Vol.72 『その女を殺せ』の続き

 漆黒の闇の中、蒸気機関車の汽笛が大きく響き渡ります。やがて汽車はシカゴ駅のホームに停まり、二人の男がホームに降ります。重要な証人をロスアンゼルスまで護衛するブラウン刑事と相棒のフォーブスです。ブラウン刑事は今乗って来た列車が1時間後にロスアンゼルスに戻るので、ポーターにコンパートメントの号室を告げて荷物を運んで貰います。相棒のフォーブスはタクシーを手配し、二人は証人のアパートメントに向かいます。車内でフォーブスが“、証人はどんな女だと思う”とブラウンに聞きます。ブラウンは“チンピラの妻だから、派手好きで毒々しい女”だと答えます。フォーブスは“そうだったら5ドルやるよ”と言って賭けをします。やがて、タクシーは証人が住むアパートメントの前に停まります。フォーブスは運転手にエンジンを掛けたままで、ライトを消して待つように指示してブラウンと証人の部屋に向かいます。

シカゴ駅のホームに降りたブラウンとフォーブス(左)
タクシーの車内でニール夫人の事を話す二人(右)

 証人がいる2階の部屋の護衛の刑事がドアを開けると、レコードを聴いている証人のニール夫人はブラウンの予想通り派手で毒々しい女性です。煙草を吹かしながら“同行者は?”と聞くので、フォーブスが“我々だ”と言うと、“本物か”と言います。フォーブスが地方検事の署名入りの令状を見せます。隷従を見たニール夫人は、太々しい態度で荷造りを始めます。フォーブスが手に取った新聞を見ると、殺されたニールの収賄リストを警察が捜索中で、大陪審の特別審査でニールの妻が証言するようだと書かれています。

横柄な態度のニール夫人(左) 部屋から出てコートを着るニール夫人(模擬)

 ニール夫人の荷造りが終わり部屋から出る時、フォーブスが先に出る事になって葉巻を咥えながら出て行きます。部屋の外に出たニール夫人がコートを着た時、真珠の首飾りの紐が切れて真珠が床に散らばります。その内の2個が1階の床に落ちます。そこには銃を構えた男が立っていて、2階の様子を伺っています。(カメラはその男の靴から上半身までパンしますが、顔は陰で見えません)

真珠が落ちた処に男が立っている(左)
銃を構えながら上の様子を伺う殺し屋(右)

 フォーブスが階段を降りて踊り場で立ち止まり、葉巻に火を点けます。ニール夫人が階段を降り始めた時、殺し屋が立っている後ろのドアが開き殺し屋は発砲しました。フォーブスは銃弾を2発喰らいながら1発撃ち返して倒れます。ブラウンは逃げ出した殺し屋を追いかけますが逃げられます。

フォーブスを撃つ殺し屋(左)
2発の銃弾を受けながら反撃したフォーブス(右)

 ブラウンは銃撃の現場に戻ってフォーブスの死を確認し、入ってきた男に警察に連絡するように言います。その男の証言から犯人の顔を不明だが、コートの襟に毛皮が付いていた事を知ります。ブラウンはニール夫人とタクシーに乗って駅に向かいます。車中では落胆したブラウンにニール夫人は皮肉や嫌みな事を言うので二人は険悪な状態になります。(チャールズ・マックグローの声はドスが利いています。)ブラウンはニール夫人に汽車の乗車券とタクシー代金を渡し、顔を知られているので駅の近くで降ります。

殺し屋のコートの特徴を話す目撃者(左)
タクシーの車内でブラウンと言い争いをするニール夫人(右)

 画面が変わって駅舎内、組織からの電話を受けている男が映り、傍にいる二人の男にニール夫人の顔は分からないから刑事を尾行するよう言います。ブラウンが改札口を通る時、髭を生やした殺し屋が尾行しているのに気が付きます。ホームを歩いて行くと殺し屋が尾行して来るので、殺し屋に悟られないように列車内に入ります。しかし、殺し屋は列車の通路を歩くブラウンを発見し、窓にブラインド降ろすのも確認しています。(このシーンではブラインドが下りた窓に殺し屋の姿が映し出されます。この映画では窓に写った映像が度々出て来ます。)個室に入りニール夫人と話していると、ドアがノックされて車掌が他人の荷物が紛れてないか確認に来ました。荷物を探しているのは殺し屋で、ニール夫人がいる隣室を探そうとしますが、ブラウンは相棒が同行出来なくなったので空室だと言います。車掌に切符の払い戻しを頼み、殺し屋を追い返します。殺し屋が出て行った後、ニール夫人が寝台は狭すぎて隠れる場所が無いと言って、ブラウンに詰め寄ります。ブラウンは奴が撃ってきたら、俺が撃ち返すと言います。

