回しヘンリーを見つめます。(髪型はメイキャップのジャック・P・ピアースがエルザ・ランチェスターの頭に針金で土台を作りその針金に髪を巻き付けて製作されました。顔の動きはエルザ・ランチェスターが鳩の動作を参考にした演技です。)

ヘンリーを見つめる女性の怪物(左)   喜ぶ怪物と恐れる女性の怪物(右)

 そこに怪物が現れて女性の怪物の誕生を喜び傍に行きますが、女性の怪物は彼の顔を見て驚きます。怪物は喜びながら彼女の手に触れると、彼女は悲鳴を上げます。(発情期の白鳥に敵が近づくと発する声を参考にして、エルザ・ランチェスターが奇声を上げています。)

涙を流しながら爆破装置のスイッチを入れる怪物(左)
研究所内に起る爆発(右)

 怪物は「僕を嫌い 皆と同じだ」と言い、爆破装置のレバーに手を掛けます。そこにエリザベスがドアの外からヘンリーを呼び、出てくるように言います。ヘンリーはドアを開け、出て行けないと言います。怪物は爆破装置のレバーに手を掛けてヘンリーに生きるように言い、プレトリア博士にお前は残って死ねと言って涙を流しながらレバーを下げて塔を爆破します。(この塔が爆破されて崩れていくシーンは、見事な崩れ方です。)逃げ延びたヘンリーとエリザベスが抱き合ってエンド・マークとなります。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

発売元:ユニバーサルスタジオ・ジャパン株式会社
映像特典:メイキング、音声解説、フォト-ギャラリー

『フランケンシュタインの花嫁』 作品データ

1935年製作 アメリカ 75分 モノクロ

原題:The Bride of Frankenstein

製作:カール・レムリ・Jr

監督:ジェームズ・ホエール

脚本:ウィリアム・ハールバット、ジョン・L・ボルダーストン

特殊効果:ジョン・P・フルトン

撮影:ジョン・J・メスコール

美術:チャールズ・ホール

音楽::フランツ・ワックスマン

出演:ボリス・カーロフ:怪物

   コリン・クライブ:ヘンリー・フランケンシュタイン

   ヴァレリー・ホブソン:エリザベス

   エルザ・ランチェスター:メアリー・シェリー、怪物の花嫁

   アーネスト・セジガー:ブレトリア博士

   オリバー・ピーターズ・ヘギー:盲目の隠者

   ウナ・オコナー:従者のミニー

   ドワイト・フライ:カール

   E・E・クライブ:市長

   ギャビン・ゴードン:バイロン卿

Vol.54 『フランケンシュタインの花嫁』の続き

メアリー・シェリーとバイロン卿とペーシー・ビッシュ・シェリー(左)
二人に物語を語り始めたメアリー・シェリー(右)

 嵐の夜、レマン湖畔にあるディオダティ荘と思われる建物が映し出されます。大きな居間にバイロン卿とパーシー・ビッシュ・シェリーと妻のメアリー・シェリーの3人がいます。刺繍をしているメアリーにバイロン卿が小説「フランケンシュタイン」は素晴らしい作品だと言いますが、夫のパーシーは結果が呆気なかったと言います。そこでシェリーは、あの話には続きがあると言って語り始めます。

焼け落ちる風車小屋(左)        市長に文句を言うミニー(右)

 画面が変わって前作の『フランケンシュタイン』のラスト・シーン、風車小屋が燃え落ちて行く処から物語が始まります。高台にある風車小屋が崩れ落ち、怪物も落ちていきます。それを見て喜ぶ市民に市長は私が皆を守ったと演説し、安心して帰って寝るように言います。偉そうに振舞う市長に文句を言うミニー、今回も大騒ぎするキャラクターをウナ・オコナーは好演しています。

怪物の死体を見に行こうとするハンスを止める妻(左)  怪物登場(右)

 市民が去った後、娘のマリアを怪物に殺されたハンスは、怪物の死を見届けようと下に降りようとした時、足を踏み外して川に落ちてしまいます。そこに怪物が現れてハンスは殺されてしまいます。ハンスの妻が焼け残った風車小屋からハンスに声を掛け、手が見えたので引き上げますが怪物でハンスの妻も川に突き落とされます。一人残っていたミニーの後ろに誰かが来たので振り返ると怪物だったので、悲鳴を上げながら一目散に逃げ去ります。

ヘンリーを看病するエリザベス(左)
ヘンリーを説得するブレトリア博士(右)

