Vol.55 『フランケンシュタインの花嫁』の最終章

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女性の怪物を創れとヘンリーに命令する怪物(左)
エリザベスを拉致する怪物(右)

 ブレトリア博士が、ヘンリー・フランケンシュタインの邸に現れます。エリザベスはヘンリーに近付かないようにブレトリア博士に言って、街を出る為の荷造りをしに部屋を出ます。ブレトリア博士はヘンリーに全て準備は整ったから後は君の仕事だと言い寄ります。ヘンリーは頑なに断りますが、ブレトリ博士は怪物を部屋に入れます。怪物はヘンリーに創るように命令しますが、ヘンリーは断り続けます。ブレトリア博士は怪物に部屋から出るように言い、怪物はエリザベスの部屋に行ってエリザベスをさらって行きます。エリベスが人質になったので、ヘンリーはブレトリア博士に協力します。

心臓の状態を監視するヘンリー(左)
心臓移植の準備を指示するヘンリー(右)

 画面が変わって高い塔の最上階の実験室。(ホエール監督は、前作のヒットにより十分な予算を得て、豪華なセットを作っています。)ヘンリーは怪物に使う心臓の観察をしていましたが、この心臓が使えないので別の心臓を調達するように博士に言います。博士はカール(彼は前作の『フランケンシュタイン』ではヘンリーの助手を演じていました。)に突然死した新しい心臓を手に入れるように言います。カールは街に出て、通り掛かった女性を殺して心臓を持ち帰ります。ヘンリーは心臓の出所を尋ねますが、博士が有耶無耶にして心臓の監視を続けさせます。ヘンリーが眠りかけた頃、怪物が現れてヘンリーに仕事を続行させようとします。ブレトリア博士は怪物に酒を飲ませると言って隣の部屋に連れ出し、睡眠薬入りの酒を飲ませて怪物を眠らせます。エリザベスの無事を知りたがるヘンリーにブレトリア博士はこの電気機器(電話ですね)で話せると言い、彼女と話しをさせます。そして、いよいよ心臓を怪物に移植し、電流を与える最終段階に入ります。(このシーンでは傾いて撮られた画面が多用され、緊張感を高めています。)

女性の怪物が横たわる蘇生装置(左)  タワーの上に上がった創生装置(右)

 怪物蘇生に必要な高電圧の電気を得る為、雷が轟く夜空に2機のカイトが上げられます。カイトに雷が落ち、女性の怪物を蘇生させる事に成功します。(前作で使われたセットを基にバージョン・アップさせて、かなり大掛かりな装置になっています。)

蘇生された女性の怪物(左)      素晴らしい髪形の女性の怪物(右)

 全身包帯で巻かれた女性の怪物の包帯が解かれ、女性の怪物が姿を現します。古代エジプトの王妃ネフェルティティを参考にして造形された髪型、顔には継接ぎをした傷跡、そして奇妙な顔の動きをさせて辺りを見回しヘンリーを見つめます。(髪型はメイキャップのジャック・P・ピアースがエルザ・ランチェスターの頭に針金で土台を作りその針金に髪を巻き付けて製作されました。顔の動きはエルザ・ランチェスターが鳩の動作を参考にした演技です。)

ヘンリーを見つめる女性の怪物(左)   喜ぶ怪物と恐れる女性の怪物(右)

 そこに怪物が現れて女性の怪物の誕生を喜び傍に行きますが、女性の怪物は彼の顔を見て驚きます。怪物は喜びながら彼女の手に触れると、彼女は悲鳴を上げます。(発情期の白鳥に敵が近づくと発する声を参考にして、エルザ・ランチェスターが奇声を上げています。)

涙を流しながら爆破装置のスイッチを入れる怪物(左)
研究所内に起る爆発(右)

 怪物は「僕を嫌い 皆と同じだ」と言い、爆破装置のレバーに手を掛けます。そこにエリザベスがドアの外からヘンリーを呼び、出てくるように言います。ヘンリーはドアを開け、出て行けないと言います。怪物は爆破装置のレバーに手を掛けてヘンリーに生きるように言い、プレトリア博士にお前は残って死ねと言って涙を流しながらレバーを下げて塔を爆破します。(この塔が爆破されて崩れていくシーンは、見事な崩れ方です。)逃げ延びたヘンリーとエリザベスが抱き合ってエンド・マークとなります。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

発売元:ユニバーサルスタジオ・ジャパン株式会社
映像特典:メイキング、音声解説、フォト-ギャラリー

『フランケンシュタインの花嫁』 作品データ

1935年製作 アメリカ 75分 モノクロ

原題:The Bride of Frankenstein

製作:カール・レムリ・Jr

監督:ジェームズ・ホエール

脚本:ウィリアム・ハールバット、ジョン・L・ボルダーストン

特殊効果:ジョン・P・フルトン

撮影:ジョン・J・メスコール

美術:チャールズ・ホール

音楽::フランツ・ワックスマン

出演:ボリス・カーロフ:怪物

   コリン・クライブ:ヘンリー・フランケンシュタイン

   ヴァレリー・ホブソン:エリザベス

   エルザ・ランチェスター:メアリー・シェリー、怪物の花嫁

   アーネスト・セジガー:ブレトリア博士

   オリバー・ピーターズ・ヘギー:盲目の隠者

   ウナ・オコナー:従者のミニー

   ドワイト・フライ:カール

   E・E・クライブ:市長

   ギャビン・ゴードン:バイロン卿

Vol.54 『フランケンシュタインの花嫁』の続き

メアリー・シェリーとバイロン卿とペーシー・ビッシュ・シェリー(左)
二人に物語を語り始めたメアリー・シェリー(右)

 嵐の夜、レマン湖畔にあるディオダティ荘と思われる建物が映し出されます。大きな居間にバイロン卿とパーシー・ビッシュ・シェリーと妻のメアリー・シェリーの3人がいます。刺繍をしているメアリーにバイロン卿が小説「フランケンシュタイン」は素晴らしい作品だと言いますが、夫のパーシーは結果が呆気なかったと言います。そこでシェリーは、あの話には続きがあると言って語り始めます。

焼け落ちる風車小屋(左)        市長に文句を言うミニー(右)

 画面が変わって前作の『フランケンシュタイン』のラスト・シーン、風車小屋が燃え落ちて行く処から物語が始まります。高台にある風車小屋が崩れ落ち、怪物も落ちていきます。それを見て喜ぶ市民に市長は私が皆を守ったと演説し、安心して帰って寝るように言います。偉そうに振舞う市長に文句を言うミニー、今回も大騒ぎするキャラクターをウナ・オコナーは好演しています。

怪物の死体を見に行こうとするハンスを止める妻(左)  怪物登場(右)

 市民が去った後、娘のマリアを怪物に殺されたハンスは、怪物の死を見届けようと下に降りようとした時、足を踏み外して川に落ちてしまいます。そこに怪物が現れてハンスは殺されてしまいます。ハンスの妻が焼け残った風車小屋からハンスに声を掛け、手が見えたので引き上げますが怪物でハンスの妻も川に突き落とされます。一人残っていたミニーの後ろに誰かが来たので振り返ると怪物だったので、悲鳴を上げながら一目散に逃げ去ります。

ヘンリーを看病するエリザベス(左)
ヘンリーを説得するブレトリア博士(右)

 ヘンリー・フランケンシュタインの死体が邸に運ばれて来て、婚約者のエリザベスに彼が死亡した事が伝えられます。死体は居間に運ばれて、エリザベスは泣き崩れます。そこにミニーが帰って来て、怪物が生きている事を執事に伝えますが信じません。死体の傍に来て独り言を言っていると、死体の手が動いてミニーが“生きている”と喚き出します。(前作でフランケンシュタイン博士は死ぬ予定でしたが、ホエール監督が生き残ったように編集し直して公開されました。)ヘンリーの体力も回復し、もう二度と怪物は作らないとエリザベスに話している時に恩師のプレトリア博士が現れます。彼は研究の手伝いをして欲しいと申し出ますが、ヘンリーもエリザベスも断ります。エリザベスがその場を離れた時に、博士は二人で手を組めば生と死の解明が出来ると言い、新しい生命体を作り出したと言います。自分の研究成果を見て欲しいと言ってヘンリーを自宅の研究所に誘います。科学者としての興味から、ヘンリーは博士の研究所に向かいます。

小さな生命体が入った瓶(左)  背景が映る瓶の中で踊る小さな生命体(右)

 研究所に入ると博士は大きな箱を持って来て、中から瓶を取り出します。その瓶の中には小さな人間が入っています。これは私が作った生命体だが、大きな生命体を作る為に君に手伝って欲しいと言います。(このシーンのでは瓶の中の生命体の動きよりも、瓶の上部や側面のガラスを通して見える背景が見事に撮影されています。もの凄い職人芸です。)もう実験をしたくないと言うヘンリーに博士は、怪物の友人を創ろうと言います。今度は女性の怪物を創ろうと持ち掛け、ヘンリーは協力することにします。

市民たちに捕えられる怪物(左)    地下牢に閉じ込められた怪物(右)

 画面が変わって、怪物は森の中を彷徨い、川を見つけて腹ばいになって水を飲みます。そして水面に映った自分の顔を似て、己の醜さを知ります。その時、崖の上に羊飼いの少女を見つけ唸り声で声を掛けます。少女は怪物を見て悲鳴を上げ、バランスを崩して川に落ちます。怪物は少女を助けに行きますが、少女が悲鳴を上げるので口を手で覆います。通り掛かった二人連れがそれを見て怪物に向かって銃を撃ちます。弾は怪物の腕に当たり、怪物は逃げ去ります。(この森のシーンのセットは、ホエール監督のイメージ通りに作られました。)市長は市民に怪物を捕まえに行くように言い、犬を連れて市民は手に長い棒を持って怪物を捕まえに行きます。犠牲者は出ましたが、怪物は捕らえられ大木に巣張りつけられて、馬車で運ばれて地下牢に入れられます。地下牢の椅子に鎖で固定されますが、怪物は簡単に床に固定したリングを抜き脱獄します。怪物は街中で市民を殺しながら逃亡します。

怪物を迎い入れる盲目の老人(左)      神に感謝する盲目の老人(右)

