Vol.73 『その女を殺せ』の続きの続き

 翌朝、ニール夫人はブラウンに朝食と煙草を届けるように頼むと、ブラウンは自分が持って来ると言って自分の残りの煙草を渡します。通路に出るとケンプが洗面所に向かって行ったので、寝台車の彼のベッドで荷物や背広を探り電報を見付けます。文面には“女は列車内だ。アルバーカーキ到着前に動け。デンゼルが接触する。”と書かれていました。カーテンから出るとトミーがいて、“何をしているんだ。この人は泥棒だ”と騒ぎ出します。ブラウンは騒ぐトミーを抱えて、トミーの部屋に連れ戻します。ブラウンが“お子さんです”と夫人に渡すと、トミーは“拳銃を持っている、泥棒は牢屋に入るんだ。”と言って騒ぎますが、夫人はトミーを部屋に引き入れます。

ブラウンに朝食を頼むニール夫人(左)
騒ぐトミーを抱えて運ぶブラウン(右)

 ブラウンは通路にある給水機の水を飲んで一息入れていると、ケンプと会ったので“荷物は?”と聞くと“探している”と言ってケンプは食堂車に入ります。ブラウンも食堂車に入ろうとすると、昨日会った女性が声を掛けてきます。“今日も急いでいるの”と言われながら一緒に食堂車に入ります。先に入ったケンプは太った男と相席になっています。ブラウンはケンプを注視したので、女性が話しかけても上の空です。ブラウンが朝食は食べないと言うと、女性は昨日のお釣りと言ってお金を渡します。ブラウンは席に着くなり電報文を書き始めると、女性が“昨日は感じ良かったのに”と言います。書いている鉛筆の調子が悪く投げ出すと、女性は昨日と同様に“落ち着いたら”と言い、ブラウンは“努力している”と返します。電報文を書きながらケンプを見ると、ケンプと太った男がブラウンを見ています。やがて太った男がブラウンの席に来て、“サム・ジェニングス”と名乗り個室を譲って欲しいと言います。ブラウンは譲るのは止めたと言って断ります。ジェニングスは“車掌の意見を聞く”と言って去ります。

通路で昨日出会った女性と朝食の話をするブラウン(左)
ブラウンに個室を譲って欲しいと言うサム・ジェニングス(右)

 ブラウンは“事情を説明して来る”と言って席を立つと、女性が“私も後で知りたいわ”と言います。食堂車のウエイターに朝食を10号車A室に届けるように注文して食堂車から出ると、トミーと夫人に出会います。トミーは“銃を見せて”と言うと、ブラウンは“いつか見せてやる”と言ってトミーを抱き上げて入れ替わります。夫人が“銃を持っているの”と言うので、ブラウンは“泥棒には必須だ”と言って去ります。夫人は“なんて事を、信じられない”と言うと、トミーが“言ったでしょ、泥棒だって”と言って食堂車に入ります。食堂車に入った二人は、ブラウンが話していた女性のテーブル席に座ります。(トミーはこの女性の子供で、夫人は付添人です。)トミーは大きな声で“泥棒を捕まえて、逃がしてしまった”と言うと、夫人が“部屋を間違えて入った男性を泥棒と勘違いしている”と言います。

ニール夫人の朝食を注の門をするブラウン(左)
女性のテーブル席に座るトミーと付き添いの女性(右)

 その話を聞いていたケンプが席を立ち、食堂車を出てドアの前で立ち止まって、女性の顔を見つめて立ち去ります。(夫人もケンプと目が合い、一寸驚いたような感じで一旦目線を落として、再度男を見直します。)。

ドアの窓越しに女性を見つめるケンプ(左)
ケンプの視線に気付き見つめ返すトミーの母親(右)

 画面が変わって、太った男といる車掌がブラウンに話し掛けます。ブラウンは相棒が来るかも知れないので、個室は譲らないと言います。太った男は、“なら仕方ない”と言って、個室を諦めます。車掌は他を当たってみると言って、隣の車両に行ってしまいます。ブラウンは車掌に停車時間を聞こうと思ったと言うと、太った男が“ラフンタでは12分だ、2分後に着く”と言います。ブラウンは礼を言って、自分の個室に戻ります。ブラウンがソファーに座っていると、隣室のニール夫人がドアを開けて!“朝食が見当たらない”と言います。ブラウンはもう直ぐ来ると言うと、ニール夫人は“停車するのね”と言いながら窓から外を見ます。ブラウンは“窓に近付くな、部屋でトランプでもしていろ”と言うと”飢え死にしそうだ“と言って隣室に戻ります。”

車掌といたジェニングスに個室を譲らいと告げるブラウン(左)
ブラウンに朝食が無いと不満を言うニール夫人(右)

 やがて汽車はラフンタ駅で停まり、ケンプはホームに降りて外からブラウンの部家を眺めています。列車内ではボーイがブラウンの部家に朝食を運んできます。ボーイがテーブルを用意すると言いますが、ブラウンは自分ですると言って押し問答をしている処にトミーの母親が通りかかります。するとブラウンは頼んでいないと言い出し、“俺は朝食を取らないんだ”言ってボーイを追い返そうとします。トミーの母親は”空腹じゃないのに、こんなに食べるの“言います。ブラウンは”俺は頼んでいない“と言って、ボーイの訴えを拒否して追い返してしまいます。ブラウンがトミーの母親に言い訳をしていると、通路に立っているトミーの母親がホームの男が私を見ていると言います。ブラウンが振り返って見ると、ホームのその男はケンプです。

トミーの母親の前で朝食を頼んでない言ってボーイを追い返すブラウン(左)
トミーの母親を見ているケンプ(右)

 トミーの母親が駅で買い物をすると言うので、ブラウンも一緒に降りて電報を打ちに行きます。ホームの売店でサンドイッチを2個買い、電報局で電報を出そうとしている時にヨーストが現われてブラウンに新聞を見せます。新聞には泣き崩れるフォーブスの妻と二人の娘の写真が1面の記事に載っています。ヨーストは”悲劇だな、力になりたいだろう“と言って電報局から出て行きます。ブラウンは地方検事宛ての電報で、ケンプ、ジェニングス、デンゼルの調査依頼を至急電報で頼みます。

売店でサンドイッチを買うブラウン(左)
電報局でブラウンに新聞を見せるヨースト(右)

 電報局を出るとトミーが”拳銃を見せて“と言うので、内緒話をしようと言います。そこに付き添いの夫人が現われて、”この人の邪魔をしては駄目よ“と言ってトミーを連れて行こうとします。トミーは”内緒話をする“と言って、ブラウンとベンチに座って彼の話を聞きます。付き添いの夫人が売店で雑誌を見ているとトミーの母親が現われて、トミーの行方を聞きます。付き添いの夫人は、トミーの母親をシンクレア夫人と呼び、向こうで泥棒と話していると言います。シンクレア夫人はブラウンを見て、”彼だったの“と言ってトミーを呼びます。シンクレア夫人はブラウンに”泥棒だったの“と言うと、トミーが”誤解だったと“言います。トミーは母親が手に持っている紙袋を見て、”これ、僕に“と言います。中には先住民の酋長が作った羽根飾りの帽子(?)が入っていて、トミーは早速被って奇声を上げながら走って行きます。

トミーと内緒話をするブラウン(左)
度々出会う女性がトミーの母親だと知ったブラウン(右)

 シンクレア夫人はトミーにどんな話をしたのか聞くと、ブラウンは極秘任務中だと伝えたと言います。夫人は”うまい言い訳を考えたわね“と言うと、ブラウンがトミーは詳しく聞かなかったと言って賢い子だと言います。夫人は”私は詳しく知りたいわ“と言いと、ブラウンは”俺が泥棒じゃないって分かっただろう“と言い、”君の事は子持ちとしか知らない”と言います。

トミーとの内緒話の内容を言うブラウン

 シンクレア夫人は“まるで列車みたい”と言って、“走行中は景色がぼやけて、停まった時に見える”と言います。ブラウンは“なるほど言えてる、走り出すのが残念だ”と言うと、夫人は微笑みを浮かべて“列車に戻らなきゃ”と言ってブラウンも列車に乗り込みます。電報局ではケンプが組織のミッドウエスト機器販売会社宛てに“相手の偽名はシンクレア夫人”と打電します。

まるで列車のようだとブラウンに言うシンクレア夫人(左)
組織に電報を打ったケンプ(右)

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

その女を殺せ』 作品データ

1952年製作 71分 アメリカ

原題:THE NARROW MARGIN

監督:リチャード・フライシャー

製作:スタンリー・ルービン

原案:マーティン・ゴールドスミス、ジャック・レナード

脚本:アール・フェルトン

撮影:ジョージ・E・ディスカント

出演:チャールズ・マックグロー (ブラウン刑事)

   マリー・ウィンザー (偽のニール夫人)

   ジャクリーン・ホワイト (ニール夫人)

   ゴードン・ゲバート (トミー)

   ウィニー・レナード (トロール夫人)

   デヴィッド・クラーク

Vol.72 『その女を殺せ』の続き

 漆黒の闇の中、蒸気機関車の汽笛が大きく響き渡ります。やがて汽車はシカゴ駅のホームに停まり、二人の男がホームに降ります。重要な証人をロスアンゼルスまで護衛するブラウン刑事と相棒のフォーブスです。ブラウン刑事は今乗って来た列車が1時間後にロスアンゼルスに戻るので、ポーターにコンパートメントの号室を告げて荷物を運んで貰います。相棒のフォーブスはタクシーを手配し、二人は証人のアパートメントに向かいます。車内でフォーブスが“、証人はどんな女だと思う”とブラウンに聞きます。ブラウンは“チンピラの妻だから、派手好きで毒々しい女”だと答えます。フォーブスは“そうだったら5ドルやるよ”と言って賭けをします。やがて、タクシーは証人が住むアパートメントの前に停まります。フォーブスは運転手にエンジンを掛けたままで、ライトを消して待つように指示してブラウンと証人の部屋に向かいます。

シカゴ駅のホームに降りたブラウンとフォーブス(左)
タクシーの車内でニール夫人の事を話す二人(右)

 証人がいる2階の部屋の護衛の刑事がドアを開けると、レコードを聴いている証人のニール夫人はブラウンの予想通り派手で毒々しい女性です。煙草を吹かしながら“同行者は?”と聞くので、フォーブスが“我々だ”と言うと、“本物か”と言います。フォーブスが地方検事の署名入りの令状を見せます。隷従を見たニール夫人は、太々しい態度で荷造りを始めます。フォーブスが手に取った新聞を見ると、殺されたニールの収賄リストを警察が捜索中で、大陪審の特別審査でニールの妻が証言するようだと書かれています。

横柄な態度のニール夫人(左) 部屋から出てコートを着るニール夫人(模擬)

 ニール夫人の荷造りが終わり部屋から出る時、フォーブスが先に出る事になって葉巻を咥えながら出て行きます。部屋の外に出たニール夫人がコートを着た時、真珠の首飾りの紐が切れて真珠が床に散らばります。その内の2個が1階の床に落ちます。そこには銃を構えた男が立っていて、2階の様子を伺っています。(カメラはその男の靴から上半身までパンしますが、顔は陰で見えません)

真珠が落ちた処に男が立っている(左)
銃を構えながら上の様子を伺う殺し屋(右)

 フォーブスが階段を降りて踊り場で立ち止まり、葉巻に火を点けます。ニール夫人が階段を降り始めた時、殺し屋が立っている後ろのドアが開き殺し屋は発砲しました。フォーブスは銃弾を2発喰らいながら1発撃ち返して倒れます。ブラウンは逃げ出した殺し屋を追いかけますが逃げられます。