 ヘンリー・フランケンシュタインの死体が邸に運ばれて来て、婚約者のエリザベスに彼が死亡した事が伝えられます。死体は居間に運ばれて、エリザベスは泣き崩れます。そこにミニーが帰って来て、怪物が生きている事を執事に伝えますが信じません。死体の傍に来て独り言を言っていると、死体の手が動いてミニーが“生きている”と喚き出します。(前作でフランケンシュタイン博士は死ぬ予定でしたが、ホエール監督が生き残ったように編集し直して公開されました。)ヘンリーの体力も回復し、もう二度と怪物は作らないとエリザベスに話している時に恩師のプレトリア博士が現れます。彼は研究の手伝いをして欲しいと申し出ますが、ヘンリーもエリザベスも断ります。エリザベスがその場を離れた時に、博士は二人で手を組めば生と死の解明が出来ると言い、新しい生命体を作り出したと言います。自分の研究成果を見て欲しいと言ってヘンリーを自宅の研究所に誘います。科学者としての興味から、ヘンリーは博士の研究所に向かいます。

小さな生命体が入った瓶(左)  背景が映る瓶の中で踊る小さな生命体(右)

 研究所に入ると博士は大きな箱を持って来て、中から瓶を取り出します。その瓶の中には小さな人間が入っています。これは私が作った生命体だが、大きな生命体を作る為に君に手伝って欲しいと言います。(このシーンのでは瓶の中の生命体の動きよりも、瓶の上部や側面のガラスを通して見える背景が見事に撮影されています。もの凄い職人芸です。)もう実験をしたくないと言うヘンリーに博士は、怪物の友人を創ろうと言います。今度は女性の怪物を創ろうと持ち掛け、ヘンリーは協力することにします。

市民たちに捕えられる怪物(左)    地下牢に閉じ込められた怪物(右)

 画面が変わって、怪物は森の中を彷徨い、川を見つけて腹ばいになって水を飲みます。そして水面に映った自分の顔を似て、己の醜さを知ります。その時、崖の上に羊飼いの少女を見つけ唸り声で声を掛けます。少女は怪物を見て悲鳴を上げ、バランスを崩して川に落ちます。怪物は少女を助けに行きますが、少女が悲鳴を上げるので口を手で覆います。通り掛かった二人連れがそれを見て怪物に向かって銃を撃ちます。弾は怪物の腕に当たり、怪物は逃げ去ります。(この森のシーンのセットは、ホエール監督のイメージ通りに作られました。)市長は市民に怪物を捕まえに行くように言い、犬を連れて市民は手に長い棒を持って怪物を捕まえに行きます。犠牲者は出ましたが、怪物は捕らえられ大木に巣張りつけられて、馬車で運ばれて地下牢に入れられます。地下牢の椅子に鎖で固定されますが、怪物は簡単に床に固定したリングを抜き脱獄します。怪物は街中で市民を殺しながら逃亡します。

怪物を迎い入れる盲目の老人(左)      神に感謝する盲目の老人(右)

 画面が変わって、夜の森でキャンプしているジプシーの所に怪物が現れ食料を貰おうとしますが、ジプシーは逃げて行き食料は焚火の中に落ちて食べられません。食料を求めて歩いていくと小屋が見えて、中から心地良い音が聞こえてきます。窓から覗くと老人がいて、肩に乗せた何かから心地良い音が聞こえます。老人は外に人の気配を感じてドアを開けて声を掛けますが、返事が無いので家の中に戻ります。怪物はドアを開けて言葉にならない声を掛けます。この老人は目が見えないので、相手が怪物だとは知らず家に迎い入れます。盲目の老人は誰からも相手にされず孤独だったので、友人が出来た事を喜び怪物に食事を与えます。孤独だった老人は友人が出来た事を神に感謝します。その姿を見ていた怪物は、孤独だった自分自身と重ね合わせて涙します。(疎外された者同士に真の友人が出来た瞬間です。)

食事をさせながら言葉を教える盲目の老人(左)
盲目の老人が弾くヴァイオリンを聞く怪物(右)

 一夜明けて、老人は怪物に言葉を教えます。大火傷を負って火を怖がる怪物に正しく使えば良いものだと教え、葉巻を勧め怪物は葉巻を吸って喜びます。老人は良い事と悪い事があると言った時、怪物は“良い事”と言って老人にヴァイオリンを渡して弾くように頼みます。(社会から疎外された者同士が、友人が出来た喜びを感じて束の間の至福の時間を過ごすシーンです。このシーンがある事によって、この映画が単なるホラー映画ではなくヒューマン・ドラマという事が分かると思います。)老人が弾くヴァイオリンを喜んで聞いている時に、銃を持った二人連れが道を尋ねる為に家に入って来ます。部屋の中を見て、そいつは怪物だと言います。(ここでジョン・キャラダインが端役で登場です。)銃を怪物に向けて撃とうとする男を突き飛ばし、部屋の中を逃げ回る男を追い回す時に薪が暖炉に倒れて小屋は火事になります。二人の男たちは盲目の老人を連れて逃げ出します。