 画面が変わって、夜の森でキャンプしているジプシーの所に怪物が現れ食料を貰おうとしますが、ジプシーは逃げて行き食料は焚火の中に落ちて食べられません。食料を求めて歩いていくと小屋が見えて、中から心地良い音が聞こえてきます。窓から覗くと老人がいて、肩に乗せた何かから心地良い音が聞こえます。老人は外に人の気配を感じてドアを開けて声を掛けますが、返事が無いので家の中に戻ります。怪物はドアを開けて言葉にならない声を掛けます。この老人は目が見えないので、相手が怪物だとは知らず家に迎い入れます。盲目の老人は誰からも相手にされず孤独だったので、友人が出来た事を喜び怪物に食事を与えます。孤独だった老人は友人が出来た事を神に感謝します。その姿を見ていた怪物は、孤独だった自分自身と重ね合わせて涙します。(疎外された者同士に真の友人が出来た瞬間です。)

食事をさせながら言葉を教える盲目の老人(左)
盲目の老人が弾くヴァイオリンを聞く怪物(右)

 一夜明けて、老人は怪物に言葉を教えます。大火傷を負って火を怖がる怪物に正しく使えば良いものだと教え、葉巻を勧め怪物は葉巻を吸って喜びます。老人は良い事と悪い事があると言った時、怪物は“良い事”と言って老人にヴァイオリンを渡して弾くように頼みます。(社会から疎外された者同士が、友人が出来た喜びを感じて束の間の至福の時間を過ごすシーンです。このシーンがある事によって、この映画が単なるホラー映画ではなくヒューマン・ドラマという事が分かると思います。)老人が弾くヴァイオリンを喜んで聞いている時に、銃を持った二人連れが道を尋ねる為に家に入って来ます。部屋の中を見て、そいつは怪物だと言います。(ここでジョン・キャラダインが端役で登場です。)銃を怪物に向けて撃とうとする男を突き飛ばし、部屋の中を逃げ回る男を追い回す時に薪が暖炉に倒れて小屋は火事になります。二人の男たちは盲目の老人を連れて逃げ出します。

死体を盗ませるブレトリア博士(左)
怪物に食料とワインを与えるブレトリア博士(右)

 火の手が強くなり怪物も森に逃げ、像を倒して地下の遺体安置室に入り込みます。そこにはプレトリア博士と二人の男がいて、若い女性の死体を盗んでいる最中でした。二人の男たちが死体を運び出した後、博士はワインを飲んでいる処に怪物が現れます。博士は怪物を歓迎し、食料やワインを怪物に与えます。怪物は博士に自分のような男を創るのかと聞くと博士は女性の友達を創ると言います。博士は怪物にヘンリー・フランケンシュタインを知っているかと聞くと、僕を死体から創ったと言い、「死ぬのは好き」・「生きるのは嫌い」と言います。

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『フランケンシュタインの花嫁』 作品データ

1935年製作 アメリカ 75分 モノクロ

原題:The Bride of Frankenstein

製作:カール・レムリ・Jr

監督:ジェームズ・ホエール

脚本:ウィリアム・ハールバット、ジョン・L・ボルダーストン

特殊効果:ジョン・P・フルトン

撮影:ジョン・J・メスコール

美術:チャールズ・ホール

音楽::フランツ・ワックスマン

出演:ボリス・カーロフ:怪物

   コリン・クライブ:ヘンリー・フランケンシュタイン

   ヴァレリー・ホブソン:エリザベス

   エルザ・ランチェスター:メアリー・シェリー、怪物の花嫁

   アーネスト・セジガー:ブレトリア博士

   オリバー・ピーターズ・ヘギー:盲目の隠者

   ウナ・オコナー:従者のミニー

   ドワイト・フライ:カール

   E・E・クライブ:市長

   ギャビン・ゴードン:バイロン卿

Vol.53 『フランケンシュタインの花嫁』

発売元:ユニバーサルスタジオ・ジャパン株式会社
映像特典:メイキング、音声解説、フォト-ギャラリー

 今回ご紹介するのは、先回に続いて特殊効果のジョン・P・フルトンとジェームズ・ホエール監督が組んだ作品です。『透明人間』が完成後に会社から『フランケンシュタイン』の続編制作の依頼がありましたが、監督は一度断り1本撮り終えてから本作に取り掛かります。ジョン・P・フルトンは、本作でも新しい特殊効果を考え出して観客を驚かせています。本作では瓶の中に入った小さな人間を登場させます。人間に合わせた大きな瓶の中で演技をさせて、通常の画面と合成させています。この画面で瓶の透けて見える部分の処理が見事です。1931年の『フランケンシュタイン』の続編ですが、前作を超える素晴らしい作品になっています。見た目の醜さ不気味さにより、社会から疎外された者の物語です。ホエール監督は映画公開直前まで撮り直しと編集を繰り返し、上映時間を95分から75分に短縮して無駄の無いテンポの良い作品に仕上げています。ジェームズ・ホエール監督と特殊効果のジョン・P・フルトンの履歴は、Vol.50『透明人間』をご覧ください。

【スタッフとキャストの紹介】

 最終的な脚本が決まる迄は紆余曲折があり、ロバート・フローリーに始まり、トニー・リード、ローレンス・G・ブロックマン、フィリップ・マクドナルドと続きます。監督はジョン・L・ボルダーストンに依頼しエピローグは採用しましたが、最終的には監督と協力してウィリアム・ハールバットが脚本を書き上げました。

フランツ・ワックスマン

 音楽を担当したのが、フランツ・ワックスマン(1906年12月24日~1967年2月24日)です。現在のポーランド出身のアメリカの作曲家で、数々の名作の音楽を担当しています。彼は銀行で働きながら数年間ピアノや作曲の勉強し、その後ベルリンに移住してジャズ・バンドで演奏と編曲をします。映画音楽の最初の仕事は1930年の『嘆きの天使』の編曲でしたが、1932年にナチスの台頭によりユダヤ人の彼は活動拠点をフランスに移し、フランスで製作されるドイツ映画の音楽を担当します。そこでフリッツ・ラングの1934年の『リリオム』の音楽を担当し、ジェローム・カーンのミュージカルをアメリカで上演する為にアメリカに渡ります。その後、彼はホエール監督の依頼を受け、本作の音楽を担当します。この映画では主要キャラクターそれぞれにテーマ曲を作り、映像の邪魔をせず映像に合わせて音楽を入れて映画を盛り上げます。これはハリウッド映画の音楽に新しい風を吹き入れ、その後の映画に大きな影響を与えたと思います。1930年代から1940年にかけてユニバーサル映画で仕事をしていましたが、アルフレッド・ヒッチコックの1940年『レベッカ』、1941年『断崖』、MGMの『フェラデルフィア物語』等を手掛けています。1943年からはワーナー・ブラザース、1950年代はパラマウント映画に移っています。彼が担当した映画のジャンルは多岐に渡り、どの映画も映像と音楽が融合していると思います。『フランケンシュタインの花嫁』を始め、1938年の『クリスマス・キャロル』、1941年の『ジキル博士とハイド氏』、1950年の『サンセット大通り』、1951年の『陽のあたる場所』、1954年の『裏窓』、1957年の『翼よ!あれが巴里の灯だ』、1957年の『昼下がりの情事』等です。本作では登場人物ごとに作曲し、シーンに合わせて見事に曲を駆使して画面を盛り上げています。彼が音楽を担当した映画をご覧になる機会がありましたら、是非音楽にも注目して頂ければと思います。

フランケンシュタインの怪物役
ボリス・カーロフ(48歳)

 主役のフランケンシュタインの怪物は、前作ではノン・クレジットだったボリス・カーロフです。但し、映画のタイトル・ロールで“カーロフ”なっていますが、これは慣例によるものと言われています。ボリス・カーロフ(1887年11月23日~1969年2月2日)は、イギリスのロンドン出身で1909年にカナダに移住してカナダとアメリカで演劇活動をし、1919年に映画界入りしてサイレント映画時代の脇役として多くの映画に出演しています。彼の演技力が認められて、1930年には個性派俳優をして評価を得ます。そして1931年『フランケンシュタイン』で、フランケンシュタインの怪物に抜擢されます。ユニバーサルはベラ・ルゴシに怪物役を依頼しましたが、ルゴシは台詞が無い怪物役を断った為ボリス・カーロフが演じる事になりました。『フランケンシュタイン』は世界中で大ヒットし、フランケンシュタインと言ったら特殊メイクをした怪物の顔が浮かぶようになり、博士の名前が怪物の名前の様になっています。その後は特殊メイクをした役では無く、異常な人間や悪役を演じるようになります。そして、本作で再び怪物役を演じますが、怪物が言葉を喋る事に反対します。映画を撮り終えてから、怪物が喋る事でとても良い映画になったと語っています。その後、『フランケンシュタインの復活』で怪物役を演じますが、最初は前2作でやり尽くしたからと断りますが、ユニバーサルの強い要請で引き受けます。ユニバーサルはシリーズ化して継続して出演を依頼しますが、カーロフに断られて怪物役はロン・チャイニー・Jrが演じました。1950年以降も怪奇映画に出続けますが、存在感のある脇役を演じるようになります。出演作品が多いので、フランケンシュタイン・シリーズを覗いて主な作品を列記します。1932年の『暗黒街の顔役』、『魔の家』、『ミイラ再生』、1934年『黒猫』、1935年の『大鴉』『古城の扉』、1945年『死体を売る男』、1947年『征服されざる人々』、そして1968年の『殺人者はライフルを持っている』では本人役で出演しています。1969年2月2日にイギリスのサセックス州ミッドハーストの病院で亡くなりました。81歳でした。

ヘンリー・フランケンシュタイン役
コリン・クライブ(35歳)