フォーブスを撃つ殺し屋(左)
2発の銃弾を受けながら反撃したフォーブス(右)

 ブラウンは銃撃の現場に戻ってフォーブスの死を確認し、入ってきた男に警察に連絡するように言います。その男の証言から犯人の顔を不明だが、コートの襟に毛皮が付いていた事を知ります。ブラウンはニール夫人とタクシーに乗って駅に向かいます。車中では落胆したブラウンにニール夫人は皮肉や嫌みな事を言うので二人は険悪な状態になります。(チャールズ・マックグローの声はドスが利いています。)ブラウンはニール夫人に汽車の乗車券とタクシー代金を渡し、顔を知られているので駅の近くで降ります。

殺し屋のコートの特徴を話す目撃者(左)
タクシーの車内でブラウンと言い争いをするニール夫人(右)

 画面が変わって駅舎内、組織からの電話を受けている男が映り、傍にいる二人の男にニール夫人の顔は分からないから刑事を尾行するよう言います。ブラウンが改札口を通る時、髭を生やした殺し屋が尾行しているのに気が付きます。ホームを歩いて行くと殺し屋が尾行して来るので、殺し屋に悟られないように列車内に入ります。しかし、殺し屋は列車の通路を歩くブラウンを発見し、窓にブラインド降ろすのも確認しています。(このシーンではブラインドが下りた窓に殺し屋の姿が映し出されます。この映画では窓に写った映像が度々出て来ます。)個室に入りニール夫人と話していると、ドアがノックされて車掌が他人の荷物が紛れてないか確認に来ました。荷物を探しているのは殺し屋で、ニール夫人がいる隣室を探そうとしますが、ブラウンは相棒が同行出来なくなったので空室だと言います。車掌に切符の払い戻しを頼み、殺し屋を追い返します。殺し屋が出て行った後、ニール夫人が寝台は狭すぎて隠れる場所が無いと言って、ブラウンに詰め寄ります。ブラウンは奴が撃ってきたら、俺が撃ち返すと言います。

組織からの指示を受ける殺し屋と相棒(左)
ブラウンの部屋に現れた殺し屋(右)

 画面が変わって、ブラウンが食堂車に入ると殺し屋と出会い、彼から目を離さず傍にあった席に座ります。ウエイターに向かいに座っている女性と同じ飲み物を注文します。飲み物が運ばれて来ると、向かいの女性は席を移動すると言って立ち上がり歩き始めます。その女性は何かに躓いたか、手に持っていた飲み物が零れてブラウンにかかってしまします。謝罪する女性に大丈夫だと言い、ウエイターに同じ飲み物を注文します。

ブラウンは窓に写った殺し屋をを確認しながら飲み物を注文します(左)席を移動するときに飲み物を零してしまいます(右)

 飲み物が来てもよそ見をしているブラウンに、向かいに座っている女性が落ち着くように言います。ブラウンは“今夜は特別だ”と言いながらお金をテーブルの上に置きます。殺し屋がいた席を見るといなくなっているので、“失礼”と言いながら殺し屋の痕を追います。通路に出ると太った男がドアから出てきて、行く手を阻まれます。通してくれと言うと、男は“太った男は列車と支障が悪い“と言って通路の曲がり角で身体を交わします。

向かいの女性がブラウンに落ち着くように助言します(左)
通路の曲がり角で太った男の前を通るブラウン(右)

 画面が変わって、殺し屋がブラウンの個室に忍び込んでニール夫人を探しています。隣室の錠が開いていたので、確認しますが手掛かりはありません。そこに車掌が現われて殺し屋のケンプに電報を渡し、あなたの部屋じゃないと言います。ケンプは隣の部屋に自分の荷物がないか確認していたと言います。

ブラウンの部屋と隣室を確認する殺し屋(左)
殺し屋のケンプに電報を渡す車掌(右)

 ブラウンが部屋に戻ろうとした時、ケンプが電報を読みながら歩いてきます。急いで引き返して行くと、例の太った男がこっちに向かってきます。ブラウンは咄嗟に近くの部屋に入ると、子供が“誰かいるよ”と言いて明かりを点けます。二段ベッドの上にいる女性が“一体何なの”と言うと、子供が“列車強盗だ”と言います。ブラウンは乗客で部屋を間違えたと言い、謝罪して部屋を出ます。子供は強盗だから通報すると言って部屋から出ようとしますが、女性は“トミー出て行っては駄目”と言って引き留めます。

組織からの指示が掛かれた電報を読む殺し屋ケンプ(左)
咄嗟に入った部屋で子供に列車強盗と言われるブラウン(右)

 殺し屋のケンプは食堂車に入り、待機していた仲間の向かいの席に座って無言で手掛かりが無かった事を伝えます。ブラウンは、トイレに荷物を持ち込んで隠れていたニール夫人を部屋に連れ戻します。ニール夫人の部屋で、ブラウンが“奴らは戻って来るだろう”と言い、勘だけど相棒がいる場合があると言います。ニール夫人が“今夜は眠れないわね”と言うと、ブラウンは“何日も眠れない人もいる”と言います。ニール夫人が“誰のこと”と聞くと、ブラウンは“フォーブスの女房”と言って自分の部屋に戻ります。ブラウンが上着を脱いでいると、ドアノブが回り出したのでドアを開けて拳銃を向けます。早速その相棒が訪れ、ビジネスの話をしに来たと言います。

トイレに隠れていたニール夫人は荷物を持ってブラウンと部屋に戻ります(左)
ビジネスの提案に来たという男(右)

 男はヴィンセント・ヨーストと名乗り、女を引き渡せば2万5千から3万ドル払うと言います。ブラウンは収賄未遂で逮捕すると言うと、ヨーストは機器販売会社の幹部だから、そんな話は誰も信じないと言って、財布から5千ドル取り出してブラウンに渡します。隣室のニール夫人は、ドア越しに二人の会話を聞いています。ブラウンは取引を断ってお金を返すと、ヨーストは大金の使い道を考えろと言い、フォーブスの家族にも渡すことが出来ると言います。俺たちが先に見付けたらこの取引は無効だと言って、気が変わったら私の元に来るように言って部屋を出て行きます。ブラウンは隣室のドアの前で立ち止まり、隣室のニール夫人も無言のままでベッドに行きます

ブラウンに5千ドルを手渡すヨースト(左
)二人の会話をドア越しに聞くニール夫人(右)

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

Vol.71 『その女を殺せ』

 今回ご紹介するのは、B級フィルムノアールの『その女を殺せ』です。ハリウッド映画では当たり前の主人公とヒロインとのラブ・ロマンスを排除し、登場人物が多いのにも関わらず無駄無くテンポ良く物語が展開されます。埋もれるのは惜しいフライシャー監督の傑作です。

発売元:(株)ブロードウェイ
販売元:(株)ブロードウェイ

【スタッフとキャストの紹介】

リチャード・フライシャー監督

★監督:リチャード・フライシャー(1916年12月6日~2006年3月25日)は、アメリカ合州国の映画監督です。彼の父親マックス・フライシャーは、アニメーションのパイオニアで「ベティ・ベーブ」、「ポパイ」、「スーパーマン」などを製作しました。彼はブルックリンで生まれ、ブラウン大学を卒業後にイェール大学演劇学部に進学しました。第二次世界大戦中はアメリカ陸軍に入隊していました。1942年にRKOに入社し、短編映画・ドキュメンタリー映画・サイレント映画のフリッカー(ノイズ除去)やコンビレーション(編集)をしていました。所謂フリッカー・フラッシュ・バックと云われる仕事です。1946年に長編映画『Child of Divorce』で監督デビュー、1947年にドキュメンタリー映画『Design for Death』を製作・監督してアカデミー賞を受賞しました。1948年『ボディ・ガード』『ニューヨーク大騒動』、1949年『静かについて来い 』、1950年『札束無情』等を監督しました。1951年『替え玉殺人事件』は最初ジョン・ファローが監督しましたが、RKOのオーナーのハワード・ヒューズが気に入らずフライシャーに大幅な撮り直しをさせて完成させました。1952年『その女を殺せ!』までの初期の作品で、フィルムノアールを監督していました。

 1954年には、父親のライバルだったウォルト・ディズニーがプロデュースした『海底二万哩』の監督をしました。1955年『恐怖の土曜日』、1956年『ならず者部隊』、1957年『ヴァイキング』、1959年『強迫/ロープ殺人事件』、1961年『バラバ』、1966年『ミクロの決死圏』、1967年『ドリトル先生不思議な旅』、1968年『ゲバラ!』、1970年『トラ・トラ・トラ』、1971年『ラスト・ラン/殺しの一匹狼』『見えない恐怖』『10番街の殺人』、1972年『センチュリアン』、1973年『ソイレント・グリーン』、1974年『マジェスティック』とA級・B級の様々なジャンルの作品を監督し、1974年の『スパイク・ギャング』では製作と監督をしました、1975年には物議を醸した問題作の『マンディンゴ』、1975年『キング・、オブ・デストロイヤー/コナンPART2』、1984年『レッドソニア』等を監督しました。1987年の『おかしなおかしな成金大作戦』が、フライシャーの長編映画の遺作となりました。

 2006年3月25日にMPTFカントリーハウス&ホスピタルで呼吸器感染症の為、睡眠中に89歳で亡くなりました。※MPTFはメアリー・ピックフォードが立ち上げた映画関係者救済基金モーション・ピクチャー&テレビジョン・ファンドで、後にテレビジョン関係者に枠を広げMPTFとなりました。MPTFカントリーハウス&ホスピタルは、MPTFが管理する住居と病院です。

★脚本:アール・フェルトン(1909年10月16日~1972年5月2日)は、アメリカ合州国の脚本家です。フェルトンは子供の頃からポリオで足が不自由だったので、松葉杖と杖を使って自分の身体を支えながら移動していました。フェルトンは1936年の『FRESHMAN LOVE』で脚本家デビューし、1936年『ベンガルの虎』の原案と脚本を担当しました。1941年『ハリウッド・スパイ騒動』』、1942年『サンセット・セレナーデ』、1949年『バシュフル盆地のブロンド美人』、1950年『札束無情』、1951年『犯罪都市』、1952年『その女を殺せ』、1954年『海底二万哩』、1956年の『反逆者の群れ』では原案と脚本を担当、1959年『キリマンジャロの決斗』等の脚本を書きました。。

ブラウン刑事役
チャールズ・マックグロー(38歳)

★ブラウン刑事役のチャールズ・マックグローは悪役を演じる事が多いのですが、本作で多分唯一の善人役で刑事を演じています。彼の略歴は『Tマン』をご覧ください。。

偽のニール夫人役
マリー・ウィンザー(33歳)

★偽のニール夫人役のマリー・ウィンザー(1919年12月11日~2000年12月10日)は、ユタ州メアリーズベールのアメリカ合州国の俳優で、身長175cmの長身の女優さんです。彼女はフィルムノアールで、ファム・ファタール或いはヴァンプのキャラクターとして有名でした。又、彼女は多くのB級映画で主役を演じ、B級映画の女王とも呼ばれていました。

 ウィンザーは1934年にメアリーズベール高校を卒業し、ブリガムヤング大学に通いながら演劇活動にも参加しました。彼女は1939年に81人の出場者の中から、ユタ州ソルトレイク市のCovered Wagon Daysの女王に選ばれ、故郷の商工会議所から非公式に“1939年のミス・ユタ”に任命されました。1939年の新聞記事では、“熟練したアスリート、ダンサー、水泳選手、馬術の専門家で、ゴルフ、テニス、スキーをする”と伝えています。

