Vol.40 『生きるべきか死ぬべきか』の続き

ワルシャワの街に一人で現れたヒトラー

 1939年8月、ポーランドのワルシャワから物語は始まります。ワルシャワの街に突然ヒトラーが一人で現れます。街中の人々が驚き、固まってしまいます。

舞台劇「ゲシュタボ」のワン・シーン(左)
ボランスキーに駄目出しをするドボッシュに抗議するグリーンバーグ(右)

 そこでナレーターが、”どうして彼が現れたか”と言って場面はゲシュタボ本部に変わります。しかし、このゲシュタボ本部は舞台劇のもので、本物ではありません。(この場面に登場する少年が言う冗談は、後ほど違う場面でも出て来ます。本作の題名の”生きるべきか死ぬべきか”も、後ほど度々出て来ます。先に使われた台詞が、全然状況の違う場面で云われる事によって、非常に面白い事になります。本当によく練られて書かれた脚本です。)その本部にヒトラーが登場して、軽い冗談めいた台詞を言います。勝手に台詞を変えた事を舞台演出家のドボッシュが怒り、ヒトラー役のブロンスキーに全然似てないと言って駄目出しをします。そこでブロンスキーは、自分はヒトラーそのものだと言ってワルシャワの街に出て行き、誰にも見破られない事を証明しようとした訳です。

偽ヒトラーのボランスキーに
サインを求める少女

 ヒトラーに扮したブロンスキーの周りを群衆が囲む中、一人の少女がヒトラーに近寄り”ブロンスキーさん、サイン下さい。”と言ってサインして貰います。大人は全員、彼の服装とチョビ髭でヒトラーだと思い込みましたが、この少女だけがこのヒトラーは役者が扮装している偽物と気付いていた訳です。

槍持ちに扮した
グリーンバーグとボランスキー

 画面が変わって劇場で上演されている「ハムレット」のポスターが映しだされます。楽屋から出て来たブロンスキーとグリーンバークは、槍持ちの扮装で愚痴を言い合ってます。グリーンバークは、得意の「ベニスの商人」の台詞を言い、ブロンスキーが褒め称えます。(この二人、舞台では槍を持っている役しか貰えませんが、後半で大役を与えられます。)

ハムレットを演じるヨーゼフ(左)
台詞を聞いて席を立つソビンスキー中尉(右)

 座長のヨーゼフ・トゥーラが楽屋から出てきて、電話でサンドイッチとビールを注文します。そこに妻のマリアが現れ、二人の面白い会話が続きます。楽屋でマリアが椅子に座って鏡に向かっていると、ヨーゼフが現れ3日間贈られて来る花を見て、誰からの贈り物か問い質します。マリアが曖昧な返事をしている時に、ヨーゼフは出番になって舞台に向かいます。ここでマリアと付き人のおばさんが花の送り主の話をしていると、その送り主からの会いたいと云う手紙が届きます。マリアは付き人に言い訳がましい事を言いながら、ハムレットが”生きるべきか死ぬべきか”の台詞を言った時に楽屋に来るように返事を書きます。舞台でハムレットが登場して台詞を言った途端に、花の贈り主であるソビンスキー中尉は堂々と席を立ちます。(この出来事が、大物俳優のヨーゼフ・トゥーラを悩まし続けます。)喜び勇んで中尉は、マリアの待つ楽屋に向かいます。中尉はマリアの舞台は全部観ているし、雑誌の記事も読んでいるので色々質問をします。マリアは調子を合わせているだけですが、中尉は有頂天です。彼は爆撃機のパイロットで、翌日空港で爆撃機を見せる約束をして楽屋を出ます。入れ替わりにヨーゼフが入って来て、舞台の途中で客が席を立ったので酷く落ち込んでいます。マリアは素知らぬ顔で、ヨーゼフを慰めます。

マリアに求婚するソビンスキー中尉(左)
戦争が始まった事を知るヨーゼフ(右)

 画面が変わって舞台劇「ゲシュタボ」の稽古中、全員がラジオでヒトラーの演説を聞いています。そこに外務省のボヤルスキー博士が現れて、「ゲシュタボ」の舞台公演中止を伝えます。それで再び「ハムレット」を講演する事になりますが、ハムレットが台詞を言うと昨日と同様に中尉が席を立ちます。楽屋に入った彼は、マリアに結婚しようと言い出します。困惑するマリアの事はお構いなしに、彼はヨーゼフに二人の結婚話をすると言い出します。そこに付き人のおばさんが、新聞を手に戦争が始まったと言って楽屋に入って来ます。彼はマリアに別れを告げて基地に戻ります。ドボッシュ達も戦争が始まったと言って楽屋に入って来ます。そこに客が席を立った事に怒り狂ったヨーゼフが入って来ます。ドボッシュと噛み合わない怒鳴り合いになり、ヨーゼフは皆の話から戦争が始まった事を知ります。

