Vol.51 『透明人間』の続き

顔中包帯の謎のサングラス男(左)      女将のジェニーと謎の男(右)

 雪が降る夜、コートに身を包みトランクを持った男が、酒場兼下宿屋に歩いて行きます。1階の酒場では酒を飲みながら語り合う人、ピアノを弾く真似をする人、ダーツをする人と多くの人たちが寛いでいます。突然ドアが開き、深々と帽子を被り顔中包帯を巻いたサングラスの男が現れます。そこにいた人たちは、一斉にその男を見て沈黙します。その男は部屋を借り、女将のジェニーに案内されて2階の部屋へと向かいます。部屋に入るとジェニーは終始話しながら暖炉に火を入れて客を受け入れる準備をします。男はジェニーに背を向けて立ったまま、窓から外を眺めながら食事を注文します。ジェニーは1階に降りてトレイに食事を用意して再び2階に上がります。男は窓の方を向いたまま立っていて、自分の邪魔をしないように言います。酒場では客たちが、謎の男の話題で盛り上がっています。ジェニーが食事を置いて1階に戻ったら、厨房の女性従業員がマスターを忘れたと言ったので再び2階に上がります。部屋のドアを開けると、食事中の男はナプキンで口を隠して怒ります。慌てて1階に降りたジェニーは、男は顔中包帯で巻いているから事故にあったと皆に言います。

クランリー博士と娘のフローラ(左) フローラに言い寄る助手のケンプ(右)

 クランリー博士の実験室に娘のフローラが悲痛な表情で現れます。父親のクランリー博士にジャックの行方を聞きますが、博士は研究に没頭していたのだろうと相手にしません。そこに助手のアーサー・ケンプが現れ、彼もジャックがひと月も連絡が無いのはおかしい何処に行ったのか博士に尋ねます。クランリー博士は、私の許可を得て研究を続けているから問題無いと言います。フローラはジャックに何か悪い事が起こったと言って、泣きながら隣の部屋に行きます。ケンプは彼女の後を追い、気晴らしにドライブでも行こうと誘いますが、彼女は泣き崩れるだけです

亭主に男を追い出すように言うジェニー(左)
階段を転がり落ちて床に倒れた亭主に声を掛けるジェニー(右)

 実験器具の前に立つジャックは元に戻る方法を思案している処に、ジェニーが文句を言いながら昼食を持って来ます。入室を断るジャックを無視して部屋に入ろうとするジェニーをドアを閉めて追い出します。ジェニーは昼食を床に落とし、奇声を上げながら1階に戻り亭主に男を追い出すように言います。亭主は渋々2階に上がり、未払いの1週間分の宿賃請求と出て行くように告げます。ジャックは実験の邪魔をするジェニーに腹を立てている処に亭主が現れます。宿代を請求する亭主と口論となり、逆上したジャックは亭主に襲い掛かりドアから突き飛ばして階段を転がり落としてしまいます。床に倒れている亭主を見たジェニーが大騒ぎをするので、客が集まりジェニーを慰めます。(これら一連のシーンの大袈裟なウナ・オコナーの演技は、シリアスな映画でもコミカルなシーンを入れるホエール監督の演出です。)

透明人間を見て驚く警官と客たち(左)   顔の包帯を取った謎の男(右)

 客たちは外に出て警官を連れだって男の部屋に乗り込みます。そこで男は自分が透明人間だと明かし、付け鼻を取り顔の包帯を取って服だけの姿になります。(ジョン・F・フルトンの特殊撮影が後の映画に多大な影響を与えたシーンです。)その場にいた人たちは驚き、唖然とします。男はさらに上着もズボンも脱いでワイシャツだけの姿になって、皆を追い掛け回して警官の首を絞めます。皆は外に飛び出て逃げ回り、町中がパニック状態にあります。透明人間のジャックは、薬品の副作用で異常をきたし凶暴になって来ます。町中で悪戯しながら動き回ります。(このシーンでは、以前から使っていた手法のワイヤーを使って透明人間の存在を表現しています。ウォルター・ブレナンが、自転車を盗まれる男役で出演しています。)首を絞められた警官が、警察署のレーン警部補に報告しますが信じてもらえません。

手掛かりを探すケンプとクランリー博士(左)
モノカインの説明する博士(右)

 クランリー博士の研究室では、博士とケンプがジャックの研究の手掛かりを探しています。ジャックが使っていた薬品は持ち出されていましたが、博士は薬品のリストを見つけ出しモノカインを持ち出した事が分かります。モノカインはインドで発見された薬品で、色素を抜く作用があり漂白剤の研究に使われました。しかし、効果が強力過ぎるのと劇薬だと分かり研究は中止されまた。モノカインを犬に注射したら凶暴になり、その後白くなって死んでしまう劇薬です。博士はこの事を口外しないようにケンプに口止めし、ジャック・グリフォンが失踪したと警察に届ける事にします。

煙草にマッチで火をつけるジャック(左)
相棒になれと命令するジャック(右)

 帰宅して自宅で寛いでいるケンプの部屋にジャックが現れます。(透明人間なので声だけの登場ですが、クロード・レインズの声が良いですね。ケンプ役のウィリアム・ハリガンの一人芝居も素晴らしいです。)以前のジャックとは違って話し方は全て命令調になり、椅子に座って煙草を吸いながら怯えるケンプを脅し始めます。パジャマにガウンを着て手には手袋、顔には包帯を巻いてサングラスをしたジャックはケンプに相棒になれと言い出します。ジャックは5年間の研究で透明人間になったが、邪魔されて復元薬を作れなかった。しかし、自分は強力なパワーを手に入れたので世界を征服出来る。その為には真面な姿の人間が必要だから、お前は相棒だと言います。研究資料が宿屋にあるので、ケンプに車を出すように命令して2人で宿屋に向かいます。

2階の窓から研究資料が落とされてます(左)
ジャックに首を絞められているレーン警部補(右)

 透明人間のジャックは宿屋の部屋に入り、窓から研究資料を2階の窓から落として下にいるケンプに受け取らせます。宿屋の1階で町民が集まっている酒場に、レーン警部補が登場して町民の証言を信じず透明人間の存在を全面否定しています。全ての案件を却下して共同謀議で起訴すると言い、書類を書こうとペンをインク壷に向かわせると、突然インク壷が横に移動します。再びペンを近づけるとインク壷は横に移動し、今度は宙に浮いて顔にインクを掛けます。透明人間がいると女将のジェニーが騒ぎ出し、そこにいた人達はその場から逃げ出します。薬の副作用で凶暴化したジャックは警部補に襲い掛かり、首を絞めて殺してしまいます。クランリー博士は警察署のレーン警部補を訪れますが、その時発行された号外を見て透明人間が殺人を犯した事を知ります。次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『透明人間』 作品データ

アメリカ 1933年 モノクロ 71分

原題:The Invisible Man

監督:ジェームズ・ホエール

脚色:ロバート・C・シュリフ

原作:H・G・ウェルズ

撮影:アーサー・エディソン

美術:チャールズ・ホール

特殊効果:ジョン・P・フルトン

出演;クロード・レインズ、グロリア・スチュアート

   ウィリアム・ハリガン、ヘンリー・トラバース

   ウナ・オコナー