 1940年にハリウッドに移り、マリア・ウスペンスカヤの演劇学校の入学した後に芸名を“マリー・ウィンザー”として舞台劇デビューしました。1941年にパサデナ・プレイハウスで「Once in a Lifetime」に出演しました。電話交換手や舞台やラジオの仕事をしながら、1941年からはノン・クレジットで映画デビューし、1947年までエキスタラや端役で20数本の映画に出演しました。1947年『影なき男の息子』でヘレン・アンボイ役を演じてから役が付くようになりました1948年『悪の力』でジョン・ガーフィールドと共演しますが彼女の身長が175cmあるので歩くシーンでは膝を曲げながら歩いたと語っていました、自分より身長が低い男優との共演が多く苦労したようです。1948年『三銃士』、1949年『ケンタッキー魂』と出演し、1949年『地獄の銃火』で女ガンマン、1950年『偽札造りのリル』では小切手のサイン偽造師役の主役を演じています。1950年『フレンチ―/復讐の道』、1951年『東は東』、1952年『狙撃者』『その女を殺せ』等に出演し、1953年にはSFカルト・ムーヴィーとして有名な『月のキャット・ウーマン』に出演しています。1953年『背高きテキサス人』、1954年『西部の女賊』・『賞金を追う男』、1955年『女囚大脱走』、1956年『現金に体を張れ』、1960年『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』、1964年『モンタナの西』、1973年『ビッグケーヒル』、1973年『組織』、1979年『死霊伝説』、1985年『ヒューマノイド・プロテクター』等の様々なジャンルのB級映画に出演しています。

 ウィンザーは1954年に西部劇のテレビ・シリーズ「Stories of the century」に出演し、ベル、スターを演じました。その後1980年代まで多くのテレビ映画に出演しました。「シャイアン」、「バットマスターソン」、「ローハイド」、「ボナンザ」、「サンセット77」、「マーベリック」、レッド・スケルトン・アワー」、「ハワイアン・アイ」、「ペリー・メイスン」、「バーボン・ストリート」、「F・B・I」、「マニックス」、「チャーリーズ・エンジェル」等に出演しました。彼女は1991年に72歳で引退し、その後画家・彫刻家となりました。ウィンザーは2000年12月10日にうっ血性心不全で亡くなりました。

ニール夫人役
ジャクリーン・ホワイト(30歳)

★ニール夫人役のジャクリーン・ホワイト(1922年11月27日生まれ)は、カリフォルニア州ビバリーヒルズ出身のアメリカ合州国の俳優です。彼女はビバリーヒルズ高校卒業後、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校に通いました。ホワイトは1942年に映画デビューし、小さな役を演じました。1943年『極楽スパイ狩り』で主役を演じ、同年『ジョーと呼ばれた男』に出演しました。彼女はB級映画で主役を演じ、A級映画では脇役を演じていました。1946年『ハーヴェイガールズ』、1947年『十字砲火』、1948年『Mystery in Mexico』・『ブラックストーンの決闘』等に出演しました。

 ホワイトはウェストウッドヒルズで1948年11月12日にニール・ブルース・アンダーソンと結婚し、1950年に夫と共にワイオミング州に移住しました。彼女は出産の為にロスアンゼルスに戻った時に、『その女を殺せ』のオファーを受けました。1952年『その女を殺せ』に出演し、1952年に映画界から去りました。彼女は夫が石油ビジネスを始めた為、夫と共にワイオミング州に移住しました。ホワイトは現在、家族と共にテキサス州ヒューストンに住んでいます。(2025年2月現在102歳です。)

 次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

サスペンス映画 名優が演じる「暗黒の世界」 発行:コスミック出版
『ギルダ』、『その女を殺せ』、『過去を逃れて』、『月光の女』、

「裏切りの街角」、『深夜復讐便』、『青い戦慄』、『暗黒街の弾痕』、
『悪の力』、『絶壁の彼方に』 お勧めの10枚セットです。

Vol.58 『暗い鏡』の最終章

『暗い鏡』のトップはこちら

ルースをデートに誘うスコット(左)   ルースを動揺させるテリー(右)

 診療所でテリーが自由連想法の検査を受けています。スコットの質問の中で「死」と云う問いにテリーは「鏡」と答え、それからは自分のミスを隠すように答えます。その日の検査が終わってから、テリーはスコットをデートに誘い、全ての検査が終わってからデートする約束をします。別の日、ルースの検査が終わって家の前まで送って来たスコットは、ルースに検査が終了したらデートして欲しいと言います。ルースは快諾し二人はキスをしますが、二階の窓からテリーが見ていました。帰宅したルースが明かりの消えた寝室に入ると、テリーはベッドで横になっていました。ルースが洗面所で着替えている時に、テリーは睡眠薬を2錠飲むように言います。ルースは飲まないと言うと、寝ている時に話したり泣いたりするとテリーが言い、昨日は泣いていたから起こしたと言います。ルースは知らないし覚えていないと言いますが、テリーは何か恐れているみたいだったと言います。テリーはさり気なくスコットとの事も聞き、それからルースに何を恐れているのかと聞きます。ルースが見当もつかないと言いますが、私はどうしようと言っていたと言い、テリーは双子の一人は異常者だと言います。ルースは否定しますが、動揺を抑える為に睡眠薬を飲む事にします。(このシーンは特撮で、鏡台の前に座っているルースと鏡に映ったテリーが会話します。)

うそ発見器の検査を受けるテリー(左)
部屋の中が光ったと言って飛び起きたルース(右)

 検査も終わりに近づき、テリーはうそ発見器を使った検査を受けます。ここでスコットは、以前ルースとボーイフレンドを別れさせた時の話を質問します。スコットの質問にテリーは嘘の作り話をしますが、針の動きで嘘が明確に分かります。画面が変わってコリンズ姉妹の寝室、テリーは寝ているルースの様子を伺い、ベットの横の電気スタンドを一瞬点けます。ルースは驚いてテリーの名を呼んで起き上がり、部屋がピカッと光ったと言います。テリーは夢を見ただけだと言いますが、ルースは気が変になりそうと言って怯えます。テリーはルースを宥めて眠るように言います。

テリーの検査結果を警部補に伝えるスコット(左)
ルースを食事に誘うスコット(右)

 画面が変わって、診療所でスコットは警部補にテリーが犯人だろうと言います。テリーは病んでいて精神レベルは2歳程度で、善悪の判断がつかないと言います。警部補は逮捕には決定的な証拠が必要だと言い帰宅します。帰り際に警部補は、テリーの事をルースに伝えるようにスコットに言い、貴方も気を付けるよう言います。スコットは早速ルースに電話をし、テリーに内緒で会おうと言い、11時に会う約束をします。処が電話を切った直後にルースが訪問して来て、電話に出たのはテリーだと気が付きます。スコットはルースを食事に誘い出掛けます。食事が終わり帰る時に、スコットは警部補に電話をして自分が囮になると言い、10時半ごろ電話をすると言って電話を切ります。

 ルースが帰宅するとテリーは何処に行っていたのかと聞き、スコットと一緒だったかと聞きます。ルースは、一人で散歩していたと嘘を言います。テリーは踊りに行くと言って出掛けますが、その時チェストからルースのハンドバッグをこっそり持って行きます。スコットの家を訪れたテリーは、ルースを演じる手始めにソファーの上にルースのハンドバッグを落としたりします。スコットは重要な話があって君を呼んだ、実はテリーは精神の病に侵されている。危険な状態になっているから、早く治療する必要がある。テリーを説得して欲しいと言います。(この場面のスコットとテリーの演技は素晴らしいです。淡々と話すスコットと、話が進むに従って表情が変わって行くテリーとの、緊張感に溢れる演技のぶつかり合いです。)スコットはテリーの人格が歪んでしまった理由を説明し、危険な状態だから説得するように言います。ルースを演じているテリーは、治療をテリーが拒んだらとスコットに言います。そこでスコットは、”テリー”君が拒んだら殺人犯とその動機を警察に伝えると言います。スコットは事件当日の出来事をテリーに話して、治療するように説得しますが、テリーは断ります。その時電話が鳴り、スコットが電話に出ると警部補から大変な連絡を受けます。スコットが背を向けている時にテリーは机の上のハサミを見付け、手袋を着用し始めます。(殺意を感じる緊張したシーンです。)電話を切ったスコットが振り返り、ルースが死んだとテリーに言います。

自分はルースだと言ってテリーがペラルタ医師を殺害したと言います(左)
鏡に映ったルースを睨みつけるテリー(右)

 画面が変わって、テリーの家には警部補と刑事と検視官がいて、警部補はテリーを慰めます。テリーは泣き崩れ、泣きながらルースの自殺の原因を話し始めます。罪悪感に悩んでいて、彼女は解放されたんだと言います。テリーの表情が徐々に変って自分はルースだと言い出し、テリーは異常者でペラルタ医師を殺したと言って犯行の動機を話します。警部補が貴女はテリーでしょうと言いますが、テリーは私がルースと言います。そこに隣室にいたスコットが現れ、警部補に彼女はテリーだと言います。警部補はスコットに証明できるか尋ねると、スコットが出来ると言っている時に、隣室にいたルースが現れます。鏡に映るルースを見たテリーは、灰皿を掴み鏡に向かって投げつけます。(この時のテリーの表情は、鬼気迫るもの凄い表情で別人かと思うくらいです。)

警部補はテリーに自白させる為に策を練った事をスコットに謝罪します(左)
スコットはテリーに煙草入れをプレゼントします(右)

 画面が変わってスコットの家、警部補がルースと一芝居うった事を謝罪します。警部補 はルースがテリーに殺されると思い、ルースの家に行った時に思い付いたと話します。スコットは隣室にいるルースに食事を運びます。そのトレーには食事と一緒にオルゴール付き煙草入れがあり、ルースにプレゼントします。(今と違って昔の映画では、男女共に喫煙するシーンが多いです。余談ですが、日本では煙草のニコチンが悪者になっていますが、認知症の治療にニコチンが使われています。身体に悪いと言われているは過酸化水素ですが、免疫機能が正常であれば体内で分解されます。)最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

「サスペンス映画コレクション 野望の世界」
『真昼の暴動』、『拾った女』、『拳銃貸します』、『ブロンドの殺人者』、『暗い鏡』が入ったお得な10枚セットです。
 発行:コスミック出版 本体1,800円+税

『暗い鏡』作品データ

1946年製作 アメリカ 85分
原題:The Dark Mirror

監督:ロバート シオドマク

脚本:ナナリー・ジョンソン

原作:ウラジミ・ポズナー

製作:ナナリー・ジョンソン

撮影:ミルトン・クラスナー

音楽:ディミトリ・ティオムキン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:テリー・コリンズ

   オリヴィア・デ・ハヴィランド:ルース・コリンズ

   リュー・エアーズ:スコット・エリオット医師

   トーマス・ミッチェル:スティーブンソン警部補

   リチャード・ロング:ラスティ

   ゲイリー・オーウェン:フランクリン

Vol.57 『暗い鏡』の続き

電気スタンドが倒れた室内(左)   ナイフで殺されたペラルタ医師(右)

 タイトル画面の背景はインクブロット検査(インクを落とした紙を半分に折って出来た模様を使って精神分析をする検査です。)の模様が表示されていて、その上にクレジットが流れます。窓から見える夜景の画面から、カメラは横に移動して22時50分を指す時計が映されます。カメラは再び横に移動して、隣の部屋の中で倒れた電気スタンドがあり、部屋の中に入ると割れた鏡が映されて、背中にナイフが刺さった男が床に倒れています。殺人現場からの導入で、非常に簡潔にその部屋で起こった事が分かる手際の良い演出です。

