題名で使われている“Tメン”は、“TAX MAN”の略称で、アメリカ財務省の特別税務捜査官の事です。映画は、アメリカ財務省の前管理官エルマー・L・アイリーが組織構成と業績を語るシーンから始まります。この冒頭のシーンから分かるように、財務省の活動を映画でアメリカ国民に周知させる目的で作られたようです。この映画は実話に基づいた映画で、アル・カポネ逮捕以来の大事件である「上海の紙」事件を扱ったものです。偽札偽造団一味を逮捕する為に二人の捜査官が悪の組織に入り込み、黒幕を逮捕するまでの活躍を描いています。アンソニー・マン監督は、ドキュメンタリー・タッチで見事なサスペンス映画に仕上げています。
本編の冒頭で、偽札を入手した情報提供者が捜査官に偽札を渡す為に現れますが、殺し屋モクシーに射殺され偽札は持ち去られます。銃声を聞いて捜査員が駆け付けた時には、犯人は車で逃げ去ってしまいます。フイルム・ノアールの香りタップリの冒頭シーンです。
ロサンゼルスで大量に発見された偽札に、デトロイトのイタリアン・マフィアのヴァントゥッチが関与していると睨み捜査を開始します。潜入する捜査官にデニス・オブライアンとトニー・ジェナーロの二人が選ばれ、デトロイトから捜査を始める事になります。二人はデトロイト・ギャングの歴史を調べ上げ、リバーギャングの事を徹底的に頭に叩き込みます。この辺の展開はテンポも良く、時折入るナレーションでドキュメンタリー・タッチが際立ちます。
二人は偽名でイタリアン・マフィアに通じるホテルに泊まり、地元警察との連携でホテルの主人に逃亡犯だと信じ込ます事に成功します。ホテルの主人の紹介でイタリアン・マフィアのヴァントゥッチに会い、部下となってロサンゼルスに乗り込みます。
ヴァントゥッチの紹介でロサンゼルスのジル・シアーノに会い、彼の仲間に加わります。二人は偽札作りに関する手掛かり捜しをし、調査の結果スキーマーと云う男を探し始めます。
スキーマーの作業着を工場から持ち出し、本部に送って調べて貰います。その結果、予測される年齢・身長・体重の他に、強い葉巻を好み中国漢方を常用していて、左肩に傷がある男と報告されます。デニスがこの報告を受けるシーンは、今ではお馴染みのやり方ですが良いシーンですね。
デニスは早速薬局周りを始めますが、手掛かりを掴めずにいた時にサウナ好きの男の情報を得ます。それからデニスは、10日間サウナに入りながら遂にスキーマーを見つけ出します。
それからスキーマーを尾行し続けて、秘密の賭博場でわざと偽札を使ってスキーマーに紙幣偽造関係者である事を分からせます。ここで賭博場の男たちに痛めつけられます。その後、デニスはスキーマーの部屋に押し入って、自分が彫刻された偽札の原版を持っている事を告げ、手を組む事になります。
一方トニーは、デニスが急にいなくなったので、一味の連中に彼の行き先や理由を問いただされます。終始「分からない」と答え続けましたが、殺すと脅されて「トニー・ロッコから逃げる為」と言うと ヴァントゥッチ は納得します。
それから二人はスキーマーを罠に掛け、トニーはスキーマーと親密になります。そして、スキーマーが周りで起きた犯罪の全てを書いた手帳を隠している事を知ります。
しかし、スキーマーと町中を歩いていた時にトニーの妻の友人に会い、その友人は傍にいた妻のメアリーに知らせます。トニーもメアリーも間違いだと言ってその場を去りますが、スキーマーは感付いてしまいます。ジョーン・ロックハートの戸惑った表情とトニーの表情、そしてスキーマーとの三者三様の演技が良いですね。