死体を盗ませるブレトリア博士(左)
怪物に食料とワインを与えるブレトリア博士(右)

 火の手が強くなり怪物も森に逃げ、像を倒して地下の遺体安置室に入り込みます。そこにはプレトリア博士と二人の男がいて、若い女性の死体を盗んでいる最中でした。二人の男たちが死体を運び出した後、博士はワインを飲んでいる処に怪物が現れます。博士は怪物を歓迎し、食料やワインを怪物に与えます。怪物は博士に自分のような男を創るのかと聞くと博士は女性の友達を創ると言います。博士は怪物にヘンリー・フランケンシュタインを知っているかと聞くと、僕を死体から創ったと言い、「死ぬのは好き」・「生きるのは嫌い」と言います。

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『フランケンシュタインの花嫁』 作品データ

1935年製作 アメリカ 75分 モノクロ

原題:The Bride of Frankenstein

製作:カール・レムリ・Jr

監督:ジェームズ・ホエール

脚本:ウィリアム・ハールバット、ジョン・L・ボルダーストン

特殊効果:ジョン・P・フルトン

撮影:ジョン・J・メスコール

美術:チャールズ・ホール

音楽::フランツ・ワックスマン

出演:ボリス・カーロフ:怪物

   コリン・クライブ:ヘンリー・フランケンシュタイン

   ヴァレリー・ホブソン:エリザベス

   エルザ・ランチェスター:メアリー・シェリー、怪物の花嫁

   アーネスト・セジガー:ブレトリア博士

   オリバー・ピーターズ・ヘギー:盲目の隠者

   ウナ・オコナー:従者のミニー

   ドワイト・フライ:カール

   E・E・クライブ:市長

   ギャビン・ゴードン:バイロン卿

Vol.53 『フランケンシュタインの花嫁』

発売元:ユニバーサルスタジオ・ジャパン株式会社
映像特典:メイキング、音声解説、フォト-ギャラリー

 今回ご紹介するのは、先回に続いて特殊効果のジョン・P・フルトンとジェームズ・ホエール監督が組んだ作品です。『透明人間』が完成後に会社から『フランケンシュタイン』の続編制作の依頼がありましたが、監督は一度断り1本撮り終えてから本作に取り掛かります。ジョン・P・フルトンは、本作でも新しい特殊効果を考え出して観客を驚かせています。本作では瓶の中に入った小さな人間を登場させます。人間に合わせた大きな瓶の中で演技をさせて、通常の画面と合成させています。この画面で瓶の透けて見える部分の処理が見事です。1931年の『フランケンシュタイン』の続編ですが、前作を超える素晴らしい作品になっています。見た目の醜さ不気味さにより、社会から疎外された者の物語です。ホエール監督は映画公開直前まで撮り直しと編集を繰り返し、上映時間を95分から75分に短縮して無駄の無いテンポの良い作品に仕上げています。ジェームズ・ホエール監督と特殊効果のジョン・P・フルトンの履歴は、Vol.50『透明人間』をご覧ください。

【スタッフとキャストの紹介】

 最終的な脚本が決まる迄は紆余曲折があり、ロバート・フローリーに始まり、トニー・リード、ローレンス・G・ブロックマン、フィリップ・マクドナルドと続きます。監督はジョン・L・ボルダーストンに依頼しエピローグは採用しましたが、最終的には監督と協力してウィリアム・ハールバットが脚本を書き上げました。

フランツ・ワックスマン

 音楽を担当したのが、フランツ・ワックスマン(1906年12月24日~1967年2月24日)です。現在のポーランド出身のアメリカの作曲家で、数々の名作の音楽を担当しています。彼は銀行で働きながら数年間ピアノや作曲の勉強し、その後ベルリンに移住してジャズ・バンドで演奏と編曲をします。映画音楽の最初の仕事は1930年の『嘆きの天使』の編曲でしたが、1932年にナチスの台頭によりユダヤ人の彼は活動拠点をフランスに移し、フランスで製作されるドイツ映画の音楽を担当します。そこでフリッツ・ラングの1934年の『リリオム』の音楽を担当し、ジェローム・カーンのミュージカルをアメリカで上演する為にアメリカに渡ります。その後、彼はホエール監督の依頼を受け、本作の音楽を担当します。この映画では主要キャラクターそれぞれにテーマ曲を作り、映像の邪魔をせず映像に合わせて音楽を入れて映画を盛り上げます。これはハリウッド映画の音楽に新しい風を吹き入れ、その後の映画に大きな影響を与えたと思います。1930年代から1940年にかけてユニバーサル映画で仕事をしていましたが、アルフレッド・ヒッチコックの1940年『レベッカ』、1941年『断崖』、MGMの『フェラデルフィア物語』等を手掛けています。1943年からはワーナー・ブラザース、1950年代はパラマウント映画に移っています。彼が担当した映画のジャンルは多岐に渡り、どの映画も映像と音楽が融合していると思います。『フランケンシュタインの花嫁』を始め、1938年の『クリスマス・キャロル』、1941年の『ジキル博士とハイド氏』、1950年の『サンセット大通り』、1951年の『陽のあたる場所』、1954年の『裏窓』、1957年の『翼よ!あれが巴里の灯だ』、1957年の『昼下がりの情事』等です。本作では登場人物ごとに作曲し、シーンに合わせて見事に曲を駆使して画面を盛り上げています。彼が音楽を担当した映画をご覧になる機会がありましたら、是非音楽にも注目して頂ければと思います。