テリーに犯行時刻のアリバイを聞く警部補(左)
テリーを抱き上げるエリオット医師(右)

 画面が変わってスティーブンソン警部補が、犯行があったアパートの住人や関係者からの証言を聴取します。被害者フランク・ラベルタ医師の秘書の証言から、医療ビルの売店の売り子テリー・コリンズを容疑者と断定します。医療ビルの売店にアパートの住人二人を連れて行き、容疑者の確認をします。二人の証人から犯行時間頃に見かけたのは、テリー・コリンズだと確証を得て警部補は彼女に会いに行きます。しかし、彼女は20時から公園に散歩に出ていて、その時数人の人と会い23時30分頃帰宅したと証言します。そこで警部補は、ラベルタ医師が殺された事を彼女に伝えます。それを聞いた彼女は歩き出しますが気を失い、スコット・エリオット医師に抱きかかえられて彼の診療室に運び込まれます。

テリーに昨夜のアリバイを聞くスティーブンソン警部補(左)
【テリーとルースに昨夜のアリバイを聞く警部補(右)

 警部補はテリーのアリバイを確認する為に、散歩中に会った二人と公園で話した三人の証言から、彼女のアリバイが完璧であると知ります。署に戻った警部補は、スコットの診療所にいる刑事に電話をして、彼女の拘束を解くと伝えます。警部は殺人事件が起きた時刻に、殺人現場から7㎞離れた公園に同一人物が存在する事に困惑します。そこで警部補は、テリーからもう一度話を聞く為に彼女の家を訪問します。警部補は貴方のアリバイは完璧ですと言い、彼女は事実だから当然ですと答えます。警部補は彼女に煙草を勧め、被害者のペラルタ医師との関係を聞きますが、必要な情報は得られません。テリーは警部補にもう遅いから帰るように言っている時、隣の部屋から“テリー”と呼びかける声がします。その声を聞いて警部補がその部屋のドアを開けると、そこにはもう一人のテリーがいます。彼女は姉のルースで、警部補は同一時刻に別の場所に同じ人間がいた訳が分かります。コリンズ姉妹は医療ビルではテリー・コリンズと名乗り、二人は時々入れ替っていました。そこで警部補は公園にいたのはどっちかと尋ねます。テリーの答えは、一人は公園で一人は家で寝ていたと答えます。警部補はテリーと言い合いになり、ルースに家にいたのはどっちか尋ねますが、ルースの答えは一人は公園で一人はと言った処で、警部補はどっちなんだと言います。それでは二人とも逮捕するか言うとテリーが反論し、話は収拾がつかなくなりテリーは警部補を帰します。

面通しを受けるコリンズ姉妹(左)
双子の姉妹を見て唖然とする証人たち(右)

 画面が変わって警察署では凶器のナイフから指紋が出ないので、ヒル判事にコリンズ姉妹への殺人容疑の令状を請求します。翌日警察署に証人を集めて、容疑者の所謂面通しを行います。最初にルースが出てきて、それを見た証人の一人は彼女に名違いない、一万人出てきても分かると豪語します。次にテリーが登場すると、全員唖然とします。

テリーに双子の姉がいたのを見て驚くスコットとラスティ(左)
双子のルースとテリー(右)

 画面が変わって別室でスコットとラスティが待機していて、呼ばれて二人は部屋に入り、テリーには双子の姉がいる事を知り二人は驚きます。判事はラスティに、事件当日売店の売り子とペラルタ医師が口論していたのを目撃したか聞き、ラスティはそうですと答えます。次に判事はスコットに、あなたは双子の研究をされていますねと言い、双子は精神や肉体に欠陥があるかと尋ねます。スコットは、それは迷信ですと否定します。続けて判事は、事件当日ペラルタ医師に会った時に話をしたか聞きます。スコットは、二重人格について聞かれたと答えます。判事が二重人格は危険かと聞くので、危険ですと答えます。

判事の質問に答えるスコット(左)   コリンズ姉妹を解放する検事(右)

 判事はペラルタ医師が朝テリーと喧嘩をしたが、今夜大事な話があると言っていたと伝えます。判事は事件当日会ったのは二人のどっちか聞きますが、スコットは分からないとと答えます。結論が出ないままスコットとラスティは帰され、コリンズ姉妹は隣の部屋に移されます。警部補は判事に見逃すのか聞きますが、判事は犯人を特定出来ないので逮捕する事は出来ないと言います。コリンズ姉妹を再び部屋に入れ君達のどちらかは冷酷非情な殺人者だが、遺憾ながら逮捕する事は出来ないと言って二人を帰します。(このシーンでのテリーとルースの表情を見て頂きたい、勝気なテリーと内気なルースを見事に演じ分けています。)

スコットにコリンズ姉妹の調査依頼をする警部補(左)
【コリンズ姉妹に双子の研究協力を依頼するスコット(右)

 画面が変わって、スコットの家を警部補が尋ねて来ます。警部補は双子事件の話を始めると、スコットが捜査は終了したのでは無いかと言います、警部補は個人的に動いていると言い、完全犯罪が成立するのが不愉快だと言い、二人を調べて欲しいと言います。スコットは断りますが、殺人者と無実の人間が一緒では口封じに殺されるかも知れないと言います。スコットは、警部補の説得に応じコリンズ姉妹の人格と個性を調べる事にします。(このシーンでの警部補の表情の変化は、流石といった演技です。)スコットはコリンズ姉妹の家に行き、自分の研究の為に謝礼を出すので協力して貰えないかと頼みます。二人は殺人事件の容疑者として新聞に載り、仕事に就けない状態になっていました。最初ルースは拒否しますが、テリーがルースを説得して彼の依頼を受けます。

インクブロット検査を受けるテリー(左)
インクブロット検査を受けるルース(右)

 画面が変わって夜間のスコットの診療所、テリーが検査の為に訪れます。先ずは性格を分析する為に、インクブロット検査から始まります。紙にインクを落として半分に折って広げた模様を見て、何に見えるか答えて行きます。別の日の昼間に今度はルースが診療所を訪れ、過去の養子縁組の話をします。養子は一人でテリーが選ばれなかったので、ルースはその家から出て行ったと言います。スコットは話を聞きながら、インクブロット検査をします。同じ模様を見ても、当然二人の答えは全然違います。夜ルースが帰宅すると、テリーが夕食の準備をしていて遅い帰宅の事を尋ねます。ルースはスコットと話をしていたと楽しそうに言います。テリーはスコットを未だ信じていないので、気を付けるようにとルースに言います。その頃、スコットは二人の精神分析を行い、重大な事を発見します。直ちにスコットは警部補に会い、精神分析結果で一つ分かった事がある。一人は異常者で、非常に頭は良いが正気じゃないと伝えます。

自由連想法の検査を受けるルース(左)
ルースに私を疑っていると言うテリー(右)

 画面が変わって、診療所でルースが自由連想法の検査をします。質問された言葉に素早く思い付いた言葉を言う検査で、人格を調べる為に行うものです。検査が始まって、「鏡」と云う問いにルースは「死」と言い、彼女は一瞬驚きます。その後、検査は最後まで続きます。帰宅後、ルースがその話をするとテリーは私を疑っていると言って、怒って隣の部屋に行きます。ルースは疑っていないと言いながら、テリーを追いかけて隣の部屋に行きます。テリーはルースに睡眠薬を飲んでいるか尋ねます。あの事件以来眠れないから飲んでいると言い、あなたも飲んでいるでしょうと言います。その時テリーは警察に言っていない事が一つあると言い、ルースに警察に電話したいならするように言います。そして、私を疑ったらどうなるか分からないと言います。(このシーンではテリーとルースが同一画面に登場します。窓際に立つテリーは後ろ姿か、正面を向いた時の顔は影になって見えません。)

次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『暗い鏡』作品データ

1946年製作 アメリカ 85分
原題:The Dark Mirror

監督:ロバート シオドマク

脚本:ナナリー・ジョンソン

原作:ウラジミ・ポズナー

製作:ナナリー・ジョンソン

撮影:ミルトン・クラスナー

音楽:ディミトリ・ティオムキン

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド:テリー・コリンズ

   オリヴィア・デ・ハヴィランド:ルース・コリンズ

   リュー・エアーズ:スコット・エリオット医師

   トーマス・ミッチェル:スティーブンソン警部補

   リチャード・ロング:ラスティ

   ゲイリー・オーウェン:フランクリン

Vol.56 『暗い鏡』

発売元:ブロードウェイ

 今回ご紹介するのはミステリー映画ですが、オリヴィア・デ・ハヴィランドの一人二役の素晴らしい演技を見て頂きたい作品です。一人二役の俳優が同一画面に登場する映画は沢山あります。本作では、ソファーに座る一人二役のオリヴィア・デ・ハヴィランドが、もう一人のオリヴィア・デ・ハヴィランドの頭を抱きかかえるシーンがあります。フィルム撮影では不可能で、どうやって撮影されたのか一瞬驚く場面です。一人二役の映画を撮る時は、必ず代役を演じる俳優さんが必要です。二人が対話するシーンでは、カメラは一人を背中越しに撮りもう一人は対面状態で撮ります。このシーンで背中を向けているのが代役の俳優さんです。この頭を抱えているシーンでは、代役の横顔だけが見えています。眉毛や目の輪郭はメイキャップでカバー出来ますが、耳の形や耳穴の形が違いますし、唇の形状も違うように思います。以前日本映画で、一人二役の俳優が握手をするシーンを観た事がありました。大曾根辰夫監督の1952年の『魔像』で、主役の坂東妻三郎が一人二役を演じた映画です。ラスト・シーンで二人が握手をしますが、耳の形状と口回りが違うように感じました。CGを使える現在と違い、実写で同時に同じ人間を撮影する方法は無いと思っております。これは私の憶測ですが、如何でしょうか。ご興味が湧いた方は是非DVDでご確認下さい。

テリーは正面から写しますが、ルースを写す時は左側の横顔だけです

【スタッフとキャストの紹介】

ロバート・シオドマク監督

 監督はフィルム・ノアールの巨匠と言われているロバート シオドマク(1900年8月8日~1973年3月10日)です。彼はドイツのドリスデン生まれの映画監督です。マールブルク大学卒業後、ドイツ国営映画会社のウーファー社に入社して助監督・脚本家として活動を始めます。1930年にはビリー・ワイルダーと組んでコメディを監督し、その後スリラー映画を監督します。ナチス政権が樹立した頃の1933年にパリに移り、コメディ・ミュージカル・ドラマと様々なジャンルの映画を監督します。仕事は順調でしたが、ナチスのパリ侵攻前の1938年にカリフォルニアに渡ります。1941年にパラマウント映画で2年間、1943年にはユニバーサル・スタジオで7年間映画監督として活躍し、1940年代にはアルフレッド・ヒッチコックやフィリッツ・ラングと並ぶスリラー映画の代表的な監督となります。主な作品は、1936年『フロウ氏の犯罪』、1944年『幻の女』・『コブラ・ウーマン』、1945年『容疑者』『らせん階段』、1946年『暗い鏡』『殺人者』・1948年『都会の叫び』、1949年『裏切りの街角』、1952年『真紅の盗賊』・1967年『カスター将軍』等です。ロバート・シオドマクは、1973年3月10日にスイスのロカルノで心臓発作の為、72歳で亡くなりました。。