組織からの指示を受ける殺し屋と相棒(左)
ブラウンの部屋に現れた殺し屋(右)

 画面が変わって、ブラウンが食堂車に入ると殺し屋と出会い、彼から目を離さず傍にあった席に座ります。ウエイターに向かいに座っている女性と同じ飲み物を注文します。飲み物が運ばれて来ると、向かいの女性は席を移動すると言って立ち上がり歩き始めます。その女性は何かに躓いたか、手に持っていた飲み物が零れてブラウンにかかってしまします。謝罪する女性に大丈夫だと言い、ウエイターに同じ飲み物を注文します。

ブラウンは窓に写った殺し屋をを確認しながら飲み物を注文します(左)席を移動するときに飲み物を零してしまいます(右)

 飲み物が来てもよそ見をしているブラウンに、向かいに座っている女性が落ち着くように言います。ブラウンは“今夜は特別だ”と言いながらお金をテーブルの上に置きます。殺し屋がいた席を見るといなくなっているので、“失礼”と言いながら殺し屋の痕を追います。通路に出ると太った男がドアから出てきて、行く手を阻まれます。通してくれと言うと、男は“太った男は列車と支障が悪い“と言って通路の曲がり角で身体を交わします。

向かいの女性がブラウンに落ち着くように助言します(左)
通路の曲がり角で太った男の前を通るブラウン(右)

 画面が変わって、殺し屋がブラウンの個室に忍び込んでニール夫人を探しています。隣室の錠が開いていたので、確認しますが手掛かりはありません。そこに車掌が現われて殺し屋のケンプに電報を渡し、あなたの部屋じゃないと言います。ケンプは隣の部屋に自分の荷物がないか確認していたと言います。

ブラウンの部屋と隣室を確認する殺し屋(左)
殺し屋のケンプに電報を渡す車掌(右)

 ブラウンが部屋に戻ろうとした時、ケンプが電報を読みながら歩いてきます。急いで引き返して行くと、例の太った男がこっちに向かってきます。ブラウンは咄嗟に近くの部屋に入ると、子供が“誰かいるよ”と言いて明かりを点けます。二段ベッドの上にいる女性が“一体何なの”と言うと、子供が“列車強盗だ”と言います。ブラウンは乗客で部屋を間違えたと言い、謝罪して部屋を出ます。子供は強盗だから通報すると言って部屋から出ようとしますが、女性は“トミー出て行っては駄目”と言って引き留めます。

組織からの指示が掛かれた電報を読む殺し屋ケンプ(左)
咄嗟に入った部屋で子供に列車強盗と言われるブラウン(右)

 殺し屋のケンプは食堂車に入り、待機していた仲間の向かいの席に座って無言で手掛かりが無かった事を伝えます。ブラウンは、トイレに荷物を持ち込んで隠れていたニール夫人を部屋に連れ戻します。ニール夫人の部屋で、ブラウンが“奴らは戻って来るだろう”と言い、勘だけど相棒がいる場合があると言います。ニール夫人が“今夜は眠れないわね”と言うと、ブラウンは“何日も眠れない人もいる”と言います。ニール夫人が“誰のこと”と聞くと、ブラウンは“フォーブスの女房”と言って自分の部屋に戻ります。ブラウンが上着を脱いでいると、ドアノブが回り出したのでドアを開けて拳銃を向けます。早速その相棒が訪れ、ビジネスの話をしに来たと言います。

トイレに隠れていたニール夫人は荷物を持ってブラウンと部屋に戻ります(左)
ビジネスの提案に来たという男(右)

 男はヴィンセント・ヨーストと名乗り、女を引き渡せば2万5千から3万ドル払うと言います。ブラウンは収賄未遂で逮捕すると言うと、ヨーストは機器販売会社の幹部だから、そんな話は誰も信じないと言って、財布から5千ドル取り出してブラウンに渡します。隣室のニール夫人は、ドア越しに二人の会話を聞いています。ブラウンは取引を断ってお金を返すと、ヨーストは大金の使い道を考えろと言い、フォーブスの家族にも渡すことが出来ると言います。俺たちが先に見付けたらこの取引は無効だと言って、気が変わったら私の元に来るように言って部屋を出て行きます。ブラウンは隣室のドアの前で立ち止まり、隣室のニール夫人も無言のままでベッドに行きます

ブラウンに5千ドルを手渡すヨースト(左
)二人の会話をドア越しに聞くニール夫人(右)

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

Vol.71 『その女を殺せ』

 今回ご紹介するのは、B級フィルムノアールの『その女を殺せ』です。ハリウッド映画では当たり前の主人公とヒロインとのラブ・ロマンスを排除し、登場人物が多いのにも関わらず無駄無くテンポ良く物語が展開されます。埋もれるのは惜しいフライシャー監督の傑作です。

発売元:(株)ブロードウェイ
販売元:(株)ブロードウェイ

【スタッフとキャストの紹介】

リチャード・フライシャー監督

★監督:リチャード・フライシャー(1916年12月6日~2006年3月25日)は、アメリカ合州国の映画監督です。彼の父親マックス・フライシャーは、アニメーションのパイオニアで「ベティ・ベーブ」、「ポパイ」、「スーパーマン」などを製作しました。彼はブルックリンで生まれ、ブラウン大学を卒業後にイェール大学演劇学部に進学しました。第二次世界大戦中はアメリカ陸軍に入隊していました。1942年にRKOに入社し、短編映画・ドキュメンタリー映画・サイレント映画のフリッカー(ノイズ除去)やコンビレーション(編集)をしていました。所謂フリッカー・フラッシュ・バックと云われる仕事です。1946年に長編映画『Child of Divorce』で監督デビュー、1947年にドキュメンタリー映画『Design for Death』を製作・監督してアカデミー賞を受賞しました。1948年『ボディ・ガード』『ニューヨーク大騒動』、1949年『静かについて来い 』、1950年『札束無情』等を監督しました。1951年『替え玉殺人事件』は最初ジョン・ファローが監督しましたが、RKOのオーナーのハワード・ヒューズが気に入らずフライシャーに大幅な撮り直しをさせて完成させました。1952年『その女を殺せ!』までの初期の作品で、フィルムノアールを監督していました。

 1954年には、父親のライバルだったウォルト・ディズニーがプロデュースした『海底二万哩』の監督をしました。1955年『恐怖の土曜日』、1956年『ならず者部隊』、1957年『ヴァイキング』、1959年『強迫/ロープ殺人事件』、1961年『バラバ』、1966年『ミクロの決死圏』、1967年『ドリトル先生不思議な旅』、1968年『ゲバラ!』、1970年『トラ・トラ・トラ』、1971年『ラスト・ラン/殺しの一匹狼』『見えない恐怖』『10番街の殺人』、1972年『センチュリアン』、1973年『ソイレント・グリーン』、1974年『マジェスティック』とA級・B級の様々なジャンルの作品を監督し、1974年の『スパイク・ギャング』では製作と監督をしました、1975年には物議を醸した問題作の『マンディンゴ』、1975年『キング・、オブ・デストロイヤー/コナンPART2』、1984年『レッドソニア』等を監督しました。1987年の『おかしなおかしな成金大作戦』が、フライシャーの長編映画の遺作となりました。

 2006年3月25日にMPTFカントリーハウス&ホスピタルで呼吸器感染症の為、睡眠中に89歳で亡くなりました。※MPTFはメアリー・ピックフォードが立ち上げた映画関係者救済基金モーション・ピクチャー&テレビジョン・ファンドで、後にテレビジョン関係者に枠を広げMPTFとなりました。MPTFカントリーハウス&ホスピタルは、MPTFが管理する住居と病院です。

★脚本:アール・フェルトン(1909年10月16日~1972年5月2日)は、アメリカ合州国の脚本家です。フェルトンは子供の頃からポリオで足が不自由だったので、松葉杖と杖を使って自分の身体を支えながら移動していました。フェルトンは1936年の『FRESHMAN LOVE』で脚本家デビューし、1936年『ベンガルの虎』の原案と脚本を担当しました。1941年『ハリウッド・スパイ騒動』』、1942年『サンセット・セレナーデ』、1949年『バシュフル盆地のブロンド美人』、1950年『札束無情』、1951年『犯罪都市』、1952年『その女を殺せ』、1954年『海底二万哩』、1956年の『反逆者の群れ』では原案と脚本を担当、1959年『キリマンジャロの決斗』等の脚本を書きました。。

ブラウン刑事役
チャールズ・マックグロー(38歳)

★ブラウン刑事役のチャールズ・マックグローは悪役を演じる事が多いのですが、本作で多分唯一の善人役で刑事を演じています。彼の略歴は『Tマン』をご覧ください。。

偽のニール夫人役
マリー・ウィンザー(33歳)

★偽のニール夫人役のマリー・ウィンザー(1919年12月11日~2000年12月10日)は、ユタ州メアリーズベールのアメリカ合州国の俳優で、身長175cmの長身の女優さんです。彼女はフィルムノアールで、ファム・ファタール或いはヴァンプのキャラクターとして有名でした。又、彼女は多くのB級映画で主役を演じ、B級映画の女王とも呼ばれていました。

 ウィンザーは1934年にメアリーズベール高校を卒業し、ブリガムヤング大学に通いながら演劇活動にも参加しました。彼女は1939年に81人の出場者の中から、ユタ州ソルトレイク市のCovered Wagon Daysの女王に選ばれ、故郷の商工会議所から非公式に“1939年のミス・ユタ”に任命されました。1939年の新聞記事では、“熟練したアスリート、ダンサー、水泳選手、馬術の専門家で、ゴルフ、テニス、スキーをする”と伝えています。

 1940年にハリウッドに移り、マリア・ウスペンスカヤの演劇学校の入学した後に芸名を“マリー・ウィンザー”として舞台劇デビューしました。1941年にパサデナ・プレイハウスで「Once in a Lifetime」に出演しました。電話交換手や舞台やラジオの仕事をしながら、1941年からはノン・クレジットで映画デビューし、1947年までエキスタラや端役で20数本の映画に出演しました。1947年『影なき男の息子』でヘレン・アンボイ役を演じてから役が付くようになりました1948年『悪の力』でジョン・ガーフィールドと共演しますが彼女の身長が175cmあるので歩くシーンでは膝を曲げながら歩いたと語っていました、自分より身長が低い男優との共演が多く苦労したようです。1948年『三銃士』、1949年『ケンタッキー魂』と出演し、1949年『地獄の銃火』で女ガンマン、1950年『偽札造りのリル』では小切手のサイン偽造師役の主役を演じています。1950年『フレンチ―/復讐の道』、1951年『東は東』、1952年『狙撃者』『その女を殺せ』等に出演し、1953年にはSFカルト・ムーヴィーとして有名な『月のキャット・ウーマン』に出演しています。1953年『背高きテキサス人』、1954年『西部の女賊』・『賞金を追う男』、1955年『女囚大脱走』、1956年『現金に体を張れ』、1960年『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』、1964年『モンタナの西』、1973年『ビッグケーヒル』、1973年『組織』、1979年『死霊伝説』、1985年『ヒューマノイド・プロテクター』等の様々なジャンルのB級映画に出演しています。

 ウィンザーは1954年に西部劇のテレビ・シリーズ「Stories of the century」に出演し、ベル、スターを演じました。その後1980年代まで多くのテレビ映画に出演しました。「シャイアン」、「バットマスターソン」、「ローハイド」、「ボナンザ」、「サンセット77」、「マーベリック」、レッド・スケルトン・アワー」、「ハワイアン・アイ」、「ペリー・メイスン」、「バーボン・ストリート」、「F・B・I」、「マニックス」、「チャーリーズ・エンジェル」等に出演しました。彼女は1991年に72歳で引退し、その後画家・彫刻家となりました。ウィンザーは2000年12月10日にうっ血性心不全で亡くなりました。

ニール夫人役
ジャクリーン・ホワイト(30歳)

★ニール夫人役のジャクリーン・ホワイト(1922年11月27日生まれ)は、カリフォルニア州ビバリーヒルズ出身のアメリカ合州国の俳優です。彼女はビバリーヒルズ高校卒業後、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校に通いました。ホワイトは1942年に映画デビューし、小さな役を演じました。1943年『極楽スパイ狩り』で主役を演じ、同年『ジョーと呼ばれた男』に出演しました。彼女はB級映画で主役を演じ、A級映画では脇役を演じていました。1946年『ハーヴェイガールズ』、1947年『十字砲火』、1948年『Mystery in Mexico』・『ブラックストーンの決闘』等に出演しました。

 ホワイトはウェストウッドヒルズで1948年11月12日にニール・ブルース・アンダーソンと結婚し、1950年に夫と共にワイオミング州に移住しました。彼女は出産の為にロスアンゼルスに戻った時に、『その女を殺せ』のオファーを受けました。1952年『その女を殺せ』に出演し、1952年に映画界から去りました。彼女は夫が石油ビジネスを始めた為、夫と共にワイオミング州に移住しました。ホワイトは現在、家族と共にテキサス州ヒューストンに住んでいます。(2025年2月現在102歳です。)

 次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

サスペンス映画 名優が演じる「暗黒の世界」 発行:コスミック出版
『ギルダ』、『その女を殺せ』、『過去を逃れて』、『月光の女』、

「裏切りの街角」、『深夜復讐便』、『青い戦慄』、『暗黒街の弾痕』、
『悪の力』、『絶壁の彼方に』 お勧めの10枚セットです。