破壊されたワルシャワの街(左)   瓦礫の中を更新するドイツ兵(右)

 その時、空襲警報が鳴り空爆が始まります。観客は劇場から逃げ出し、団員は地下室に逃込みます。空爆によりワルシャワは破壊されて瓦礫の山となり、そこをドイツ軍兵士が行進していきます。それを漠然と見るワルシャワ市民、この場面からルビッチ監督の思いが描かれています。

エアハルト大佐によるゲシュタボのポスター(左)
グリーンバークは「ベニスの商人」での台詞を語ります(右)

 街にはエアハルト大佐によるゲシュタボのポスターが張られます。ブロンスキーとグリーンバークのコンビが登場し、グリーンバークは例の台詞を語ります。しかし、ここからワルシャワ市民のレジスタンス活動も始まり、ポーランドの若い兵士は英国空軍に入り飛行機での反撃が始まります。

歌う兵士たちの中にいる教授(左) 教授にマリアへの伝言を頼む中尉(右)

 ロンドンの空軍基地で、ポーランドの兵士が歌っている中にシレッキー教授がいます。彼は兵士たちにワルシャワに行く話をすると、兵士たちは危険だから止める様に言います。教授は極秘の任務があるから行かなければならないと言い、兵士たちの家族の住所を教える様に言います。中尉は、教授にワルシャワにいるマリア・トゥーラに伝言を頼みます。伝言は例の台詞です。処が教授は、ワルシャワで有名なマリアの事を知りません。その後兵士たちは家族の住所を書いた紙を教授に渡します。

軍情報部に教授の事を伝える中尉(左)  v教授の写真を靴に仕込む(右)

 翌日ソビンスキー中尉は軍情報部に行き、シレッキーは疑わしい人物だと伝えます。ワルシャワでは誰でも知っているマリア・トゥーラを知らないので、ワルシャワ行きを止めて欲しいと伝えます。教授は既に船で出発しているので中尉は飛行機で移動し、地下組織に渡す教授の写真を持参させ、住所が書かれた名簿を回収する様に命令します。

不審者を追跡するドイツ兵(左)   ドイツ兵に発見された中尉(右)

 対空砲火の中、中尉はパラシュートでワルシャワ郊外に着地し、ドイツ兵の追跡を交わし乍ら逃げ回ります。写真を受け渡しする場所のシュタルガ書店(レジスタンスとの中継場所)まで辿り着きますが、ドイツ兵に見つかりその場から逃げ去ります。

本に写真を挟んで店主に渡すマリア(左)
写真を確認し、指令を読む店主(右)

 画面が変わり同じ書店の前に、マリアが登場します。店内にはドイツ兵が二人、マリアは店主に「アンナ・カレーニナ」(『桃色‘ピンク』の店』でも登場した本です)の本を見たいと言います。ページを捲りながら150ページに教授の写真を挟みます。本の価格を聞き、高すぎて変えないと言ってマリアは店を出ます。ドイツ兵が帰った後に店主は奥の部 屋へ行き、教授の写真を見て裏面に書かれた指令を読みます。

ドイツ兵に連行されるマリア(左)
マリアにスパイになるように進言する教授(右)

 マリアが帰宅するとドアの前にドイツ兵がいて、教授がいるホテルに連行されます。彼はマリアに中尉の伝言を伝えます。その時電話に出た彼の会話からゲシュタボの手先である事を知ります。彼はマリアにドイツのスパイになるように勧めます。マリアは即答せずに、ディナーの招待を受けて帰宅します。

次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『生きるべきか死ぬべきか』 作品データ

アメリカ 1942年 モノクロ 99分

原題:TO BE OR NOT TO BE

監督:ルンスト・ルビッチ

製作:アレクサンダー・コルダ

脚本:エドウィン・ジャスタス・メイヤー

撮影:エオドルフ・マテ

音楽:ウェルナー・R・ハイマン

出演:キャロル・ロンバード:マリア・トゥーラ

   ジャック・ベニー:ヨーゼフ・トゥーラ

   ロバート・スタック:ソビンスキー中尉

   フェリックス・ブレザート:グリーンバーク

   ライオネル・アトウィル:ラウィッチ

   スタンリー・リッジス:アレクサンダー・ツレッキー教授

   シグ・ルーマン:エアハルト大佐

   トム・デューガン:ブロンスキー

   チャールズ・ハルトン:ドボッシュ