ナナリー・ハンター・ジョンソン

 製作と脚本を担当したのは、ナナリー・ハンター・ジョンソン(1897年12月5日~1977年3月25日)です。彼はジョージア州コロンバス生まれのアメリカの脚本家・映画製作者・映画監督・劇作家と多才な方です。1927年から1967年の間に50本位以上の脚本を書き、その半分以上を製作してその内の8本を監督しています。彼はジャーナリストとして数社の新聞に寄稿していましたが、1927年に『ラフ・ハウス・ロージー』の脚本を書き脚本家としてスタートしました。1935年に20世紀フォックスに脚本家として雇われ、映画の製作もするようになります。1943年にはウィリアム・ゲッツと共同でインターナショナル・ピクチャーズを設立しています。彼が手掛けた映画で有名な作品は、1940年『怒りの葡萄』の脚本、1956年『灰色の服を着た男』の脚本と監督です。その他に1936年『虎鮫島脱獄』、1939年『地獄への道』等の脚本を書きました。1941年『タバコ・ロード』では脚本と製作、1944年『飾窓の女』、1945年『無宿者』、1946年『暗い鏡』、1950年『拳銃王』、1951年『砂漠の鬼将軍』と1952年『謎の佳人レイチェル』と1953年『百万長者と結婚する方法』では脚本と製作をしました。1954年の『夜の人々』では監督・脚本・製作をしました。1960年『燃える平原児』、1967年『特攻大作戦』等の脚本です。ジョンソンは、1977年3月25日にハリウッドで肺炎の為、79歳で亡くなりました。

ディミトリ・ティオムキン

 ディミトリ・ティオムキン(1895年5月10日~1979年11月11日)は映画音楽の作曲家・指揮者で、本作の音楽を担当しています。彼はウクライナのクレメンチューク生まれです。サンクトペテルブルク音楽院を卒業後は、ロシアのサイレント映画でピアノ伴奏して生計を立て、ピアニストになる為にピアノを学びます。ロシア革命後、父親と共にベルリンに移住し、ピアノを学びながらクラシック音楽やポピュラー音楽を作曲もしました。その後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でピアニストとして演奏デビューします。1925年にアメリカに移住し、ニューヨークで演奏活動を続けます。1929年10月の株式市場の暴落によりニューヨークでの仕事が激変し、ハリウッドに移ってMGMのミュージカル映画の音楽を担当するようになります。ノン・クレジットの場合もありましたが、1933年『不思議の国のアリス』で本格的に映画音楽を担当しました。1937年に腕を骨折し、ピアニストに復帰出来ない怪我の為、映画音楽の作曲に専念する事になります。ティオムキンは、1937年にアメリカの市民権を得ます。

 フランク・キャプラ監督との仕事が多く、1937年『失われた地平線』、1938年『我が家の楽園』、1939年『スミス都へ行く』、1941年『群衆』、1946年『素晴らしき哉、人生』の音楽を担当しています。彼が担当した映画は主な作品だけでも80作はあります。1956年『ジャイアンツ』『友情ある説得』、1957年『OK牧場の決斗』、1959年『リオ・ブラボー』、1960年『アラモ』、1961年『非情の町』、1963年『北京の55日』、1964年『ローマ帝国の滅亡』等です。1953年『真昼の決闘』、1955年『紅の翼』、1960年『老人と海』でアカデミー賞を受賞しています。『真昼の決闘』の公開時は、興行成績が悪かったので早々に公開は終わりました。ティオムキンはテーマ曲の版権を買い取り、フランキー・レーンに歌わせてシンブル・レコードを発売しました。曲は大ヒットしたので、ユナイテッド・アーチスト社はテックス・リッターに主題歌を歌わせて、4か月後に映画の上映を再開しました。TV映画の「ローハイド」や「ガン・スリンガー」のテーマ曲も担当しています。ディミトリ・ティオムキンは、1979年に転倒して骨盤を骨折した2週間後に、イギリスのロンドンで亡くなりました。84歳でした。

テリー-コリンズとルース-コリンズ役
オリヴィア-デ-ハヴィランド(30歳)

 テリー・コリンズとルース・コリンズの二役を演じるのは、オリヴィア・デ・ハヴィランド(1916年7月1日~2020年7月26日)です。彼女は勝気なテリーと控えめなルーズを、話し方や表情の変化によって見事に演じ分けています。本作で彼女は豊かな才能に裏打ちされた演技で評価を受け、その後の作品ではアカデミー賞を受賞します。オリヴィア・デ・ハヴィランドと妹のジョーン・フォンティンは東京で生まれましたが、病弱だった二人の為に母親は夫を東京に残して、1912年にロンドンに戻る事にします。旅の途中でオリヴィアが高熱で倒れた為カリフォルニアに滞在しますが、ジョーンも肺炎に罹り母親はサラトガに移住する事にします。元舞台俳優だった母親のリリアンは、二人にシェークスピアを読み聞かせをしたり音楽や弁論術を学ばせました。オリヴィアは高校時代に演劇部に所属していて、1933年に素人劇団の公演でルイス・キャロル原作の「不思議のアリス」のアリスを演じて初舞台を踏みます。1934年に高校卒業し、サラトガ・コミュニティ劇場で上演される戯曲「真夏の夜の夢」で妖精パック役を演じます。その後、ハリウッド・ボウルで上演されるマックス・ラインハルトが監督する『真夏の夜の夢』で、主役のハーミア役の俳優が降りた為に急遽代役で出演して好評を得ます。ラインハルトが「真夏の夜の夢」の映画化で監督する事になり、ハヴィランドに出演依頼をします。彼女は奨学金でミルズ大学に入学する事になっていましたが、監督の説得に従いワーナー・ブラザースと8年間の出演契約をします。1935年の『真夏の夜の夢』で映画デビューし、当時大人気の喜劇役者ジョー・E・ブラウンの1935年の『ブラウンの怪投手』を始め、3本のコメディ映画に出演します。コメディ路線の評判が芳しくなかったので、当時無名のエロール・フリンの相手役として彼女を起用し、1935年の『海賊ブラッド』に出演させます。この映画は大ヒットして、その後二人が共演する映画は8本製作されます。その間、コメディも含め色々な作品に出演しますが、彼女が望んでいたシリアスで重厚な役を演じる事がありませんだした。

 1939年の『風と共に去りぬ』のメラニー・ハミルトン役は、彼女が望んでいた役でしたが、監督のジョージ・キューカーは妹のジョーン・フォンティンにその役出演依頼をします。ジョーンはスカーレット役を望んでいたので出演を断り、姉のハヴィランドを推薦したと言われています。最終的には社長のジャック・ワーナーの妻のアンが後押ししたと言われています。メラニー役で絶賛を浴びシリアスな役を演じたいと願っていましたが、会社は相変わらず純情可憐な娘や乙女役しか演じさせない事に不満を募らせ、以前と同様な役の脚本を突き返すようになり、エロール・フリンとの共演映画も終わらせます。その後1941年『いちごブロンド』や1943年『カナリア姫』等に出演しますが、ワーナー・ブラザースはオリヴィアに6か月の契約延長を告げますが、彼女はこの申し入れを断ります。その当時の法律では、契約中の俳優が製作会社からの配役を拒否した場合は、その作品の撮影期間を契約期間に加算延長を認めていました。ベティ・ディヴィスが1930年代に訴訟を起こしましたが敗訴しています。殆どの俳優はこの契約を受け入れていましたが、1943年8月にオリヴィアは会社を相手に出演拒否に対する契約期間延長処置への訴訟を起こし、彼女は勝訴します。製作会社の絶大な権限を弱め、俳優たちに自由な創作活動を与えたこの判決は、ハリウッド映画界に大きな影響を与えました。今でもこの判例は、「デ・ハヴィランド法」と言われています。しかし、敗訴したワーナー・ブラザースは彼女に関する書簡を他の縁が製作会社に送り付け、その後彼女は「ブラック・リスト女優」として2年間映画出演する事が出来ませんでした。そしてお蔵入りになっていた『まごころ』が公開されてから、彼女はパラマウント映画と3本の出演契約をし、1946年の『暗い鏡』に出演します。この映画での演技から彼女は大きく飛躍し、シリアスで重厚な役を演じる俳優となって行きます。彼女はベティ・ディヴィスと親交が深く終生親友でした。彼女の主な出演作品は、1935年『真夏の夜の夢』『海賊ブラッド』、1936年『進め龍騎兵』、1938年『ロビンフッドの冒険』、1939年『風と共に去りぬ』、1941年『壮烈第七騎兵隊』、1943年『カナリア姫』、1946年『暗い鏡』『遥かなる我が子』、1948年『蛇の穴』、1949年『女相続人』、1952年『謎の佳人レイチェル』、1958年『誇り高き叛逆者』、1964年『不意打ち』『ふるえて眠れ』等です。

精神分析医スコット・エリオット
リュー・エアーズ(37歳)

 精神分析医スコット・エリオットを演じるのは、リュー・エアーズ(1908年12月28日~1996年12月30日)です。アメリカ合州国のミネアポリスで、バンジョー、ギター、ピアノ等が弾けるのでアリゾナ大学(薬学)卒業後、楽団に入団して演奏活動をしていました。テス社と6か月の契約をして1929年に映画デビューし、1930年の『西部戦線異状なし』で主役のポール・バウマーを演じました。衝撃的なラスト・シーンで映画は大ヒットし、演じたエアーズの名は世界中に知れ渡ります。映画俳優なり立てで有名になりましたが、経験不足もありスターにはなりませんでした。1935年からフォックス社のB級映画に出演するようになります。1938年MGMで「ドクター・キルデア(ジェームズ・キルダーレ博士)」シリーズの9本に出演しました。1942年3月に徴兵され、彼は良心的兵役拒否者を宣言します。彼の行動は、アメリカ国民にも映画会社にも受け入れられませんでした。(看護兵デスモンド・T・ドスを主人公にした2016年の映画『ハグソーリッジ』で、良心的兵役拒否者の事はお分かり頂けると思います。)エアーズは1942年5月18日アメリカ陸軍に入隊し、太平洋方面に医者と牧師の城主として任務に就きます。レイテ島やフィリピンやニューギニア等で、3年半医療軍団に活動して従軍星章を3度授与されます。この従軍星章で得た報酬は、全てアメリカ赤十字に寄付しています。1946年に映画に復帰しますが、戦争映画への出演は拒否してワーナー・ブラザースとの長期契約中も2本の映画出演だけでした。その後は時々映画に出演し、宗教活動に専念します。1960年からは、テレビ映画に出演するようになり俳優活動を再開しています。主な出演映画は、1930年『西部戦線異状なし』、1933年『あめりか祭』、1938年『素晴らしき休日』、1946年『暗い鏡』、1948年『ジョニー・ベリンダ』、1953年『ドノヴァンの脳髄』、1964年『大いなる野望』、1973年『最後の猿の惑星』等です。

スティーブンソン警部補役
トーマス・ミッチェル(54歳)