 ヘンリー・フランケンシュタイン役は、前作に引き続きでコリン・クライブ(1900年1月20日~1937年6月25日)が演じました。クライブは、フランスのサン・マロ生まれのイギリスの舞台俳優・映画俳優です。彼はストーニーハースト・カレッジに通い、ロイヤル・ミリタリー・アカデミー・サンドハーストに入学しますが、膝を負傷して兵役免除になります。その後舞台俳優を目指し、ハル・レパートリー・シアター・カンパニーで3年間演劇を学びます。ロンドンで最初の作品「ショーボート」の舞台でスティーブ・ベイカー役を演じ、サヴォイ・シアターの「ジャーニーズ・エンド」でジェームズ・ホエールと共演します。彼は1925年から1932年まではロンドンの舞台を中心に出演し、時折ニューヨークの舞台にも出ていましたが、1933年からはニューヨークの舞台に出演していました。彼の映画デビューは1930年のジェームズ・ホエール監督の『暁の総攻撃』で、アルコール依存症のスタンホープ大尉を演じました。実生活でも彼はアルコール依存症で、本作の撮影時にはかなり悪化していましたが、ホエール監督は彼の神経質な表情が必要なので出演させました。「ショーボート」・「ハムレット」・「白鳥」等19本の舞台出演があり、1931年『フランケンシュタイン』、1933年『人生の高度計』、1934年『ジェーン・エア』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』『狂恋』、1937年『歴史は夜作られる』等の18本の映画に出演しています。クライブは、重度の慢性アルコール依存症に苦しみ、1937年6月27日に結核の合併症の為37歳で亡くなりました。

エリザベス役
ヴァレリー・ホブソン(17歳)

 フランケンシュタインの恋人エリザベス役は、ヴァレリー・ホブソンが演じました。前作でエリザベスを演じたメイ・クラークが、健康が優れない為に役を降りたと言われています。ヴァレリー・ホブソン(1917年4月14日~1998年11月13日)は、1930年代から1950年代に活躍したイギリスの女優です。彼女は10歳頃からロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマティック・アークで、演技とダンスを学び始めます。1932年から映画に出演するようになり、17歳で1935年『フランケンシュタインの花嫁』『倫敦の人狼』、1935年『幻しの合唱』、1939年『スパイは暗躍する』、1949年『カインド・ハート』に出演し、1946年にはデビット・リーン監督の『大いなる遺産』にも出演しています。1953年3月8日に、ドルリー・レーンのシアター・ロイヤルで開演したミュージカル劇「王様と私」が最後の舞台でした。余談ですが、彼女は1954年に国会議員のジョン・プロフーモ准将と2度目の結婚をしますが、1963年に夫のプロフーモがスキャンダルを起こし政治生命を絶たれます。この事件は1989年の『スキャンダル』で映画されています。

セブティマス・ブレトリア博士役
アーネスト・セジガー(38歳)

 ヘンリー・フランケンシュタインの恩師セブティマス・ブレトリア博士を演じたのは、イギリスの舞台俳優・映画俳優のアーネスト・セジガー(1897年1月15日~1961年1月14日)です。彼はイギリスの名門出身で最初は画家を目指していましたが、演劇に転向して1909年にプロ・デビューします。第一次世界大戦中は1914年イギリス陸軍の準州軍に志願し、射撃手として3か月の訓練を受け西部戦線に送られます。彼はフランス滞在中に歴史的な刺繡を購入し、趣味としてその刺繍の修復をしていました。1915年に塹壕で負傷してイギリスに帰国します。帰国後、彼は兵士の為に小さな縫製キットを開発し、後にクロス・スティッチ名誉長官になり、バッキンガム宮殿でも仕事をするようになります。同時に1915年から舞台俳優と活躍します。1916年には映画デビューし、脇役ながら多くの作品に出演します。舞台俳優としての出演が主で、時折映画にも出演しています。1929年『高速度珍婚双紙』、1932年『魔の家』、1933年『月光石』等に出演し、1935年『フランケンシュタインの花嫁」で、ブレトリア博士役は正にはまり役で鬼気迫る演技です。その後、1936年『奇跡人間』、1945年『ヘンリィ五世』『シーザーとクレオパトラ』、1947年『赤い百合』、1951年『素晴らしき遺産~オードリー・ヘップバーン』、1953年『聖衣』、1948年『四重奏』、1951年『白衣の男』、1954年『卑怯者』、1960年『息子と恋人』等に出演しました。

メアリー・シェリーと怪物の花嫁役
エルザ・ランチェスター(33歳)

 「フランケンシュタイン」の原作者メアリー・シェリーと怪物の花嫁の二役を演じたのが、エルザ・ランチェスター(1902年10月28日~1986年12月26日)でイギリスの映画俳優です。余談ですが、夫のチャールズ・ロートンは1939年の『ノートルダムのせむし男』でカジモドを演じていますね。彼女は演劇の私塾で学び、17歳で自分の劇団と劇場を持ち1922年にロンドンの舞台にデビューして活躍します。1925年『緋色の女』で映画デビューし、1929年チャールズ・ロートンと結婚して時折共演しています。

 1933年『ヘンリー八世の私生活』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』『孤児ダビド物語』、1936年『レンブラント/描かれた人生』、1941年『生きてる屍』、1942年『運命の饗宴』、1943年『名犬ラッシー~家路~』、1946年『剃刀の刃』『らせん階段』、1947年『気まぐれ天使』、1948年『大時計』、1950年『ミステリー・ストリート』等に出演しています。1957年『情婦』では看護婦役でチャールズ・ロートンと共演し、面白い掛け合いをしています。1958年『媚薬』、1964年『メリー・ポピンズ』、1967年『ゴー!ゴー!ゴー!』、1969年『ナタリーの朝』、1971年『ウイラード』、1976年『名探偵登場』等に出演しています。1986年12月26日、カリフォルニア州のウッドランドヒルズで、気管支炎の為84歳で亡くなりました。

盲目の隠者役
オリバー・ピーターズ・ヘギー(58歳)

 盲目の隠者を演じたのはオリバー・ピーターズ・ヘギー(1877年9月17日~1936年2月7日)で、オーストラリアの舞台俳優・映画俳優です。彼はアデレート音楽院で学んでアマチュア劇団に出演後、1900年にシドニー宮殿で舞台劇「火星からのメッセージ」でプロとしてデビューしました。その後、1906年にイギリスに渡り数々の舞台劇に出演し、「スペックルド・バンド」で演じたシャーロック・ホームズはコナン・ドイルに称賛されました。1914年にはニューヨークに渡り、自作の舞台劇を始め精力的に舞台俳優として活躍しました。その後、ハリウッドに移り1928年のサイレント映画『女優』で映画デビューします。主な出演作品は、1929年『フーマンチュウ博士の秘密』、1930年『ヴァガボンド王』・『続フーマンチュー博士』、1931年『女性に捧ぐ』、1934年『モンテ・クリスト伯爵』・『紅雀(赤毛のアン)』、1935年『フランダースの犬』・『フランケンシュタインの花嫁』等です。

侍従ミニー役
ウナ・オコナー(55歳)

 フランケンシュタイン家の侍従ミニー役をウナ・オコナーが演じています。本作でも出番は多く、コミカルに騒ぎまくります。ウナ・オコナーの履歴は、Vol.50『透明人間』をご覧ください。次回に続きます。 最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

 Vol.52 『透明人間』の最終章

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鏡に向かって包帯を解くジャック

 ケンプの家に戻ったジャックは、パジャマを着て鏡に向かって顔の包帯を外していきます。(このシーンの特撮は、4回の重ね撮りをした非常に高度な技術で撮影されています。)

クランリー博士に電話をするケンプ(左)
ジャックに会いに行くと訴えるフローラ(右)

 宿屋の酒場では警察署長が陣頭指揮を執って、透明人間捕獲作戦を開始します。警官は32㎞の範囲の捜索を行い、ラジオでは科学者が透明人間になって警官を殺した事を放送しています。住民には注意を促し捜査の協力を求め、情報提供者には1,000ポンドの賞金が出る事も発表されます。ジャックが眠っている隙に、ケンプは1階に降りてクランリー博士に電話します。ジャックが自分の家にいて、彼が透明人間だと伝えて直ぐ来るように頼みます。博士はケンプに、ジャックはそんな人間じゃないと言って電話を切ります。ケンプは警察に電話して、透明人間が自分の家にいる事を通報します。電話を受けていたクランリー博士に、フローラは誰からの電話か尋ねます。博士はケンプからの電話で、ジャックが透明人間でケンプの家にいると言います。フローラはジャックに会いに行くと言い出しますが、彼は正常じゃないから行かないように言います。しかし、彼女は一人でも会いに行くというので博士も一緒にケンプの家に向かいます。

ジャックに博士とフローラを呼んだと言うケンプ(左)
フローラに自分の野望を語るジャック(右)

 2階で寝ていたジャックが降りてきて、ケンプがいる部屋の前で鍵を開けろと言います。ケンプは怖いから鍵をかけたと言うので、ジャックは相棒だから怖がる事は無い早く寝ろと言います。二人で2階に上がると窓から車が到着するのが見え、ジャックは警察に通報したのかと言います。ケンプはフローラと博士が来たと言い、彼女が心配していたので連絡したとジャックに言います。ジャックはフローラと二人で話がしたいと言い、フローラはジャックのいる部屋に行きます。二人は再会を喜び、ジャックはフローラの為に研究を完成させて富と名声を得たかったと言います。フローラは、博士と協力して復元薬を作るように言います。天才の博士と一緒に研究すれば完成すると言うと、ジャックは自分には凄いパワーがあるから、博士の協力は要らないと言い返します。自分は何でも出来る人間だから富も名声も得られると言っている時に、家の周りには警官が集まって来ているのが見えます。ジャックはケンプが警察に通報したことを知り、フローラに帰るように言い透明人間に戻ります。

ズボンだけで逃げるジャック

 家を包囲した警官隊は手を繋いで家に向かって前進します。ケンプが部屋の窓を開けた時、ジャックがケンプを明日の10時にお前を殺すと言って出て行きます。ジャックは警官に悪戯をしながら、一人の警官の足を掴んで引きずり出し、振り回して投げ飛ばします。その時警官のズボンを取り、それを穿いて歌い踊りながら逃げて行きます。

ジャックの行方を博士に聞く警察署長(左)
ジャックが透明人間だと訴えるケンプ(右)

 警察署でケンプは明日の10時に殺されるから拘置所に入れて欲しいと警察に頼みます。署長は警察に博士とフローラも呼んで、博士の行動に疑問を持ち質問します。博士に助手のグリフォンはどうしたと尋ねると、彼は出て行ったとだけ答えます。ケンプはグリフォンが透明人間だと言い、彼は私を殺しに来ると喚きます。大勢の町民が透明人間探しをしている時に、透明人間が現れて崖から町民を突き落とします。信号所にも現れて勝手にレールを切り替えて、予定通り列車事故を起こします。銀行では現金が入った引き出しを盗み、道路に出て歌いながら現金をばら撒きます。

捕獲作戦の説明をする警察署長(左)  崖から落ちるケンプが乗った車(右)