フランケンシュタインの怪物役
ボリス・カーロフ(48歳)

 主役のフランケンシュタインの怪物は、前作ではノン・クレジットだったボリス・カーロフです。但し、映画のタイトル・ロールで“カーロフ”なっていますが、これは慣例によるものと言われています。ボリス・カーロフ(1887年11月23日~1969年2月2日)は、イギリスのロンドン出身で1909年にカナダに移住してカナダとアメリカで演劇活動をし、1919年に映画界入りしてサイレント映画時代の脇役として多くの映画に出演しています。彼の演技力が認められて、1930年には個性派俳優をして評価を得ます。そして1931年『フランケンシュタイン』で、フランケンシュタインの怪物に抜擢されます。ユニバーサルはベラ・ルゴシに怪物役を依頼しましたが、ルゴシは台詞が無い怪物役を断った為ボリス・カーロフが演じる事になりました。『フランケンシュタイン』は世界中で大ヒットし、フランケンシュタインと言ったら特殊メイクをした怪物の顔が浮かぶようになり、博士の名前が怪物の名前の様になっています。その後は特殊メイクをした役では無く、異常な人間や悪役を演じるようになります。そして、本作で再び怪物役を演じますが、怪物が言葉を喋る事に反対します。映画を撮り終えてから、怪物が喋る事でとても良い映画になったと語っています。その後、『フランケンシュタインの復活』で怪物役を演じますが、最初は前2作でやり尽くしたからと断りますが、ユニバーサルの強い要請で引き受けます。ユニバーサルはシリーズ化して継続して出演を依頼しますが、カーロフに断られて怪物役はロン・チャイニー・Jrが演じました。1950年以降も怪奇映画に出続けますが、存在感のある脇役を演じるようになります。出演作品が多いので、フランケンシュタイン・シリーズを覗いて主な作品を列記します。1932年の『暗黒街の顔役』、『魔の家』、『ミイラ再生』、1934年『黒猫』、1935年の『大鴉』『古城の扉』、1945年『死体を売る男』、1947年『征服されざる人々』、そして1968年の『殺人者はライフルを持っている』では本人役で出演しています。1969年2月2日にイギリスのサセックス州ミッドハーストの病院で亡くなりました。81歳でした。

ヘンリー・フランケンシュタイン役
コリン・クライブ(35歳)

 ヘンリー・フランケンシュタイン役は、前作に引き続きでコリン・クライブ(1900年1月20日~1937年6月25日)が演じました。クライブは、フランスのサン・マロ生まれのイギリスの舞台俳優・映画俳優です。彼はストーニーハースト・カレッジに通い、ロイヤル・ミリタリー・アカデミー・サンドハーストに入学しますが、膝を負傷して兵役免除になります。その後舞台俳優を目指し、ハル・レパートリー・シアター・カンパニーで3年間演劇を学びます。ロンドンで最初の作品「ショーボート」の舞台でスティーブ・ベイカー役を演じ、サヴォイ・シアターの「ジャーニーズ・エンド」でジェームズ・ホエールと共演します。彼は1925年から1932年まではロンドンの舞台を中心に出演し、時折ニューヨークの舞台にも出ていましたが、1933年からはニューヨークの舞台に出演していました。彼の映画デビューは1930年のジェームズ・ホエール監督の『暁の総攻撃』で、アルコール依存症のスタンホープ大尉を演じました。実生活でも彼はアルコール依存症で、本作の撮影時にはかなり悪化していましたが、ホエール監督は彼の神経質な表情が必要なので出演させました。「ショーボート」・「ハムレット」・「白鳥」等19本の舞台出演があり、1931年『フランケンシュタイン』、1933年『人生の高度計』、1934年『ジェーン・エア』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』『狂恋』、1937年『歴史は夜作られる』等の18本の映画に出演しています。クライブは、重度の慢性アルコール依存症に苦しみ、1937年6月27日に結核の合併症の為37歳で亡くなりました。