デニスは偽札の原版と紙の相性を見る為に偽札偽造一味から偽札用の紙を入手し、本部で印刷された裏面だけの偽札1枚を受け取り、残りの紙は分析されます。一味に印刷した偽札を見せて取引交渉を進めますが、トニーの身元がバレた事をデニスは知ります。スキーマーが抹殺され持ち物の中に手帳が無かったので、敵に身元がバレたトニーはスキーマーの部屋で手帳を探します。スキーマーの部屋に一味と同行させられたデニスは、部屋で物色中のトニーに会います。話す間も無く、トニーはモクシーに銃で撃たれます。その時トニーはデニスに向かって、「お前は一流の詐欺師」だと罵って死んでゆきます。最後まで相棒の捜査官を守る言葉を吐き、任務遂行の為に命を落とします。
これからデニスは一人で敵に立つ向かう事になりますが、一味の鑑定士ポール・スミスは、デニスの持っている原版が造幣局のものだと見抜く人間なので、デニスにその事を知らせる為に捜査官を送ります。伝言が書かれたメモの受け渡しは、デニスと捜査官の突然の殴り合いから始まり、二人が倒れて揉み合っている時に行われます。
部屋に戻って伝言を見たデニスは、一味の男から声を掛けられ咄嗟にメモを口に入れてガムを噛むような真似をします。デニスは原版を隠した洗面台に向かいますが、一味の一人が髭を剃ってその場を動きません。仕方なく男に近寄って行き、手を洗い出します。この時カメラは洗面台の下が映る位置にあり、一度・二度とデニスが原版を取ろうとする所を写します。二度目に原版を取って上着のポケットに入れます。何んとかその場から逃げようとするデニスを、一味はボスがいる船に連れて行きます。その船の中には印刷所があり、偽札はそこで作られています。
船に着いたデニスは、殺しがあったから取引の中止を訴えますが聞き入れられません。敵の手に渡った原版の表面を別室にいるボスが見て、造幣局の原版だと言います。デニスは時間稼ぎの為に、鑑定士のポール・スミスを呼ぶように要求します。一方、デニスの消息が分からなくなった財務局の管理官は、ポール・スミスを見張っていました。一味からの連絡でポール・スミスが動き出したので尾行しますが、途中で尾行不可能になります。
ポール・スミスが船に到着し、原版を見て思いもよらない事を言います。「初めて見る素晴らしい原版だ」と言い、デニスを連れて印刷しに行きます。その後、甲板に出て、「この仕事から足を洗いたいので、政府の証人になる」と言い出します。その直後、ポール・スミスはモクシーに後ろから銃で撃たれて殺害されます。
一味の男は丸腰のデニス目掛けて発砲してきます。逃げ回りながらポール・スミスの銃を手に取り撃ち返します。 一味の男 が撃っていた銃が弾切れしますが、別の銃を取り出して撃ち始めます。デニスは立ったまま悠々と歩きながら、撃ち返します。 一味の男 の銃弾が1発デニスに当たりますが、ゆっくりと歩き出して撃ち返し、 一味の男 を倒して自分も倒れ込みます。この銃声を聞きつけて財務局を始め、指令で駆け付けた警官隊などが船に乗り込んで来て一味を全員逮捕します。画面が変わって事件のその後が明かされ、デニスとトニーの妻のメアリーの事が語られます。
この映画は脚本がよく練られていていますし、場面ごとの台詞も素晴らしいです。特に、一味に潜入した捜査官である事を悟られないようにする受け答えが素晴らしいです。映画はストーリーが解ればそれで満足する方が大半かと思いますが、場面ごとの監督の演出や俳優さんの演技を観るのも楽しいと思います。カメラマン上がりのアンソニー・マン監督は、カメラを少し低い位置に置いて少し見上げるような撮り方をしています。この撮り方が、映画全体に緊張感を醸し出していると思います。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。
『Tメン』 作品データ
アメリカ 1947年 モノクロ 96分
原題:T-MEN
監督:アンソニー・マン
製作:オーブリー・シェンク
原案:ヴァージニア・ケロッグ
脚本:ジョン・C・ヒビンズ
撮影:ジョン・アルトン
音楽:ポール・ソーテル
出演:デニス・オキーフ、メアリー・ミード
アルフレッド・ライダー、ウォーリー・フォード
ジューン・ロックハート、チャールズ・マッグロー