 ケンプの家では警察署長が署員に捕獲作戦の指示を出します。ケンプを署員が囲み、外側に網を巡らせて警察署に向かいます。警察署でケンプは警官の制服を着て、裏口から逃げ出し車でその場から立ち去ります。逃げ切ったと思ったのも束の間、車にはジャックが乗っていてケンプは手足をロープで縛られます。そして、車ごと崖から落とされ車は炎上します。

藁の中の透明人間が寝ている事に気付いた農夫(左) 火に包まれる納屋(右)

 ジャックは農家の納屋に忍び込み、藁の中に潜り込んで眠ります。処が、そこの住民が農機具を納屋に置きに行った時に、藁の中から寝息が聞こえるのに気が付き警察に知らせます。警察は全署員を出動させて、透明人間捕獲作戦を開始します。納屋を全署員で囲み、納屋に火をつけて透明人間をおびき出します。火事に気が付いたジャックは慌てて藁から飛び出し外に出ますが、地面には雪が積もっていてジャックの足跡が見えてしまいます。

銃弾に倒れたジャック

 銃を構えていた署長は、足跡が向かう方向に銃を撃ちます。雪の上の足跡が止まり、雪の上に人が倒れたような形に表れます。署長は倒れた場所に行き、透明人間が倒れた事を確認します。

フローラに最後の言葉を告げるジャック(左)
死んで姿を現したジャック・グリフォン(右)

 瀕死の状態で病院に運ばれたジャックは。フローラに自分は元に戻りたかったが失敗した。触れてはならない領域に手を出してしまったと言って息を引き取ります。(徐々に顔が現れ、ジャック・グリフォンの死に顔が映し出されます。ラストを見事な特殊撮影で物語は終わります。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

1933年『透明人間』
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社
《特典映像は特殊撮影に興味がある方には必見です》

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン。ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー

 Vol.51 『透明人間』の続き

顔中包帯の謎のサングラス男(左)      女将のジェニーと謎の男(右)

 雪が降る夜、コートに身を包みトランクを持った男が、酒場兼下宿屋に歩いて行きます。1階の酒場では酒を飲みながら語り合う人、ピアノを弾く真似をする人、ダーツをする人と多くの人たちが寛いでいます。突然ドアが開き、深々と帽子を被り顔中包帯を巻いたサングラスの男が現れます。そこにいた人たちは、一斉にその男を見て沈黙します。その男は部屋を借り、女将のジェニーに案内されて2階の部屋へと向かいます。部屋に入るとジェニーは終始話しながら暖炉に火を入れて客を受け入れる準備をします。男はジェニーに背を向けて立ったまま、窓から外を眺めながら食事を注文します。ジェニーは1階に降りてトレイに食事を用意して再び2階に上がります。男は窓の方を向いたまま立っていて、自分の邪魔をしないように言います。酒場では客たちが、謎の男の話題で盛り上がっています。ジェニーが食事を置いて1階に戻ったら、厨房の女性従業員がマスターを忘れたと言ったので再び2階に上がります。部屋のドアを開けると、食事中の男はナプキンで口を隠して怒ります。慌てて1階に降りたジェニーは、男は顔中包帯で巻いているから事故にあったと皆に言います。

クランリー博士と娘のフローラ(左) フローラに言い寄る助手のケンプ(右)

 クランリー博士の実験室に娘のフローラが悲痛な表情で現れます。父親のクランリー博士にジャックの行方を聞きますが、博士は研究に没頭していたのだろうと相手にしません。そこに助手のアーサー・ケンプが現れ、彼もジャックがひと月も連絡が無いのはおかしい何処に行ったのか博士に尋ねます。クランリー博士は、私の許可を得て研究を続けているから問題無いと言います。フローラはジャックに何か悪い事が起こったと言って、泣きながら隣の部屋に行きます。ケンプは彼女の後を追い、気晴らしにドライブでも行こうと誘いますが、彼女は泣き崩れるだけです

亭主に男を追い出すように言うジェニー(左)
階段を転がり落ちて床に倒れた亭主に声を掛けるジェニー(右)

 実験器具の前に立つジャックは元に戻る方法を思案している処に、ジェニーが文句を言いながら昼食を持って来ます。入室を断るジャックを無視して部屋に入ろうとするジェニーをドアを閉めて追い出します。ジェニーは昼食を床に落とし、奇声を上げながら1階に戻り亭主に男を追い出すように言います。亭主は渋々2階に上がり、未払いの1週間分の宿賃請求と出て行くように告げます。ジャックは実験の邪魔をするジェニーに腹を立てている処に亭主が現れます。宿代を請求する亭主と口論となり、逆上したジャックは亭主に襲い掛かりドアから突き飛ばして階段を転がり落としてしまいます。床に倒れている亭主を見たジェニーが大騒ぎをするので、客が集まりジェニーを慰めます。(これら一連のシーンの大袈裟なウナ・オコナーの演技は、シリアスな映画でもコミカルなシーンを入れるホエール監督の演出です。)

透明人間を見て驚く警官と客たち(左)   顔の包帯を取った謎の男(右)

 客たちは外に出て警官を連れだって男の部屋に乗り込みます。そこで男は自分が透明人間だと明かし、付け鼻を取り顔の包帯を取って服だけの姿になります。(ジョン・F・フルトンの特殊撮影が後の映画に多大な影響を与えたシーンです。)その場にいた人たちは驚き、唖然とします。男はさらに上着もズボンも脱いでワイシャツだけの姿になって、皆を追い掛け回して警官の首を絞めます。皆は外に飛び出て逃げ回り、町中がパニック状態にあります。透明人間のジャックは、薬品の副作用で異常をきたし凶暴になって来ます。町中で悪戯しながら動き回ります。(このシーンでは、以前から使っていた手法のワイヤーを使って透明人間の存在を表現しています。ウォルター・ブレナンが、自転車を盗まれる男役で出演しています。)首を絞められた警官が、警察署のレーン警部補に報告しますが信じてもらえません。

手掛かりを探すケンプとクランリー博士(左)
モノカインの説明する博士(右)

 クランリー博士の研究室では、博士とケンプがジャックの研究の手掛かりを探しています。ジャックが使っていた薬品は持ち出されていましたが、博士は薬品のリストを見つけ出しモノカインを持ち出した事が分かります。モノカインはインドで発見された薬品で、色素を抜く作用があり漂白剤の研究に使われました。しかし、効果が強力過ぎるのと劇薬だと分かり研究は中止されまた。モノカインを犬に注射したら凶暴になり、その後白くなって死んでしまう劇薬です。博士はこの事を口外しないようにケンプに口止めし、ジャック・グリフォンが失踪したと警察に届ける事にします。

煙草にマッチで火をつけるジャック(左)
相棒になれと命令するジャック(右)

 帰宅して自宅で寛いでいるケンプの部屋にジャックが現れます。(透明人間なので声だけの登場ですが、クロード・レインズの声が良いですね。ケンプ役のウィリアム・ハリガンの一人芝居も素晴らしいです。)以前のジャックとは違って話し方は全て命令調になり、椅子に座って煙草を吸いながら怯えるケンプを脅し始めます。パジャマにガウンを着て手には手袋、顔には包帯を巻いてサングラスをしたジャックはケンプに相棒になれと言い出します。ジャックは5年間の研究で透明人間になったが、邪魔されて復元薬を作れなかった。しかし、自分は強力なパワーを手に入れたので世界を征服出来る。その為には真面な姿の人間が必要だから、お前は相棒だと言います。研究資料が宿屋にあるので、ケンプに車を出すように命令して2人で宿屋に向かいます。

2階の窓から研究資料が落とされてます(左)
ジャックに首を絞められているレーン警部補(右)

 透明人間のジャックは宿屋の部屋に入り、窓から研究資料を2階の窓から落として下にいるケンプに受け取らせます。宿屋の1階で町民が集まっている酒場に、レーン警部補が登場して町民の証言を信じず透明人間の存在を全面否定しています。全ての案件を却下して共同謀議で起訴すると言い、書類を書こうとペンをインク壷に向かわせると、突然インク壷が横に移動します。再びペンを近づけるとインク壷は横に移動し、今度は宙に浮いて顔にインクを掛けます。透明人間がいると女将のジェニーが騒ぎ出し、そこにいた人達はその場から逃げ出します。薬の副作用で凶暴化したジャックは警部補に襲い掛かり、首を絞めて殺してしまいます。クランリー博士は警察署のレーン警部補を訪れますが、その時発行された号外を見て透明人間が殺人を犯した事を知ります。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン、ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー

Vol.50 『透明人間』

 今回ご紹介するのは、H・G・ウェルズ(ハーバード・ジョージ・ウェルズ)原作の「透明人間」です。1933年に初映画化された作品で、後に多くの映画に多大な影響を与えた作品です。

1933年『透明人間』
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社
《特典映像は特殊撮影に興味がある方には必見です》

【スタッフとキャストの紹介】

ジェームズ・ホエール監督(44歳)

 ジェームズ・ホエール(1889年7月22日~1957年5月29日)は、イングランドのダドリー出身の映画監督です。ホエールは7人兄弟の6番目で、兄弟が父親と同様に製鉄業に就きましたが、彼は靴直しの仕事に就きます。彼は自分に絵を描く才能があると知り、ダドリー美術工芸学校の夜間クラスに通います。第一次世界大戦中の1915年8月に軍隊に入隊し、1916年7月にウスターシャー連隊に参加します。1917年8月に捕虜になりますが、その間に絵を描いたりスケッチをしたり、収容所で行われたアマチュア演劇作品では俳優、作家、プロデューサー、セットデザイナーをしていました。停戦後、バーミンガムに戻って舞台俳優になり、舞台演出の仕事も始めて経験を積み上げていきます。1928年にR・C・シェリフの戯曲「旅路の果て」の演出をします。主役は当時まだ無名に近いローレンス・オリビエを起用して大成功を収め、アンリカに移住して1928年「旅路の果て」をブロードウェイの舞台で演出しました。