エリザベス役
ヴァレリー・ホブソン(17歳)

 フランケンシュタインの恋人エリザベス役は、ヴァレリー・ホブソンが演じました。前作でエリザベスを演じたメイ・クラークが、健康が優れない為に役を降りたと言われています。ヴァレリー・ホブソン(1917年4月14日~1998年11月13日)は、1930年代から1950年代に活躍したイギリスの女優です。彼女は10歳頃からロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマティック・アークで、演技とダンスを学び始めます。1932年から映画に出演するようになり、17歳で1935年『フランケンシュタインの花嫁』『倫敦の人狼』、1935年『幻しの合唱』、1939年『スパイは暗躍する』、1949年『カインド・ハート』に出演し、1946年にはデビット・リーン監督の『大いなる遺産』にも出演しています。1953年3月8日に、ドルリー・レーンのシアター・ロイヤルで開演したミュージカル劇「王様と私」が最後の舞台でした。余談ですが、彼女は1954年に国会議員のジョン・プロフーモ准将と2度目の結婚をしますが、1963年に夫のプロフーモがスキャンダルを起こし政治生命を絶たれます。この事件は1989年の『スキャンダル』で映画されています。

セブティマス・ブレトリア博士役
アーネスト・セジガー(38歳)

 ヘンリー・フランケンシュタインの恩師セブティマス・ブレトリア博士を演じたのは、イギリスの舞台俳優・映画俳優のアーネスト・セジガー(1897年1月15日~1961年1月14日)です。彼はイギリスの名門出身で最初は画家を目指していましたが、演劇に転向して1909年にプロ・デビューします。第一次世界大戦中は1914年イギリス陸軍の準州軍に志願し、射撃手として3か月の訓練を受け西部戦線に送られます。彼はフランス滞在中に歴史的な刺繡を購入し、趣味としてその刺繍の修復をしていました。1915年に塹壕で負傷してイギリスに帰国します。帰国後、彼は兵士の為に小さな縫製キットを開発し、後にクロス・スティッチ名誉長官になり、バッキンガム宮殿でも仕事をするようになります。同時に1915年から舞台俳優と活躍します。1916年には映画デビューし、脇役ながら多くの作品に出演します。舞台俳優としての出演が主で、時折映画にも出演しています。1929年『高速度珍婚双紙』、1932年『魔の家』、1933年『月光石』等に出演し、1935年『フランケンシュタインの花嫁」で、ブレトリア博士役は正にはまり役で鬼気迫る演技です。その後、1936年『奇跡人間』、1945年『ヘンリィ五世』『シーザーとクレオパトラ』、1947年『赤い百合』、1951年『素晴らしき遺産~オードリー・ヘップバーン』、1953年『聖衣』、1948年『四重奏』、1951年『白衣の男』、1954年『卑怯者』、1960年『息子と恋人』等に出演しました。

メアリー・シェリーと怪物の花嫁役
エルザ・ランチェスター(33歳)

 「フランケンシュタイン」の原作者メアリー・シェリーと怪物の花嫁の二役を演じたのが、エルザ・ランチェスター(1902年10月28日~1986年12月26日)でイギリスの映画俳優です。余談ですが、夫のチャールズ・ロートンは1939年の『ノートルダムのせむし男』でカジモドを演じていますね。彼女は演劇の私塾で学び、17歳で自分の劇団と劇場を持ち1922年にロンドンの舞台にデビューして活躍します。1925年『緋色の女』で映画デビューし、1929年チャールズ・ロートンと結婚して時折共演しています。

 1933年『ヘンリー八世の私生活』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』『孤児ダビド物語』、1936年『レンブラント/描かれた人生』、1941年『生きてる屍』、1942年『運命の饗宴』、1943年『名犬ラッシー~家路~』、1946年『剃刀の刃』『らせん階段』、1947年『気まぐれ天使』、1948年『大時計』、1950年『ミステリー・ストリート』等に出演しています。1957年『情婦』では看護婦役でチャールズ・ロートンと共演し、面白い掛け合いをしています。1958年『媚薬』、1964年『メリー・ポピンズ』、1967年『ゴー!ゴー!ゴー!』、1969年『ナタリーの朝』、1971年『ウイラード』、1976年『名探偵登場』等に出演しています。1986年12月26日、カリフォルニア州のウッドランドヒルズで、気管支炎の為84歳で亡くなりました。

盲目の隠者役
オリバー・ピーターズ・ヘギー(58歳)