 スティーブンソン警部補を演じるのは、アメリカの映画俳優で劇作家の名優トーマス・ミッチェル(1892年7月11日~1962年12月17日)です。1939年の『駅馬車』で飲んだくれのブーン医師を演じているので、ご存じの方が多いと思います。彼はニュージャージー州エリザベス生まれで、高校卒業後に地元の新聞社に入社して新聞記者になります。1913年に新聞社を退社して、チャールズ・コバーンのシェークスピア劇団に入団して舞台俳優になります。1916年にブロードウェイ・デビューし、その後フロイド・ディールと共同で脚本を書くようになり舞台劇の演出もするようになります。1928年の舞台劇「Little Accident」が、1930年に『貰い児紛失事件』と1944年に『クーパーの花婿物語』として2度映画化されました。彼は1934年の『わたしのすべてを』で脚本家として映画界にデビューします。その後コロンビア映画と契約し、1936年の『クレイグの妻』で映画俳優として本格的にデビューします。と云うのは、彼は1度だけ1923年にサイレント映画『文明病』に映画出演していました。その後は数々の大作で存在感のある脇役として活躍しました。1939年の『駅馬車』でアカデミー助演男優賞を受賞し、テレビでは1952年にエミー賞の主演男優賞を受賞し、1953年には舞台劇「Hazel Flagg」でトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞し、アカデミー賞とエミー賞と三つの賞を受賞した最初の俳優となります。とにかく才能に溢れた方です。主な出演映画は、1937年『失はれた地平線』『ハリケーン』、1939年『駅馬車』『コンドル』『スミス都へ行く』『風と共に去りぬ』『ノートルダムの傴僂男』、1942年『運命の饗宴』、1943年『ならず者』『肉体と幻想』、1944年『西部の王者』『黒い河』、1946年『暗い鏡』『素晴らしき哉、人生!』、1952年『真昼の決闘』、1961年『ポケット一杯の幸福』等です。トーマス・ミッチェルは、11962年2月17日にフィラデルフィアの公演先で倒れ、癌の為ビバリーヒルズの自宅で亡くなりました70歳でした。

ラスティ役
リチャード・ロング(19歳)

 ラスティを演じているリチャード・ロング(1927年12月17日~1974年12月21日)は、アメリカ合州国の俳優です。1946年にアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズの『離愁』で映画デビューし、同年オーソン・ウェルズがロングの演技に感銘を受けて『オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー』に出演させ、続けて『暗い鏡』に出演しました。アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズが、ユニバーサル・ピクチャーズと合併後も1947年『卵と私』に出演しました。ロングはユニバーサル社と契約し、1948年『愛土地の大地』、1949年『裏切りの街角』で聴覚障碍者の役で素晴らしい援護をし、ラスト・シーンが印象的です1949年『ダイナマイト夫婦』、1950年『命知らずの男』に出演しました。

 1950年12月、朝鮮戦争中に徴兵されてカリフォルニア州フォート・オードで、マーティン・ミルナー、デビッデ・ジャンセン、クリント・イーストウッドらと2年間勤務しました。1953年『わたしの願い』、1954年『カスカチワの狼火』、1959年『地獄へつづく部屋』、1963年『渚のデイト』等に出演しました。その後テレビに出演するようになり、「幌馬車隊」、「西部のパラディン」、「百万弗貰ったら」、「トワイライト・ゾーン」等にゲスト出演しました。ロングはワーナー・ブラザースと契約して「連邦保安官」、「ハワイアン・アイ」等に出演し、1958年「マーベリック」でレギュラー出演しました。1959年から1960年まで「バーボン・ストリート」の主役を演じ、1960年から1962年まで「サンセット77」にレギュラー出演しました。1965年から1969年まで1「バークレイ牧場」ではビクトリア・バークレーの長男役で112話に出演しています。1970年から1971年まで「ぼくらのナニー」の主役を演じました。 ロングは若い頃に肺炎を患い、心臓が弱っていました。成人後心臓のトラブルを経験し、1961年最初の心臓発作を起こした。再度の心臓発作治療の為に、ロサンゼルスのターザナ医療センターに1か月入院した後に、1974年12月21日に47歳で亡くなりました。次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.31 『オデッサ・ファイル』の最終章

『オデッサ・ファイル』のトップはこちら

ジギーを脅す殺し屋(左)  警察署のブラウン警部を訪れたジギー(右)

 “オデッサ”は恋人ジギーからピーターの居所を聞き出させる為に殺し屋を差し向けます。夜の地下道でジギーが帰宅中に、男に襲われてピーターの居所を聞かれている時、タイミング良く車が来たのでジギーは男から逃げて車に乗ります。車の男はブラウン警部で、翌日ジギーは警部に会いに行きますが不在でしたが、婦人警官の警護が付くことになります。

変装して潜入を開始するピーター(左)
“オデッサ”のミュウヘン支部 のリーダー(右)

 準備不足ながらピーターは、変装して“オデッサ”潜入を開始します。途中鉄十字章と短剣を入手して、“オデッサ”のミュウヘン支部に行きます。そこでは様々な質問をされてチェックされますが、モサドが過去の経験から全て準備していたので“オデッサ”に受け入れられます。

バイロイトに行くように指示を受けるピ-ター(左)
ジギーに電話をするピーター(右)

 バイロイトへ列車で移動する為にミュウヘン駅にいたピーターは、ジギーに電話をします。この電話から警護についていた婦人警官が、ピーターがミュウヘンにいる事を知り“オデッサ”に報告します。“オデッサ”はピーターに同行した男から駅で電話をした事を確認し、直ちに殺し屋をバイロイトに差し向けます。

ピーターと印刷屋のベンツザー(左)   ピーターを待つ殺し屋(右)

 バイロイトに着いたピーターは、印刷屋のクラウス・ベンツァーに会い運転免許証の偽造を依頼します。写真は直ぐ撮れないので、月曜日までホテル待つように言われ彼はホテルに行きます。ベンツァーには病気の母親が2階にいて、父親同様に組織に殺される事を心配していて用心する様に言います。殺し屋が着いたのでベンツァーはホテルのピーターに電話をし、今から写真を撮るから印刷所に来るように伝えます。殺し屋は、ベンツァーを外出させてピーターを待ちます。

椅子に座る殺し屋を窓から見る(左)
ベンツァーの母親から金庫の番号を聞き出す(右)

 一方ピーターは不審に思って印刷所に電話をしますが、電話に誰も出ないので罠だと気付きます。印刷所に着いて窓から中を覗くと、見知らぬ男が椅子に座っていました。ピーターは木を登って2回の窓から部屋に侵入します。その部屋は母親の寝室で、母親はピーターを神父だと勘違いして“オデッサ・ファイル”の話をします。ピーターは、母親からファイルが隠してある金庫の番号を聞きだします。

殺し屋との格闘(左)   金庫からオデッサ・ファイルを取り出す(右)

 ピーターは2階から1階の印刷所に降り、印刷機の電源を入れて殺し屋の不意を突いて格闘が始まります。何んとか殺し屋を片付けて、金庫から“オデッサ・ファイル”を手に入れます。

モサドのメンバーにファイルの一部を渡す(左)
ジギーに今後の行動を伝えるピーター(右)

 殺し屋の銃と車(ジャガーXK)を奪い、駅のロッカーにファイルを保管してからジギーに電話をします。ジギーは、婦人警官を部屋に閉じ込めて逃げ出します。ピーターはモサドに行き、ロシュマンを一人で追う事を告げます。ハイテルベルクに着いたピーターは、ホテルでジギーと会い、万が一の時にやるべき事を頼み、ロシュマンの元へ向かいます。

ロシュマンに銃を向けて話すピーター(左)   反撃するピーター(右)

 ピーターはロシュマンが住む古城に忍び込み、銃を手にしてロシュマンの部屋に辿り着きます。銃を向けたままのピーターに、ロシュマンは自分が今のドイツの為に役に立っていると話し出します。ピーターは1944年10月11日のリガの港で射殺された大尉は、柏葉・剣付騎士鉄十字勲章を着けていたので自分の父親である事を伝えます。ロシュマンをこの場で殺すべきか躊躇しているピーター、引き出しの銃を取ってピーターに反撃しようとするロシュマン。ロシュマンは父親の殺害を否定しながみ隙を見て銃を手に取り発砲します。ピーターは咄嗟に身を交わしロシュマンに反撃し、再び銃を構えようとするロシュマンを射殺します。

火災で崩壊するキーフェル電気研究所(左)
火災を見つめるモサドのメンバー(右)

 ピーターは当局に拘束されますが、3週間後に釈放されます。ジギーはピーターの指示通り、“オデッサ・ファイル”をヴィーゼンタールに届け、ナチス戦犯の逮捕が始まります。無線誘導装置を開発していたキーフェル電気研究所に火災が発生し、研究所は崩壊して無線誘導装置が作られる事は無くなりました。最後にタウバー老人の日記が朗読され、映画は終わります。

 映画は原作から削除さたり変更をしていますが、ロナルド・ニーム監督はテンポの良い演出で個人の復讐劇に纏めています。原作と映画は別物です。本作に登場するナチ・ハンターのサイモン・ヴィーゼンタールとエドワルド・ロシュマン(エドゥアルト・ロシュマンとも表記される)は、実在の人物です。実際のロシュマンは、リガ・ゲットー副司令官でカイザーヴァルト強制収容所の所長です。瀕死の囚人に犬を嗾けて、食い殺されるのを何よりの楽しみしていた狂人です。戦後、ドイツ国防軍伍長の制服を着てオーストリに逃亡します。その後オーストリアからアルゼンチンに逃げ、アルゼンチンからパラグアイに向かう船上で、19977年8月10日心臓発作で死亡しています。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『オデッサ・ファイル』 作品データ

1974年製作/アメリカ/129分
原題:The Odessa File
配給:コロムビア映画

監督;ロナルド・ニーム

脚本;ケネス・ロネ、ジョ^ジ・マークスタイン

原作:フレデリック・フォーサイス

製作:ジョン・ウルフ

撮影:オズワルド・モリス

音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー

出演:ジョン・ボイド。マクシミリアン・シェル

   メアリー・タム、マリア・シェル

   ノエル・ウィルマン、デレク・ジャコビ

   ピーター・ジェフリ

Vol.31 『オデッサ・ファイル』の続き

1963年12月23日イスラエルの砂漠を走る戦車隊(左)
任務を命令する司令官とモサドの幹部(右)

 映画のオープニングは砂漠を移動する戦車隊が映し出され、“1963年9月23日イスラエル”と表示されます。前線基地の司令官のテントと思われる場面に変わり、司令官がモサド(イスラエル諜報機関)の幹部に任務を命令します。エジプト軍は、ロケット弾でイスラエルの拠点を攻撃し、その後全土を攻撃してくる。そのロケットの弾頭にはペスト菌とストロンチュウム90が搭載されるので、その計画が成功すればイスラエルは全滅する。無線誘導装置が完成したら、その計画が実行される。無線誘導装置はドイツの何処かの工場で作られているので、探り出して阻止するように伝えます。

夜のハンブルグ(左)   車を停めてラジオを聴くピーター(右)

 1963年11月23日のハンブルグの夜景に場面は変わり、ジョン・ボイト扮する新聞記者ピーター・ミラーが運転する車が街中を走っています。ラジオからはペリー・コモが歌う“クリスマス・ドリーム”が流れていますが、臨時ニュースでケネディ大統領の報道が入ります。ピーター(正しくはペーター)は車を停めてラジオ放送を聞くと、ケネディ大統領が暗殺された事を知ります。

現場に向かう救急車(左)   カール刑事に話を聞くピーター(右)

 その時、救急車が走っていくのが見えたので、新聞記者の習性で救急車を追いかけて現場のアパートに着きます。取材をしようと車から降り、現場の警察官に記者証を見せても現場には入れてくれません。そこにアパートから親友のカール刑事が出て来たので話を聞き、老人がガス自殺した事を知ります。

カール刑事から老人の日記を受け取るピ-ター(左)
ソロモン・タウバーとその妻(右)

 後日、カール刑事から自殺した老人の遺品の包みを渡されます。包みの中には自殺した老人が書いた日記が入っていて、老人の名前はソロモン・タウバーと云うユダヤ人、リガの強制収容所での出来事が綿密書かれていました。(収容所での場面は、モノクロになります)

リガ強制収容所所長
エドワルド・ロシュマン
大尉を射殺するロシュマン(左)
撃たれた大尉の 柏葉・剣付騎士鉄十字勲章 (右)