 1930年にカリフォルニア州ハリウッドで、ハワード・ヒューズ監督の『地獄の天使』で俳優として出演し、ノンクレジットで共同監督をしています。同年、「旅路の果て」の映画版『暁の総攻撃』を監督しました。1931年『ウォタルウ橋』と『フランケンシュタイン』を監督し、『フランケンシュタイン』では360度のパン・ショットを映画で初めて使いました。1932年『魔の家』、1933年『透明人間』、1934年『女を求む』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』・『不在証明なき犯罪』、1936年『ショーボート』等を監督しましたが、映画会社の折り合いが悪く1941年に引退します。1957年5月29日未明に、ハリウッドの自宅のプールで溺死体となって発見されます。警察の捜査で入水自殺と断定されました。彼はハリウッドで活躍して時に自分が同性愛者だと宣言していました。彼が死に至るまでの半生は、1998年の『ゴッドandモンスター』で描かれています。この映画の監督のビル・コンドンも主役のイアン・マッケランもゲイです。

 この映画が後世に多大な影響を与えたのは、透明人間が存在しているように映像に表す手法です。その特殊効果を考え出したのが、特殊効果撮影監督のジョン・P・フルトン(1902年11月4日~1966年7月5日 米ネブラスカ州生)です。彼は測量士をしていましたが、D・W・グリフィス・カンパニーで撮影助手として映画界入りします。彼はそれから光学合成と旅行マット写真の基礎を学び、1929年の『彼女は戦ひに行く』で撮影監督としてデビューします。1931年の『フランケンシュタイン』で特殊効果を担当し、その後ユニバーサルの特殊効果部門の責任者になります。そして本作で画期的な手法で透明人間を映像化します。その撮影方法は、フィルムによる撮影で可能になる方法です。現在ではビデオ・カメラを使ってグリーン・バックで俳優の演技を撮影し、その画像にコンピューターを使ってCGで簡単に合成出来ます。それ以前の長い間はブルー・バックで俳優の演技をフィルムで撮影して、背景と合成して作っていました。どちらも使う機材は違いますが、基本的やっている事は同じです。これらのやり方の基本的なテクニックを考え出したのが、フルトンです。本作で彼が考え出した方法は、透明人間の役者に全身を覆う黒いスーツを着せます。(光を反射しない起毛の布地のフェルトを使って全身スーツを作った)その上から洋服を着てカツラを付け、顔には包帯を巻き帽子を被ります。それから光を反射しない黒い背景で、役者の演技をフィルムで撮影します。この時役者がワイシャツだけを着た状態なら、ワイシャツだけが動いているようにフィルムに撮影されます。フィルムは光が当って感光されて映像となります。バックが黒の場合はフィルムに感光されていませんので、役者を撮影したフィルムを巻き戻して今度は背景を撮影します。このフィルムを現像するとワイシャツだけが動き回る映像が出来上がります。このやり方で顔に巻かれた包帯をほどいていくと、透明人間が現れます。(表現が変ですね。)但し、本作では46,000コマを手で修正して完成させています。誰も思い付かなかったこの撮影方法は、今も受け継がれて多くの映画が作り出されました。ホエール監督からワイシャツだけが動き回るような映像を撮れないかと相談され、可能だと答えたので監督は本作の製作を開始しました。

 フルトンはパラマウント社の特集効果を担当し、1935年の『フランケンシュタインの花嫁』の小人のシーンを撮影し、1945年『ダニー・ケイの天国と地獄』ではアカデミー特殊効果賞を受賞しています。1954年『黒い絨毯』、・『巨像の道』『裏窓』『麗しのサブリナ』の特殊効果を担当し、同年の『トコリの橋』では2度目のアカデミー賞を受賞しています。その後、MGMへ移籍して1956年の『十戒』で紅海が二つに割れるシーンの画期的な特殊撮影を手掛け、アカデミー賞の最終特別効果賞を受賞しました。アルフレッド・ヒチコック監督の映画は殆ど担当し、1955年『泥棒成金』、1956年『知りすぎた男』、1958年『めまい』等です。1960年代初頭にパラマウント社を去った後、特殊効果の仕事を続けていましたが、1969年の『空軍大戦略』の撮影中にスペインで感染症に罹り、1966年7月5日にロンドンの病院で亡くなりました。63歳でした。

脚本家
ロバート・C・シュリフ(37歳)

 脚本を担当したのは、イギリスの劇作家・脚本家・小説家のロバート・セドリック・シュリフ(1896年6が6日~1975年11月13日)です。キングストン・グラマー・スクールを卒業後、父親が保険会社に勤めていた影響か、彼は1914年にロンドンの保険会社に就職します。第一次世界大戦中は陸軍大尉としてフランスで参戦し、1917年にハッシェンデールの戦いで重傷を負い戦功十字賞を受けます。戦後、1918年から1928年まで保険調査員として働き。1928年に自身の戦争中の体験に基づいた戯曲「旅路の果てに」を発表します。この戯曲をジェームズ・ホエールが演出して、大ヒットします。1931年から1934年にオックスフォード大学ニュー・カレッジに通いながら映画の脚本も書くようになります。H・G・ウェルズが透明人間を社会から孤立した人間の象徴として生み出したキャラクーだったので、その意向を描いたR・C・シュリフの脚本が選ばれました。1933: 年『透明人間』『チップス先生さようなら』、1935:年 『四枚の羽根』、1941年『美女ありき』、1942:年『純愛の誓い』、1945: 年『邪魔者は殺せ』、1948:年 『四重奏』、1955年『暁の出撃』等の脚本を担当しました。

ジャック・グリフォン博士役
クロード・レインズ(37歳)

 透明人間になったジャック・グリフォン博士役は、映画界では殆ど無名のクロード・レインズが主役を演じました。(ホエール監督が彼の声が気に入っての大抜擢でした。)

クロード・レインズ(1896年11月10日~1967年5月30日)は、ロンドンのスラム街だったクラパム生まれで、近隣のキャンパーウェル界隈で育ちました。レインズは父親が俳優だった事もあり、10歳で舞台にエキストラとして出演し俳優を目指します。俳優の呼び出し係となって学校を辞め、新聞配達や路上教会聖歌隊に加わり家計を助けながら1911年に端役で初舞台を踏みます。その後、舞台監督として「青い鳥」のオーストラリア巡業に参加し、1914年から1年間、メルボルン、シドニーを回りレインズ自身も時折俳優として出演しました。帰国後、第一次世界大戦の為イギリス陸軍に従軍しますが、戦闘中に敵の毒ガスの攻撃で片目を失明します。1919年除隊後に、シェフィールドの劇団を経てロンドンの舞台に立つようになり、働きながら王立演劇学校で学びます。1920年にはサイレント映画にも出演し、1926年に妻と共にニューヨークに渡り夫婦で舞台出演します。このアメリカ巡業で実力が認められ、1928年にブロードウェイの舞台で主役を務めます。1,933年にボリス・カーロフの代役として、『透明人間』の主役を演じ、顔はラスト・シーンで1度しか出ませんでしたが、彼の名前は一躍有名になります。そして、1934年の『情熱なき犯罪』で本格的に映画俳優のキャリアをスタートさせます。1938年『ロビンフットの冒険』、1939ン年『スミス都へ行く』、1940年『シーホーク』、1942年『カサブランカ』、1943年『オペラの怪人』、1946年『汚名』『シーザーとクレオパトラ』等に出演しました。1947年にフリーとなり、映画出演のかたわらニューヨークの舞台に立っています。1950年『白銀の峰』、1960年『失われた世界』、1962年『アラビアのロレンス』、1964年『偉大な生涯の物語』等多くの映画に出演しました。1967年5月30日に内臓疾患の為に70歳で亡くなりました。

フローラ・クランリー役
グロリア・スチュアート(23歳)

 原作に登場しないジャックの恋人フローラ・クランリー役をグロリア・スチュアート(1910年7月4日~2010年9月26日)が演じました。彼女はカルフォルニア州サンタモニカ出身のアメリカの女優です。1932年『魔の家』、1933年『透明人間』、1935年『ゴールド・ディガース36年』、1936年テムプルの福の神虎鮫島脱獄、1938年『農園の寵児』等に出演しましたが、1940年代からはデコバージュの製作や画家として活躍するようになり各地で展覧会も開催しています。又、映画俳優組合の設立にも尽力しています。1975年からはテレビに出演するようになり俳優業を続け、87歳の1997年に『タイタニック』で101歳になった主人公のローズを演じました。2004年の『ランド・オブ・ブレンティ』が最後の映画出演になりました。晩年は肺癌と乳癌で苦しみ、2010年9月26日に肺癌の為に100歳で亡くなりました。

アーサー・ケンプ博士役
ウィリアム・ハリガン(39歳)

 ジャックの同僚アーサー・ケンプ博士役を、ウィリアム・ハリガン(1894年3月27日~1966年2月1日)が演じました。彼はニューヨーク市生まれの俳優で、5歳の時に舞台デビューして父親のエドワード・ハリガンと共演しました。1906年にはブロードウェイ・デビューして、父親と共演しました。彼はニューヨーク陸軍士官学校に通い、第一次世界大戦中は第77師団の第307歩兵連隊の大尉でした。1930年代から1940年代はブロードウェイの舞台に出演し、ブロードウェイの舞台劇「ミスター・ロバーツ」でキャプテン役を演じています。彼の映画デビューは1915年の『三国の事件』で、1957年の『罪人の街』まで多くに作品に出演していました。

クランリー博士役
ヘンリー・トラバース(59歳)

 クランリー博士を演じたのがヘンリー・トラバース(1874年3月5日~1965年10月18日)で、ノーサンバーランド州ブルドー生まれのイギリスの映画・舞台俳優です。彼は1894年にイギリスで舞台俳優としてデビューし、自分より年上の老け役を演じていました。1091年「平和の代償」でブロードウェイ・デビューしますが、1度イギリスに戻ります。その後アメリカに定住し、1917年11月から1938年12月までブロードウェイの舞台で活躍します。彼がブロードウェイで最後に出演したのが、舞台戯曲「我が家の楽園」で祖父のヴァンダーホーフ役でした。

 1933年の『ウィーンでの再会』で映画デビューし、同年『透明人間』、1934年『濁流』、1938年『黄昏』、1939年『スタンレー探検記』、1940年『人間エヂソン』、1941年『ハイ・シエラ』『教授と美女』、1942年『心の旅路』『ミニヴァー夫人』、1943年『疑惑の影』『キューリー夫人』、1945年『聖メリーの鐘』、1946年『小鹿物語』等に52本の映画に出演しました。特に1946年の『素晴らしき哉、人生!』では、守護天使クレランス・オドボディ役を好演しています。1949年に引退し、1965年動脈硬化の為に91歳で亡くなりました。