 盲目の隠者を演じたのはオリバー・ピーターズ・ヘギー(1877年9月17日~1936年2月7日)で、オーストラリアの舞台俳優・映画俳優です。彼はアデレート音楽院で学んでアマチュア劇団に出演後、1900年にシドニー宮殿で舞台劇「火星からのメッセージ」でプロとしてデビューしました。その後、1906年にイギリスに渡り数々の舞台劇に出演し、「スペックルド・バンド」で演じたシャーロック・ホームズはコナン・ドイルに称賛されました。1914年にはニューヨークに渡り、自作の舞台劇を始め精力的に舞台俳優として活躍しました。その後、ハリウッドに移り1928年のサイレント映画『女優』で映画デビューします。主な出演作品は、1929年『フーマンチュウ博士の秘密』、1930年『ヴァガボンド王』・『続フーマンチュー博士』、1931年『女性に捧ぐ』、1934年『モンテ・クリスト伯爵』・『紅雀(赤毛のアン)』、1935年『フランダースの犬』・『フランケンシュタインの花嫁』等です。

侍従ミニー役
ウナ・オコナー(55歳)

 フランケンシュタイン家の侍従ミニー役をウナ・オコナーが演じています。本作でも出番は多く、コミカルに騒ぎまくります。ウナ・オコナーの履歴は、Vol.50『透明人間』をご覧ください。次回に続きます。 最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

 Vol.52 『透明人間』の最終章

『透明人間』のトップはこちら

鏡に向かって包帯を解くジャック

 ケンプの家に戻ったジャックは、パジャマを着て鏡に向かって顔の包帯を外していきます。(このシーンの特撮は、4回の重ね撮りをした非常に高度な技術で撮影されています。)

クランリー博士に電話をするケンプ(左)
ジャックに会いに行くと訴えるフローラ(右)

 宿屋の酒場では警察署長が陣頭指揮を執って、透明人間捕獲作戦を開始します。警官は32㎞の範囲の捜索を行い、ラジオでは科学者が透明人間になって警官を殺した事を放送しています。住民には注意を促し捜査の協力を求め、情報提供者には1,000ポンドの賞金が出る事も発表されます。ジャックが眠っている隙に、ケンプは1階に降りてクランリー博士に電話します。ジャックが自分の家にいて、彼が透明人間だと伝えて直ぐ来るように頼みます。博士はケンプに、ジャックはそんな人間じゃないと言って電話を切ります。ケンプは警察に電話して、透明人間が自分の家にいる事を通報します。電話を受けていたクランリー博士に、フローラは誰からの電話か尋ねます。博士はケンプからの電話で、ジャックが透明人間でケンプの家にいると言います。フローラはジャックに会いに行くと言い出しますが、彼は正常じゃないから行かないように言います。しかし、彼女は一人でも会いに行くというので博士も一緒にケンプの家に向かいます。

ジャックに博士とフローラを呼んだと言うケンプ(左)
フローラに自分の野望を語るジャック(右)

 2階で寝ていたジャックが降りてきて、ケンプがいる部屋の前で鍵を開けろと言います。ケンプは怖いから鍵をかけたと言うので、ジャックは相棒だから怖がる事は無い早く寝ろと言います。二人で2階に上がると窓から車が到着するのが見え、ジャックは警察に通報したのかと言います。ケンプはフローラと博士が来たと言い、彼女が心配していたので連絡したとジャックに言います。ジャックはフローラと二人で話がしたいと言い、フローラはジャックのいる部屋に行きます。二人は再会を喜び、ジャックはフローラの為に研究を完成させて富と名声を得たかったと言います。フローラは、博士と協力して復元薬を作るように言います。天才の博士と一緒に研究すれば完成すると言うと、ジャックは自分には凄いパワーがあるから、博士の協力は要らないと言い返します。自分は何でも出来る人間だから富も名声も得られると言っている時に、家の周りには警官が集まって来ているのが見えます。ジャックはケンプが警察に通報したことを知り、フローラに帰るように言い透明人間に戻ります。

ズボンだけで逃げるジャック

 家を包囲した警官隊は手を繋いで家に向かって前進します。ケンプが部屋の窓を開けた時、ジャックがケンプを明日の10時にお前を殺すと言って出て行きます。ジャックは警官に悪戯をしながら、一人の警官の足を掴んで引きずり出し、振り回して投げ飛ばします。その時警官のズボンを取り、それを穿いて歌い踊りながら逃げて行きます。

ジャックの行方を博士に聞く警察署長(左)
ジャックが透明人間だと訴えるケンプ(右)