 リガの強制収容所の所長は、“虐殺者“と云われたエドワルド・ロシュマンSS大尉。日記にはロシュマンの殺しを楽しむ行動が、克明に書かれていました。その日記には、柏葉・剣付騎士鉄十字勲章を付けたドイツ国防軍の大尉が、ロシュマンに後ろから銃で撃たれた事が書かれていました。

柏葉・剣付騎士鉄十字勲章 (レプリカ)

 この柏葉・剣付騎士鉄十字勲章の受賞は160名、十字勲章のランクでは上から三番目で相当凄い戦功が無ければ受賞出来ません。因みに、外国人の軍人として1名だけ山本五十六が受賞しています。二番目はダイヤモンド柏葉・剣付騎士鉄十字勲章で受章者は27名、1番目は黄金ダイヤモンド柏葉・剣付騎士鉄十字勲章で受章者は、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル空軍大佐の1名だけです。この鉄十字章の話が映画のラストで登場し、ピーターの行動の動機付けが分かります。

戦時中の話をする母親(左
 ピーターの父親の事を涙ながらに話す母親(右)

 ピーターは、ロシュマンの追跡取材を新聞社に売り込むが、全然相手にされず断られます。彼は母親の元を訪れ、戦争中の話や父親の事を聞きます。過去の話をする時のマリア・シェルの演技が、素晴らしいです。彼女の表情はアップで撮られていて、眼で心情を表現しています。

アパートの管理人からタウバーの友人マルクスの事を聞き出す(左)
マルクスからロシュマンの情報を聞き出す(右)

 ピーターは自殺したタウバー老人が住んでいたアパートを訪ね、管理人からタウバーの親友マルクスの事を聞き出し、公園にいたマルクスと話をします。彼の話から“オデッサ”という組織の事とロシュマンが生きている事を知ります。タウバーが警察にロシュマンが生きている事を訴えたが、取り合ってくれずタウバーは絶望してガス自殺した事を知ります。収容所でタウバーの妻が排気ガスで殺害されたから、自分もガス自殺したのかと私は思いました。

ジギーとクリスマス・プレゼントを買い物(左)
地下鉄のホームに落とされたピーター(右)

 ロシュマンの情報を得る為、検事総長室に出向きますが情報は得られず、調査しないように警告されます。その時、ジークフリート師団の集会がある事を知り、その戦友会に潜り込んで写真を撮った為、その場から強制退去させられ暴行を受けます。クリスマス・プレゼントの買い物をした後、地下鉄のホームで電車が入って来た直前にピーターは男に線路上に突き落とされますが、間一髪彼は難を逃れます。

ピーターの電話を受けるカール刑事(左)
ナチス・ハンターのサイモン・ヴィーゼンタール(右)

 ピーターはウィーンに向かい ナチス・ハンターのサイモン・ヴィーゼンタール の居所を探りますが、手掛かりが無くカール刑事に協力して貰います。この電話で”オデッサ”にピーターの動きが察知されます。カール刑事の協力でナチス・ハンターのサイモン・ヴィーゼンタールに会い、彼から“オデッサ”の組織の事、ロシュマンの戦後の行動を聞き写真も入手します。

ピーターを拉致するモサド(左)
ピーターを質問攻めモサドのメンバー(右)

 ホテルに戻ると、シュミット博士(“オデッサの”シュルツ)と名乗る男が待ち構えていて、ロシュマンの調査を止める様に脅迫されますが断ります。ピーターがハンブルグに帰る途中、突然モサドに拉致されます。彼が“オデッサの”シュルツと会っていた為、質問攻めに合いますが誤解が解け、彼は“オデッサ”に潜入する事になります。それから6週間のトレーニングに入ります。その間、モサドは病院を利用して、ピーターが元ナチスの軍曹ロルフ・コルブに成り代われる様に訓練します。

モサドのメンバーから訓練を受けるピーター

 次回に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『オデッサ・ファイル』 作品データ

1974年製作/アメリカ
原題:The Odessa File
配給:コロムビア映画

監督;ロナルド・ニーム

脚本;ケネス・ロネ、ジョ^ジ・マークスタイン

原作:フレデリック・フォーサイス

製作:ジョン・ウルフ

撮影:オズワルド・モリス

音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー

出演:ジョン・ボイド。マクシミリアン・シェル

   メアリー・タム、マリア・シェル

   ノエル・ウィルマン、デレク・ジャコビ

   ピーター・ジェフリ

Vol.30 『オデッサ・ファイル』

『オデッサ・ファイル』
発売:ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント

 前回に続きフレデリック・フォーサイス原作の映画、『オデッサ・ファイル』です。監督はロナルド・ニーム、1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』でお馴染みかと思います。フォーサイスが。特派員時代に収集した情報から書き上げた小説です。小説を基にした映画の場合、比較をして観る楽しみ方もあると思います。しかし、小説と映画は別物です。文章で書かれた小説は、上限が無く無限に描く世界を拡げられます。一方、映画は製作費・製作期間・上映時間等、多くの制約があります。例えば小説では数行の文章で書かれたものも、映画ではセットを作ったり或いはロケ地で撮ったりします。そうすると小説のどの部分を生かし、どこを切るかの選択が必要になります。プロデューサーと監督の考えの違いも大きく関わってきます。よくある話で、監督が撮った映画が120分だった時に、会社側が100分とか90分に短縮される事があります。最近は公開当時版のDVDが発売された何年か後に、ディレクターズ・カット版の上映時間が長いDVDが発売される事があります。これは単に、会社が金儲けする為かと思いますが。

【スタッフとキャストの紹介】

ロナルド・ニーム

 ロナルド・ニーム(1911年4月23日~2010年6月16日)は、イギリスの映画プロデューサー、監督、撮影監督、脚本家です。ニームは写真家のエルヴィン・ニームと有名な女優のアイビー・クローズの長男として、ロンドンのヘンドンで生まれました。ニームはユニバーシティ・カレッジ・スクールと、ハーストピアポイント・カレッジで学びました。父親が1923年に亡くなった為、アングロ・ペルシャ石油会社の事務員としての仕事に就きました。その後、母親の人脈を通じて、エルストリー・スタジオにメッセンジャー・ボーイとして入社しました。

 ニームは1929年にイギリス初のトーキー映画で、アルフレッド・ヒッチコック監督の『恐喝(ゆすり)』でアシスタント・カメラマンになりました。1933年の『ハッピー』で撮影監督となり、1938年『ウエヤ殺人事件』、1941年『バーバラ少佐』、1942年『軍旗の下に』『戦闘機失踪』を撮影しました。『軍旗の下に』に成功によりデヴィッド・リーン監督とプロデューサーのアンソニー・アランとニームは、共同でシネギルド社を設立しました。三人で映画を制作し、共同で脚本を執筆しました。このトリオの最初の3本は、1944年『幸福なる種族』『逢引き』、1945年『陽気な幽霊』で三作品とも共同脚本でした。1946年の『大いなる遺産』では撮影をせず、製作と脚本を担当しました。1947年に『テイク・マイ・ライフ』で監督デビューし、『オリヴァ・ツイスト』と1949年『情熱の友』の製作をして。アンソニー・アランの後シネギルド社を去りました。

 1949年『黄金の竜』の脚本を書き監督をし、1951年にウィリアム・エドワード・グリーンの伝記映画『マジック・ボックス』を製作しました。1952年『The Promoter』、1960年『TUNES OF GLORY』の監督をし、1961年『ザーレンからの脱出』では製作と監督をしています。1962年ジュディ・ガーランド最後の映画『愛と歌の日々』、1966年『泥棒貴族』、1968年『ミス・ブロンディの青春』、1970年『クリスマス・キャロル』、1972年『ポセイドン・アドベンチャー』、1974年『オデッサ・フィル』、1970年『メテオ』を監督しました。1986年『サクセス・ストーリー‘88/天才的記憶術の使い方』が最後の監督作品になりました。ニームは、2010年6月16日に足の骨折による合併症で亡くなりました。99歳でした。

ピーター・ミラー役
ジョン・ボイド(36歳)

 主人公のピーター・ミラー役を演じるのは、ジョン・ボイト(ジョン・ヴォイトと表記される事もあります)です。ジョン・ボイト(1938年12月29日生まれ)はニューヨーク州のヨンカーズ出身で、ワシントンD.C.のアメリカ・カトリック大学で数学を専攻していましたが、シェイクスピの「真夏の夜の夢」に出演した事で役者を目指します。大学卒業後、ニューヨークで舞台演出や舞台美術を学び、オフ・ブロードウェイやブロードウェイの舞台で俳優として活動しました。

 1967年『墓石と決闘』に29歳で映画デビューし、1969年『真夜中のカーボーイ』(正しくは、“カウボーイ”ですが)で注目され、1970年『キャッチ22』、1972年『脱出』、1974『オデッサ・ファイル』、1977年『殺意の行方 』等に出演しました。1978年の『帰郷』ではアカデミー主演男優賞とカンヌ国際映画祭男優を受賞している演技派俳優です。1979年『チャンプ』、1985年の『暴走機関車』ではゴールデングローブを受賞しています。1995年『ヒート』、1996年『ミッション:インポッシブル』、1997年『レインメーカー』、1998年『エネミー・オブ・アメリカ』、2001年『パール・ハーバー』、2004年『クライシス・オブ・アメリカ』、2007年『トランスフォーマー』、2017年『奇跡の絆』等に出演しました。出演する作品を選ばない方のようで、1997年『アナコンダ』にも出演しいています。又。長年不仲だったと云われていた娘のアンジェリーナ・ジョリーと、2001年の『トゥームレイダー』では共演しています。又、テレビ・ドラマでは2009年『24 -TWENTY FOUR-』の出演し、2013年『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』では3度目のゴールデン・グローグ賞を受賞しています。

エドワルド・ロシュマン役
マクシミリアン・シェル(44歳)

 元ナチスのSS幹部でユダヤ人強制収容所の所長だったエドワルド・ロシュマンを演じるのが、マクシミリアン・シェルです。マクシミリアン・シェル(1930年12月8日~2014年2月1日)は、オーストリアのウィーンで生まれたオーストリアの俳優です。母親は女優、父親は小説家・詩人で、兄弟のマリア、カール、イミーは俳優です。彼は、3歳の時にウィーンで劇場デビューしました。1938年にオーストアリがナチス・ドイツに併合された時に一家はスイスに逃げてチューリッヒに移住しました。シェルは古典を学び、10歳の時には戯曲を書いていました。第二次世界大戦後、彼はドイツに移りってミューヘン大学に入学し、哲学と美術史を学びました。その後、チューリッヒに戻ってスイス陸軍に1年間従事しました。その後、ロンドンのユニバーシティ・カレッジ・スクルールに1年間通い、チューリッヒ大学で1年間学び、バーセル大学に6か月間再入学しました。この期間中、シェルは古典劇と現代劇の両方の舞台に出演し、バーゼル激情で本格的に演技を始めました。