ジェニー・ホール役
ウナ・オコナー(53歳)

 下宿屋の女将ジェニー・ホール役はウナ・オコナー(1880年10月23日~1959年2月4日)で、彼女はアイルランド生まれのアメリカの女優です。大げさに騒ぎまくるコミカルな役が多く、ジェームズ・ホエール監督がお気に入りの女優です。彼女はアイルランドのダブリンにあるアビー劇場で俳優としてデビューしました。ある舞台劇がダブリンとニューヨークで上演されたので、1911年11月20日にマキシン・エリオット劇場でアメリカ・デビューします。1913年までロンドンに拠点を置き、時折アメリカの舞台にも出ていました。1929年『ダークレッドローズ』で映画デビューし、1933年『カヴァルケード』で舞台でも演じた役で映画に出演しました。この映画出演の成功により、彼女はアメリカに定住します。その後、1933年『透明人間』、1935年『フランケンシュタインの花嫁』、1936年『鍬と星』、1938年『ロビンフットの冒険』、1940年『シーホーク』、1942年『心の旅路』、1945年『聖メリーの鐘』等の映画に出演しながら、ブロードウェイの舞台にも出演しています。1957年『情婦』が最後の映画出演作品でした。ウナ・オコナーは1959年2月4日、ニューヨーク市のメアリー・マニング・ウォルッシュ・ホームで、心臓病の為に78歳で亡くなりました。生涯独身を通し、舞台と映画に人生を捧げた人生でした。一度見たら忘れられない、愛すべきキャラクーの持ち主でした。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.49 『英雄を支えた女』の最終章

『英雄を支えた女』のトップはこちら

グラスにウィスキーを注ぐスティーリー(左)
スティーリーを銃で撃とうとするイーサン(右)

 ハンナが死んだと思ったスティーリーはバージニア・シティに行き、酒場でウィスキーをグラスに注ごうとした時、銃声がしたと同時に手に持ったウィスキー便が砕け散ります。銃を撃った男は、俺が酒を飲みに来た時は俺の奢りだと。そして銀山の王イーサン・ホイトだと名乗りますが、ウィスキーの瓶を持っていた男を見て、スティーリーだと気が付きます。イーサンは銃を向けたままスティーリーに近づき、何の用だと言います。スティーリーがハンナは死んだと言った途端にイーサンは銃でスティーリーを撃ち酒場を出て行きます。

イーサンの近況を話すスティーリー(左)
微動だにせず話を聞くハンナ(右)

 撃たれたスティーリーは命を取止め、嘗てハンナが経営していたサクラメントの宿屋に行きます、スティーリーが宿屋の中を覗くと奥の部屋から明かりが見えたので中に入るとハンナがゆり椅子に座っていました。ハンナに我々は死んだとイーサンは思っていて彼が再婚した事を伝えます。(この場面のハンナは瞬き一つせずにスティーリーの話を聞き、その表情はやがて悲しみを堪えているのが伝わって来ます。)ハンナは子供たちの埋葬地に行き、そこでサンフランシスコ行きを決めます。

ハンナにイーサンが再婚した事を告げる父親(左)
父親を追い返すハンナ(右)

 ハンナはスティーリーがサンフランシスコで経営する賭博場でディーラーとして働いています。そこに父親が突然ハンナに会いに来ます。ハンナは家族の事を聞こうとしますが、父親は話を遮ってお前は死んだと思われているから死んだままでいてくれ。名前を変えて何処か遠くに行ってくれと言います。イーサン・ホイトは再婚して子供もいるので、お前の存在がスキャンダルになる。イーサン・ホイトの夢は破れて鉄道を引こうとしている。その為に出馬して議会に出ようとしていると言います。。ハンナはイーサンがホイト・シティを創るのを諦めて反対勢力と結託しようとしている事を知り、父親を追い返します。ハンナはスティーリーに別れを告げ、ホイト・シティに向かいます。

再会したハンナとイーサン(左)
ホイト・シティを創るように説得するハンナ(右)

 ハンナは選挙演説を聞き、かつてのイーサンが言っていた事を対抗するハンクが言い、イーサンが反対していた事をイーサン自身が言っているのを聞きます。演説が終わってイーサンは一人、嘗てハンナと暮らした家で自分の信条に背ている自分を責めます。その時、外で物音がしたので窓から外を見るとハンナが立っていました。イーサンは外に出て再会を喜び近況を話し、ハンナは二人が出会った頃の話をします。二人は家に入り、イーサンは自分一人では夢を実現出来ないと言いますが、ハンナは二人で夢見たホイト・シティを創るように言います。力を貸して欲しいと言うイーサンに、ハンナはもう離婚したからと嘘を言って自力で実現するように諭します。イーサンは馬上の人となり帰って行きます。(とても良いシーンです。)

銅像を見上げる二人(左)        結婚証明書を破るハンナ(右)

 画面が変わって、ハンナが伝記作家に話しているシーンになります。1906年にスティーリーはサンフランシスコの大火事で人助けをして死んだ事、その年イーサンが死ぬ為にハンナの家を訪れた事を話します。二人はイーサン・ホイトが馬に乗っている銅像の前に立ち、ハンナは伝記作家にイーサンの偉業を語ります。伝記作家は話を聞き終えると、ハンナにキスをして伝記を書くのを止めますと言います。ハンナは彼女を帰してから、ボロボロになった結婚証明書を出して細かく破いて捨てて帰宅します。こうして奇妙な三角関係のラブ・ストーリーは終わります。

帰宅するハンナ

 最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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発行:コスミック出版 本体1,500円+税

『英雄を支えた女』 作品データ

アメリカ 1942年 モノクロ 90分

原題:The Great Man’s Lady

監督:ウィリアム・A・ウェルマン

製作:ウィリアム・A・ウェルマン

脚本:W・L・リヴァー

原作:ビーニャ・デルマー(コスモポリタンの短編小説「人間の側面」)

アデラ・ロジャース・セント・ジョンズ

ソーナ・オーウェン

撮影:ウィリアム・メロ

美術:ハンス・ドレイアー、アール・ヘドリック

編集:トーマス・スコット

音楽:ビクター・ヤング

出演者:バーバラ・スタンウィック、ジョエル・マクリー

    ブライアン・ドンレヴィ、K・T・スティーブンス

    サーストン・ホール

Vol.47 『英雄を支えた女』の続きの続き

土地を購入しようとする男を追い返すハンナ左)
金を掘りにカリフォルニアに行こうと言うハンナ(右)

 偉大な夢を抱いてスタートした二人だが、思うように計画は進まずイーサンは諦めかけていた。ホイト・シティを創る為に購入した広大な土地の4分の3を売る契約をしようとしていた。そこに外で今晩の食料になるウサギを銃で仕留めたハンナが入って来て、土地を購入しようとする男を追い出してしまいます。ハンナは、イーサンに金山の夢を見た話をします。太陽を背にした黒い山が、空から手招きするような夢だったと。二人は一時この土地を離れ、カリフォルニアで金山を探しに行く事にします。

ギャンブラーのスティーリー登場(左)
ギャンブルに100ドルを賭けるイーサン・ホイト(右)

 イーサンは早速仲間を誘いに町に出掛け、話が纏まり仲間と酒を飲んで盛り上がります。しかし、手元の資金は100ドル。酒場から出ると、外にいたギャンブラーのスティーリーに声を掛けられます。私と勝負して勝ったら1ドルが100ドルになります。3枚のカードの中からエースを見付けるだけですが、イカサマです。イーサンは最初断りますが、仲間に言われるままに勝負して負けてしまいます。元手の100ドルを取り戻す為に勝負をして、結局馬や牛や鶏等の全てを失います。

スティーリーを銃で脅すハンナ(左)
ハンナはスティーリーにカードで勝負に挑む(右)

 家でイーサンの帰りを待っていたハンナは、家の家畜や荷馬車を運び出すのを窓越しに見て、銃を片手にギャンブラーの許へ行きます。そしてハンナはギャンブラーに銃を向けて、酔っ払い相手に公平じゃないから全部返すように言います。(スティーリーとの初顔合わせのシーンは、ハンナの顔の左半分だけしか写していません。ここから奇妙な三角関係が始まります。)ギャンブラーは私も少し酔っていたし、銃を向けて返せと云うのは不公平だからカードで決着を付けよう言います。勝負の結果、ハンナはお金も家畜も全て取り戻して帰宅します。情けない表情のイーサンに全て取り戻したと言い、テーブルにお金を出して何事も無かったように夕食の支度を始めます。何か言おうとするイーサンに食事をしながら明日出発だから準備してと言います。

銀鉱を見付けるまでの話を伝記作家にするハンナ

 画面が変わって、ハンナが伝記作家に話しているシーンに戻ります。カルフォルニアに行ったら直ぐに金が見つかると思ったが、見つからず8年掛かって銀を見付けた。金鉱探しからイーサンが帰った時は幸せだったが、いない時は苦しかった。その8年間スティーリーは傍にいたが、彼には恋愛感情は無かったと語り、サクラメントで宿を営んでいた頃の話が始まります。

スティーリーに平手打ちをしたハンナ(左)
スティーリーに銃を向けるイーサン(右)

 ハンナは宿のラウンジのランプを消していて、スティーリーが椅子に座って彼女の店じまいを待っている。全てのランプが消えた時、スティーリーはハンナをコンサートに誘うが断られる。(ここから画面は暗転し、シルエットだけになります。登場人物の感情が断絶している時、表情が見えない画面が映し出されます。)スティーリーはハンナを思うあまりイーサンを非難するとハンナは平手打ちをします。直ぐにハンナは謝罪し、イーサンの子供を身籠っている事を伝えます。その時イーサンが帰って来て、銃を手にして女房から離れろと言います。銃を突き付けているイーサンに、銃を所持しないスティーリーは丸腰だと言って上着を広げて見せます。イーサンに出て行けと言われて、スティーリーは店から出て行きます。

青いベトベトした物を手に取るハンナ(左)
以前、夢で見た事を思い出すハンナ(右)