 警察署でケンプは明日の10時に殺されるから拘置所に入れて欲しいと警察に頼みます。署長は警察に博士とフローラも呼んで、博士の行動に疑問を持ち質問します。博士に助手のグリフォンはどうしたと尋ねると、彼は出て行ったとだけ答えます。ケンプはグリフォンが透明人間だと言い、彼は私を殺しに来ると喚きます。大勢の町民が透明人間探しをしている時に、透明人間が現れて崖から町民を突き落とします。信号所にも現れて勝手にレールを切り替えて、予定通り列車事故を起こします。銀行では現金が入った引き出しを盗み、道路に出て歌いながら現金をばら撒きます。

捕獲作戦の説明をする警察署長(左)  崖から落ちるケンプが乗った車(右)

 ケンプの家では警察署長が署員に捕獲作戦の指示を出します。ケンプを署員が囲み、外側に網を巡らせて警察署に向かいます。警察署でケンプは警官の制服を着て、裏口から逃げ出し車でその場から立ち去ります。逃げ切ったと思ったのも束の間、車にはジャックが乗っていてケンプは手足をロープで縛られます。そして、車ごと崖から落とされ車は炎上します。

藁の中の透明人間が寝ている事に気付いた農夫(左) 火に包まれる納屋(右)

 ジャックは農家の納屋に忍び込み、藁の中に潜り込んで眠ります。処が、そこの住民が農機具を納屋に置きに行った時に、藁の中から寝息が聞こえるのに気が付き警察に知らせます。警察は全署員を出動させて、透明人間捕獲作戦を開始します。納屋を全署員で囲み、納屋に火をつけて透明人間をおびき出します。火事に気が付いたジャックは慌てて藁から飛び出し外に出ますが、地面には雪が積もっていてジャックの足跡が見えてしまいます。

銃弾に倒れたジャック

 銃を構えていた署長は、足跡が向かう方向に銃を撃ちます。雪の上の足跡が止まり、雪の上に人が倒れたような形に表れます。署長は倒れた場所に行き、透明人間が倒れた事を確認します。

フローラに最後の言葉を告げるジャック(左)
死んで姿を現したジャック・グリフォン(右)

 瀕死の状態で病院に運ばれたジャックは。フローラに自分は元に戻りたかったが失敗した。触れてはならない領域に手を出してしまったと言って息を引き取ります。(徐々に顔が現れ、ジャック・グリフォンの死に顔が映し出されます。ラストを見事な特殊撮影で物語は終わります。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

1933年『透明人間』
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社
《特典映像は特殊撮影に興味がある方には必見です》

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン。ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー

 Vol.51 『透明人間』の続き

顔中包帯の謎のサングラス男(左)      女将のジェニーと謎の男(右)

 雪が降る夜、コートに身を包みトランクを持った男が、酒場兼下宿屋に歩いて行きます。1階の酒場では酒を飲みながら語り合う人、ピアノを弾く真似をする人、ダーツをする人と多くの人たちが寛いでいます。突然ドアが開き、深々と帽子を被り顔中包帯を巻いたサングラスの男が現れます。そこにいた人たちは、一斉にその男を見て沈黙します。その男は部屋を借り、女将のジェニーに案内されて2階の部屋へと向かいます。部屋に入るとジェニーは終始話しながら暖炉に火を入れて客を受け入れる準備をします。男はジェニーに背を向けて立ったまま、窓から外を眺めながら食事を注文します。ジェニーは1階に降りてトレイに食事を用意して再び2階に上がります。男は窓の方を向いたまま立っていて、自分の邪魔をしないように言います。酒場では客たちが、謎の男の話題で盛り上がっています。ジェニーが食事を置いて1階に戻ったら、厨房の女性従業員がマスターを忘れたと言ったので再び2階に上がります。部屋のドアを開けると、食事中の男はナプキンで口を隠して怒ります。慌てて1階に降りたジェニーは、男は顔中包帯で巻いているから事故にあったと皆に言います。

クランリー博士と娘のフローラ(左) フローラに言い寄る助手のケンプ(右)

 クランリー博士の実験室に娘のフローラが悲痛な表情で現れます。父親のクランリー博士にジャックの行方を聞きますが、博士は研究に没頭していたのだろうと相手にしません。そこに助手のアーサー・ケンプが現れ、彼もジャックがひと月も連絡が無いのはおかしい何処に行ったのか博士に尋ねます。クランリー博士は、私の許可を得て研究を続けているから問題無いと言います。フローラはジャックに何か悪い事が起こったと言って、泣きながら隣の部屋に行きます。ケンプは彼女の後を追い、気晴らしにドライブでも行こうと誘いますが、彼女は泣き崩れるだけです

