この映画は、基本的に二人芝居が続く構成になっていて、非常にテンポ良く物語が展開されます。この映画に登場する俳優全員が、素晴らしい演技をしています。出番が少ないルディ役のチャールズ・スミスも含めて、とても良い二人芝居が観られます。素晴らしい台詞のやり取りが書かれた脚本は最高で、ルビッチ監督の無駄のない演出で最後まで引き込まれます。この作品はルビッチ監督が、ヨーロッパに住んでいた頃の思い出を基に作られていますので、監督の思い入れタップリの映画になっています。
物語の舞台はハンガリーのブタペストですが、会話は全て英語です。街角にある雑貨店「マトチェック商会」の店の前から始まります。開店前に従業員全員が店の前に集まり、社長が店を開けるのを待っています。この場面で従業員の人間関係が分かります。クラリックは皆の信望があり、気障なヴァダスは嫌われています。使い走りのペピは抜け目のない若者で、社長の乗ったタクシーが着いたらいち早くドアを開けて挨拶をします。
開店準備をしている時にクラリックは、ピロビッチに私書箱を通じて女性と文通している話をします。(今風に説明すると、手紙はメールで私書箱がチャット・ルームになります)クラリックは今まで4回文通をして、彼女を非常に気に入っているとピロビッチに話します。二人で話をしている時に、クラリックは社長のマトチェックに呼ばれて事務所に行きます。社長は蓋付きの小箱を手に持っていて、この商品の感想を聞いて来ます。それは「オルゴール付きの煙草入れ」で、社長は一時間悩んで迷っていました。クラリックは、一目見て売れないと即答します。社長は他の従業員を呼んで感想を聞くと、立場を考えて悪くは言いません。社長は再びクラリックに感想を聞きますが、彼の答えは変わりません。
そんな時に女性客は入店し、ハンド・バックを見ていたのでクラリックが対応します。その女性と話をしていると、彼女は客では無く職探しの為に来店した事が分かります。今は従業員数は足りているので、雇う事は無いと伝えますが彼女は引き下がりません。今度は、社長に会いたいと言います。そのやり取りを遠くから見ていた社長は、彼女が客だと思い対応します。しかし、この女性が求職中だと知ると事務所に逃げ込みます。彼女はクラリックに住所を伝え、募集があったら連絡をくれる様に頼みます。
クラリックは社長に呼ばれて事務所に入ります。二人が話している時にヴァダスが入って来て、煙草入れが売れそうだと言ってきます。二人で店内に戻ると、先程の女性が煙草入れを手に取って見ていました。そこで社長は、彼女に煙草入れの感想を聞きます。彼女は口から出任せで適当な事を言いながら褒めて小売り価格を聞きます。彼女が“お買い得ですね”と大声を出したら、店内にいた女性客が興味を示したので、彼女は煙草入れをその女性に見せます。煙草入れを手に取った女性は、“キャンデー入れね”と言います。彼女は、個性的なキャンデー入れです云い、蓋を開けて“黒い瞳”のメロディが流れますと説明します。キャンデーを取り出す度にメロディが流れるのは最悪だと言って女性客は拒否します。そこで彼女はキャンデーを食べ過ぎないように、注意を促す為にメロディが流れるように作られていると言います。女性客はそれで納得して購入しますが、彼女は社長から聞いた価格よりも高い価格で売ります。この実績でクララ・ノヴァックは店員になりますが、ここからクラリックとの仲は悪くなります。
それから半年後、店のショー・ウィンドーには売れ残った煙草入れが、仕入れ価格で並べられています。店の前でクラリックは、ピロビッチに文通相手と今晩会う事になった事を伝えます。そこにクララが現れて、本を読み始めます。クラリックは彼女の服装の事で社長に言われた事を伝えますが、ここから言い争いが始ります。この6か月間、二人は何かにつけ言い争いを続けています。そこにヴァダスがタクシー出勤し、大金を見せびらかしながらタクシー代を払います。社長が出勤してきてショー・ウィンドーを見るなり、今日は残業して全員で飾り付けをするように言います。今日は文通相手と初デートなので、クラリックは社長に早退したい事を伝えに行きます。しかし、社長は忙しいと言って取り合わないので、最近の社長の態度が変だと言いますが冷たくあしらわれます。
倉庫でクラリックとクララが店に出す商品を揃えている時、クララが急に優しい態度で話しかけてきます。仲良くなれそうになった時、早退したいから社長に頼んで欲しいと言い出します。それを聞いたクラリックは彼女が媚びを売ってきた事に怒り出し、再び二人の仲は険悪になります。それでクララは、直接社長に早退を申し出ます。社長はクラリックに彼女を帰しても飾り付けが出来るか聞きます。するとクラリックも大事な用があるので、自分も早退したいと言います。それを聞いた社長は激怒し、全員残業させられます。飾り付けが進む中、社長はクラリックを事務所に呼び彼を解雇します。9年間完璧に近い仕事をしてきたクラリックには、納得出来ない解雇ですが受け入れるしかありません。事務所から出て来たクラリックが解雇されたと言うと、従業員全員も彼同様に納得出来ずにいますがどうしようもありません。クラリックは皆に別れを告げて店を出て行きます。事務所にいる社長に探偵から電話があり、従業員全員を帰します。クララは走って更衣室に行き、急いで着替えして待ち合わせの場所に向かいます。普段、絶対社長に意見を言わないピロビッチが、社長に解雇を思い直すように言いますが拒否されます。
クラリックの事を心配してピロビッチは、クラリックに同行して彼の待ち合わせ場所に行きます。クラリックは失業したから彼女に会えないが、どんな女性か見て欲しいとピロビッチに頼みます。ピロビッチが外から店内を見てみると、目印の赤いバラを本に挟んだ女性はクララだと言います。驚いた二人は一旦帰りますが、クラリックは再び戻って来て入店します。惚けながら彼女と会話をしますが、いつもの言い合いが始まります。彼女が待っている男性は自分だと言えず、クラリックは店を出ます。
店で待つ社長の許に探偵が訪れ、奥さんの浮気の調査結果を報告します。社長は奥さんの浮気相手はクラリックだと思っていましたが、実際の浮気相手はヴァダスでした。社長は自分の間違いに愕然とします。探偵を帰して社長は事務所に入ります。その時ペピが店に帰って来て社長を探します。事務所を覗くと社長はピストル自殺をする処でしたが、間一髪自殺を止めます。
翌日ペピの連絡で病院に駆け付けたクラリックは、病室で社長に会います。社長は奥さんの浮気の相手がクラリックだと思い込んで解雇したと言い、復職して主任になって欲しいと頼みます。そしてヴァダスを穏便に解雇するように頼みます。店に帰るクラリックと入れ替わりにペピが入って来ます。ここで社長とペピの面白いやり取りがあって、ペピは使い走りから店員に昇格します。 次回に続きます、最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。
『桃色の店』 作品データ
1940年製作 アメリカ 99分
原題:The Shop Around the Corner
監督:エルンスト・ルビッチ
製作:エルンスト・ルビッチ
脚本:サムソン・ラファエルソン
原作戯曲:ニコラス・ラズロ
撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ
音楽:ウェルナー・R・ハイマン
出演:マーガレット・サラヴァン、ジェームズ・スチュアート
フランク・モーガン、ジョゼフ・シルドクラウト
フェリックス・ブレザート、サラ・ヘイドン
ウィリアム・トレーシー、イネズ・コートニー
サラ・エドワーズ、エドウィン・マクスウェル
チャ-ルズ・ハルトン、チャールズ・スミス