 イーサンは疲れているから眠りたいと言って、二人で二階の寝室に行きイーサンはベッドに横たわります。いくら掘っても金は出てこないし、青いベトベトした物が邪魔をすると言います。そして掘っている丘の光景を話し出します。その丘は太陽の丘と呼ばれ、空から手招きしているように見えると言います。イーサンのブーツを脱がしているハンナは青いベトベトした物を手に取り、イーサンの話が以前自分が見た夢と同じだと思います。ハンナはブーツに付いた青いベトベトした物を搔き集めて手に取り鉱物分析所に向かいます。

分析所で純度の高い銀だと言われる(左)
スティーリーに借金を申しむハンナ(右)

 分析の結果、その青いベトベトした物は純度の高い銀で、8年間の苦労が実り大金持ちになって夢を実現する事が可能になります。ハンナは急いでイーサンに知らせに走りますが、途中でスティーリーに出会い山を買う為の資金を借金します。(スティーリーのハンナへの片思いが切ない。)

ハンナに資金の出所を問い詰めるイーサン(左)
ハンナと共にサクラメントに残るスティーリー(右)

 ハンナはイーサンに銀山を掘り当てた事を伝え、直ぐその山を購入するように言ってお金を渡します。イーサンは荷物を持って階段を降りた処で、ハンナにお金の出所を問い質します。(この場面も二人のシルエットになります)ハンナはそれに答えずイーサンに抱きつきます。イーサンはお金の出所はスティーリーだと確信し、二度とここには戻って来ないと言って出て行きます。

双子の子供達と馬車日に乗ったハンナ(左)
生き残ったハンナ(右)

 画面が変わって双子の親となったハンナは、スティーリーが手配した馬車に乗りバージニア・シティに向かいます。激しい嵐の中、橋を渡る時に鉄砲水で橋もろとも馬車は川に流され、子供たちは死にハンナだけが生き延びます。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『英雄を支えた女』 作品データ

アメリカ 1942年 モノクロ 90分

原題:The Great Man’s Lady

監督:ウィリアム・A・ウェルマン

製作:ウィリアム・A・ウェルマン

脚本:W・L・リヴァー

原作:ビーニャ・デルマー(コスモポリタンの短編小説「人間の側面」)

   アデラ・ロジャース・セント・ジョンズ

   ソーナ・オーウェン

撮影:ウィリアム・メロ

美術:ハンス・ドレイアー、アール・ヘドリック

編集:トーマス・スコット

音楽:ビクター・ヤング

出演者:バーバラ・スタンウィック、ジョエル・マクリー

    ブライアン・ドンレヴィ、K・T・スティーブンス

    サーストン・ホール

Vol.47 『英雄を支えた女』の続き

空席の椅子(左)       大都会の一角にある不釣り合いな邸宅(右)

 椅子が映し出されカメラは引いて俯瞰画面になり、大都会の一角に不釣り合いな邸宅が見えます。画面が変わって、その邸宅を見下ろすホイト・シティ新聞社の編集長が双眼鏡で空席の椅子を見てから語り始めます。35年間毎日ポーチにある椅子に座り続けた謎の老婦人、ハンナ・セプラーが今日は現れない。今日は“イーサン・ホイトの日”で、彼の銅像の除幕式があるのに無視して姿を見せない。彼女を見張っていた記者たちに除幕式に行くように指示を出します。

除幕式で演説する市長(左)         除幕式を見る記者たち(右)

 除幕式には全米各地から有力紙の記者たちがあつまっていて、その中に若い伝記作家の女性もいます。

セプラー邸に車で駆けつける記者達(左)
セプラー邸の中に強引に入る記者たち(右)

 市長の演説の後、除幕式が終わると有力紙の記者たちはセンプラー邸に向かいます。そして強引に邸内に押し入ってセプラー夫人に面会を求めます。

邸宅に押し入った記者の前に登場したハンナ・セプラー

 やがて100歳のハンナ・セプラーが現れます。(この場面の表情も動きも語り口も、正に100歳の老婦人で見事です。上唇の使い方、手の動き、弱弱しい話し方、素晴らしいです。)世間が真相を知る為だと言い、記者たちはハンナに一斉に質問を浴びせかけ、イーサン・ホイトのスキャンダラスを聞き出そうとします。

ハンナを擁護する女流伝記作家(左)
イーサン・ホイトの話を聞かせて欲しいと懇願する女流伝記作家(右)

 ハンナは記者たちに“貴方たちは世間では無い”と言い、“あなた達は世間と無縁の人たちです”と言います。若い伝記作家は、記者たちの非礼を詫びてハンナを擁護します。ハンナは、“ホイト・シティを創った偉人にスキャンダルは無い”と言い、記者たちを帰します。若い伝記作家は残ってハンナに、イーサン・ホイトの伝記を3年間書いているので話を聞かせて欲しいと頼ますが、ハンナは相手にせず彼女に帰るように言います。泣き出した若い伝記作家を見て気が変わったハンナは、彼女と共に2階の部屋に行きます。(この場面のバーバラ・スタンウィックの演技は、前半の見せ場と言っても良い位に見事です。)

窓から顔を出す三姉妹(左)   娘たちに挨拶するイーサン・ホイト(右)

 2階の部屋に入ってハンナが“あれは、1848年の事よ”と語った瞬間に娘時代の話が始まります。窓に駆け寄るハンナと二人の姉妹、通りを馬に乗るイーサン・ホイトが家に向かってきます。窓から顔を出したハンナは、可愛らしく溌溂とて10代の乙女のように見えます。馬から降りたイーサンは笑顔で上を見上げると、二人の姉妹は窓から離れます。残ったハンナは、ハンカチを落としてイーサンに渡します。(ハンナの一途な恋心をウェルマン監督は、こんな乙女チックな演出で表現したんでしょうね。)

資金援助を得る為に夢を語るイーサン・ホイト(左)
イーサン・ホイトの話に聞き入るハンナ(右)

 ハンナは父親が勝手に決めた自分の婚約者を茶化し、部屋を出て1階の書斎に向かいます。階段を降りようとすると、メイドのデリラに書斎に行かないように注意されます。ハンナは階段の手すりを跨ぎ腹ばいになりながら、本を取りに行くと言って手すりを滑って1階に降ります。(この時のハンナの表情はお転婆で無邪気な娘で、デリラとの会話は仲の良い親子の様です。)書斎ではイーサンが資金援助を得る為に、センプラーとキャドワラーに熱く自分の夢を語っています。廊下でそれを聞いたハンナは益々イーサンを好きになり、思わず拍手をして父親に叱られます。援助を断られたイーサンは、帰ります。

深夜に訪れたイーサンに会うハンナ(左)
プロポーズするイーサン(左)

 ベッドで眠りについたハンナは、物音で眼を覚まし窓から外をみます。真夜中の12時にイーサンが家の前にいて、降りてくるように言います。無理とか言いながら結局降りて行って、二人で馬に乗り郊外に出掛けます。森の中での奇妙なやり取りの後、イーサンのプロポーズをハンナは受けて駆け落ちします。

旅先で簡単な結婚式を挙げる(左)     結婚証明書を受け取る(右)

 画面は変わって嵐の中、雨に打たれ乍ら簡単な結婚式を行い神父から結婚証明書をハンナは受け取ります。

未だ何もない広大な土地を眺めて、ホイト・シティの実現を誓う二人

 そして二人はホイト・シティへと向かいます。着いたホイト・シティは、未だ何もなく広大な土地に小さな家があるだけです。しかし、二人の眼には未来のホイト・シティが見えていて、二人で偉大な都市を作る事を誓います。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

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『英雄を支えた女』、『決死の騎兵隊』、『賭博の町』、『オクラホマ無宿』
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発行:コスミック出版 本体1,500円+税

『英雄を支えた女』 作品データ

アメリカ 1942年 モノクロ 90分

原題:The Great Man’s Lady

監督:ウィリアム・A・ウェルマン

製作:ウィリアム・A・ウェルマン

脚本:W・L・リヴァー

原作:ビーニャ‣デルマー(コスモポリタンの短編小説「人間の側面」)

   アデラ・ロジャース・セント・ジョンズ

   ソーナ・オーウェン

撮影:ウィリアム・メロ

美術:ハンス・ドレイアー、アール・ヘドリック

編集:トーマス・スコット

音楽:ビクター・ヤング

出演者:バーバラ・スタンウィック、ジョエル・マクリー

    ブライアン・ドンレヴィ、K・T・スティーブンス

    サーストン・ホール

Vol.46 『英雄を支えた女』

パブリック・ドメインの為、
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 今回ご紹介するのは、ウィリアム・A・ウェルマンが1942年に製作・監督した日本未公開の『英雄を支えた女』です。原作は、ビーニャ・デルマーがコスモポリタンに発表した短編小説「人間の側面」です。その短編小説をアデラ・ロジャース・セント・ジョンズとソーナ・オーウェンが物語として書き上げ、その物語を基にW・L・リヴァーが脚本にしています。若い女性の伝記作家に100歳のハンナ・セプラー・ホイトが、過去を語る事で物語は展開します。なんとも奇妙な三角関係の物語です。100歳のハンナを演じるのがバーバラ・スタンウィック、ハンナに支えられる夫のイーサン・ホイトを演じるのがジョエル・マクリー、ハンナに恋焦がれるギャンブラーのスティリーを演じるのがブライアン・ドンレビィ、そして若い伝記作家を演じるのがK・T・スティ-ブンスです。

【スタッフとキャストの紹介】

ウィリアム・A・ウェルマン(1937年)

 ウィリアム・A・ウェルマン((1896年2月29日~1975年12月9日)は、マサチューセッツ州ブルックライン生まれのアメリカ合州国の映画監督です。サイレント映画時代も含めると80本程の作品を監督しています。トーキー映画が始まった時には、俳優が動いて台詞を言えるように箒にマイクを吊るして音取りをしたり、現在のガン・マイクの原型を作ったりしています。特に航空映画に思い入れが強かったので、機体にカメラを固定するフレームを作ったり、コクピットでカメラマンが隠れて飛行中に俳優を撮影出来るようにモーター駆動のカメラを作ったりと、新しい技術を作り出した人でもあります。

 10代の頃は非行少年でしたが、製材所のセールスマンとなりマイナーリーグのホッケーの選手として活躍しました。第一次世界大戦中はノートン・ハルジェス救急隊に入隊して運転手をしていましたが、パリにいる時にフランス外人部隊に入隊して1917年12月3日に戦闘機パイロットとして配属され、エース・パイロットとして目覚ましい活躍をしました。戦後アメリカに帰国したウェルマンは、サンディエゴで新人パイロットの教育を行っていました。その頃、週末には戦闘機でハリウッドに行ってダグラス・フェアバンクスに会っていて、彼の勧めで映画界入りします。最初は俳優になりますが、監督を目指して雑用係から助監督・第2監督となり、1923年に監督デビューします。1927年の『つばさ』は第1回アカデミー賞の作品賞を受賞し、様々なジャンルの映画を送り出しています。1931年『民衆の敵』、1932年『立ち上がる米国』、1933年『飢ゆるアメリカ』、1937年『スター誕生』、1939年『ボー・ジェスト』、1943年『牛泥棒』、1944年『西部の王者』、1945年『G・Iジョー』、1949年『戦場』、1951年『ミズーリ横断』、1952年『女群西部へ!』、1954年『紅の翼』、1955年『中京脱出』などを監督しました

ハンナ・セプラー・ホイト役
バーバラ・スタンウィック(35歳)

 主役のハンナ・セプラー・ホイトを演じるのは、演技派の名優バーバラ・スタンウィック(1907年7月16日~1990年1月20日)です。彼女はニューヨークで5人兄弟の末っ子として生まれました。4歳の時に母親が車の事故で亡くなり、その後父親は彼女を置き去りにして出て行ってしまいます。彼女は里子に出されて里親のもとを転々とし、10歳の時に姉のミルドレッドに引き取られ姉の恋人からダンスを習います。13歳で学校を中退して働き出し、1922年15歳の時にジークフェルド・フォーリーズのコーラス・ダンサーになります。1927年20歳で『ブロードウェイ』で映画デビューしますが舞台の仕事を続けて、1933年26歳でブロードウェイ舞台の主役を演じるようになります。1928年にフランク・フェイと結婚し、共にハリウッドに渡り映画に出演するようになります。  

 1930年にフランク・キャプラ監督の『希望の星』に出演して、実力派俳優として認められるようになります。その後はキャプラ監督を始め、ジョージ・スティーブンス、ハワード・ホークス、セシル・B・デミル、ブレストン・スタージェスと多くの監督の映画に出演します。ジャンルもラブ・ストーリー、ヒューマン・ドラマ、ラブ・コメディ、西部劇と多岐に渡り、演じる役も様々で演技の幅を広げていきます。1931年『奇蹟の処女』、1933年『風雲のチャイナ』、1935年『愛の弾丸』、1936年『鍬と星』、1937年の『ステラ・ダラス』でアカデミー主演女優賞に初ノミネートされます。(4度オスカーにノミネートされますが、受賞する事はありませんでした。信じられません。)

 1939年『大平原』『ゴールデン・ボーイ』、1941年、『レディ・イヴ』『群衆』『教授と美女』、1944年にビリー・ワイルダー監督の『深夜の告白』で、男を破滅させる魔性の女を演じて更に芸域を広げます。1946年『呪いの血』、1947年『カリフォルニア』、1950年『復讐の荒野』、1954年『重役室』でヴェネチア国際映画祭の審査員特別賞を受賞しました。1955年『欲望の谷』、1956年『烙印なき男』、1957年『四十挺の拳銃』、1964年『青春カーニバル』等に出演しました。

 1950年代まで映画に出演し続けますが、1960年からTVに進出して「バーバラ・スタンウィック・ショー」のホストと主役を1年間務め、1965年から1969年まで「バークレー牧場」では出演とプロデューサーもしました。日本でも人気のあったTV映画で、アメリカでも好評で多くのファンに愛されました。この両作品でエミー賞を受賞しています。気取らず性格の良い彼女は、共演者やスタッフから愛され尊敬をされていました。映画の主演本数も多く、素晴らしい演技の作品が多いです。スタンウィックは1981年にフィルム・ソサエティの特別賞、1982年にはアカデミー名誉賞、1983年にはゴールデン・グローブ賞とエミー賞を受賞しています。1990年カリフォルニア州サンタモニカで心不全の為亡くなりました。82歳でした。

イーサン・ホイト役
ジョエル・マクリー(37歳)

 後に英雄となるイーサン・ホイトを演じるのは、ジョエル・マクリー(1905 年 11 月 5日~1990年10月20日)です。彼はカリフォルニア州サウス パサデナ出身の映画俳優で、1927年からエキストラやスタントマンの出演から始まって1976年の『アドベンチャー・カントリー』までの50年間に100本以上の映画に出演しました。彼はハリウッド高校を卒業後、ポモナ大学で演劇とパブリック・スピーキングのコースを受講し1929年に卒業しました。

 1932年『銀鱗に躍る』から主役を演じるようになり、1930年RKOに移籍して、1932年『南海の劫火』でドロレス・デル・リオと共演し、ドラマやコメディも演じられる二枚目スターとして認められるようになります。1932年の『猟奇島』ではフェイ・レイと共演していますが、『キング・コング』のジャングルのセットの一部を使って撮影されました。昼間は『キング・コング』の撮影で使い、夜間に『猟奇島』の撮影がされました。

 マクリーは、様々なジャンルで多くのキャラクターを演じました。1935年『私のテンプル』、1936年『大自然の凱歌』、1936年『バーバリー・コースト』、1936年『紐育の顔役』・『新天地』、1939年『大平原』、1940年『海外特派員』、1941年『サリヴァンの旅』、1943年『陽気なルームマイト』等に出演しました。彼は自分の信条に合わない役や、以前演じた様な役のオファーは断っています。特に第二次世界大戦中は、英雄の軍人役は断っています。

 1940年代に入ってからは出演映画の殆どが西部劇で、歳を取るに従って西部劇に出演するのが快適だったと、晩年インタビューで答えていました。1944年『西部の王者』、1946年『落日の決闘』、1947年『復讐の二連銃』、1949年『死の谷』、1953年『ローン・ハンド孤高の男』、1959年『ダッジ・シティ』、1962年『昼下がりの決斗』等に出演しました。彼はランドルフ・スコットと共にB級映画の2代スターと言われています。ランドルフ・スコットは保安官とか南軍の将校役を多く演じていて、そんなイメージがあって似合っていると思っています。一方、ジョエル・マクリーには固定したイメージが浮かびませんので、演技力のある俳優さんだと思います。以前、キャサリン・ヘップバーンが一緒に仕事をした最高の俳優の一人であると感じたと言っていました。又、ジョエル・マクリーはスペンサー・トレイシーやハンフリー・バガートと並んでランク付けされるべきだったとも語っていました。1990年10月20日、ロサンゼルスのウッドランドヒルズにあるモーション・ピクチャー・アンド・テレビジョン・カントリーハウス・アンド・ホスピタルで肺炎の為84歳で亡くなりました。

ギャンブラーのスティリー役
ブライアン・ドンレヴィ(41歳)

 ギャンブラーのスティリーを演じるのは、ブライアン・ドンレヴィ(1901年2月9日~1972年4月5日)です。彼は北アイルランド出身で、アメリカで活躍した映画俳優です。生後10ヶ月でアメリカのウィスコンシン州ラシーンに移住し、9歳の時にオハイオ州クリーウランドで移住しました。彼は15歳の時にメキシコに渡り年齢を偽ってパンチョ・ビリャの革命を阻止する政府軍に入隊し、第一次世界大戦に従軍してラファイエット戦闘機隊で活躍しました。1920年代に入ってからニューヨークの舞台で俳優として出演するようになり、サイレント映画にも出演するようになります。1935年の『バーバリー・コースト』で人気が出始め1936年『当たり屋勘太』1937年『シカゴ』、1939年『大平原』『地獄への道』と出演し、同年の『ボー・ジェスト』では冷酷非情な悪役を見事に演じました。

 1941年『ブルースの誕生』、1942年『ガラスの鍵』『ウェーク島攻防戦』、1943年『死刑執行人もまた死す』、1944年『モーガンズ・クリークの奇跡』、1945年『落日の決闘』『ハリウッド宝船』、1946年『インディアン渓谷』、1947年『死の接吻』、1948年『戦略爆撃指令』、1949年『狂った殺人計画』、1950年『命知らずの男』、1953年『死刑(リンチ)される女』、1955年『原子人間』、1957年『宇宙からの侵略者』、1965年『蠅男の呪い』等に出演しました。1959年の『戦雲』では映画の最後に登場し、少ない出番ながら存在感の演技を披露しています。1950年代末まで西部劇・戦争映画・ギャング映画等、様々なジャンルの映画に出演しています。1950年代からTV映画にもゲスト出演するようになり、日本で1858年に放映された「Gメン」(1952年製作)では、世界各地を飛び回って密輸団・暗殺団・スパイ団を相手に活躍する、アメリカ政府のシークレット・エージェントのスティーブ・ミッチェルを演じました。ドンレヴィは1971年に喉頭癌の手術を受け、1972年4月6日にカリフォルニア州ロサンゼルスのウッドランドヒルズにあるモーション・ピクチャー・アンド・テレビジョン・カントリーハウス・アンド・ホスピタルで亡くなりました。71歳でした。

女流伝記作家役
K・T・スティーブンス(23歳)

 若い女流伝記作家を演じるのは、K・T・スティーブンス(1919年7月20日~1994年6月13日)です。彼女はロサンゼルス生まれの映画及びテレビ俳優で、サム・ウッド監督の娘さんです。父親が監督した1921年のサイレント映画『ペックの悪い少年』で、2歳の時の映画デビュー(?)しています。その後、自分の意志で映画に出演するようになった時は、サム・ウッドの娘だと知られぬようにK・T・スティーブンスと名乗っていました。当初キャサリン・スティーブンスとも名乗っていた時期もありましたが、最終的にK・T・スティーブンスとなっています。

 メイン州スコヒガンで演劇を学びブロードウェイの舞台にも出演するようになります。その後父親が監督した1940年の『恋愛手帳』に出演し、1944年『住所不明』、1949年『ニューヨーク港』、1950年『ハリエット・クレイグ』、1958年『月へのミサイル』、1969年『ボブ&キャロル&テッド&アリス』、1994年『コリーナ、コリーナ』が最後の映画出演でした。1960年代からは『マッコイじいさん』、『反逆児』、『ブラナガン』、『ライフルマン』、『アイ・ラブ・ルーシー』等、多くのテレビ映画に出演していました。スティーブンスは1994年6月13日、カリフォルニア州ブレントウッドの自宅で肺癌の為、74歳でした。

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。