 シェルは1955年『戦場の叫び』で映画デビュー、『暗殺計画7.20』等、7本の映画に出演しました。1958年ブロードウェイの演劇、アイラ・レヴィンの「インターロック」に出演する為に米国に招待され、ピアニストの役を演じました。(シェルは、熟練したピアニスト兼指揮者でした。)1958年『若き獅子たち』でハリウッド・デビューしました。1960年にドイツに戻り、ドイツのテレビ映画「ハムレット」でハムレットを演じ、舞台でもハムレットを演じました。1959年、テレビの生放送の「ニュールンベルグ裁判」で弁護人役を演じました。シェルは1961年の映画『ニュールンベルグ裁判』で同じ役を演じ、ドイツ語を話す俳優に初めてのアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。合わせてニューヨーク映画批評家賞も受賞しました。1964年『トプカピ』、1967年『誇り高き戦場』、1969年『ジャワの東』、そして1970年の『初恋』では製作・監督・脚本・出演をしました。英語とドイツ語の両方を完璧に話せるシェルは、ナチスに時代をテーマにした戦争映画等に多く出演しています。1974年『オデッサ・ファイル』、1976年『セント・アイブス』、1977年『戦争のはらわた』・『遠い橋』『ジュリア』に出演しています。その他、1979年『ブラック・ホール』、1983年『青春の殺意』、1984年『炎のレジスタンス』、1994年『リトル・オデッサ』,1997年『17 セブンティーン』、2007年のドイツ映画『眠れる美女』、2009年『ブラザーズ・ブルーム』等に出演しました。その他、多くのテレビ・ドラマや舞台に出演していました。2014年2月1日、オーストリアのインスブルックで亡くなりました。83歳でした。

ピーターの母親役
マリア・シェル(48歳)

 主人公ピーターの母親を演じているのは、マクシミリアン・シェルの姉のマリア・シェルです。マリア・シェル(1926年1月15日~2006年4月26日)は、オーストリアのウィーンで生まれたオーストリア・スイスの女優です。1938年にオーストアリがナチス・ドイツに併合された時に一家はスイスに逃げてチューリッヒに移住しました。マリアはプロとしていくつかの劇場で演技を学び、1942年『シュタイブルッフ』で映画デビューしました。第二次世界大戦後、1948年『トランペットの天使』、1951年『マッチ・ボックス』・『ドクター・ホール』で主役を演じています。1952年『かくて我が恋は終りぬ』、1953年『事件の核心』、1956年の『居酒屋』でヴェネチア国際映画祭主演女優賞を受賞しています。1957年『白夜』・『ローズ・ベルトンの罪』に出演しています。

 1958年『カラマーゾフの兄弟』でハリウッド・デビューし、1959年『縛り首の木』、1960年『シマロン』に出演しています。1970年『血まみれの裁判官』、1974年『オデッサ・ファイル』、1976年『さすらいの航海』、1978年『スーパーマン』、1982年『サン・スーシーの女』に出演しています。その他、テレビ映画やブロードウェイの舞台にも出演していました。マリアは、2005年4月26日、肺炎のためオーストリア のケルンテン州の自宅で、肺炎の為亡くなりました。79歳でした。

ジギー役のメアリー・タム(24歳)

 メアリー・タム(1950年3月22日~2012年7月26日)は、イギリスの主にテレビに出演した女優です。父親の兄弟四人がソビエト連邦の強制収容所で亡くなった後、エストニアから逃れてイングランドのヨークシャーに移りました。タムは、エストニア人の父とオペラ歌手のロシア人のハーフの母との間に、ヨークシャーのウェストライディングのブラッドフォードで生まれました。タムはエストニア語しか話せませんでしたが、小学校に入学してから英語を学びました。11歳の時に奨学金を受けて、ブラッドフォード・ガールズ・グラマー・スクールに通い、市内のシビック・シアターに参加していました。1969年から1971年までロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマティック・アートで学び、卒業して準会員になっています。1971年バーミンガム・レパートリー・カンパニーで舞台デビューしました。1972年にロンドンに移住し、ミュージカルの『マザー・アース』に出演し、1973年にBBCのテレビ番組「ドナティの陰謀」でテレビに初出演しました。

 1973年『異界への扉』で映画デビューし、1974年『オデッサ・ファイル』、1976年『ポプル・ラッズ』、2001年『アマゾネス・グラディエーター』に出演しました。イギリスのBBCで放映された「ドクター・フー」は、SFテレビ・ドラマで、世界最長のテレビ・ドラマ・シリーズです。1963年から1989年と2005年から現在(2024年)も放映されています。タムは1978年から1980年までのシーズン16・17で、ロマーナ役で出演していました。1983年、BBCのテレビ・ドラマ「ジェーン・エア」を始め、多くのテレビに出演して活動しました。2012年7月26日に癌で亡くなりました。62歳でした。

 次回の本編に続きます。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

※文中の太字になっている作品は、日本でDVDが発売されています。

Vol.29 『ジャッカルの日』の続きの続き

『ジャッカルの日』のトップはこちら

 ジャッカルはローマでレンタ・カーの白いアルファ・ロメオ・スパイダーに乗り、貸ガレージで車体の下に潜り込んで車に細工をして特製の銃を隠します。英国特捜部から連絡を受けたリベル警視は、ポール・ダンカンの行方を捜査し始めます。

車体の下から部品を外すジャッカル(左)
部品に銃を隠すジャッカル(右)

  その頃ジャッカルは車で国境を越え、まんまとフランスに入国します。移動途中OASに電話連絡をした時に、ウォーレンの自白により名前を知られた事を知ります。徐々に捜査の手は、ジャッカルに迫りつつあります。ジャッカルは、ニースのホテルでロビーにいたモンペリオ夫人に近づき一夜を共にします。

国境で手荷物検査を受けるジャッカル(左)
モンペリオ夫人と語り合うジャッカル(右)

 ルベル警視はポール・ダンカンがニースのホテルに泊まった事を知り、ニースに飛んでジャッカル逮捕に向かいますが、一足違いで逃げられます。ホテルの従業員からの供述からジャッカルと一夜を共にしたモンペリオ夫人の家へヘリコプターで急行します。

ホテル従業員から証言を得るルベル警視(左)
モンペリオ夫人とルベル警視(右)

 その頃ジャッカルは、OASとの電話でフランス当局に車も割り出された事を知ります。早速ナンバー・プレートを盗み、車を青色に塗り替えます。その時、ルベル警視が乗るヘリコプターが飛んで行きます。ジャッカルは、車体の下に隠した銃を取り出し、モンペリオ夫人の家に向かいます。

車体を青に塗り替えるジャッカル(左)
車体の下に隠した銃を取り出す(右)

 途中交通事故を起こし、彼の車は大破します。相手の車は動く状態で、運転していた男は死亡していたのでその車で夫人の家に向かいます。ルベル警視が来た事で困惑している夫人を再び誘惑して一夜を共にします。翌朝、逃げているなら匿うと言う夫人にキスをしながら、ジャッカルは首を絞めて殺害します。任務遂行の為、何の躊躇も無く人を殺すジャッカルを、無表情で演じているエドワード・フォックスが良いですね。そして、カバンに隠してあったパスポートを取り出し、髪を栗色に染めてデンマーク人教師のペーア・ルントクビストに変装します。ジャッカルは夫人の車を盗んで駅に向かい、電車に乗ってパリに向かいます。

ジャッカルが突然訪問して困惑するモンペリオ夫人(左)
変装するジャッカル(右)

 その頃ルベル警視はモンペリオ夫人の殺害を知り、夫人の車の発見から電車でパリに着くと判断しパリ駅に向かいます。既にジャッカルは、反対車線を走るパトカーを眺めながらタクシーでサウナに向かっていました。サウナで知り合ったジュールの誘いで彼の部屋に行きます。

電車でパリに向かうジャッカル(左)
サウナでジュールと知り合いになる(右)

 ルベル警視はOASの女スパイを突き止め、会議の席上で情報がこの会議の出席者から漏れていた事を伝えます。女スパイに騙され情報を漏らした役人はその場から退席します。この場面での最後のオチが良いですね。その役人の部屋で女スパイを逮捕した時、既にその役人は自殺していました。

内部から情報が漏れていた事を伝えるルベル警視(左)
自分だと悟って立ち上がる役員(右)

 その後の会議でルベル警視は、暗殺実行日は3日後の解放記念日8月25日だと予測します。その発言に内務大臣は納得し、ルベル警視無しでも逮捕出来ると思い彼を解任します。内務大臣はモンペリオ夫人殺害の犯人として、ペーア・ルントクビストを全国に指名手配して大々的にテレビに流します。買い物に出掛けたジュールは、街角のテレビでジャッカルの顔を観て帰宅後にその話をします。部屋のテレビで殺人犯の報道している時に、ジュールは彼が殺人犯だと気が付きますが、時既に遅く呆気なく殺されてしまいます。

内務大臣はルベル警視を解任します(左)
街角で観たテレビにジャッカルが出ていた事を伝えるジュール(右)

 10万人を動員したにも関わらず、内務大臣の予想は大きく外れ無駄に2日間が過ぎ、解放記念日にルベル警視は再任されて任務に復帰します。式典が行われるノートルダム寺院前の広場は、警官によって厳重な警戒網が張られます。屋根には狙撃手が大勢配置され、不審者は直ぐ逮捕出来る状態になっています。ルベル警視は式典会場を見回り不審者探しをします。しかし、殆ど絶望的で成す術も無い状態です。式典の映像は実際の映像を使っているようです。

式典会場を見回るルベル警視(左)  いよいよ式典が始まります(右)

 そんな中、両手で松葉杖を使いながら警官に歩み寄る片足の老人が現れます。変装したジャッカルは警官に身分証を見せながら、以前下見したアパートを自宅だと言ってアパートに向かいます。

松葉杖で歩いてくる片足の老人(左)
警官の検問を受ける変装したジャッカル(右)

 管理人室で管理人のおばさんに水を所望します。管理人は笑顔で答えて快く水道の水をコップに入れている後ろから、ジャッカルは一撃を喰らわして管理人を倒し、折り曲げて吊り下げていた左足を伸ばします。

ジャッカルの申し出に笑顔で答える管理人(左)
吊っていた足を下すジャッカル(右)

 最上階へと階段を駆け登り、部屋に入って窓から外の様子を伺います。銃を組み立てて暗殺の準備をし、式典が始まるのを待ちます。やがて式典が始まりスコープを覗いて銃を構えてチャンスを待つジャッカル。

窓から外を見るジャッカル(左) 【屋根の上や屋上に待機する警官(右)
銃を組み立てて椅子の上に置く(左) 炸裂弾を装填するジャッカル(右)

 一方。ルベル警視は一人の警官から何か情報を得て、ジャッカルが潜む最上階の部屋に向かいます。

狙撃場所を特定するルベル警視(左
 窓から狙いをつけるジャッカル(右)

 ジャッカルは大統領を狙って銃を撃ちますが、大統領が頭を下げた為に外してしまいます。次の弾を銃に装填している時に機関銃を持った警官が入って来た為、銃で射殺します。

照準を合わせて撃つが、弾は外れる

 次の弾を込めようとした時に、ルベル警視は警官の機関銃を手に取ってジャッカルを射殺します。その後、ジャッカルの埋葬シーンがあって、太鼓の音共に映画は終わります。

次の弾を装填するジャッカル(左)
その前に機関銃でジャッカルを撃つルベル警視(右)

 この映画はドキュメンタリー・タッチで描かれ、作り話が真実にも思われるようなものです。正に、映画は嘘を本当の様に見せる素晴らしい芸術です。最後までお付き合い頂きまして、有難う御座いました。

『ジャッカルの日』 作品データ

イギリス・フランス 1973年 カラー 142分
原題:The Day of the Jackal

監督:フレッド・ジンネマン

製作:ジョン・ウルフ

原作:フレデリック・フォーサイス

脚本:ケネス・ロス

撮影:ジャン・トウニエ

編集:ラルフ・ケンプレン

音楽:ジョルジョ・ドルリュー  

出演:エドワード・フォックス、アラン・バデル 

   トニー・ブリットン、シリル・キューザック

   マイケル・ロンズデール、エリック・ポーター

   デルフィーヌ・セイリング、オルガ・ジョルジュ=ピコ

   デレク・ジャコピ、スキージャン・マルタン

   ミシェル・オークレール、モーリス・デ