亭主に男を追い出すように言うジェニー(左)
階段を転がり落ちて床に倒れた亭主に声を掛けるジェニー(右)

 実験器具の前に立つジャックは元に戻る方法を思案している処に、ジェニーが文句を言いながら昼食を持って来ます。入室を断るジャックを無視して部屋に入ろうとするジェニーをドアを閉めて追い出します。ジェニーは昼食を床に落とし、奇声を上げながら1階に戻り亭主に男を追い出すように言います。亭主は渋々2階に上がり、未払いの1週間分の宿賃請求と出て行くように告げます。ジャックは実験の邪魔をするジェニーに腹を立てている処に亭主が現れます。宿代を請求する亭主と口論となり、逆上したジャックは亭主に襲い掛かりドアから突き飛ばして階段を転がり落としてしまいます。床に倒れている亭主を見たジェニーが大騒ぎをするので、客が集まりジェニーを慰めます。(これら一連のシーンの大袈裟なウナ・オコナーの演技は、シリアスな映画でもコミカルなシーンを入れるホエール監督の演出です。)

透明人間を見て驚く警官と客たち(左)   顔の包帯を取った謎の男(右)

 客たちは外に出て警官を連れだって男の部屋に乗り込みます。そこで男は自分が透明人間だと明かし、付け鼻を取り顔の包帯を取って服だけの姿になります。(ジョン・F・フルトンの特殊撮影が後の映画に多大な影響を与えたシーンです。)その場にいた人たちは驚き、唖然とします。男はさらに上着もズボンも脱いでワイシャツだけの姿になって、皆を追い掛け回して警官の首を絞めます。皆は外に飛び出て逃げ回り、町中がパニック状態にあります。透明人間のジャックは、薬品の副作用で異常をきたし凶暴になって来ます。町中で悪戯しながら動き回ります。(このシーンでは、以前から使っていた手法のワイヤーを使って透明人間の存在を表現しています。ウォルター・ブレナンが、自転車を盗まれる男役で出演しています。)首を絞められた警官が、警察署のレーン警部補に報告しますが信じてもらえません。

手掛かりを探すケンプとクランリー博士(左)
モノカインの説明する博士(右)

 クランリー博士の研究室では、博士とケンプがジャックの研究の手掛かりを探しています。ジャックが使っていた薬品は持ち出されていましたが、博士は薬品のリストを見つけ出しモノカインを持ち出した事が分かります。モノカインはインドで発見された薬品で、色素を抜く作用があり漂白剤の研究に使われました。しかし、効果が強力過ぎるのと劇薬だと分かり研究は中止されまた。モノカインを犬に注射したら凶暴になり、その後白くなって死んでしまう劇薬です。博士はこの事を口外しないようにケンプに口止めし、ジャック・グリフォンが失踪したと警察に届ける事にします。

煙草にマッチで火をつけるジャック(左)
相棒になれと命令するジャック(右)

 帰宅して自宅で寛いでいるケンプの部屋にジャックが現れます。(透明人間なので声だけの登場ですが、クロード・レインズの声が良いですね。ケンプ役のウィリアム・ハリガンの一人芝居も素晴らしいです。)以前のジャックとは違って話し方は全て命令調になり、椅子に座って煙草を吸いながら怯えるケンプを脅し始めます。パジャマにガウンを着て手には手袋、顔には包帯を巻いてサングラスをしたジャックはケンプに相棒になれと言い出します。ジャックは5年間の研究で透明人間になったが、邪魔されて復元薬を作れなかった。しかし、自分は強力なパワーを手に入れたので世界を征服出来る。その為には真面な姿の人間が必要だから、お前は相棒だと言います。研究資料が宿屋にあるので、ケンプに車を出すように命令して2人で宿屋に向かいます。

2階の窓から研究資料が落とされてます(左)
ジャックに首を絞められているレーン警部補(右)

 透明人間のジャックは宿屋の部屋に入り、窓から研究資料を2階の窓から落として下にいるケンプに受け取らせます。宿屋の1階で町民が集まっている酒場に、レーン警部補が登場して町民の証言を信じず透明人間の存在を全面否定しています。全ての案件を却下して共同謀議で起訴すると言い、書類を書こうとペンをインク壷に向かわせると、突然インク壷が横に移動します。再びペンを近づけるとインク壷は横に移動し、今度は宙に浮いて顔にインクを掛けます。透明人間がいると女将のジェニーが騒ぎ出し、そこにいた人達はその場から逃げ出します。薬の副作用で凶暴化したジャックは警部補に襲い掛かり、首を絞めて殺してしまいます。クランリー博士は警察署のレーン警部補を訪れますが、その時発行された号外を見て透明人間が殺人を犯した事を知ります。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン、ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー