Vol.62 『蛇の穴』の最終章

『蛇の穴』のトップはこちら

検温をしているつもりの元看護師長だったサマビル(左)
ヘスターに話しかけるヴァージニア(右)

 そこは大きな部屋で、大勢の患者がひしめき合っている。一人で喋りまくっている患者、踊りながら歩き回っている患者、床に蹲っている患者、ヴァージニアに話しかけてくる患者。何も手に持っていないのに、ヴァージニアの名前を聞き検温をすると言う患者が現れた。その患者は1棟の看護師長だったサマビルで、彼女自身が患者になっていた。離れた所で一人の患者の首を絞めている患者が、ヴァージニアの目に入って来た。その患者の名前はヘスターと云い、誰とも口を利かず暴力的だと教えられるが、ヴァ-ジニアはその彼女に近づいて行きます。そしてヘスターに貴方は私と同じだから友達になろうと言いますが、へスターは無反応でその場を去ります。

ヴァージニアが見た幻想(左)
キック医師の説明に納得するヴァージニア(右

 やがてヴァージニアは変な感覚に襲われ、自分も含めてひしめき合う全員が深く大きな穴の中にいて、自分が上から見下ろしてように感じます。それは以前読んだ本に書かれていた“蛇の穴”だと思い出します。(昔、精神病患者を蛇だらけの穴に入れて、異常な経験をさせると正常に戻ると考えられた治療法。)ヴァージニアは、その時周りの人たちが異常で自分は正常だと気が付き、治るかも知れないと思うようになったとキック医師に話します。キック医師は彼女の病気の原因を解明し、君は良くなっていると言います。乳児の時から母親の愛情を受ける事なく育てられ、大好きな父親も母親の味方をするようになり、いなくなればいいと思った時に父親が死に罪悪感を感じて過去を封印した。父親の代わりになる男性と付き合い、結婚しても違和感があり耐えられなくなって発病してしまった。キック医師は夫と父親は別物だと言うと、ヴァージニアの表情が明るくなり納得します。

男女が左右に分かれて座っているダンス大会の会場(左
強引に誘われて踊っているヴァージニア(右)

 画面が変わってダンス大会が開催される病棟の大講堂、真ん中を大きく開けて左右に椅子が並んでいます。女性患者が左側の座り、別棟から来た男性患者は右側に座りダンスが始まります。(当時実際に病院内でダンス大会が開催されていました。)ヴァージニアは相変わらず無口のヘスターの隣の席に座り、彼女に話しかけています。ダンスが始まり一踊りした時にキック医師が現れ、退院審査をすると話します。

 その時ステージで一人の患者が「家路」を歌い出します。そこにいた全員がステージに注目し、そして全員が歌い始めます。中には眼に涙を浮かべながら歌い、無口なヘスターの表情も変わってきます。

患者たちに囲まれるヴァ-ジニア(左
ヴァージニアにさよならを言うヘスター(右

 画面が変わってヴァージニアの退院審査の日、全員一致で退院となったが最後にカーティス区長から質問があった。キック医師の心理療法だけで治ったが、自分の病気の原因を自覚したのか質問した。彼女は小さい頃からの多くの経験が影響していたが、これから自分に向き合って生きて行けると答えます。ヴァージニアが退院するのでトランクを持って帰ろうとすると、患者たちが集まってきます。サマビル元看護師長はヴァージニアの熱を測ろうとしますが、看護師に検温ごっこを止められます。ヴァージニアはヘスターの所に行き、又会いに来ると言います。そして、先生と話せばきっと良くなると言って帰ろうとします。その時ヘスターがヴァージニアの後ろから手を掴み、“さよなら、ヴァージニア”とたどたどしく言います。ヴァージニアは絶対治るわと言って、ヘスターにハグします。(このシーンのヘスター役のベッツィ・ブレアの演技は、素晴らしいです。)

キック医師に別れを告げるヴァージニア(左)
ロバートと外に出たヴァージニア(右)

 ヴァージニアは病棟から出る前にキック医師に会い別れを言いますが、治ったと自覚したもう一つの理由を話します。キック医師への愛が冷めたからと彼女が言うと、キック医師がそれは錯覚だったのさ、と言います。外に出てロバートと会い、再び結婚指輪を嵌めて貰いバスに乗り込みバスが発車して映画は終わります。

 この映画の出演者数は非常に多いですが、全員プロの俳優です。日本と違って出演者全員がオーディションを受けて役を貰います。以前岡本喜八監督が『イースト・ミーツ・ウエスト』をアメリカで撮影した時に、エキストラを募集したら50人の応募があり全員と1日掛けて面接したと対談で語っていました。応募者全員が芸歴も書かれた履歴書を持ってきたのには驚いたと語っていました。その話を思い出し、この映画の出演者を決めるのに何日掛かったのかと考えてしまいました。出演者全員の素晴らしい演技で出来上がった作品です。是非、観て頂ければと思います、最後までお付き合い頂き有難う御座いました。

ホラー・ミステリー文学映画のコレクション「狂気と幻影の世界」
『悪魔の人形』・『風車の秘密』・『謎の下宿人』がお勧めです。
発行:コスミック出版 本体価格1800円+税

『蛇の穴』 作品データ

アメリカ モノクロ 108分

原題:The Snake Pit

監督:アナトール・リトヴァク

脚本:フランク・パルトス、ミレン・ブランド

原作:メアリー・ジェーン・ウォード

製作:アナトール・リトヴァク、 ロバート・バスラー

撮影:レオ・トーバー

音楽:アルフレッド・ニューマン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:ヴァージニア・スチュアート・カニンガム

   マーク・スティーブンス:ロバート・カニンガム

   レオ・ゲン:マーク・キック医師

   セレステ・ホルム:グレイス

   グレン・ランガン:テリー医師

   ヘレン・グレイグ:看護師ベティ

   リーフ・エリクソン:ゴードン

   ビューラ・ボンダイ:ミセス・グリア